空想乙女レイ・ドリーマーズ!   作:海月 水母

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第一話『夢よ輝け! レイ・ドリーマーズ始まりの物語!』
その1 空を想う乙女


 

 

 

 忘れられない、景色がある。

 幼い頃にたった一度、夢みたいな経験の中で見た、夢みたいな景色。

 

 一面に広がる、薄く茜色に染まった空。

 ゆっくりと流れる雲。

 私のすぐ側を、小鳥たちが飛んでいく。

 見下ろした先には、私が住んでいる街が広がっている。

 見知った学校や公園は、おもちゃのように小さく見えて。

 そのさらに先には、まだ見たことのない街並みが、どこまでも続いている。

 

 

 そう。私はあの日ーー確かに、空を飛んでいた。

 

 自分自身が、空の一部になったみたいだった。

 空から見渡す景色は、幼い私にとって世界の全てだった風景の、そのずっとずっと先まで世界は続いているんだって教えてくれた。

 

 

 ……知らなかった。

 世界って、こんなに広いんだ。

 

 ずっと窓の外に見ていた景色が、今は手が届きそうなほど近く感じられて。

 息を飲み、目を輝かせる私を抱き抱えて。

 "その人"は、優しく微笑んでいた、気がする。

 

 

 

 

 

『もうこっちに着いてる頃か?

  アタシは仕事上がれるの夕方になりそうだ  

  色々案内してやりたかったのに、ごめんな

  m(_ _)m

 

  鍵は玄関の消火器の下に入れといたから、飛鳥が先に着いたら中で待っててくれていいぞ。

                (つばめ)  』

 

 

『分かりました!

  せっかくなので、少し町を歩いてみようと思います。

  燕さんも、お仕事頑張ってくださいね!

                飛鳥(あすか) 』

 

 

 

 入力し終えたメッセージを送信し、スマホから顔を上げると、

 

「わぷっ……」

 

 ちょうど春風が周りの草花を揺らしながら吹き抜けていった。

 苦笑しながら、乱れた前髪とずれた眼鏡を整える。少しびっくりしたけど、気持ちの良い風だ。

 3月の後半。この間までの身が縮まるような冷たい風に、今は少し春の優しさが感じられるようになってきた。

 見渡す景色にも、ところどころで桜が色づき始めているのが分かる。優しい色合いに彩られた景色が綺麗で、少し目を細める。

 朝は上着が必要かと思ってたけど、お昼になればしばらく歩いていたのもあって、パーカーを羽織っただけの今の服装でもちょうどいい気候だ。

 ……それにしても

 

「良く見えるなぁ、空」

 

 緑が坂道を作る、土手の上。

 見渡す先に広がる町は高い建物が少なく、空を遮るものがない。

 『澄空町(すみそらちょう)』、という町の名前が表す通りに、一面が澄み渡った青空だ。

 

 澄空町ーー今日から私、天知(あまち) 飛鳥(あすか)が暮らす町。

 町の名前と、この景色。二つを知っただけで私は、迷わずこの町に来たいと思った。……あの日から、空は私にとって特別な存在だから。

 ずっと狭い世界に閉じ籠っていた私を、どこまでも続く空が変えてくれた。

 私もこの空の下、広い世界の中にいるんだと、気づかせてくれた。

 

 あれから私は、眼鏡のレンズ越しに何度空を仰いだだろう。

 何度も見上げて、何度も勇気を貰い、何度も憧れて。

 もう一度、そこへ行きたいと願ってきたほどに。

 

 

 

「さてと、休憩終わりっ」

 

 ベンチから勢い良く立ち上がり、リュックを背負い直してまた歩き出せば、春風がそっと、背中を押してくれて。

 歩みはだんだん小走りになって、気付けば私は土手の上を駆け抜けていた。

 

 まだ学校の場所も分からない、知り合いもいない、初めての町。

 不安が無い、訳じゃないけれど。

 それよりも楽しみだと思う。何もかもが初めてのこれからが。

 

 青空の下、ドキドキとワクワクを抱えたままで、息を切らせて私は走る。

 意味は無い。だけど気持ちが良くて、笑みが零れる。

 

 何より、いつだって私には空がついてくれている。

 見上げれば、いつだってまた勇気を貰える。だから、大丈夫。

 

 そういう訳で、澄空町。

 今日から、よろしくお願いします!

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