新せいきエヴァンゲリオン   作:七九六十

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1-5 第3使徒(サキエル)戦 裏(3)

 

 

 

 まあいろいろとあったが、順調に発進準備が整っていく。

 エントリープラグに乗ってからは外の様子が分らないが、たまに振動があったり、非常灯のようだった赤い光が白に変わったりと、進んでいる感はある。

 

(まさか水攻めだなんて…………)

(これ衛生的にアウトな気がしないでもない)

 

 操縦するためにはLCLという液体をプラグ内に満たす必要あるらしい。

 これは肺に取り込まれると直接酸素を取り入れてくれるらしいが、出撃のたびに毎回溺れるのはどうにかならなかったのか。

 

 そして肺に液体が入る、しかもエントリープラグ内や自分の身体に触れたものが、というのは危険な気がするのだが。一応の浄化機能はプラグ内に備わっているらしいがその位置だと意味は薄く、どうせならマスク式、せめてヘルメット式にしてくれと言いたい。LCL自体にも殺菌効果はあるようだが、それならそれで人体に有害な物質とも聞こえる。

 まあアニメだから気にしても仕方がないか。

 

 そんな液体に包まれたと同じくらいのタイミングで、別人格(マイト)は気付く。

 

(お、いけそうだ)

(そうなの?)

 

 そしてシンジの意識は何かに引っ張られるような感覚があった後、気が付いたらエヴァンゲリオンと同化していた。

 

(おおー)

(シンジと入れ替わるときのような感覚だな)

 

 別人格(マイト)は特定の状況下ではシンジに代わり、身体を動かすことがある。その時と同じようにエヴァンゲリオンへ意識を移したのだ。

 

(いつもとやる事は変わんないんだね)

(ただ身体のスペックは段違いだな。さすが超古代文明の遺産)

 

 そうではないのだが、スペックが高いのは間違いない。

 

『発進!』

 

 何やらスピーカーからミサトの声が響き、同時に上方向への急激な加速がかかる。

 

(こっちにも一声欲しかった!)

(要改善だな)

 

 エヴァンゲリオンと同化しているからか、加速によるGはほとんど問題にならない。急に動いたのでビックリしただけだ。

 

 そして地上に辿り着くと急停止する。慣性により普通ならむち打ちになりそうな勢いで頭部が動く。

 視界には夜空が広がり、勤務初日から深夜残業に突入する恐怖を感じさせる。

 

(……あ、あれが使徒かな?)

(そういえば初めて見るな)

 

 そして目の前には巨大な人型が居た。首の無い、細長い手足に同じく細い胴体をした黒い人型。

 つまりジャミラである。

 胸には2つの白い仮面が重なるように配置され、その下に赤い球体がこれ見よがしに配置されている。

 

 そしてすっかり忘れていたが、使徒に関して何も情報をもらっていない。

 事前にどんな存在か、攻撃方法は、弱点はと、確認すべきことはたくさんあったのだが、流されるままに対面してしまった。

 

 というかそもそも、終了条件を聞いていない。

 倒せば終わりというが、それはどういうことなのか。殺害なのか、追い返すのか、封印か、エネルギー切れで休眠モードになればいいのか。

 

(シンジ、代われ)

 

 ただ分かるのは、相手から明確な敵意を向けられていること。

 そして、それが自分の死に繋がっていること。

 

 すぐに荒事担当の別人格(マイト)が表に出る。

 たとえ人間同士でも、敵意を持つ相手との対峙は精神に負担をかける。まして相手は人間ではない。シンジを守るために即座に交代する。

 

 使徒と呼ばれる存在が徐々に近づいてきている。もちろん友好的に握手を交わそうという気配は微塵も無い。

 場に緊張が満ちる。

 

 

 

 別人格(マイト)が荒事を担当するのは、精神的に向いているからというだけではない。

 彼は人為的に生み出された影響なのか、身体を動かす方法が通常の人間とは異なっている。シンジがオートマチック車、別人格(マイト)がマニュアル車といった感じであろうか、意識して動かす必要がある分、意識すれば動かせる範囲が広いのだ。

 

 それは肉体的なポテンシャルを引き出す、という意味でも役に立つ。

 無意識にかかるブレーキが無いため、限界のギリギリまで身体を動かすことができるのだ。

 

 そしてもう1つ。

 意識して肉体を動かす過程で気付いたのだが、どうも物理法則に囚われない妙な<<(ちから)>>があることに気付いたのだ。それは人間どころかすべての存在が保持しており、量に種族差はあっても個体差がほとんど無く、そして出力の限界はあるが万能と言っていいほどに応用の利くモノだった。

 

 精神的にも肉体的にも、そして訳の分からない不思議パワー的にも、別人格(マイト)は戦闘向きなのだ。

 日常生活においてはほぼ無用の長物であったが。

 

(マイちゃん、大丈夫?)

(……良い知らせと悪い知らせがある)

 

 様子見のためか、少しの距離を置いて立ち止まった使徒からは意識を外さずに別人格(マイト)は応える。

 

(悪い知らせは、使徒も不思議パワー持ってる。しかも大量に)

(待って、どっちから聞くかの選択肢は無いの?!)

