『 ありがとう、御堂イカズチ。 』
『 ───お前が、生きろ。お前らしく。 』
───エピソード.29
肉片から蘇った御堂イカズチ。もう、戦闘できそうにないほど疲れている。
(…オルトロス…。)
僕は、他人に託しがちだ。諦めが早いから。
…オルトロス、お前もそうだったのか?
お前には、プラムがいた。僕には誰もいない。なのに何で、僕を生かした。
誰かの、足音がする…。
「や。」
「…プラム…。」
プラムは、僕を見下ろしている。
「オルトロスから、伝言…。私に挨拶する最中、思いついたんだって。笑える。…御堂イカズチ。あなたには私は救えないんだとさ。」
「……。」
「だから、ほっとけって。…面の皮が厚いにも、程があんじゃない?アイツ。私そんなに尻軽じゃないのにね。じゃ、バイバイ。」
「…。」
言葉を返すことができなかった。
彼女の記憶はあるが、僕とプラムはどうしようもなく他人だった。
本当に、それだけなのだろう。
「…御堂、イカズチ…!」
「生きてる…!」
プラムが去ってから、結構時間が経って…僕は7つ星に発見された。クガンの暴走も抑えがつき、残る課題は、この街をどう変えていくか、だという。
僕は新月レイにおぶさられながら、この街の展望を聞いていた。
「まずは…セキュリティに頼らない自治組織を作って、六閥とサクセスの痕跡を洗いざらい調査して、あらかた証拠が出たら検挙して!それで、それで…。」
「…おう…。」
「まだ、死なないでくださいよ…!ヴァルハバラの狂犬…御堂イカズチ…!」
クガンの所属する白龍組は、この超能力特区の地下と闇に詳しい。おそらく、レイの言う展望はクガンの協力があれば実現可能だろう。
この街はもっと混乱することになるかもしれない。だが、それは、正しい道のりを歩み始めたからだ。
みんな混乱の中、時間と経験を重ねて秩序を作り上げてきたのだから、僕らにもできないはずがないのだ。
「…そうだな…。…。」
「御堂サン…御堂サン!」
「…。」
「…ッ!急がねえと…!」
───エピソード.30/エピローグ
1ヶ月の時が経ち、昏睡から目覚めた僕はテレビを見ていた。
『超能力特区は一件の不祥事からセキュリティと本国に対する不信を表明しました。現在構築中の自治組織【サイコポリス】に期待が集まっています。』
『セキュリティ代表長官である千光院青龍と、青龍の部下数名、また、超能力研究長官である千光院玄武、他数十名のセキュリティの人員が能力者拉致事件に関わっていたということで、本国に強制送還されました。』
『島管理AIであるサクセスの暴走…原因は一体何だったんでしょう。サクセス開発公社に直接出向き、インタビューを行いました。』
『超能力特区の闇。地下施設に拉致された被害者の方々にインタビューを行う機会が我々に与えられました!早速、お話を聞いていきましょう!』
『海外NPO団体【白龍組】のトップと、超能力特区の第一と第七の代表が会食を行いました。なんでも、彼らは超能力特区地下施設に拉致された拉致被害者の調査を行っていて、彼らの協力無しでは事件解決は不可能だったとのことです。』
…思った以上に、平和だな。暴行とかのニュースがない。
きっとそうだ。多分平和だ。世界は良くなりつつある。
(だろ…?オルトロス…。)
「…すまない。入るよ…御堂イカズチ君。」
ガチャリと開けられた扉からは、宮部さん───元セキュリティ超能力犯罪対策科、現サイコポリス所属の宮部昭仁が入ってきた。宮部さんは部屋に入るなり、ガバッと頭を下げてきた。そのままじっと動かない…。
「…宮部さん。お久しぶりです。」
「…申し訳ないッ…!私がもっとちゃんとしていれば、君に恐怖を与えることもなかった…。」
