自分を殺した感触は、思ったより呆気なかった。
それもそうだ。何度も何度も繰り返し、僕はこの感覚を体験していた。
僕は、狂犬となるために自分自身を殺していた。
狂犬であるために、ありたいがために、様々な僕を殺した。
だって、この力が…心地いいんだもの。
狂犬でいる間、無力でないという実感を得る。快楽だ。無価値な僕は、暴力と狂気によって、群衆からチヤホヤされるヒーローになった。
話を聞かないことが心地よかった。
誰かに頼らないことが心地よかった。
人のためを目的とした自己満足が心地よかった。
無価値な僕のまま、他者を打倒するのが心地よかった。
特別な僕であることが、何よりも気持ちが良かった。
…死んだ僕も、納得してくれるよね?
これは、世界の為なんだ。
この超能力に支配された世界を、破壊するためなんだ。
破壊しさえすれば、僕は…。
何もない無価値な僕が、何になったか、わかるはずなんだ。
───エピソード.24
決戦開始───両軍の戦力を解説する。
サクセス側
【千光院青龍】。能力は万能。必殺技は拘束する光輪を放つ【
【黒雲シオン】。物理法則が適用されない任意の質量を持った竜を生成する。超能力力場を物質化させた黒き力を黒竜に付与することで、あらゆる防御力を無視できる。
【雨羅木スサノオ】。剣術に限り、事象の書き換えを行うことができる力。単純な出力強化により、能力の干渉力が高まっている。黒き力で作成した刀の一撃を当てると、事象改変への抵抗力を失わせることができる。
【凪海ミレイ】。身体に強固な武装・装甲を展開、かつ、超能力力場を楔として打ち込むことで、超能力を破壊できる。黒き力を手にしたことで、今までにない防御力を会得した。
【八岐タケル】。走れば走るだけ、加速することができる。攻撃力と防御力に欠けていたが、黒き力により、能力的な防御を貫通する圧倒的攻撃力を得た。
7つ星側(7つ星と代表の能力詳細は割愛)
【天照レイ】。能力『模倣』。
【震電タイガ】。能力『電波』。
【新月マコト】。能力『光』。
【血伊吹セナ】。能力『血』。
【糸紬ヨリト】。能力『糸』。
【破天トオル】。能力『強奪』。
【新月ルリ】。能力『進化』。
【クガン】。能力『支配』。かつて封印した支配の力が、滲み出す…!クガンの敵は、《何故か気が緩む》、《何故か攻撃をし忘れる》と言ったような不注意が増える。また、《攻撃を当てたはずなのに当たっていない》、《攻撃を避けたはずなのに当たっている》のような不可解な現象も頻発する。
【千光院リオウ】。能力『【超】能力』。
【獅鷹アケビ】。能力『絶対防御・物体操作』。
戦力解説は終了。
クガンの能力の異質さに焦りを覚えた青龍らは、初めに最大火力で戦闘終了させることを選択。
(視界が揺らいでいる…。現実改変能力者相手に長期戦はまずい。)
相手の出力を上回ることができなければ、あらゆる能力の効果は薄くなる。力を消耗する前に決める短期決戦であれば、クガンの能力による影響を最小限にできる。
その腹づもりであったが、青龍は【天照レイ】のことを忘れていた。模倣の能力を持つ超能力者である彼は、【見かけの現象】を模倣することができる。支配の能力を模倣できなかったのは、ひとえに現象に関するイメージが足りていなかったからだ。
現状、クガンの能力は具体化しているため、天照レイでも模倣できる。サクセス側は2人の能力者による現実改変に苦しめられる。青龍は新月ルリに肉弾戦を仕掛けるが、攻撃を当てたと思ってもすり抜けてしまう…!
「当たっていない…!?」
「プラムブラストォッ!!」
「ぐぅッ…神剣ッ!!」
「…心得た。」
千光院青龍は命令する。現実改変能力者には、現実改変能力者である。天羅木スサノオによる、神剣───!
「神剣ン…人
「防ぎますッ…!【
この空間全体を範囲とした現実改変。獅鷹アケビによる絶対防御に弾かれる。が、目的は空間にかかったクガンとレイによる現実改変の中和ッ!!不確定な現象に悩まされず戦闘できるッ!!
