マクロスΔ 自由の翼ーFREEDOMー   作:ロマンティクス

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戦場のプロローグⅢ

 時刻は17時を過ぎ、日中は燦燦と輝いていた太陽も傾き始め、青空だったシャハルシティの空は夕焼けで茜色に染まる。お昼の間には何の成果を得ることもできず、俺は再開発地区の路地裏を彷徨っている。何度かスマートフォン型の通信機を使用してフリーダムのところに戻ろうとしたけど拒否された。悲しい。

 

 せめて何をすればいいのかヒントぐらい教えてくれたってバチは当たらないと思うが、こんなところでグチグチ言ったところで仕方ない。でも本当にどうしよう。アル・シャハルで一泊する予定なんてなかったし、ホテルに泊まれるだけのお金もない。

 

「こんなところにヴァールに関する手がかりなんてないよね、意外とこういうところに何かあったりするかなんて思ったけど……」

 

 そんなベタな展開はなかった。そもそもの話、俺とフリーダムが惑星アル・シャハルに来たのはヴァールシンドロームの出現を意味するニュータイプのピキーンっていう感知音が頭の中であったから。これまで外したことなんてなかったし、惑星アル・シャハルの直ぐ近くに別の惑星があるのかもと思ったけど生物が生息できる惑星はない。消去法でこの惑星にはなるのだが。

 

「本当にどうしよう……」

 

 何も分からないまま、途方に暮れる。

 お腹も空いてきたし、再開発地区から抜けて一旦歓楽街に戻ろうと重い足取りで歩を進める。もしかしたら一生このまま放置されてしまうのではないのかという不安が過るがそれを振り払うように頭を振る。

 

「はわあああああああ!!」

 

 そんな時だった。この直ぐ近くで女の子の悲鳴が聞こえてきた。俺は反射的にその声に反応し、その声がする方へと走り出してた。もしかしたらヴァールかもしれない、いや、でもフリーダムのない俺は無力の人間だ。何か特別な戦闘技能などは持っていない。有事の際の対処はできないかもしれない。

 

「行ってみるしかないよね」

 

 自分自身にそう言い聞かせる。急いで角を曲がり、警戒しながら路地に飛び出すとそこには青い髪をした一人の少年と、二人の少女がいた。だけど、不思議なことに少年は臙脂色の髪を持つ女性に組み伏せられていた。本当に一体、どんな状況なのだろうか。

 警戒して飛び込んでみた分、予想とは違う光景に思わず力が抜ける。

 

「密航犯確保!!」

「違う!違うって!」

「じゃあ婦女暴行犯って呼ばれたい!?」

「は、はいっ!密航犯はアタシです!」

 

 少年を組み伏せている女性が苛烈な声を上げる。締め上げられた青髪の少年は腕の痛みを訴えて叫び、その横で狼狽えている少女は自らが密航犯だと自白する現場。とんでもない所に飛び込んでしまったが、俺は思わず三人の姿を見て目を見開いた。

 

 ───なぜなら。

 

 マクロスΔの主役たる主人公と二人のヒロインだったから。名前までは憶えていないが、確かにそうだ。告知PVや模型店に貼られていたポスターのセンターを飾る人物。間違いない、この場所でヴァールは発生する。その確信を確かに得た時、ふと主人公と目が合った。

 

「あっ、えっと……こ、こんにちは?」

 

「え、こ、こんにちは……じゃなくて!」

 

 咄嗟に何を話して良いのか分からず、主人公に対し手で挨拶を交わすと挨拶を返してくれたのだが、そんな状況じゃないと我に返った彼は俺に今すぐ助けてほしいと言わんばかりの目で訴えてくる。展開的にこの後解決するだろうと思い、脱出しようと思ったが上手くいかなかった。

 

「っアンタ!助けてくれよ!」

 

 立ち去ろうという選択肢は引き止められたことによって失われ、今すぐに脱出して帰りたい気持ちを抑えつつ俺は少年の元に戻り、彼を組み伏せる少女に気まずいが、五人目のワルキューレのメンバーになるであろう少女に指を指して伝える。

 

