僕は思っていたより、強かった。
並の攻撃は効かない。致命傷にならない。かつ、攻撃を受けても軸が全くぶれやしない。僕は攻撃を受けても、よろめくことすらなく反撃に転ずることができるのだ。素人でも勝てる。
痛みさえ、無視すれば。
───エピソード.11
「これでッ終いだァァッ!!」
「ぐぼッ!?……クソ…ヴァルハバラの、狂犬…。」
最後の1人を地面に転がし、膝をつく御堂イカズチ。しかし、すぐに立ち上がって吠える。
「…まだッ!喧嘩したりねェ奴はいるかッ!?」
静まり返る街。
静寂が伝染する───すなわち、これで打ち止めだ。
「ふぅ…。」
「ヴァ、ヴァルハバラの狂犬!狂犬御堂イカズチが…俺たちを…助けてくれた!」
「御堂クンッ!ありがとう!!」
「御堂様ァ〜!!もう私、一生ついていきますわ!」
「御堂ォォーーッ!流石だァーーッ!!」
わっと沸く群衆。しかし、まだ安心できる状況ではない。
「おい。オメーら。今の状況どうなってんだ?停電してんのか?」
「御堂イカズチが…俺たちに質問を!?」
「御堂クンッ!リバティユニオンとかいうテロリストがあの空中要塞に乗ってきて、この人工島を攻撃してるんだッ!」
「同時に鳴鬼組のボス、明賀峯晴貴が刑務所から脱走して、テロリストに協調していますの!」
「御堂ォォーーッ!今はどこもかしこもしっちゃかめっちゃかだァーーッ!」
明賀峯晴貴、僕が過去に倒したらしい、鳴鬼組のボス………。じゃあ、僕がやるべきは、一つ。
「仕方ねェ。俺のシマで調子に乗っている奴は問答無用でブチのめす。そう言ったからなァ。おい!明賀峯の場所、わかるか?」
「明賀峯晴貴の…居場所を!?」
「御堂クンッ!彼は今、バイクに乗って疾走中だッ!場所がわからないッ!」
「御堂様!いったいどうすればいいんですの!?」
「御堂ォォーーッ!!」
ふむ…。
「…お前らは俺の声明を広めろ。奴に…そうだな、中央公園で待つって言っとけ。俺は片っ端から暴れん坊と喧嘩してくるぜ。」
───しばらく後
「…………。遅いぞ。御堂イカズチ。」
「いやぁ、悪いな。…こいつら、なかなか気骨があるじゃねーか。感心したよ。」
中央公園にて、血風が吹く。
辺りの地を這うは鳴鬼組、病み上がりから回復したのを、1人残らず残滅している。
明賀峯は振り返らず、再会の言葉を紡いだ。
「御堂。お前…その様子だと、昔より強くなってやがるな。」
「…。」
「クフッ…俺もやられてるばかりじゃねェ…ッ!お前に倒されたこと…。それでヴァルハバラの『狂犬』なんてものを広められた。それだ。それこそ…俺の人生の汚点だッッッ!!!!」
『鳴鬼』、明賀峯晴貴…すっかり時代から取り残されたような、そんな評価であるが、彼の能力は決して、御堂イカズチに劣るようなものではない。
『身体強化』───身体は柔軟なまま、その力を増す。明賀峯は一度膨張、筋肉の塊になってから───その体を、縮ませた。
可動域が制限されず、かつ、さらに強靭に、明賀峯は"鬼"として仕上がったッ!!
「さぁ、始めよう。」
鳴鬼は振り返り、狂犬を見据える。───喧嘩、開始ッ!
「上等ォ…!りゃあッ!!」
御堂イカズチは飛びかかって連撃を仕掛ける。殴り、蹴り、回し蹴り、タックル…しかしッ!悉く避けられる…!
「…身軽だと気分がいいな。無駄に受けてた昔が、馬鹿みてェだぜ。」
何気なく放つカウンターの拳…御堂の顎へ、クリーンヒット…ッ!!ここで初めて、狂犬はよろめきを見せる。
「!?……!?」
「おい、小手調べだろう。何驚いてんだよ。…早く続きだ。」
ぐわんぐわんする視界を、超能力で回復し…狂犬は改めて鳴鬼へと仕掛ける。
(…攻撃は受けらんねェ。今のは、奴の牽制だ…真面目に、相手の動きをよく見て…仕掛けるッ!)
