新せいきエヴァンゲリオン   作:七九六十

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7-2 おめでとう

 

 

 

「おはよー」

「おっす、今月のエース、読んだか?」

「もちろん。やっぱ『ようこそロードス島へ!』は名作だよな」

 

 ここは第三新東京市にある、とある高等学校。

 朝の教室に『この決戦は!』『取り消っせん!』などと元気な声が響いている。

 

「『遊撃宇宙戦艦ナデシコ』はだいぶアニメ版から離れたよね」

「まあ忠実なコミカライズじゃないからなあ」

 

 その中にはシンジとマイトの姿もある。彼らは教卓付近に陣取る男子生徒たちの中におり、年ごろの少年らしく漫画やアニメの話で盛り上がっている。

 ちなみにシンジは男子用の学生服に身を包んでいる。肩にかからない程度に伸ばされた髪と、明らかに周りと比べて華奢(きゃしゃ)な体格のせいで、似合っているとは言い難い。

 

「そういや今日も転校生が来るらしいぞ」

「またか。最近多いな」

 

 男子生徒の1人が今朝仕入れたウワサを話題にあげる。

 ここ第三新東京市は新首都として開発されていたのだが、何度も使徒という名の巨大怪獣が襲ってくるということで多くの人が疎開していたのだ。しかし使徒が来なくなって1年も過ぎると人が戻ってくるようになり、また今のうちに新首都の土地や仕事を押さえようとする人の流れも加わり、結構な数の人口流入が起きているのだ。

 今回の転校生も親がそういった流れに乗った結果だろうと予想される。

 

「どんな子かな、可愛い子だったらいいな」

「シンジがそれ言うのか……」

 

 男子生徒の1人が微妙な顔をする。

 シンジは今も自称・男であり、格好も他の男子生徒と同じである。ということで男子生徒たちは同じ男として扱おうとしているのだが、しかし実際にはやはり女の子であり、こういったときに違和感に襲われるのだ。

 

 ちなみにシンジのセリフ、お約束だから言っただけで、本人は転校生の性別にまったく興味を持っていない。というより転校生自体に興味を持っておらず、マイトの腕にじゃれつきながら既に次の話題に移っていたりする。

 

「可愛い子か……」

「ウチのクラスには来ないだろうな」

 

 男子生徒がひそひそと話している。というのもこのクラス、学校内でも人気のある女子生徒がすでに3人もいるのだ。この状況でさらに追加というのは考えられず、おそらく学校側も別のクラスに振り分けるのではないかと予想している。

 

 ちなみにこの3人。

 1人目はシンジである。

 本人は自分は男だと言い張っているが、男装した美少女でしかない。しかも自分たちと親しく会話をしてくれる美少女である。人気がでないはずがないという感じである。

 しかも『オレだけが女扱いして特別な関係に』とか『男だと思ってた幼馴染が実は』といったシチュエーションに弱い層も取り込んでいるようで、その人気は盤石なようだ。

 

 2人目はレイ。

 普段は物静かで目立たない立ち振る舞いをしているが、そもそも見た目が水色の髪に赤い瞳の美少女という、どうやっても目立つ存在である。そしてそんな神秘的な見た目からは想像できない、男子生徒のネタ会話に問題なく加われる知識とノリの良さからくる親しみやすさ。これで人気がでないほうがおかしいというものだ。

 それに加えて細身でありながら立派な胸部装甲というシンジには無い属性を備えているため、そういう意味でも男子生徒からの人気が凄まじい。

 

 3人目はアスカ。

 ドイツ系のクォーターであり、既に海外の大学を卒業済みという他の女子生徒にはない属性を持った美少女である。さらにスポーツ全般で並の男子生徒では相手にならない腕前を示しており、運動系の部活動に所属している生徒を中心に人気である。しかも文科系に人気が無いかというとそうでもなく、ボケに対してしっかりツッコミを入れてくれる女子はそれだけで好かれるのだ。

 それに加えて健康的な身体つきに立派な胸部装甲を備えているため、そういう意味でも男子生徒からの人気が凄まじい。

 

 ではそんな3人に付きまとうマイトはというと。

 

「本人は『これぞ極楽、ハーレム、酒池肉林っっ』て言ってたけど」

「実際に聞いてみるとな……」

 

