新せいきエヴァンゲリオン   作:七九六十

39 / 41
6-3 第16使徒(アルミサエル)

 

 

 

 第13使徒(ロールシャッハ)の第二形態は数日後にやってきた。

 

「目標は大涌谷(おおわくだに)上空にて滞空。定点回転を続けています」

 

 オペレーターの青葉シゲルが使徒の現状を知らせる。

 発令所のメインモニタは光る輪っかが山間部に陣取っている姿を映している。前回の枝分かれした姿からシンプルな形状になったということは、すなわちこちらの情報に合わせて最適化してきたということだろう。苦戦が予想される。

 

「パターン青からオレンジへ、周期的に変化しています!」

 

 同じくオペレーターの日向マコトが報告する。

 ……どうもこの2人は影が薄いので、あえてフルネームで書かないと通じないのではと心配になってしまう。

 

「いくらオレンジに戻ろうと、使徒は使徒なのよね?」

「ええ、だから遠慮せずにやっちゃっていいわよ」

 

 パターン青、つまり使徒として観測された以上、ためらう必要はない。

 得られた情報からミサトとリツコが慎重に検討を行い、作戦を決める。

 

「よし、じゃあ後は任せたわよ!」

「えー?」

 

 どうやらシンジは不満のようだ。

 今回はこれまでにない激戦が予想されるため、いつもと同じようにただ放り出されるだけでは不安である。

 

「んー、だったら気分だけでも盛り上げてく?」

「どうしろと」

 

 今度はマイトが不満のようだ。

 そりゃあそうだ。ミサトが右手をくいっとやる動作はどう見ても『一杯やってく?』である。未成年の彼らにどうしろというのだ。

 

「………………はいっ」

 

 んー、と考え事をしていたレイが元気よく手を上げたので、とりあえず彼女に任せてみる。

 

 発令所ではやりにくいということで通路に移動すると、彼女はマイトの背後に立った。

 

「あたし……記憶戻ったの」

 

 突然の告白である。

 

「でも……良いことなんて何もなかった。帰る場所なんてどこにもなかった。ここしか帰る場所がなかった……!」

 

 演技が熱を帯びる。

 心なしか声まで似てきて、まるで本物のように聞こえる。

 

「それなのに、どこ行くの……!? 何で行くの……!?」

 

 確かに決戦前としては良いのかもしれないが、今回はどちらかというと皆で気合入れて行こうという感じなので、引き止めてどうするのだろうか。

 まあそれはそれとして、せっかくだから乗ってみる。

 

「この目を見ろ」

 

 マイトはレイを覗き込むように顔を近づける。

 別に事故で無くして作り物になったりはしていないので、どちらも同じ色の目をしている。

 

「片方の目で過去を見て、もう一方で夢を見ていた。

 目に見えているものは現実じゃない。そう思っていた」

 

 それを聞いたアスカは虚空を眺め、(うつ)ろな目でポツリと呟いた。

 

「これは…………ダメね」

 

 

 

「ちょっと待ってよ、アスカがジュリアをやっちゃうとボクはどうすればいいの?!」

 

 もうヒロイン居ないよとシンジが慌てる。

 属性としてはコードネーム:ジュリアことグレンとかいけそうだが、ちょっと雰囲気が出せそうにない。

 

「『BIG SHOT』のジュディは私が居るからダメだし……」

 

 マヤが何やら言っているが、そっちはどう考えてもヒロイン枠ではない。

 

「エドも意外とお尻のラインとか、(わき)から覗くむ」

「そうじゃないでしょミサト!」

 

 ヒロインの条件として確かにそれもあるだろうが、あまり子供にはおススメしない。

 まあフランソワーズも13歳なのだが。

 

 ならば他に居たかとマイトは考える。

 

「それ以外となると……ジェット・ブラック36歳?」

「えー?」

 

 確かに役割とかを考えると立派なヒロインなのだが、やはりビジュアルがネックか。

 不満を漏らすシンジに、右の手のひらを上にして神妙に語り掛ける。

 

「走る岩よ」

「ボクをそんな名で呼ばないでよっ」

 

 マイトの右手にぶら下がって主張するが、グレートスピリットを信じられなかった哀れな魂がどうとか返されるばかりである。

 

 いつの間にやらマイトの背中に張り付いているレイや、これまたいつの間にか虚ろな顔のまま左腕に収まっているアスカなんかも加わり、だいぶ場が温まってきた。

 それを感じ取ったミサトが手をパンパンと叩きながら告げる。

 