「そんな。頭を…上げてください。」
「……。そうだな。すまない。…御堂イカズチくん。病み上がりで悪いのだが、これを。」
宮部さんはまだ、僕に対し負い目がありそうだ。
渡されたチラシはサイコポリスのだった。活動内容や拠点の場所が書いてある。
「君の力に、この街は頼ってきた…。だが、その度に君は傷つけられ、その命を危険に晒してきた。…君の意思がわからないから一応チラシを持ってきたが…受けないでくれ。…命が、いいように使われてしまう。」
この言葉の意味は、僕1人の命がいいように使われる、だけではない。おそらくは、僕が命を捨てる勢いで戦うことで、それに触発された他の人達も命を軽視するようになってしまう…と言うことだろう。
まぁ、文句はない。その通りだから…。
「元より、狂犬は廃業です。…もう僕は、戦わない。」
ほっとしたのか、宮部さんの表情が少し緩くなった気がした。
「…そうか。その言葉が聞けてよかった。…御堂イカズチくん。もう、私は帰るよ。」
「…。」
「仕事がある。…君も、頑張ってくれ。」
「はい。」
「それじゃあ。また。」
…何でもない、無価値な僕…。
それが、何になっていくか、分かるぞ。オルトロス…。
僕はもう、狂犬でも何でもない。御堂イカズチだ。名前を変える気はない。僕は狂犬だっただけの人間として、この現実に向き合っていくつもりだ。
僕の戦いは、終わった。
…一つ、背伸びをして…この街の風を感じた。
(…こんなに、心地よかったかな。この街の風は。)
夕焼け。
日が沈めば、月と星が出る。
───エピソード.31
そこは、場所でない場所。
現実に存在しない空間…。
【 ファリンの計画は、失敗したか 】
【 失敗したようね 】
【 …何でこんなこと、やりだしたんだ?誰だ? 】
【 誰かの怒りが伝わったのだろう 】
【 未練だ。人の世を滅ぼせなかった 】
死者の怨念集う黒の世。
集うは、断末魔と共に飛び散りし感情に支配された霊群。
【 憎か。誰が誰だか、思い出せもしないのに良くやるな 】
【 人の世を滅ぼすことが定めなのだ 】
【 無駄でしょ。もう死んでる人が何をするの。 】
死の間際の感情によって構成された6霊。
喜の霊。
憎の霊。
安の霊。
苦の霊。
愛の霊。
眠の霊。
6種居るとはいえ、眠の霊はその性質上、未練無き霊群であるため発言することはない。
人の世の絶滅を願うのは、憎の霊だ。眠の霊に次いで勢力が大きい。
【 憎い。憎い。憎い…。こんな世界、滅びてしまえばいい。 】
ぽつぽつ呟く。
【 …オルトロスよ…お前もそうでは無かったのか?何故心変わりした。あぁ、憎い憎い…。 】
オルトロスが願っていたのは、あくまで人類の救済だと言うのは留意願いたい。
所代わり、視点は第三特区アルヴシブヤへ移る。
「…憎い。憎い、憎い…。」
彼女こそは、黒の地平にアクセスし、憎の霊と繋がった【端末】…。
霊の端末にできる超能力者は少ない。故に彼女は千光院青龍対7つ星の最終決戦にも出ることを許されなかった。
桜刃フウカ。能力は【未来視】。
「…ク…ク…。」
奥歯までぎっしりと噛み締めて、声を押し殺しながら呻く。
「……。」
暗躍する憎の霊の端末…。
冬明けの超能力特区に吹くは、春風か、はたまた血風か…。
第二部、完ッ!!
途中、投稿テンポが落ちてしまって、大変申し訳ありませんでした。
ここまで読んでくださった皆さん。ありがとうございました。お疲れ様でした。
勝手ながら、生きるために狂犬ムーブを続けるしかない(絶望)は一旦ここで完結とさせていただきます。
読了ありがとうございました!