超能力特区と熱烈なる狂犬   作:K+#ガソ林

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生きていてどうなる

 やけに視界がクリアだった。

 これは、確か体験したことがある。…過去、黒の地平と繋がった時の感覚と同じだ。

 

「…オルトロス、いや、御堂イカズチ…。」

 

 …お前が、ここに招いたのか?我ながら、とんでもない生命力だな。首も頭も何もないのに、いつまでも動き回りやがって。

 

「僕自身であるお前に、聞きたいことがある。」

 

 まぁ、構わない。僕としても、だ。お前は既に、僕の力の中に寄生する思念体にすぎない。時空間を超えて繋がる地平空間のみで成立している。

 【時】、ファリンの能力が現実に追いつく時がくれば、肉体がないお前はなかったことになる。であればこそ、話す余裕も出てくるものだ。

 

「動機だ。…オルトロスと呼ばせてもらおう。オルトロス、お前が御堂イカズチとしての記憶を取り戻してもなお、ファリンの言いなりになるのはなんでだ?」

 

 …僕の中にいるのだから、御堂イカズチが僕の記憶を持っていても不思議ではないか。

 オルトロスはファリンに従わなければならない理由がある。

 

「…。」

 

 万が一、ファリンの気まぐれで【時間改変の影響が消滅した場合】…僕自身が消滅してしまうからだ。

 後少し経って、お前が消滅すればそんな心配しなくても済むんだがな。

 

「生きるために?」

 

 そうだ。

 全て、生きるためだよ。僕は、オルトロスだ。御堂イカズチの複製体だ。ファリンの都合によって過去に送り込まれた、自由意志のない小間使いだ。

 

「ファリンの目的の先には、超能力のない平和な世界があった。」

 

 それが?

 

「ファリンが過去改変をしない場合、クガンの能力が暴走して世界が消滅する。」

 

 …で?

 

「お前は、より良い未来を選んだだけだろう。オルトロス。」

 

 ……そういえば、記憶が筒抜けなんだったな。なら、わかるだろう。僕に言わせるなよ。

 

「お前は…何がしたいんだ?」

 

 御堂イカズチは、困惑した様子だった。

 

「プラムという女性を救っている。そして、今も救いたいと思っていて…だが、ファリンの計画のためには、超能力者が全て死ななければならないんだぞ。」

 

 そもそもそこは、矛盾点なんだよ。

 未来の僕は、クガンの能力を受けていても生き残っていただろう?

 

「時間の問題だった。クガンの能力の中に安全地帯はない。」

 

 しつこいな。

 

「…こんな馬鹿なことは、やめろ。こんなことに意味なんてあるのか。過去のために未来を犠牲にするなんて、何もかも馬鹿馬鹿しい!」

 

 僕はサブプランなんだ。クガンの確保に失敗した時、出来るだけ多くの超能力者を始末する役だ。時間をかけて皆殺しにしていって、全てを書き換えるための…。

 

「やめろって言ってるだろうッ!」

 

 …そういえば、ファリンはお前にも声を掛けてたよな?

 いったい何を言ったんだよ。というか、おかしいだろ。お前がファリンに協力するわけがない。ファリンは無駄なことはしない。

 

「…僕に話しかけてきたのは、未来のファリンだ。様々な事情を僕に話した彼女は、過去のファリンを止めろと言ってきた。」

 

 …は?

 そんなのが通ったら、なんでもありじゃないか。馬鹿馬鹿しいのはどっちだ。理屈では、わかる。彼女の能力は、直近の過去であるほど改変しやすい。

 

「そして、ファリンを止めることができるのは、僕達だけなんだ。オルトロス。」

 

 …。

 

「クガンの能力領域内に踏み込んで無事なのは、僕達だけだ。そして、ファリンがクガンを制御するためのエネルギーを供給しているのは、オルトロス。君だ。君がファリンへのエネルギー供給を止めて、クガンを救出するんだよ。そして、千光院と7つ星の破天の能力を使って、無力化するんだ。」

 

 …そんなこと、するわけがない。

 

「僕が死ぬ。」

 

 …。

 

「生きるためなんだろう。僕が死ねばいい。僕が死んだ後なら、君はファリンに従う理由がない。」

 

 お前の言葉を実行する理由もない。

 クガンの力で、超能力のない世界を実現させる。

 

「…超能力がある世界で、何が悪いんだ!」

 

 僕は…僕達は間違えたんだよ。

 暴力と狂気でヒーローになった。そんな自分が誇らしかった。

 でも、そんなことは間違いだ。殴っても解決しない。笑っても解決しない。

 人の世界を平和にするのは、たくさんの人々の努力なんだ。

 話し合うことができない僕達は、この超能力特区に封じ込められるのがお似合いだ。

 そんな僕達でも、超能力がない世界なら…話し合うことができる。暴力と狂気に呑まれず、理性で生きることができる。

 

「───違うんだよッ!!」

 

 …。

 

「それは、ファリンが超能力で作った…妄想の世界だッ!」

 

 ……。

 

「そもそも───彼女が現実を滅ぼせば、本当に平和な世界が作り上げられるのか!?」

 

 …オルトロスが御堂イカズチになり変わるように、過去が未来になり変わることはできる。

 

「一度も、試してないはずだろう。」

 

 そうだったとしても。

 

「そうだったとしてもじゃないだろうが。彼女の話に、なんの確証もない───オルトロス。間違いなんだ。たとえ、この世界が暴力と狂気に支配されていたとしても…。僕達は己のサガと向き合って、共に生きていくことが理性なんじゃないのか!?」

 

 …二度と超能力による悲しみが生まれないならば、人形遊びだったとしても構わない!それに、お前は未来のファリンから話を聞いたのだろう!?