「えっと、今この女性の方が自白しました……よ?」

 

「え……え、そ、そうなんですか?」

 

「は、はいな……」

 

 臙脂色の髪の女性が気まずそうに口を開き、オレンジ色の髪の少女が申し訳なさそうに手を上げている。俺も彼女と同じ密航犯の身なので非常に気まずい。奇しくも密航犯が密航犯を教えるという状況が生まれる。内心自分も同じ密航犯であることに罪悪感を覚えつつも、自衛の為に心の中で謝罪をしておく。

 

「ハヤテはそこから落ちそうになったアタシを助けてくれただけで……」

 

 少女の指差した方を見ると、建物と建物を繋ぐ支柱があった。確かに彼女が足を滑らせたと思われる跡も薄っすらとではあるが、確認することもできる。一体どんな状況になったらあの支柱に登り、足を滑らせて落下するという状況に陥るのかは分からないが、少女は確かに青髪の少年のことをハヤテと言った。

 

 どうやら主人公の名前はハヤテと言うらしい。必要な情報かは分からないけど、覚えてはおこうと思っているとヒロイン二人による話は進んでいた。

 

「ろ、路地裏に連れ込まれて何かいかがわしいことをされそうになったわけではない……と?」

 

「いっいかがわしいこと!?」

 

 オレンジ髪の少女が声を張り上げて顔を真っ赤にして驚いている。不思議なことに、彼女の感情に反応しているのか、ハート型の髪飾りのようなものが光った。アクセサリーの類だろうか。いや、そんなことは今は関係なくて、俺としては即刻この場を立ち去りたいのだが変に姿を眩ませて怪しまれるのも嫌だし、かと言って下手な接触は身の危険を招くし、どうしようかと思っていると。

 

「……わかったらさっさと拘束を解いてほしいんだけど?」

 

 臙脂色の女性に組み伏せられた主人公ことハヤテは、勘違いによって拘束されたことに大変ご立腹な様子だった。まぁ、こんな路地裏に美少女と一緒に居て押し倒されている状況を第三者が見ればそこに至るまでの経緯は何か良からぬことに違いないと判断するのは無理もないことだとは思う。

 当事者からしてみればたまったものではないと思うけど……。

 

「あっ、し、失礼しました!」

 

 すっかり自分がハヤテのことを拘束していることが頭から抜け落ちていた少女は、ハヤテの一言で我に返り、直ぐに拘束を解いてその場で姿勢を正した。

 

「勘違いとは言え、大変申し訳ございませんでした!」

 

「はぁ……まあ、そう思われても仕方ない状況だったしな。あっ、それとアンタ、ありがとうな。おかげで誤解が解けて助かったよ」

 

「あぁ、いえ」

 

 ハヤテはバツ悪そうに頭を当てて、こうなるのも無理はないと辟易したような顔になっていた。それに俺に感謝の言葉を伝えてくれたが、何か役に立ったわけでもなく、寧ろ邪魔をしてしまったような気がして申し訳ない。何より俺も同じ密航犯である為……。

 

「なぁ、アンタ空港の警備員じゃないよな? かと言って軍属ってわけでもなさそうだ。何者なんだ?」

 

 話がひと段落ついたところで、ハヤテは姿勢を正している少女に対して問いかけた。

 

「はい、私はケイオス、ラグナ第三戦闘航空団デルタ小隊所属、ミラージュ・ファリーナ・ジーナス少尉です」

 

 ミラージュ・ファリーナ・ジーナス、デルタ小隊の人間。いや、良く見てみたら耳が少し尖っている。ゼントラーディ特有の耳。人間とのハーフだろうか、いや、そんなことはどうでもいい。彼女がデルタ小隊の人間であるならば、何度か戦場ではすれ違っているかもしれない。デルタ小隊の駆るVF-31はそれぞれパイロットのパーソナルカラーが使用されているはず。

 

 何度か彼女の髪色と同じ臙脂色のVF-31を戦場で見たことはある。それに彼女が、デルタ小隊や主人公達がこの惑星に居るということはもう数時間もしない内にここは戦場に変わるのでは?そんな不安が過る。だがオレンジ髪の少女はそんなことはつゆ知らず、憧れの人を見るような目でミラージュのことを見つめていた。

