狂犬の幻影
───エピソード.1/プロローグ
第七特区代表に新月ルリが就任してから、三か月…。ヴァルハバラの治安は改善され、以前のような乱暴狼藉は即座に取り締まられるようになった。
…が、当然、見かけが変わろうと、本質は変わらないッ!あぶれ者たちは夜の第七に集まり…争いに熱狂するッ!
「…ここ、【ファイトゲーム】、やってる?」
「ええ。勿論です!お嬢さんも誰か賭けますか?」
ファイトゲームとは、超能力者を争わせ、金を賭けるゲーム。タイマンもあるが、バトルロワイヤル、アスレチックなど、さまざまな形式が存在する。…当然私闘で賭博なので違法だ。
「生憎と、客じゃねーんだわ。───フラムブラストォッ!!」
「ぐうおおおおおおッ!?お前ら出てこいッ!!セキュリティだあああああッ!!!」
突如としての襲撃───新月ルリッ!代表自ら、夜の取り締まりッ!!
「ライトニングエッジッ!!うおりゃあああ!!!」
「だ、だめだ!!銃も超能力も効かないッ!勝てねェッ!!」
「そ、そんな…俺たちの店が…。」
「嫌だぁぁぁぁ!ぐはっ…。」
立ち向かう者、動けぬ者、絶望する者…この場にある違法で身を立てる者たちへ、新月ルリは笑う。いっそのこと、爽快に…!
「一夜の夢だぜ。…最後は笑って締めようやッ!!なぁッ!!」
暴れ回る中───喧騒の奥の喧騒。避難通路から逃げ走る客たち───そこから逆流する者、1人…。
「だ、ダメですッ!あんたが出たと知られたら…俺たちのシノギは終わっちまうッ!どうか頼むッ!なんとかするからッ!」
「できねェよ。…お前も裏見てこい。表は俺が抑える。」
「…ぐ。」
「何度も言わせんな。…俺の任務は、用心棒だ。さっさと行けッ!!」
「わ、わかった…。」
走り去る黒服。新月に向かうは、フルフェイスのヘルメットを被る1人の男…。ちょうど最後の警備が倒され、ここに残るは男と新月ルリの2人のみ。
「…バイクにでも乗るのかい?その格好…。」
「生憎と、有名人なんでな。」
「…舐められたもんだ。私とタイマン張れるのは…この島の代表と、狂犬ぐらいだぜッ!!」
狂犬。そのワードに、ピクリと男の指が動く。
「…さぁ、どうした?時間稼ぎかい。」
「いや───行くぜ。」
男の両の腕に、純白の棒が握られる。お互い構え、戦闘開始───そして無言の速攻!新月ルリご挨拶の、フラムブラストッ!火炎レーザーがヘルメット男に迫るッ!
「…ッ!」
炎を切り払うヘルメット男。今度は自分の番だと、長いリーチを生かして猛攻を仕掛けるッ!が───ッ!
「ぐっ…!?」
「…よえーな。」
新月のライトニングエッジに、難なく切り払われる…!
「フラムブラストを切り払えたあたり、超能力産だろうが…私の剣には敵わねぇ。そろそろノビてもらうぜッ!」
(しまった…。クソッ!)
「りゃあああああッ!!」
トドメを刺そうとした、その時───彼女は、狂犬の幻影を見た。
男の手は、予想が効かないほどの高速で動き…ライトニングエッジをはたき落としたッ!
「!?」
「ふッ…せェイッ!!」
続けて、かかと落としッ!不意を突かれた新月は、たまらずにダウン…ッ!が、すぐに飛び退き、態勢を取り戻したッ!
「…舐めたマネしやがるぜ…!それが本気かよッ!」
『ルリ君ッ!』
無線からセキュリティの声が!
「どうしたッ!」
『もう作戦は終了だッ!…すまない。客の半分に逃げられたッ!』
「…わかったぜ!でも、その前にこいつを───。」
『ルリ君…?』
「───消え、た…?」
『…私もすぐ向かうッ!』
ヘルメット男は、居なくなっていた…。それも、一瞬で…!目も離していないッ!しかし、消えたッ!