 

「ファリンによる世界創造は、全て【時】の訪れと共に滅亡している。」

 

 …!デタラメな事を言うな…!

 

「オルトロス、君から全てのエネルギーを奪って過去に飛び、ファリンは新世界を創造した。だが、そのエネルギー量ではクガンを掻き消すことができなかった。」

 

 …どういう、ことだ?

 

「世界全てを消し去るクガンのエネルギーと、世界からかき集めたファリンのエネルギーが等量な訳がない。クガン以外の全ては改変できたが、クガンだけはどうしようもなかった。」

 

 …。

 

「オルトロス。クガンを止めないといけない。」

 

───エピソード.27

 

「ファリン。事情が変わった。…サブプランだ。【時】を待っていたら、手遅れになるかもしれん。クガンを殺害する。」

 

【 何を言っていますか? 】

 

「お前、クガンの処理はどうするつもりだったんだ?」

 

【 あなたには、役割があると言っていたでしょう…!クガンの始末ですよ…! 】

 

「…そうか。」

 

 だが、なんとなく。

 仕事の話をしていて、真面目な気持ちのはずなのに、オルトロスの心の奥で燻るものがあった。

 だから、確かめようと思った。

 それは、引き返すことだった。

 

「…おい、プラム。」

 

「あいあーい。どしたの?」

 

 ぬるり、稲妻が人の形を成した。

 

「プラム…。お前ならどうする?」

 

 何で今まで───。

 

「こんな胡散臭い話に協力するか?」

 

 こんな事を、思わずにいられたんだろう。

 

「首輪をつけられて、意思を無視して働かされて。」

 

 なんとなく、だったのかな。

 

「挙げ句の果てに、仕事の終わりを見ることすら叶わない…そんな話に。」

 

 プラムは、プラムらしく答えた。

 

「───死ね!って思う!」

 

 そうだな。と、思った。

 

「…だ、そうだ。」

 

 平和な世界、大変結構。

 しかし、くだらない。人とは首輪をつけられなければ、平和を作ることすらできないのか?他人と友達になることなんて、この世界でもできることだ。

 ああ。

 ああ。もう、無理だ。

 もう、僕はやりきれない。

 

「ファリン。契約期間は終わりだ。…初めからこうしておけば良かった。…クガンを解放する。」

 

【 考え直しなさい。…私の過去改変は、私自身の意思で消すことができる。 】

 

「ただ生きていて、どうなる。」

 

 狂犬は、ついに首輪を───食いちぎった。

 

───エピソード.28

 

「…?」

 

「…事情が変わった。クガンを救出する…。7つ星、破天トオルの力と、千光院リオウの力が必要だ。」

 

「いきなり…どう言うことだ?」

 

「御堂イカズチに、言いくるめられた…。」

 

 2匹の【終末狼(ヴァナルガンド)】は、爆心地に向かう…。

 道中にて、千光院リオウと獅鷹アケビを発見。千光院リオウは臨戦態勢でオルトロスを迎えたが、7つ星と共にいたことから、戦意を沈めた。

 

「…七つ星と共にいるとは、どう言う心境の違いかな?」

 

「俺は。いや、僕は…自己陶酔を続ける気力が、なくなったんだ。」

 

「…。」

 

「他人が、とか、世界が、とか。…根本的に解決しようとして、よくわからない方向へ歩いてしまった。チェス盤をひっくり返したところで、それで勝利なわけがない。」

 

 爆心地にて、まだ半径2mほどの球体であるが…黒き力が溢れ出す、が、様子としては穏やかで、球体の膨張も緩やかだ。黒き狼騎士は、球体を掻き分け、消し、開き…そこには、クガン、タイガ、セナの3人の姿があった。

 

「タイガ!セナ…!」

「道中見なかったと思ったら、クガンと一緒にいたのか…。」

 

「…奇跡的だったな。クガンが最後の力を使ってセーフティゾーンを作っていなかったら、2人とも死んでいただろう。…黒き力で能力を無効化しているうちに、破天と千光院、頼んだぞ。」

 

「…第八の技、千光。」

 

「強奪、バージョン2ッ!!」

 

 クガンが目を覚ますまで、千光と強奪で無力化する。

 

【 …オルトロス。 】

 

「今更何の用だ。…お前、もう何もできないんだろ。」

 

【 …その通りです。私にはもう、何もできません。 】

 

 クガンの制御ができたのは、クガンの能力は意識によって封印されていたと言うところが大きい。

 自己封印だから、黒の地平でクガンの意識に乗り込んで刺激し、世界の破滅を実行させることができた。

 

【 私は時間凍結された空間に囚われている身…故に、黒の地平に達していても、過去改変能力しか扱えない。だから、計画の最終段階として、時を迎えた後、暴走事故の前に私をもう一度送るつもりでした。 】

 

 その周回で、超能力黎明期に戻るためのエネルギーを得るつもりだった。しかし、その企みはオルトロスに潰された。

 

【 …私の力は、有限。私の能力は、私が過去に及ぼした改変を維持するためにエネルギーを抽出する。その穴埋めも、そこでやろうとしてたんですが。 】

 

「…そうか。…じゃあな。あとは何とかしろよ。」

 

「ばいびー。」

 

 【時】を、迎える───。

 

【 …オルトロス? 】

 

 オルトロスの姿は、そこにはなかった。

 

『 御堂イカズチ。 』

 

『 僕は間違えていた。何もかも1人でできると、思い上がっていた。 』

 

『 その結果、クガンによる滅亡寸前の状況を引き起こしてしまった。 』

 

『 信じて突き進むことが、強いわけじゃない。考え直す強さと言うものを、君に思い出させてもらった。 』

 

『 最後にやっと、僕らしく生きることができたと思う 』

 

『 ありがとう。御堂イカズチ。 』

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