 

「苦情でしたら、弊社の広報に……」

 

「あのぉ、ひょっとしてデルタ小隊ってワルキューレと一緒に飛んどる?」

 

「えっ? そうですが……」

 

「ふわあぁぁぁ~!ゴリゴリ~!」

 

 ミラージュの答えを聞き、少女の夢見る笑顔は更にキラキラになる。心なしか本当に輝いているように見える。そんな様子を渋面で見るハヤテ。そんな中、ふと少女の名前を思い出す。確か、フレイア、フレイア・ヴィオンと言っただろうか。訛りのある話し方に特徴があり、薄っすらと記憶の中にあった。そうだ、ハヤテ、フレイヤ、ミラージュの三人だ。

 

「な、何なんですか!?」

 

「……ファンなんだと、アンタたちとワルキューレの」

 

「ふ、ファン!?」

 

「はいな!!」

 

 本当に心から好きなんだろうな。そう思わせるくらいに眩しい、満面の笑みで振り返る。あそこまで正直に好意を伝えられて少し気恥ずかしんだろうけど、ミラージュも悪い気はしていないようだ。俺もきっと、憧れの人や好きな物に熱中している時は彼女のようにはしゃいだ。

 

「……それで、貴方の方は」

 

 完全に空気になっていたと思ったのに、おずおずとこちらの様子を気にしたミラージュがこちらへ話しかけてくる。えっ、どうしよう。完全に撤退するタイミングを逃した。けど下手におどおどしていると返って怪しまれるからポーカーフェイスを心掛けないと……。

 

「僕はシャハルシティに観光しに来た者で、名前は……」

 

 そう思い、何と名乗るか悩んでしまう。だって、自分の前世の名前は思い出すことができない。かと言って咄嗟に偽名も思いつかない。名前を名乗ろうとしたことで一瞬詰まってしまい、三人に不思議そうな顔で見つめられる。これ以上はまずいと思い、思いつくままに名前を口にした。

 

「キラ、キラ・ヤマトです。観光している時に道に迷ってしまって気が付けばここに……」

 

 この世界に転生して、自分の名を名乗ったことなどなかった。惑星を転々とし、戦場から戦場へと向かう生活をしてきた。まさかハヤテ達も予想できなかっただろう。目の前に居る少年が、自分の名前を考えなければいけないほど、記憶が欠落している人間だということに。

 

 

 

 ■

 

 

 

 ───歌が聞こえる。

 

「なるほど、ヤマトさんは道に迷っていたところをこの少女の悲鳴を聞き、ここに駆け付けたということですね」

 

「な、なんかすみません……」

 

 ミラージュが状況を整理し、フレイアが自分にも少し非があるように感じてしまい、キラに対して謝罪の言葉を口にする。だが、キラには彼らの言葉よりも、この周囲一帯に響き渡る歌のようなものに意識が割かれていた。フリーダムで戦場を駆ける時みたいに背中が震える。

 

 なんだろうか、言葉では形容しがたい“ナニ”かがある。それは怒り、憎しみ、呪詛、怨嗟、負の感情にも思える。ただ、嘆き、悲しみ、祈り、祝福。善とも悪とも思えない奇妙な感覚。自分の中で処理し切れない気持ちの悪い感覚が恐ろしいと感じる。

 

「どうか、しましたか?」

 

 先ほどから全身が固まり、何も反応を示さなくなったキラを心配するようにミラージュが顔を覗き込んでくる。反応しようにも、彼女の声は何か壁のようなものを挟んでいるようにくぐもった声で少し聞こえる程度。初めて、初めて戦場で人を殺した時のような明確な恐怖と気怠さが全身を支配している。

 

「大丈夫ですか? 顔色が悪いようですが」

 

 ───この感覚、初めてじゃない。

 

「……なんだよ、これ」

 

「……頭に響く声? いや歌?」

 