 入学当初、あまりにも彼らの距離が近いので付き合っているのかと確認したところ。

 シンジは「マイちゃんと付き合ってる? そんなのあり得ない」と言い。

 レイは「付き合う? 絶対にイヤ」と言い。

 アスカは「断固お断りよ」と言ったのだ。

 

 これは学校内のほぼすべての生徒が知っているほど有名な話である。

 

「とはいえ……」

「なあ」

 

 マイトの腕を抱きしめているシンジを見る。

 付き合うとかあり得ないと言われているにしても、これは従兄妹(いとこ)とはいえ仲が良すぎではないだろうか。

 

「ちょっとシンジ、何やってんのよ!」

「えー?」

 

 そんなことを考えていると、女子のグループで会話をしていたアスカとレイがやってきた。そしてアスカはシンジを引き剥がし、学校ではするなと言ってるでしょとお説教である。

 不満そうなシンジを他所に、レイは反対側からマイトの腕を取る。

 

「お父さん」

「ん?」

 

 オーソドックスなセーラー服に身を包んだレイは、シンジとおそろいの髪型にしているのもあって彼と従姉妹(いとこ)だと疑われない程度に似ている。それもあってシンジの男装に対する違和感が酷いのかもしれない。

 マイトの腕を抱きしめて満足そうに微笑む姿は、普段の物静かな落ち着いた態度とは不似合いなくらい幼く見える。彼女の中学時代の知り合いが見たら驚くだろうが、ここではそういうギャップも魅力の1つだと受けいれられている。

 

「アンタも何やってんのよ!」

 

 とはいえ、もちろん同じくアスカに引き剥がされてお説教である。制服の違いのせいで絵面が先ほどよりマズいというのと、せっかくシンジを引き剥がしたのにという怒りで勢いが2割増である。

 不満そうなレイを他所に、アスカはマイトの腕を取る。

 

「ほら、さっさと席に戻るわよ!」

 

 ズルズルと引きずられるマイトと、それを追ってシンジとレイも席に戻る。彼らはNERV(ネルフ)のゴリ押しにより特別待遇を受けており、授業を途中で抜ける可能性を考慮して教室の後方窓際に固められているのだ。

 

「はいはーい、HR(ホームルーム)始めるから席に戻りなさーい」

 

 そう言いながら教室に入ってきたのはこのクラスの担任、葛城ミサトである。そう、ミサトなのだ。

 シンジたちが暇すぎて高校に通うことになったので、大人たちも暇つぶしを兼ねて潜入することにしたのだ。

 

「喜べ女子! 今日はウワサの転校生を紹介するーっ!」

 

 テンション高く放たれたこのセリフによって、男子生徒のテンションが低くなる。

 ああ、今回の転校生は男か、と。

 

「かなりの美形だから、別に男子も喜んでいいのよ?」

「お断り申す」

 

 男子たちは顔をしかめながら「NO THANK YOU」とばかりに両手を前に主張する。

 

 そんなやり取りでハードルが上がったが、ミサトの合図で入室してきた転校生は確かに文句のない美形であった。

 異常なほど白い肌にアッシュグレイの髪と赤い瞳。美形にしか許されない要素で組み立てられた美形とも言うべき存在で、女子から黄色い悲鳴が上がる。

 強いて欠点を上げるとするなら、高校生男子にしては低い身長と、どこからともなく鼻歌が聞こえてきそうな雰囲気くらいか。

 

「それじゃ、みんなに自己紹介(じこしょうかい)を───」

 

 ミサトに促され、転校生はクラスを見渡しながら名前を告げる。

 

「ボクはカヲル。(なぎさ)カヲル。君たちと同じ、この学校に通う生徒。高校1年生さ」

 

 突然目の前に現れた名前入力欄とデフォルトネームは無視して、肉声によって名前を告げる。

 美少年に相応(ふさわ)しい美声だと、独特の言い回しも(さま)になる。

 

「渚クンは、1ヶ月ほど前にご家庭の事情で、こちらに引っ越してきたばかりなの……」

「え? いやボクは1年以上前に、アメリカ支部から───」

「わからないトコロが多くてとまどうかもしれないから、みんな、イロイロ、渚クンに教えてあげてね」

 