「…?」
しかし、御堂イカズチは、一撃目を躱され…またしてもカウンターパンチを喰らってしまった…ッ!身体強化を、身体回復が見切る?ありえない。それは、狂犬の戦い方ではない。
「がっ、うう…う…。」
「??…??」
困惑し、目を細める明賀峯。そこにいるのは、狂犬か?狂犬の対策を全て用意したはずなのに…使わずに終わってしまう。
あの予測不能な猛攻、パッションに併せた不規則な動きこそ、御堂イカズチだろうが。御堂は喧嘩の素人ではあったが、能力者戦の玄人であった。
「別人か?」
「!?………ふざけんじゃねぇぞ。」
「結果が証明している。クローンか何かか?そういえば、千光院との喧嘩でお前、身体を一度失ってたな。その時の後遺症か。」
「…勝手に、判断すんじゃねェ!!」
「ふざけるなッ!!!!」
呆気に取られる御堂。怒りに顔を染める明賀峯。
「お前との再戦を、再びの喧嘩を望み、お前と頂点をまた争う為に騒ぎに乗ったのだ!俺は…お前に勝てるッ!そのようにし、そのように思いッ今日という決闘を夢見てきたッ!!なのにお前はッ喧嘩が好きではないではないかッッッ!!!!」
怒りに身を任せ、鬼は犬を叩く。犬は吹っ飛ぶが、その前に捕まえられ、また殴られる。何度も、何度も、何度も、何度も、怒りによる攻撃は終わらない。
「お前ッ!ふざけるなッ!!ふざッ!けるなッ!死ねッ!!死んでしまえッ!御堂イカズチはッ!殺すッ!!」
「オッ、オッ、オッ、ゲッ!?」
鳩尾に殴られすぎて、穴が空いた。再生が働くが…穴は広がっていく一方だ。失神と覚醒を繰り返しながら、御堂イカズチは思った。
(───し、しぬ?)
腹に穴が空いていて、今日食べたものがそこから出ていっている。胃液もびしゃびしゃで、血もドバドバでている。
身体は痛くて、痛くて、痛くて、動かせない。
(───死ぬ?)
命なんて、保証されてなかった。
御堂イカズチは、貧乏くじだった。
殺される。
ヒーロー?
狂犬?
最強?
ありえない。それは、過去の自分がなんとかやりくりしていたのだ。
明賀峯にも、頭を使い、根性で乗り切った。賭けて、きっと勝ったのだ。僕にはできないことだ。
僕には、できないことだ。
───エピソード.12
御堂イカズチが、戦っている。
巨体…あれは…明賀峯?
現在の進化した明賀峯とは随分違う、膨らんだ肉体だ。可動域の無さをついて、背後に回ったり、腕を掴んだりして、御堂イカズチは戦っている。爪で切り裂いても、ダメージは少ない。
…ああ、走馬灯か。
僕はもう、頑張れない。
死にたい。苦しいから、早く死にたい。こんな、いかにも明賀峯を倒すためのテクニックみたいなのを見せないでくれ。
最後くらいは、幸せな思い出で終わらせてくれ。
「お前は、勘違いしている。」
…。何を?
「奪え。」
…何を。
「奪われたなら、奪い返せ。」
…。
「俺は、ヒーローなんかじゃねェ。飢えている狂犬さ…。」
僕は……ずっと。
「俺は…ずっと。」
奪われたものを…ッ!
「奪われたものを…奪い返す為に生きてんだァッ!!」
───エピソード.13
御堂の噛みつき。それを察知して飛び退く明賀峯。明らかにその行動は、"本気"だった。
「戻ってきたな?」
目の前の敵を見る。御堂の腹の穴は完全に塞がっていた。明らかに、以前までの様子とは違う…。
「………きひひひひひひひひひひひ。」
煩わしい。狂ったように笑わないと、正気ではいられない。───奪うな。奪うな。奪うな…!!
毛が伸びる、爪が伸びる、牙が伸びる…!獣となるッ!!
「クヒヒッ…明賀峯ェ…喧嘩、しようぜ…ッ!!」
奪い返せ。全てを。
「らしくなってきたじゃねぇか…。御堂ォォォォォォーーーーーッッ!!!!」
「死ね、死ね、死ね…死ねェーーーーッッッ!!!明賀峯晴貴ィーーーッッッ!!!」
狂犬、完全復活───思い知らせろッ!!その牙でッッ!!