オルトロスの能力① - 瞬間転移
自身の能力を使用し、瞬間的に移動することができる。何かしらの制約がある事と、連発ができないことは確かだが、オルトロスが仕組みを語ったことはない。
───エピソード.3
やたら頭がフワフワしている。
何か、大事なことを忘れているような…。何かが引っかかるようで、何も引っかからない。そんなつっかえた感覚が…俺のことを動かしているようなのだ。
『狂犬』
…その言葉が胸に引っかかる。何故だろうか…。
「おい、狂犬!私の相手しろー!」
「黙れ。あと、オルトロスな。狂犬さんに失礼だろうが。」
裏社会の番犬、プラム。彼女は、機密保持に対しては抜群の…依頼達成率100%。人の心を読めるのか?それとも、腕っぷしが相当に強いのだろうか。実力に関しては未知数。
しかし、セキュリティのかつての代表が仕掛けた殲滅作戦の渦中、六閥の幹部を守り抜いて生還したらしい───腕利きであることは事実だ。
「プラム…お前も伝説と言われる程度には、有名人じゃねぇか。…かつてのセキュリティのトップから、六閥の幹部を守り抜いたなんてよ。」
ちなみに、そのトップは作戦が成功したことで昇進。今はこの島にいない。
「それがどーしたー?褒めてんのか狂犬ー?」
「俺なんかに構って何になるんだよ。怪しいぜ。オルトロスは一般的な用心棒だ。客観的に見ろ。」
「私は、お前が狂犬だと思ってるからかな。」
「…そこまで言うならお前、狂犬に相当思い入れがあるんだよな?」
「ない。会ったことも。」
「は??」
相変わらず、読めない奴だ。…そろそろか。雑談もおしまいだ。地下通路を通った先には、六閥の隠し施設らしき扉と、門番が何名か。オルトロスは右手を挙げて挨拶した。
「おい、オルトロスと、プラムだ。通してくれ。」
「…カードキーを。…本物ですね。我々はここで入り口を封鎖しております。万一があれば、無線で連絡ください。」
「頼りにすることなんかないぞー。私と狂犬が揃ってるんだからな!」
「…仕事二回目なのに、もう相棒面しやがって…。じゃあな。行ってくる。」
「お気をつけて。」
無線を手渡され、オルトロスとプラムは共に隠し施設へ歩き出す。
───エピソード.4
クガンの手勢と思しき、雇われ人間達が施設のあちこちを調査している。…俺たち、出遅れたのか?時間通りに来たはずなんだけど。
「オ、狂犬!それとその追っかけ!先にお邪魔してるヨ。」
「おい。どこもかしこも調査済みって様相じゃねぇか。俺たちの仕事はどこにあるんだよ。」
「そーだー!戦いよこせー!」
「先に安全な場所だけやって、封鎖してたのヨ。君たちはワタシと一緒に六閥ブッ殺しネ!」
「…わかった。殺しはしねェがな。再三言っとくぞ。」
「それは問題ないネ。出発進行ネ!」
「おー!」
…やれやれ。俺も焼きが回ったか、ツキが切れたか…。こんな怪しい仕事、受けるなんて俺らしくもないな…。
しばらく歩いていくと、暗闇の奥に光がついている。…実験室らしい。いかにも危険なマークがついている。
「…放射線物質とか、冗談きついぞ。」
「レーダーからは安全ヨ。狂犬って名前の癖に、小心者ネ。」
「こう言うとこ、可愛いんですよ?」
「やかましい。」
「ギャンギャンやかましくあるべきなのは、狂犬、お前ネ。アイデンティティの喪失だロ。」
「…やかましいわッ!先行くぞッ!」
扉を蹴破って入った先には、液体で満たされたポッドと…その内部に人間らしき姿がある。電力は停止していないから、おそらくはまだ生きている…?
「…クローンか。」
「六閥は、超能力研究でクローンに一つ、拘ってたネ。遺伝子研究の延長線上ネ。」
「六閥の奴ら、どこにいんだ?」
「いなくてもそれはそれで構わんヨ。」
…クガンの口ぶりから、確実に六閥があると思ってたが…早とちりだったか?仲良く散歩しておしまいというのも、金が受け取りにくくて嫌なのだが。
いくつも、同じようなポッドが並んでいる。奥へ奥へと進んでいくと…そこには、巨大な一つのポッドと、ポッドの前で居眠りする女の姿があった。
「クガン、こいつは?」
「科学者だロ。」
「見れば分かるわ。どうすんの。」
「…起こして、話を聞くネ。もーしもしー。」
「…ん、ぐ…はっ。」
「おはようございまーす。ご機嫌いかが?あなたの話が聞きたいなー。」
「ここは…。そう、私は置いていかれたのね。そしてあなた達が…クガン?」
「…ワタシの名前、何故知てル?」
「メッセンジャーなのよ。私。うちの上の指示で…研究員全員でババ抜きして負けた人がここに残るようになってる。」
女は立ち上がる。落ち着き払っている様子だ。
「…ね、ここは何の研究をしていたと思う?」
「超能力研究だろ。」
「そう。遺伝子を調合して、複数の能力を持った人間を作る…それがここの目的。で、それは六閥がやっていた…。でも、その目的は終了したの。既にね。」
「…。」
「御堂イカズチの確保が完了してね。彼の事を相当実験したら…ある事実が分かったの。」
───超能力者は、『ビジョン』を見ている。