しばらく警戒するが…何もなし。新月は構えを解いた。応援に来たセキュリティの人員が新月に駆け寄る。
「新月さん!大丈夫ですかっ!」
「…無事だ。それより…私の相手をしてた謎のヘルメット男が、瞬間移動かなんかで消えた。一応、警戒頼む。」
「…レーダーを精査しろッ!」
「了解っ!」
規律正しくキビキビと動くセキュリティの裏で、新月ルリは虚空を見つめていた。
(…まさか、な。)
あの、衝撃は───。
───エピソード.2
地下。薄暗く、風吹かぬ冥地。電灯に照らされた廊下。現れるは、先のヘルメット男。
「…カードを。」
「…"オルトロス"だ。通してくれ。」
「どうぞ、お入り下さい。」
男の名はオルトロスと言うようだ。彼は開けられた扉を抜け、部屋に入る…。ギラギラした熱混じりの光と、酒とアウトローの混ざった空気が男を出迎える。
「よォ。狂犬。」
「やめろ。」
「…狂犬だろ?違うのか?戦闘能力凄まじい自己治癒持ちなんて、狂犬以外いるかよ。」
「やめろっつってんだろ。」
地下に作られたバー。かなり広い空間で、様々な裏社会の人員が寛いでいる。オルトロスに話しかけた若者も、ここではかなりの名を持つ実力者…。
「詮索は無しなんだろ。マスター。こいつ止めてくれ。」
「ククク…。こういうの、好きなんだよ私…見ていたいって言うか、あんまり割って入りたくないっていうか。…わかる?」
「役に立たねえな。一応はアンタがボスだろーが。」
「なー狂犬。私とアンタで付き合っちゃおーぜ!大ニュースだ!そしてそのままポリ公全員皆殺しぃー!」
「…ふぅ。やれやれ、こいつ狂犬の何を知ってるんだ?狂犬って名前以外知らないんじゃねぇか?」
謎の男、オルトロス。
裏社会の番犬、プラム。
管理人、マスターの3人が話に花を咲かせる中…伊達男が割って入る。
「ヨ。邪魔するヨ。」
「は?おい狂犬、デートの途中だし、こいつやっていい?」
「いい加減うるせぇ。…何か用事か?大歓迎だ。さっさとこの女から離れたい。」
「はぁ〜〜〜ッ!?有り得なくね!?私がとち狂って撮ったプロマイド、バカ売れしたんですけど。少なくともそんだけ価値あるんだけどォ〜!」
「紙切れたトイレで配布してたんだろ。…要件は?」
「は?は?」
「こいつは無視していい。場所移しても多分着いてくるから、ここで我慢してくれ。」
「は?は?」
「…愉快だネ。ワタシ、クガンいう者ネ。貴方に用事あて来たノ。…第七がかつて、『六閥』の楽園だった事、知ってるネ?」
「……ああ。」
鳴鬼組が成り立っていた頃、第七は誰も寄りつかず、他の所にも行けないような弱者ぐらいしか、カタギの者は存在しなかった。
そんな状態で、鳴鬼組は何をシノギとしていたのか…当然、スーパーなどの量販店すらなく、資源を運ぶトラックですら第七を経路にしない状況で。
彼らに飯を与えていたのが、六閥だ。
「表で散々暴れるセキュリティは彼らにほとほと手を焼いて、せめて他の特区に進出させないようにと、第七と他を遮断するように警備計画を変えた。結果、第七は六閥が自由になんでもできる空間になったヨ。」
「ここの連中なら誰でも知ってる事だ。…続きを。」
「ヨシ、本題と行こう。…ワタシ、六閥ブッ殺して、お金をたんまりいただきたいノね。で、調査した結果、六閥の隠し施設を見つけてネ。ワタシと一緒に、奴らブッ殺してくれないカ?」
「…俺は殺しはしねェよ。ムショが怖いんでな。」
ここの刑務所は、凶悪な殺人犯を釈放する気がない。何かと難癖をつけて釈放を渋り、永遠に懲罰を与えるのだという。
「…見込み、外れたネ。狂犬って名前なら、殺しの一つや二つやってるものと思たネ。」
「私も殺しはしてないぜー。狂犬の事好きだからなー。」
「あんたは過去何人かやっちゃってるでしょ。」
「マスター!いけずー…。」
クガンは少し考え込み、新しい条件を出した。
「貴方の力、欲しいシ…じゃ、こうするネ。用心棒ネ。アンタの周りに来た襲撃者は、可能な限りひっ捕らえる。これならどうカ?」
「…それならば、まぁ。…俺の視界の外であれば、殺しでもなんでも構わない。」
「交渉成立ネ。狂犬の追っかけ。アンタも来るカ?」
「当たり前。なんか、面白そうだし〜。」
「こいつに団体行動は無理だ。発言を撤回するのは今からでも遅くないぜ。」
「面白そうネ。」
「………………ハァ……。」
狂犬と呼ばれる者───オルトロス。
身元不明、過去不明、先行き不明…。