「現実改変能力は弾いたが…その鎧、黒き力には耐えられない。行け…黒竜!」
「…アァアアアッ!!黒竜…狂嘆ッ!!」
黒雲シオンの黒龍が獅鷹アケビに迫る…!千光院リオウが彼女を抱えて移動するッ!!しかしそれだけではないッ!!
「───第八の技。『千光』。」
ここで一つ問いを投げる。
黒き力は、能力を乱し、防ぐ。
それは、無限に?
否。黒き力は能力を乱すと"相殺"される。
すなわち、圧倒的な出力さえあれば…黒き力を掻き消すことが出来るのだッ!!
「───黒龍を、掻き消した…ッ!?」
千光。それは、千光院リオウが自身の能力エネルギーをそのまま放出する技。エネルギーを光にも、電気にも、炎にも変換しない。それによって、黒き力を掻き消すほどの圧倒的な出力を実現した。
殺傷力はないが、敵の能力を掻き消すことが出来る。
「ありえない。ビジョンに力場を通しているような通常能力者が、我々強化能力者と同じようなことを…ッ!?」
「出力が高ければ、能力は拡張する。…この第一特区代表、千光院リオウの能力出力を侮らないでいただきたいッ!!」
千光により、あらゆる攻撃的な能力は打ち消される。黒き力という優位性が消えれば、数で劣るサクセス側が不利。だがまだ、青龍達も手詰まりではなかった。千光では、身体強化は打ち消すことができない。また、エネルギーが拡散するため、打ち消せる距離には制限がある…。
状況としては、獅鷹アケビが全体に鎧を貼り、その獅鷹アケビを千光院リオウがカバーしているのみッ!獅鷹アケビと千光院リオウを避けての各個撃破は現実的ッ!
「白虎!韋駄天ッ!…千光院リオウの付け合わせを排除するッ!!」
「…グ…ウウ…!黒ッ爪ッ!!」
「…走る、走る、走るゥッ!!」
韋駄天、八岐タケル。一瞬で7つ星の背後に移動───回復役の血伊吹セナを背中から蹴りにて刺し貫く。
当然ながら、黒き力による攻撃。獅鷹アケビの鎧も意味を成さない。
「───が。」
(手応えが、ない。)
あまりに、柔らかな肉体…。
それもそのはず、血伊吹セナの肉体と思われし物は…ただの血の塊ッ!!
鎧と血で構成された囮人形…!遅れ、爪にて七つ星人形を引き裂いた凪海ミレイもその事実に気づく…!
(本物は、どこに───。)
新月マコトの能力、『光』による迷彩───。
震電タイガの能力、『電波』により、周波数を操り無音化───。
「強奪───」
その状態で、雨羅木スサノオの能力を、破天トオルが強奪───!7つ星一行は現実改変能力者を潰すために移動していたッ!!
「───バージョン2ッ!!」
「ぬっ…!?」
(まずい…力が…刀が、消える───!?)
破天トオルの能力は、自身より出力が高い者には通用しない。しかし彼の能力のメカニズムは、『相手の超能力の力場を乱し、力が実行される前に拡散させる能力』であると研究によりわかっていた。
(時間が、足りていなかった…。一瞬触れるだけじゃ、足りなかったんだッ!!)
「しばらくじっとしててもらうぜェッ!!神剣さんよォ!」
(なんたる…無様か…。だが、何故かホッとしている…?)
無力化されることに奇妙な安息を覚える雨羅木スサノオであった。
…自身より出力が高い敵に対し、破天トオル自身のエネルギーを注ぎ続けることで、奪うことはできないが、しばらくの間能力を封じることが出来る。
「───【
(神剣が封じられれば、クガンの能力によって不利になるッ!!)
「!青龍に気づかれたぞッ!」
この状況、千光院青龍においてはもはや、一刻の猶予も無かった。
無音、透明な状況で、千光院青龍はわずかな違和感を見つけ…雨羅木スサノオの異変に気付き、そこに敵がいるとアタリをつけた。
黒き力を纏った光輪は、千光によって多少の減衰を受けるものの強力さを維持したまま破天トオルに襲いかかる───!
「ぐ、悪い…防御頼む…!」
「───任せろ。」
七つ星は勢揃いでこの攻撃を防ぎ切るつもりだッ!!