「ほら、終わったなら出撃よ。いつまでも使徒は待っててくれないわ」

「はーい」

 

 ミサトに促されて移動する子供たち。

 そんな彼らを見送って、そういえばと横に居たリツコに問う。

 

「マイト君の声マネで思い出したけど、スイカおじさんは?」

「何ヶ月か前に休職届を出してどっか行ったわよ」

 

 ミサトは今になって気付いたのだが、このところ加持リョウジ(スイカおじさん)を見ていなかった。

 それというのも彼はNERV(ネルフ)に対して諜報(スパイ)活動を行っていたのだが、浅間山の騒動で皆が出払っているときに大量の機密情報を盗み出すことに成功していたのだ。もちろん相応にダミーデータなども混ざっているため、その裏取りに忙しくて出社できなくなってしまい、その結果として休職を余儀なくされたのだ。

 そんなわけで個人的な伝手も総動員しつつ、あと数十年は世界を飛び回ることになったというわけだ。

 

「次に会ったときは、何に目覚めてることやら」

「衆道の次だから……ケモナーかしら」

 

 業の深い話である。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 さて、律儀に大涌谷(おおわくだに)上空にて滞空しつつ回転して待っていた第13使徒(ロールシャッハ)。しかしエヴァンゲリオン4体の接近に伴い、動きを見せた。輪っかが途中で外れて紐状になり、ヘビのように襲い掛かってきたのだ。

 

「わっ?!」

 

 意外に素早い動きに動揺しつつ、シンジがATフィールドを展開する。ギリギリのところで間に合ったが、使徒はそれを一切気にすることなく突っ込んでくる。

 

 

 

 ……話は変わるのだが、人というのは来ると分かっている衝撃や痛みには結構耐えられるものである。ボクシングなどの格闘技でもそうだし、素人であっても覚悟さえあればそれなりの耐久力になる。

 しかしこれが意識の外から来た場合、かなり(もろ)くなる。例えば開いているから通れると思ってたドアが実は透明なガラス張りで、何の準備もなく正面からぶつかったりすると大変なことになる。

 

 

 

 話を戻して今回の使徒、実は大変に侵食に()けた存在だったりする。レイやアスカの張ったATフィールドなぞ侵食して無いも同然にすり抜けたり、エヴァンゲリオンの機体を金属非金属お構いなしに侵食同化したりと、実に恐ろしい能力持ちなのだ。

 

 というわけで第13使徒(ロールシャッハ)。シンジの張ったATフィールドに対してもまったく(ひる)まずに突進した結果がどうなるかというと。

 

「………………あ」

 

 辺りに響き渡るガイィィイィンという金属を打ち鳴らしたような大きな音と、それとはまったく対照的に小揺(こゆ)るぎもしないATフィールド。

 数秒ほど衝突した姿勢のまま動きを止めていた使徒は、鎌首をもたげるように天を仰ぐと、そのまま横倒しになって活動を停止した。

 

「………………あ」

「なんかこう、トムとジェリー?」

 

 (すが)るように目を向けられたマイトとしても、フォローのしようがない。

 光るヘビというかミミズというか、数百メートルはある細長い紐が地面に落ちているだけのように見えるが、これが激戦を予感させた第13使徒(ロールシャッハ)のなれの果てである。

 

「もしかして、これで終わり?」

「え、アタシの活躍シーンはないの?」

 

 レイもアスカも突然のことに驚いているが、さすがに叩き起こして再戦などという鬼畜な所業はできないため、このまま介錯してやるのが慈悲というもの。

 今回の使徒は外見からだとコアの位置が分からない形状のため、まずはそれを探し出す必要がある。

 

「でも、どうやって?」

「以前はクチの中だったが、そもそもクチが無いな」

「……体内にあるなら、握ってみれば分かるかも」

 

 数百メートルどころか、このときのエヴァンゲリオンのサイズ次第ではキロメートル単位でありそうな全長である。それを手で握って内部を探るとなると、果たしてどれくらいの時間がかかることやら。

 

「まどろっこしいわね」

 

 そう言ってアスカは愛用のソニックグレイヴを手に、使徒の身体に沿って歩を進める。

 

「アタシのようなエースにかかれば、そんなものは経験と勘で……」

 