 異変を察知したのはキラだけではなかった。ハヤテ、それにフレイアも同じ異変を感じている。ただ一人、それを感じることができていないミラージュは突然の出来事に困惑する様子を見せている。何とか大丈夫だと、口を開こうとした瞬間に再開発地区にも轟くほど、シャハルシティ全体にけたたましいアラートが鳴り響いた。

 

 それは敵襲、ここに住まう人々に危険を知らせる音。あぁ、嫌になるほど聞いた。ヴァールが発生した都市に絶えず鳴り止むことなく響き続ける警報。突如と鳴り響いた警報に、聞きなれない人々は一体何が起きているのかと、窓を開けて外の様子を伺い始める。

 

 そして、現実を突きつけるアナウンスが伝えらえる。

 

『ヴァール警報が発令されました。市民は直ちにシェルターへ避難してください。繰り返します───』

 

 そのアナウンス後、数分もしない内に遠方から爆音が轟いた。辺り一帯の人々の声を掻き消すように。その後の一瞬の静寂、ハヤテとフレイヤの二人は何が起きているのか分からず、戸惑っているようだが再開発地区に住まう人々の悲鳴を上げながら逃げ惑う様子を見て何が起きているのかを理解する。

 

 ミラージュは軍用の通信端末で何やら通信をしている。当然だろう、彼女はデルタ小隊の一員で、この事態を鎮静化させる為に出動しなければならない。さきほどの困惑するような表情は消え、警報が鳴って以降は軍人のように厳つい顔つきでこちらに向き直った。

 

「貴方達はすぐにシェルターに避難してください。ここは直ぐに戦場になります」

 

「え?」

 

「戦場?」

 

 あぁ、そうだ。ここはもう、戦場になる。いや、なっている。ヴァールシンドロームは感染者の自我を奪い、暴走させる奇病。更に爆音のした方角はゼントラーディ軍の駐屯地。潜入する際に基地の方角などは事前に調べてある。間違いない。モタモタしていたら───“死ぬ”

 

 ミラージュはキラ達にそれだけ告げると、踵を返して路地裏へと消えていく。デルタ小隊とワルキューレの面々と合流する為だろう。俺はこの拭い切れない不快な感覚を振り払うように頭を振って、急いでハヤテとフレイヤに声をかけて走り出す。

 

「二人とも早く安全なところにっ!!」

 

「ちょっ!? アンタは!?」

 

「とても大事な用があるから先にシェルターに!!」

 

 きっとこれは始まりで、意味のない忠告だと思いながらもハヤテに逃げるよう伝える。ハヤテがキラを呼び止めようとするが、キラは聞く耳を持たず、ミラージュが消えた方とは逆の方角へと姿を消した。今回はデルタ小隊も、ワルキューレも最初から戦場に居る。ならば、自分が今回の戦闘に介入する理由などないはずだ。だけど、逃げ出したいと思っても脳裏を突き抜けるような感覚が訴えるのだ。

 

 ───“戦わないと絶対に後悔する”

 

 何度もフラッシュバックするのだ。ヴァールによって大勢の人が死ぬ瞬間を。瓦礫の下敷きとなり、圧死する者、ミサイル攻撃によって跡形もなく死んでしまう光景を。逃げ出しても、何も変わりはしない。

 その意思に呼応するかのように砂漠の中で待機していたフリーダムは起動する。無人のコックピットに光が灯る。メインコンソールが投影され、OSが立ち上がっていく。

 

 ───GENERAL

 ───UNILATERAL

 ───NEURO-LINK

 ───DISPERSIVE

 ───AUTONOMIC

 ───MANEUVER

 ───(Complex)

 

 直訳すれば「単方向の分散型神経接続によって自律機動をおこなう汎用複合体」。今自分の力を必要としているであろう主の元に向かうべく光学迷彩を解除し、シャハルシティへの方へと行動を開始した。

 

 

 

 ■

 

 

 

 当たり前の日常はある日突然、奪われる。それは鳴り響いた警報と共に、一瞬にして瓦礫の山へと変わっていく。周囲一帯は火災によって赤く、空は黒煙の黒一色に染め上げられる。昼間のような賑やかな人の声も、子供達の笑う声も、何も聞こえない。この惨状に響き渡るのは人々の阿鼻叫喚だけだった。

