生きるために喧嘩を買う
誰かもう熱烈に助けて欲しい。
そう思っても、誰も助けてくれないのは、僕自身わかっている。それも、致命的なところでこそ誰も助けてくれないものだ。
でも、だからこそ僕は僕なりの方法で、人を助けたいと思っている。
───エピソード.1
始まりは、単純なものでひどく舞台的なものだった。16才のときに受けた検査。そこで判明した能力はAランク相当の『自己治癒』だった。日常生活での異常性はないけれど、僕は超能力特区に強制的に入れられることになった。
僕が送られる先、それが第七特区ヴァルハバラ。A〜Cランクかつ自己の外部に力を及ぼせないような、小規模な能力者が送られる。…なぜかその割には、犯罪率が特区の中で最高なのだが。
初めは実感がなくてさ、自分のことなのになんだか他人事のような感じで…のんきだったんだよ。他の同級生が配属先を聞いてくる中、俺、第七ー!って宣言して周りに引かれてたぐらいだ。第七は僕しかいなかった。しかし、親切な同級生から聞くと、僕と同じ境遇の人は皆同じように規模が小さい能力者が集まる第6や第5に回してもらえるよう請願しているらしい。
僕がその制度に気づいた時には、請願書の期間はとっくに過ぎていた。おかげでその日以降、好きで第七を志願した頭のおかしい奴扱いだった。
絶望感の中、期日が来て、僕は第七特区に移り住んだ。そこでの日々はそれはそれはもう、聞きしに勝る大大大クライシス。道を歩けば喧嘩をふっかけられるのだ。服は卵とジュースと生ごみでベタベタ、初めのうちは我慢しようとしてたけど、その後も財布を盗まれたり、荷物をダメにされたりと続いたから、次第に僕もこの街に染まってしまった。
洗濯しても取れないニオイ、染み、そして、悪意に晒された心の痛みがアイデアを発する。
「服を汚されたなら、その者の服を奪えば良い。」
「財布を盗まれたなら、その者の財布を奪えば良い。」
「誇りを傷つけられたなら、その者の誇りを奪えば良い。」
目には目を、歯には歯を。警察は見て見ぬフリ、それは第七のボスに誰も逆らえないから。なら、誰もやらないなら、僕がやるしかない。
この御堂イカズチが、やるしか。
───エピソード.2
雷雨。
決まって、この計画を移す日は雷雨が降る。
「御堂イカズチィ!!!!!」
「聞こえてる。」
御堂イカズチは、ゴミ山の上から男たちを見下ろす。
「その鼻っ柱折ってぶっ殺してやらぁよッ!」
「オメーみたいな腕っぷしだけ強いヤローにでけぇ面されたらたまんねェわァ!?いい加減死ねッ!!」
「続け皆の衆ッ!!御堂ぶっ殺すぞォォォォォォォォォ!!!」
眼下には、鉄パイプ、包丁、日本刀を持った100人の能力者───中には、Aランク相当の自己治癒使いなども。
「ぼさっとすんなッ!死ねやァッ!!」
特攻隊長の一撃───御堂、するりと避ける。
(へっ、返しの一撃で…!)
漫画でよくあるような、『華麗に攻撃を交わして一撃入れる』それを狙うのであらば、その見立ては間違いだ。
特攻隊長蔵島シン、その能力は身体強化───自己治癒の能力しか持っていない相手に、スピードで負けるわけがない。
「もらったァ!!」
「そうだな。」
だが、スピードで勝ったぐらいで、勝負に勝った気になられても困る。御堂イカズチの自己治癒は───この程度の物理攻撃を意に介さない。
「ば、馬鹿な。電柱をブチ折った一撃を、頭で受けて───無事!?硬化持ちかよッ!?」
「掴んだ。」
「がっ───!?」
鉄パイプを持つ手を引っ張られ、鳩尾への膝蹴り。これにて膝をつき、悶絶して苦しむ特攻隊長。───異常だ。身体強化持ちの肉体が、急所への一撃とはいえ…自己治癒使いのできるようなスケールの話ではない。それは強化プラスチックの塊を、拳で殴って破壊するようなものだ。
「ヴァルハバラの…狂犬…ッ!ぐっ…ぅう。」
「へっ、狂犬上等よ。…かかってこいッ!!」
ゴミ山から降り、群衆との戦いに昂じる───。
御堂イカズチ、第七特区、ヴァルハバラの狂犬───今宵にて、100人病院送り。