 先ほどのセリフや突然のトランシルヴァニア(なま)りなどに戸惑っていると、さっそく手を上げて質問を投げかける女子生徒が現れた。

 

「渚くーんッ、前の学校では、なんて呼ばれてたの?」

 

 名前のときと同じく入力欄が表示された理由はよく分からないが、無難に答えていく。

 

「学校、ではないけど、以前にいたところではダブリスって呼ばれていたね」

「へェ~、ダブリスかぁ」

 

 また別の女子生徒が手を挙げて質問する。

 

「ねェねェ、渚くんッ。今まで、どこに住んでたの?」

「南極───じゃなくて、アメリカだよ」

 

 ついうっかり不穏なことを口走りそうになったが、寸前で建前を思い出す。

 危ない所であった。

 

「つぎ、アタシ───ッ!! へへへッ、血液型と生年月日(たんじょうび)を教えて下さ~い」

「血液型は不明で、生まれは2000年9月13日だね」

 

 セカンドインパクトの日である。

 実にめでたい。

 

 ちなみに学年的には本来であれば彼らの1つ上になるのだが、セカンドインパクトによる社会情勢の混乱により学校教育が受けられず、結果として下の学年で通う者は意外と多いので特に気にもされない。

 

「きゃあッ、アタシと相性ピッタリィ」

「あんた、この間も、王蘭(おうらん)高校の如月(きさらぎ)くんにおんなじような事いって(せま)ってたでしょ」

「さあねェ~」

 

 誰だか知らないが、亀急便の即時配達にはお世話になりました。

 ちなみにアイスマンというとアルプス山脈で見つかった冷凍ミイラのほうを思い浮かべてしまう。

 

「あたしも、しつも~んッ!!」

「あたしもあたしも」

「好きな食べ物はァ?」

「好きな女の子のタイプはッ?」

「お姉さんか妹いるッ?」

「スポーツなにやってんのォ?」

 

 やはり美少年というのもあって、質問が終わらない。

 もはや統制が取れない状況にミサトが慌てて割って入る。

 

「チョッ……チョット、みんな、待って。渚クンが困ってるでしょッ。質問は、もう終わりにします」

「えェ~ッ」

 

 クラスから不満の声が上がるが、こればかりは致し方ない。

 

「ごめんなさいね、渚クン。みんな、転校生が珍しくてしょうがないの」

「え?」

 

 冒頭で今日()転校生がって言っていたじゃないかと思うも、自分はそれを聞いていないはずの立場なのでツッコむことすらできない。

 そんな状態のカヲルを無視してミサトは話を進める。

 

「さッ、みんな。授業に入りますよ。渚クン、それじゃキミの席は……、そうね。確か……。ミサトさんの隣が……って、これだと私じゃん」

 

 ようやくトランシルヴァニア(なま)りから戻ってきたミサト。

 ホームルームの議題となっている旧校舎(きゅうこうしゃ)改築案(かいちくあん)については放り投げる。

 

「まあいいや、席は後ろの空いてるとこに座ってくれる?」

「…………はい」

 

 いきなり適当になったミサトが指差したのは、シンジたちがいる区画の真横になる。

 いろいろと納得いかないものを飲み込んだカヲルがそこに向かうと、特に横から足を突き出されることもなく無事にたどり着く。切り落とすための斧を買う必要は無かったようだ。

 

 そしてカヲルはようやくお目当ての人物と対面することになった。

 

「やあ、君が碇シンジく……さん?だね」

「え? なんでボクの名を?」

 

 突然話しかけられたシンジとその周囲が驚く。

 なんでコイツ、シンジの名前を知ってるんだと。

 一方的に女子の名前を知っている転校生とか、怪し過ぎんかと。

 

 同じく話しかけたほうのカヲルも混乱している。

 なんでコイツ、オンナなんだと。

 NERV(ネルフ)の資料では……そうか、そういうことかリリン。

 

「ちょっと、アンタなんでコイツの名前知ってんのよ」

 

 自席から立ち上がったアスカが、シンジを背後から抱きしめるようにしてカヲルと向き合う。彼女なりに守ろうとしているのか、それとも盾にしているのか判断に迷うところである。