新月ルリの能力、『進化』。その心意気に応じて、彼女に力を与える。彼女の全身を白銀の鎧が包み、その手には白銀の剣が収められた。
「
炎が心の内から湧き上がる。
それもそのはず、1人ではない。
「行くぞ!ルリ1人に背負わせるなッ!!
「頼む!姉さんッ
二人の光線により、光輪の一つが撃ち落とされる。
「【赤穿ち・
「斬糸結界ッ!!トオル君には近づかさせないッ!!」
万の血針と糸の結界より、光輪の一つが逸らされる。
「限界を越える───千剣ッッ!!明王ォォーーーッ!!!」
模倣によって再現された、御堂イカズチを刺し貫いた最強の千剣明王が、光輪の三つを破壊した…!
「───
満を持して抜剣───進化の一撃が、30の光輪を一度に破壊する。
「やはり、そこか…!終わらせるッッ!!黒竜…私に合わせろッ!!【
「グ…ウ、オ、ォォォォォォォォォッッ!!」
千光院青龍───黒き力を全て、全て、全てッ!!この一撃に注ぎ込むッ!!
また、黒雲シオンによる援護…!黒き剣に黒龍が纏わりつき、黒剣龍となって七つ星へと向かうッ!!
「私を忘れてもらっては困る…ッ!!千光ッ!!」
千光院リオウ!今だけは無粋だ!
「爪牙───狂舞ッ!!グアァァアーーッ!!」
「走る走る走る───走るゥッ!!」
凪海ミレイが急接近し格闘ッ!!獅鷹アケビを庇うリオウは後退せざるを得ないッ!!側面から迫る八岐タケルの蹴りによって大きく吹き飛ばされたッ!!
「クッ…!」
(千光のおかげで攻撃は全て獅鷹君の鎧で防げるが…ッ!7つ星のサポートができないッ!!)
「よくやった。…そのまま2人でリオウを抑え込んでおけッ!ククッ、さぁどうする?7つ星───この一撃、受けて立ち…そしてッ!死ねッ!!」
邪竜の凄まじい力───千光院青龍と黒雲シオン全てを出し切っている。能力強化を受けていないルリが1人で相手するには、あまりにも分が悪い…ッ!!
(……。)
黒龍と光の剣がぶつかり合う───剣が折れた…!
圧倒的な力の差ッ!出力の違いが凄まじいッ!!仲間達と力を合わせても…このままでは確実に押し負けるッ!!
「…頼む、頼む…!ルリッ!!」
「姉さんッ!!」
「ルリさんッ!!」
「グ…まだ、まだぁッ!!」
「ルリィッ!!」
「終わらせない…ッ!!」
───でも、ダメなんだ。
もう、勝てない。
【 諦めてどうする。 】
ダメだ。この相手には勝てない。
【 まだ諦めるな。 】
そうは言っても、これが全力だ。
【 馬鹿にするな。 】
…。
【 第七特区、ヴァルハバラの代表、新月ルリ。 】
まさか、貴方は…。
【 狂犬の意思を引き継いだんだろ。 】
【 最後まで 諦めるな。 】
見える。
"彼"が見せている。
白い光───。
7つの光。
『この光は…。』
『…力を合わせよう。』
『力が、一つに…。』
『意思が一つになっていく。』
『光が繋いでくれている…。』
『まさか、こんなモンが見れるなんてな…。』
『…こんな、こんな地平があったなんテ…お邪魔するネ。』
【 君たちの力だけでネットワークを形成した。 】
【 超能力者が時空を超えて意識を共有する空間。 】
【 黒の地平に準えて、白の地平と呼ぼうか 】
【 さぁ、新月ルリ。───終わらせよう。 】
視界がクリアになる。
先ほどまで不自然にフワフワしていた意識が、ハッキリと現状を受け止める。
目の前にある、黒き破壊。
それごと踏み潰して、時代を作れと。
「
8人の声が重なる。
8人の力が合わさる。
8人から結集された力は、黒を超え、白へ。
剣から放出されたエネルギーは絶望の黒龍を滅ぼし、千光院青龍を飲み込んだ。
(───この、光は。)
光に包まれ───青龍は、輝きの中で意識を失った。
(能力者が、行き着く果ては───。)