 やがてこれはと思われる気配を感じ、歩を止めてソニックグレイヴを振りかぶる。

 

「チェストー!」

 

 勢いよく振り下ろされた刃は使徒の身体を両断し、地面に深い切り傷を付ける。

 ちなみに今回の使徒、肉体的な強度という面でも随一の性能を誇るはずだったのだが、気絶して弛緩しているためまったく機能していない。

 

「……使徒はまだ生きてるから、ハズレみたいだね」

「くっ!」

 

 身体は両断したもののコアには当たっていなかったようで、使徒はいまだ健在といったところである。コアがある限り再生するため、次を頑張って欲しい。

 

「さっきのは練習、練習だから。次は大丈夫よ」

 

 というわけでまた使徒の身体に沿って歩き、コアの位置を探る。そしてココだろうというポイントで再度武器を振るう。

 

「チェストー!!」

 

 前回よりもさらに深い傷を大地に負わせるも、使徒はなおも健在である。

 

「誤チェストにごわす。こや目当てのコアじゃなか」

「またにごわすか!?」

「そこ、うるさいわよ」

 

 シンジとレイが後ろから茶々を入れる。

 

「チェストん前、コアの位置探るんは女々(めめ)か?」

「名案にごつ」

「だからうるさいってば」

 

 2人の言う通り、そもそも数百メートルある使徒の身体から当てずっぽうでコアを見つけるのは至難の業である。

 なので2人が使徒をペタペタと触って確認するのを苦々しく見つめる。

 

「どこにあるんだろーね」

「んー……」

 

 一回に探れる範囲はそう広くない。

 これは地道で気の遠くなる作業になると覚悟する。

 

「…………もう探らんで良か!」

 

 覚悟するが、我慢できるわけではない。

 我慢の限界に達したアスカは実力行使に出る。

 

「おりゃ、おりゃ、おりゃ、おりゃあ!」

 

 やることは単純、端から順に使徒をぶつ切りにしていくだけだ。

 そのうち当たるだろうの精神で始めたこの攻撃だが、なんと早々に成果を上げる。

 

「おりゃ……あ?!」

 

 これまでとは違う手ごたえを感じ、それがコアを切ったと理解すると同時に飛びのく。すると使徒の身体は爆炎に包まれ、そのすべてを消滅させた。

 

 アスカはそれを背景にソニックグレイヴをくるりと回して見得を切る。

 

「一撃だぜ!」

「はいはい」

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

「今回も無事に終わったな」

「ああ」

 

 いつものように司令室では、老人2人が正座してお茶を飲みながら観戦していた。

 

「しかし、もう13番目だというのに苦戦らしい苦戦がないが、大丈夫か?」

「問題ない。修正は可能だ」

 

 実は初号機がピンチになって機体に眠るアレがソレするのを待っているのだが、いまだにピンチのピの字もない状況だったりする。これでは彼らの計画に支障が出る危険があるのだ。

 しかしゲンドウは落ち着いている。よほど自らの計画に自信を持っているのだろう。

 

「特に次は(ちから)(つかさど)る、最強とも言われている使徒だ」

 

 今までの有象無象とは違い、如何(いか)にもな相手である。それに加えて何か理由を付けて単機出撃とかすれば『倍率ドン! さらに倍!』というわけだ。

 そう聞かされた冬月は納得するしかない。

 

「………………なるほどな」

 

 自分の息子を死地に送り込むことについて思うところはないのかと言いかけるも、それは自分も同じ穴の(むじな)かと自嘲(じちょう)する。

 そして気分転換も兼ねてお茶のお代わりのためポットから急須にお湯を注ぐ。それから茶葉を蒸らす間に心に移りゆくよしなし事を、そこはかとなく考える。たとえば今回の使徒は(あられ)(つかさど)るらしいのだが、どこに(あられ)の要素があったのかとか。

 

「……………………」

 

 そしてふと目に入ったお茶請け。

 その中のあられが、ぶつ切りになった使徒を思わせる形状をしていた。

 

「……………………まさかな」

 

 

 

 

 

 

--------------------------------------------------------------

【涙】

 

 アスカ「ぁっ! 使徒よ!」

 

 

 レイ 「違う、チャッピー」

 

 

 レイ 「これは私のペットのチャッピーよ」

 

 

 レイ 「チャッピーをいじめないで」

 アスカ「浸食されてるわよアンタ」

 

--------------------------------------------------------------

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。