 カヲルからしてみれば彼女は資料通りの見た目なので、まずはこっちを相手にして心を落ち着かせようと判断する。

 

「君がセカンドチルドレンだね」

「せかんど、ちる……?」

 

 しかし本題に入る前の呼びかけの時点で相手が首を(かし)げるのはどうしたものか。

 せかんどせかんどと何度か反芻(はんすう)していたアスカは、その天才的な頭脳をもって1つの解に至る。

 

「…………あ、あーあーアレね。ハイハイ思い出した思い出した」

 

 完全に理解した感じのアスカに、シンジたちはどゆことと問いかける。

 

「ほらアレよアレ。アタシたちこの間までアレに乗ってたじゃない」

 

 ちょっと固有名詞が出てこないが、アレである。

 身振り手振りでそう説明することでシンジとレイにも伝わったようだ。

 

 で、それがどうしたのと3人はカヲルを見つめてくる。その圧力に気圧(けお)されつつも毅然(きぜん)とした態度で立ち向かう。

 

「え、いや、ボクはフィフスチルドレン……」

 

 それを聞いた3人はようやく思い出す。

 黒い半透明の空間に横たわる少年の姿。彼と目の前にいる少年はどことなく似ているではないか。

 

 謎が解けてすっきりした3人はウンウンと(うなず)きあう。

 なんと転校生である渚カヲルの正体は、第11使徒(ブラックエヴァンゲリオン)騒動のときにアメリカからやってきたフィフスチルドレンだったのだ。

 

「って、アレは1年以上前の話じゃない」

「言われてみれば……」

 

 その後の第12使徒(スカルチノフ)第13使徒(ロールシャッハ)との激闘を懐かしいと感じるほど期間が開いていますが、この空白期間はどう過ごされていたのでしょうか?

 

「え、いや、ボクにも詳しいことは分からないけど……」

 

 なんでも原因不明の昏睡(こんすい)状態にあったらしい。

 幸いにも命に別状は無かったのだが、気が付いたら1年も寝たきりだったらしく、その後の検査やリハビリを終えて最近ようやく退院できたのだ。

 

「大変だったんだねー」

「……まあ、大変だったんだろうな」

 

 シンジは純粋な感想のようだが、マイトが若干目を逸らしながらなのが気になるところである。

 ちなみにカヲルが目覚める前日、なにやらマイトが忘れものに気付いたかのような顔をしていたのは秘密である。

 

「ただ高校受験のタイミングには間に合わなくてね。こうやって編入してきたってわけさ」

 

 だから転校生ではなく、編入生というべきなのだろうか。

 ともかくこれからは一緒に学ぶ仲間になったというわけだ。

 

「……おめでとう!」

 

 何とはなしに一連の流れを見ていたミサトは、よく分からないがとにかくメデタイということで拍手を送る。

 

「おめでとう!」

 

 同じくよく分かっていないアスカもそれに続く。

 

「おめでとう」

 

 そうなると当然レイも手をペチペチと鳴らす。

 

「おめでとう」

 

 教室に仕掛けた監視カメラ越しに保健室から見守っていたリツコも手を叩く。

 

「ニャー」

 

 その横でリツコの飼いネコたちとシロちゃんが鳴く。

 

「おめでとう」

 

 職員室にて監視カメラの映像を回してもらっていたマコト、シゲル、マヤが手を叩く。

 

「…………ん?」

「どうした碇、待ったは無しだぞ」

 

 NERV(ネルフ)本部の司令室で将棋に(いそ)しむ2人は蚊帳の外のようだ。

 

「おめでとう」

 

 最後にシンジとマイトが加わる。

 

「あ、ありがとう……?」

 

 なんだかよく分からないが、カヲルは礼を述べた。

 

 

 

 そう、すべての子供達(チルドレン)が、おめでたいのだ。

 

 

 

 

 

 

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【世界の中心でアイを叫んだけもの】

 

 アスカ「最近元気ないわね、レイ」

 シンジ「ムリもないよ、まだ遊びたい年ごろなんだから」

 

 

 シンジ「そーゆー時は海に向かって叫ぶのが一番!

     さあ思いっきり叫んでみようよ!」

 

 

 レイ 『サードインパクト』

 

 

 レイ 「あー、すっきりした!」

 シンジ「待てい」

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