それは、我々の脳みそに刻みつけられた…人によってランダムな画像。個々人の能力に深く繋がっているとされる。
「スピリチュアルな話ネ。」
「ビジョンはいじれない生まれつきの物…しかし、ビジョンの奥深くには…『進化の黒』があるようなの。」
御堂イカズチの証言によると───その【黒】を見つけ出すことができた超能力者は、真に万能になる。黒の中には有りとあらゆる超能力の素が詰められているが故に。
「…。」
「長かったわね。で、メッセージ。クガン、あなたの妻…ファリンはあなたのことを待っている。その黒の地平の中で。」
「…よくも抜け抜けと。」
…オルトロスとプラムからすれば、困惑である。
「説明しろー。クガン。」
「…ワタシの妻、ファリンは、このクソッタレな六閥の手先に誘拐されたのヨ。時間を越えることができる能力者だったからネ。…死んだものかと思っていたが…。」
「……。」
ことごとに発露させていた六閥に対する殺意も、その過去から来ているのか。納得である。
「おい!メッセンジャー。私は何をすれば、ファリンに会える?参考までに聞かせるネ。」
「彼女の超能力実験中、出力を薬剤にて無理矢理上げて臨んだ。その結果、能力が暴走し、彼女は自分の周りを異常空間にしてしまった。」
その異常空間では、時間が停止。干渉も不可能。何もかもすり抜けるだけである。
「…っ早く続きヲ。」
「御堂イカズチ君が黒の地平に接触しかけた際…明確なビジョンと共に、彼女からの声を聞いたと言ってたわ。」
───『黒の地平まで辿り着ければ、御堂イカズチ君、君自身を救える力が手に入る。』…その言葉を残し、彼女は消えたのだと。
「超能力者が時空を超えて意識を共有する空間、それが黒の地平なのカ?」
「その通り。…黒の地平に至るには、超能力を使い込み、その出力をあげる必要がある。」
「…。まとめると、六閥は既に凄まじいレベルの能力者を量産できる用意ができていて、妻を誘拐されたワタシには、指を咥えて黒の地平に行くための超能力修行でもやってろ、と、言いたいって事カ?」
「そうなるわ。」
「ふざけてるネ。…もしもし、調査班に連絡。安全は確認できたネ。洗いざらい調査するネ。…研究員さん。アンタにも来てもらうヨ。知ってることはガンガン教えてもらうネ。」
「乱暴はよしてね。」
「どの口がいうネ。六閥の研究員風情ガ。」
調査隊が実験室に入ってくる。もう、ここの奥はなさそうだ…。すなわち、お役御免である。
───エピソード.5
「結局戦えなかったー!あと私話聞いてる時に寝ちゃったんだけど、何話してたの?」
「クガンの妻が六閥に誘拐されて実験されて暴走、その後御堂イカズチも実験して黒の地平とかいう新概念発見。その時クガンの妻が御堂イカズチに意識だけの空間で接触してたって事と、六閥はめちゃくちゃ強い超能力兵士を量産できるって事。」
「じゃ、何でその超能力兵士と戦えなかったんだよー!普通警備とか置いてるべきだろー!?」
「…六閥がクガンで遊んでんじゃねぇか?あの施設に来るのも、予想済みだったって話だ。」
(…そんな精巧な未来予知ができそうなのは、島管理AIとかぐらいだが。まさか、六閥と島管理AIがグル?…面白いな。そうだったら。)
「あーーーーまじで!いらっっつくわー!デート!狂犬デート!」
「狂犬は御堂イカズチだろ!?もう捕まってる!俺は狂犬じゃねェよ!オルトロスだ!」
「狂犬だよ!私にとっちゃ!」
「……この愚かしさよ。」
「私の事、馬鹿にしたなぁ〜!?」
酒場で馬鹿騒ぎする2人…。せっかくの依頼が無駄足ということで、かなり気が立っているようだ。(プラムのみ)
2人にバーのマスターが声をかける。あるニュース映像が映されたディスプレイをオルトロスらに向けた。
「まぁ、お二人…。今度もビッグニュースですよ。ちちくりあってる場合ではありません。」
「…なにこれ。」
『号外!【天帝】千光院リオウ、華々しく狂犬を救出ス。』
「千光院リオウが、第一特区にあった六閥の施設から、御堂イカズチを救出したんですよ。誘拐発覚から9日でね。怒涛の展開ですよね。ほんと。セキュリティはようやく汚名返上ができたわけです。」
「……ふーん。」
「死ぬほどどうでも良い。」
「え!?本物の狂犬の話題ですよォ!?」
そういえば、とオルトロスが質問する。
「六閥の超能力兵士はどうしたんだ?」
「強いのが居たらしいですが、千光院リオウがやってしまいましたよ。強すぎますね。」
「……はぁ〜、ちょっと六閥に期待しすぎたかな。世の中、そうそう大きく変わんないんだね。今回も第一特区が動けばおしまいだろうな。…よーし、さっきまでのことは忘れて、用心棒の依頼でも探すかぁ〜。」
「狂犬〜!私も誘え〜!」
「…うーん。私、人を見る目はあると思うのですが…何故この2人は、この騒ぎの中心に立ってないんでしょうかね…。」
新時代の台風の目を傍観する三人。
黒の地平、時間を操る超能力者、六閥…謎は尽きぬばかり。果たして、オルトロスは運命に立ち会えるのか。
その時こそ、彼の真実も暴かれる事となろう…。