 

 選ぶの楽しみにしてたのにというシンジには悪いが、そんなものは無い。

 

(良い知らせは、エヴァンゲリオンも持ってる。同じくらい大量に)

(……じゃあ、使徒に対する切り札ってそういう意味なのかな?)

 

 超古代文明では常識的に使っていたのだろうか。

 そしてあまりにも強大なモノだったために文明ごと滅びたとか。

 

 使徒とエヴァンゲリオンの身体に(みなぎ)る不思議パワーに意識を向ける。量としては互角に見えるが、相手は腕と仮面部分に偏りが見られ、こちらにはそれがない。

 なんとなく、爪や牙のように明確な武器を持つ野生動物に自身の研鑽(けんさん)のみで立ち向かう人間はこんな感じなのだろうかと頭によぎる。

 

(って、そうか。相手は人型だけど人間じゃなかったな)

(どうしたの?)

 

 立ち姿からある程度の骨格や筋肉の発達具合を予想し、次の動作に備えていたのだが。

 よくよく考えれば相手は謎の巨大怪獣。人間の尺度で考えてはいけない。手のひらに(くち)が付いていてもおかしくないし、関節の様に見えても曲がるとは限らない。いきなり腕が伸びたり、膝を使わずに跳躍する可能性もある。

 ただ、仮面に不思議パワーが集まっているのはビームを撃つためだと、何故か確信できる。

 

 

 

 選択肢が多い。

 初見の相手というのは同じ人間であっても厄介だというのに、既存の情報が役に立たない怪獣が相手だと、果たしてどうすればいいのか。

 

 ………………よし、立ち合いは強く当たって、後は流れで行こう。

 

(マイちゃん、思考放棄が早すぎるよ)

(男はこれくらい大雑把でいいんだよ)

 

 こちらが覚悟を決めたのを察知したのか、使徒が動き始めた。ゆっくりと歩み寄るのに合わせ、こちらも間合いを詰めていく。もちろん、いつでも全力の一撃を繰り出せるよう準備は(おこた)らない。

 

 1歩、また1歩。

 どのタイミングで仕掛けてくるのか、使徒の完璧なポーカーフェイスからは読み取れない。これだけ近い間合いで遠距離攻撃を選択するようなユーモアはあるのだろうか。

 

 使徒の不思議パワーは右腕の偏りが強くなった。

 フェイントなのか、それともこちらが感知していることに気付いていないのか。

 

 そしてその右腕が無造作に突き出される。体重移動も、上半身の(ひね)りさえ無視して、指を広げてただ突き出してくる。

 そこそこの速度で振るわれたその手のひらに赤黒い円形の物を発見し、その意図を知る。

 恐らくあそこから何かが出てくる。そちらがメインのため、腕による攻撃力よりも掴むこと、もしくは照準を合わせることを優先したのだろう。

 

 その分析と並行し、身体はカウンターのために最適な動作を始める。

 踏み込みによる体重移動に、左腕で相手の攻撃を(さば)く過程で生まれた上半身の(ひね)りを加え、右の拳を叩き込む。

 それは使徒の仮面と赤い球体の間に突き刺さり、(こぶし)の半ばまでめり込む。

 さらには攻撃の意思を加えて練り上げた不思議パワーを、(こぶし)を通して相手の体内へと爆発させる。

 手ごたえは十分である。

 

 

 

 しかしこれで終わるはずがないと予想し、いつでも追撃を放てる位置で残心を忘れない。

 今回の攻撃方法はすべてのエネルギーを内部破壊へと変えるため威力は高いのだが、相手が吹き飛ばないので自分から距離を取る必要があるのは如何ともしがたい。

 未知の巨大怪獣を相手にするには攻撃力を優先すべきか、それとも吹き飛ばして距離を取ることを優先すべきか。

 

 使徒の弱点と思わしき胸の球体には深いひびが入り、動きがぎこちなくなっている。発声器官が無いのか苦痛による(うな)り声などは聞こえず、相変わらずのポーカーフェイスにより本当にダメージが通ったのか判断できない。

 耐性や無効化のことを考えて物理と不思議パワーの両方を試したのだが、別々にして効果を比較すべきだったか。

 

(ん? 使徒の不思議パワーが胸の球体に集まっていく?)

(回復かな、それとも必殺技のタメかな?)

 

 これは追撃のチャンスなのか、それとも誘いなのか。

 

 もし味方の援護があるのなら迷わず追撃を行うのだが、今は1人である。そして失敗すれば人類の滅亡という瀬戸際でもある。

 そのため慎重にならざるを得ず、使徒の行動を許してしまう。

 

 使徒が選択したのは、エヴァンゲリオンへの飛び掛かりであった。

 再び受け流そうと腕を振るうが、今度はそうはいかなかった。

 使徒の身体が粘り気のある液体のように変化し、接触した腕を起点にして上半身へと覆いかぶさる。

 

 目の前には使徒の赤い球体。

 それが強い光を放ち始める。

 

(自爆──────)

 

 

 

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