───エピソード.18
プラムの能力、電光変換により、電気の速度で移動したオルトロス一行。彼らは地下に作られたバーに帰ってきた。
「ここでいーの?狂犬。」
「世話をかけたな。」
「いーってことよ。」
椅子にどかっと座り、背もたれに体を預ける。プラムも対面に座った。
「…話した通りだ。」
「何が?」
「ファリンの計画を進めると…お前も死ぬぞ。」
「…そーなの?」
「ここでもう一回話すつもりはないぞ…。気は変わったか?」
「狂犬は?」
「俺も死ぬ。」
マスターがソフトドリンクを持ってきた。
「こちら、どうぞ。興味深いお話ですな。」
「…一応話しておこう、マスター。三日後に終末が訪れる。…この世界は終わっちまう。」
「…ふむ。それは…今まで、たくさんの破滅的な能力者を見てきましたが、世界を壊す事はできませんでした。」
人類は今まで、たくさんの危機に陥ってきた。その度に、自浄作用でなんとかしてきたのだ。
「今回は勝手が違う。必要なピースが揃っちまった。あんたも覚悟を決めておけよ。」
「…失礼します。」
マスターは去る。対して動じていないようだ。まぁ、相当に肝が太いのだろう。プラムがドリンクを飲み切った。
「速いな。」
「喉乾いててね。…ねぇ、狂犬。」
「…。」
「3年前にあたしを救ったのも、計画のため?」
かつて行われたセキュリティによる六閥の殲滅作戦は、社会からドロップアウトした能力者を狩る目的で行われた。
六閥の側に、傭兵、用心棒、暗殺者…そのような闇の勢力で生きる能力者達を集め、まとめて刈り取る罠だったのである。
プラムは、その窮地をオルトロスに救われた。能力強化を受けたセキュリティ暗部部隊に襲われ、逃げることも応戦することもできなかった。そんな彼女の前に、突如としてオルトロスが現れ、セキュリティを戦闘不能にしたのだ。
「あんたはセキュリティをぶっ倒した後、霞のように消えた。…また見つけられた時は、嬉しかったね。」
「…当時の俺は、まだ『ファリンの能力』だった。自我は希薄だ。だから、ファリンが意図してお前を救ったのだろうよ。」
オルトロスが物心ついたのも、つい先日のことだ。記憶として覚えてすらいない。
「つまんねーの。初めから惚れてたってんなら面白かったのに。」
「誰がお前に惚れるかよ。…最後まで付き合ってもらうぞ。」
「情熱的ねぇ。わかった。」
───エピソード.19
「逃げよう。姉さん。」
「何言ってんだ、マコト…!」
暗闇の中、言い争うのは新月兄弟。
「俺たちは、殺しがしたかったわけじゃない!こんな、敵を皆殺しにしなきゃいけないなんて…。賛成できない!」
「…なぁ、マコト。都合がいいとは思わねえか。」
第七代表として、新月ルリは話す。
「今まで散々守ってきて、いざ、敵を殺さなきゃならないから、もう守りませんっていうのは…。殺しだけは嫌です、なんてのは、虫がいいんじゃねぇのか?」
「それは姉さんが毒されてるんだよ…!人を殺すんだぞ!」
「私達の裁量だろうが…。千光院リオウだとしても、サクセスの兵士全てを相手にできる訳じゃない。どうしても殺したくないなら、殺さず無力化すればいい。…私は作戦に参加する。マコト、殺させたくないってんなら、なおさらお前も来い…!戦力に余裕がなくなれば、確実に殺す以外に方法はなくなる。」
「姉さん…。」
「…話は聞かせてもらった。」
「!?」
現れたのは、震電タイガ、血伊吹セナ、糸紬ヨリト…!
「マコトくん…。お願いします。私達を助けてください…。」
「セナさん…。」
「マコト。お前とて、六閥に狙われるかもしれない。いや、全ての能力者が六閥に誘拐される可能性があるのだ。」
「…震電君…。」
「…犠牲が仕方ないなんて思わない。僕たちが挑むのは戦場だ。…敢えて言おう。僕たちがやらなければ、誰がやるんだッ!この超能力特区を…解放しなければならないッ!!」
「ヨリト君…。でも…殺しだぞ…!」
マコトは善良だ。故に、殺すことの重みを良く知っている。普通の人間は、殺すことを避ける。人にやられて嫌な事は、人にしない。道徳的だ。
「マコト…。」
「姉さんッ!やっぱりこんな事は、間違っているんだ!」
「マコト!!さっきも言っただろうがッ!!───殺させたくないなら、責任を持てッ!!」
「!」
「安全地帯から、ヤジを飛ばすなッ!!筋が通らねえだろうがッ!!私達だって、好きで殺したいとか言ってる訳じゃねぇんだッ!!…助けてくれよ。味方になってくれ…マコト!!」
「……。」
マコトは、誰だ?
誰の味方で、どこの誰だ?
決まっている。マコトは新月ルリの味方で、7つ星の一員…『光』の能力者…ッ!!
「ごめん。皆…。」
彼は7つ星の一員、新月マコト…!
「───俺は、殺さない。殺させないために…皆と一緒に戦う…ッ!!」
───エピソード.20
物陰にて、新月マコト達の様子を伺う破天トオルだった。
「…フッ、俺が出る幕も無かったか。」
「お友達かイ?」
物陰からひょっこり現れるクガン。
「…クガンか。もうちょっと気配出せよ。」
「ワタシ、幽霊みたいて良く言われるネ。…トオル君。君の能力でワタシの力を奪えないかイ?」
『強奪』。自身の出力以下の能力者の力を奪うことができる。
「無理だ。試してるけどできねェ。…あんたの出力が規格外すぎる。」
「そうカ…。天照レイくんにも頼んだけど、彼も出力が足りなかっタ。せいぜいできて石をカタツムリに変えるぐらいだっタ。」
「石をカタツムリか。」
「気になる?今持ってきてル。これダ。」
「うお。…ところどころ石に戻って来てるな…。」
「…トオル君。」
神妙な雰囲気で語るクガン。トオルはカタツムリを触るのをやめた。
「ワタシが能力に目覚めたら、ワタシを殺してくれないか。」
「…理由は?」
「ワタシは能力者研究施設にいた。その中で、拷問まがいの実験を受け続け…そして、願ったんダ。───世界なんて、滅びてしまえって。」
彼の初めの願い。それは、世界の滅び。
「ワタシの願いの実行は少し時間がかかった。ワタシはその間に願いの取り消しと、ワタシ自身の能力の封印を願ったんだ。」
その後、白龍組による保護を受け、高い能力出力を認められ(能力出力が高いと洗脳能力などにかかりにくい)、世界で暗躍する六閥の対処のためにここにいる。
「ワタシの封印が解ける時は、きっとワタシの初めの願いも目覚める時ダ。…ワタシに話は通じないだろう。君たちに頼む。」
「…わかった。」
クガンは去っていった。
超能力に振り回された男の、悲しき背中だった。