一昨日の第一特区の天帝、千光院リオウとの戦いは、僕から見れば最高の結果だった。だが、最高の結果を得た代償は、重いものだった。2日は寝込んだ上、僕の切り札───『回生』、肉片から僕自身を再生する技だが、自己治癒のオーバーヒートを起こしてしまう。しばらく僕は、あの戦いで見せた完全体にもなれないし、無理やり能力を起動しない限りは常人程度の再生能力しか持たない。また、完全に復調できたわけでもなく、今でも身体中が重く、消化器官などの内臓再生が不十分で死にかけだ。病院にかかりたいが、そうすれば第七は無法に戻る。
ビルの上から第七特区を見下ろせば、少しは喧嘩の規模が縮小してることがわかる。僕は、あの後「俺のシマで調子に乗っている奴は問答無用でブチのめす」と声明を出したのだ。
そして、それでもなお、喧嘩を続けるような人は破壊しなければならない。
───エピソード.4
千人の不良の山を築き上げながら、第七を駆け抜ける風───御堂イカズチ。
「クククッ…威勢の良い奴らは、嫌いじゃねぇッ!!」
威圧しながら、街を高速で巡回し喧嘩を繰り返している。当然、第一特区の天帝にすら比肩したその力に、誰しもが敵うわけがない。先日の戦いで不死身を表明した御堂イカズチは、そのフィクションを現実に刻み込む。
「この喧嘩したがり屋がッ!ガフッ!?」
「シノギの邪魔すんじゃねェーーッ!!死ねェーーーッ!ガッ!?」
「鳴鬼組舐めんじゃねーッ!!アフッ!?」
日本刀にとどまらず、拳銃まで出てくるのが第七のヤバいところだが、御堂イカズチにとっては日常茶飯事。普段であれば、むしろ傷の規模が少ないので回復の手間が省けるまである。しかし、事情が事情。攻撃を受けてはいられない。
(自己治癒の発動は、できてあと一回ぐらいか…)
現状の御堂イカズチは、自身の健康を損なうことで体組織の回復を行うしかない。それほどまでに、千光院が負わせたダメージは大きなものだった。
「上等ォォォッッ!!!」
殴り合いは加速する───!
御堂イカズチ、本日で二千人病院送り…!
───エピソード.5
「千光院君…なんといたわしい。あぁ、最強、光帝、超能力者…そう謳われた君を、群衆の誰もが助けなかった。君はただ一人の人間であるのにも関わらず。」
第二特区ヴァナブクロの『騎士』、獅鷹アケビ。千光院リオウの熱烈なファンであり、本日は千光院のお見舞いだ。
「……私は、負けた。」
「奴の卑怯さに、ですね?」
「そうだ。あのクズ、私の不意を突いた。喧嘩だがなんだが知らないが…寝込みを襲って殺すだけなら、誰にでもできるッ!うッ!?がぐ…。」
「無理をなさらず。」
死んだ、が、実は死んでいなかった。残心を怠った千光院の論理は理屈が通らない。しかし、怒りとは理屈ではない。
「二度と負けてやらぬぞ…ッ!」
「それでは、千光院君。私は奴めを粛正して参ります。」
「ッ!?待て!奴は私の獲物だッ!!」
「私とて、怒っております。秩序の代理人、天帝を貶めたあの狂犬めに。…民草の安寧のため、奴を放置していてはいけないのです。」
天帝が病院送りになったことで、にわかに特区全体の犯罪率が上昇を始めている。現状はセキュリティが機能しているが、許容量を超えれば、超能力特区全体が治外法権と化すだろう。
「では、さらば。」
「ぐっ……クソ……ッ!御堂ッ!イカズチィーーッ!!!」
「病院内ではお静かにお願いします。」
───エピソード.6
町外れにて、両雄、対ずる。
第七特区『狂犬』、御堂イカズチ。
第二特区『騎士』、獅鷹アケビ。
「御堂イカズチ。あなたの今までの狼藉───万死に値する。」
「ククッ…良いぜェ…喧嘩なら、いくらでもよッ!」
「しかし、その前に話すことがあります。…下郎。貴様が千光院君を傷害したことで、超能力特区全体の治安の低下を招いている。」
「…。」
「何の目的があってそんなことを?」
知らないわけではないだろう。御堂イカズチと千光院リオウの戦いは録画されている。だからこれは、最後通告だ。
「アイツから聞いてねェのか?…俺はッ!!この7つの特区全てを、俺の力で服従させてやるつもりなんだよッ!!」
「よくぞ言ったッ!!御堂イカズチ、最早情けは持ちませんッ!この場にて貴様の息の根を止めてくれるッ!!!」
「上等だァッ!!!死ねェーーーーッ!!!」
獅鷹アケビの能力───それは、物体の粒子を自在に操ること。だが、これは獅鷹アケビの特別性を保証するものではない。たいていの広範囲型超能力者は、さまざまな能力を物体の粒子を操ることで可能にしているからだ。
発火能力は粒子の振動や化学反応。
転移能力は粒子の移動。
バリアは粒子の固定…。
では、『騎士』と呼ばれるその所以とはどこにあるのか、それは、外部からのあらゆる干渉を無効化する『鎧』を編めるのが、唯一彼女だけだからだ。
「!?」
御堂の爪は獅鷹の鎧によって阻まれた。それはもう折れている。
「…哀れだ。千光院君は、私のようなことも容易くできる。」
できない。
この鎧並みの絶対防御は、いかに千光院といえども難しい。
「…当然、この鎧にも出力限界があり、能力を維持できなくなるタイムリミットが存在する。そしてそれは、攻撃を受けるたびに速くなる。」
「グッ…!クソッ!うらあああああああッ!!!」
御堂が拳で殴れば、殴った部分が食い破られ、足で蹴れば、また足が。鎧外表の粒子を操作すれば、御堂に殴られた部分に針山を生み出すこともできるし、獣の顎のように操作して、接触した体を食い破ることも容易い。
「だから私は2日…いや、1日は継続して鎧の展開ができるように鍛錬しました。御堂イカズチ。これまでの攻防で、貴様から受けたダメージは精々1分に相当する程度だ。」
「…!?」
「二度と言います。哀れだ。だが、息の根を止めると言った言葉に二言はない。」
「グッ…ッ!上等ォォォーーッッ!!!」
御堂イカズチ、万事急すッ!!1秒先には鎧によって全身を食い破られた御堂イカズチの姿が…ッ!
「……。」
「流石ですね。もう再生を開始している。しかし、それは千光院君の喧嘩で見せた速度より、だいぶ遅く見えます。…あのような再生はリスクが大きいのですね。」
「……グッ…!」
御堂イカズチは───限界に達していた。