 

「くそっ!! こっちだ!!」

 

「ハヤテ!!」

 

 そんな地獄の中をハヤテ・インメルマンはフレイア・ヴィオンの手を引き、懸命に走っていた。シェルターに着けば、きっとこの地獄から解放される。後は軍が何とかしてくれる。だけど、進む先にはゼントラーディ軍の攻撃が雨のように降り注ぎ、逃げ道を封鎖される。

 まるで、ここがお前の死に場所と言わんばかりに。

 

「くそったれ!!」

 

 周囲を見渡す。無事な道はもうないに等しい。瓦礫の山、攻撃に巻き込まれて瓦礫の下敷きとなった人。親とはぐれて泣き叫ぶ子供。どうすればいい?何も力を持たない自分はどうするのが正解なんだ。もし、もし自分にこの状況を打破する力が、翼があれば状況は変わるのか。

 

 この凄惨な光景が普段考えもしない、らしくないことを考えさせる。そんなこと、今考えたところで状況は何も変わらない。唯一分かっているのはこの状況で考えることを止めた奴から死ぬ。生き抜く為に考えて、考えて。どうすれば安全な場所に避難できるか。

 

 せめて一緒にいるフレイアだけでも。きっと、きっと親父ならそうする。こんな時にふとずっと話していない父親の顔が脳裏に過る。どうしてこんな時に……。そう思った時、まるで道を指し示してくれているかのように、シェルターへと続く道が一つ、見つけることが出来た。

 

「あそこだっ!!」

 

「う、うんっ!!」

 

 ハヤテに手を引かれるまま、フレイアも走り出す。息を大きく吸えば火災の煙が肺を焼くように痛い。だけど、そんな痛みを無視して駆ける。走って、走り続ける。ようやくシェルターに続く階段に着く。そう思った矢先、巨大な影が二人を覆った。

 

「マジかよっ!!」

 

 その正体はアル・シャハルのゼントラーディ軍に配備されている“一〇四式リガード”だった。バトルポッドとも呼ばれる歩兵用個人兵器は胴体から伸びる二門のビーム砲と、鳥のような長い両脚という特徴がある。この都市を守る為に配備されたはずの機体は、ヴァールシンドロームよって自我を失ったゼントラーディによって運用されている。それが意味することは───

 

「あっ、あぁ」

 

「フレイアっ!!」

 

 フレイアはあまりの恐怖に声を上げることもできなかった。ここで死ぬ。死への恐怖がフレイアの全身を硬直させた。だが、ハヤテは咄嗟の判断でリガードに補足される前にフレイアを抱き寄せ、その場から逃げようとするが、直後に降り注いだミサイルが近くの道路に着弾し、その爆風で吹き飛ばされる。

 

 不幸中の幸いと言うべきことは、ミサイルの破片や瓦礫が自分達の体に突き刺さっていないことだろうか。運が良いのか悪いのか。幸いにもリガードは破壊行動こそは続けているが、自分達は逆の方向に向かって進行している。この間にシェルターに、と思ったが、シェルターに続く道はさっきの攻撃によって封鎖された。瓦礫を退かすほどの時間も残されていない。

 

「フレイア、無事か?」

 

「う、うん」

 

 彼女の無事を確かめ、再び彼女の手を取りこの場から動き出そうとした時だ。また、フレイアが止まった。だけど、さっきとは様子が違う。死に直面したことによる恐怖ではない。寧ろ、その逆。その正体は、ハヤテにも直ぐ分かった。この凄惨な地獄に似つかわしくない、メロディーが流れ始める。

 

「おい、どうかしたのか?」

 

「虹色の、声!」

 

 答えになっていない。だが、そんなことよりもフレイアはメロディーを、いや希望を感じさせる虹色の声がする方へと視線を向ける。ハヤテもフレイアに釣られ、彼女の見ている先に目を向けると、そこには轟轟と燃え盛る戦火の中を、揺るぎない自信を感じさせる一人の女性が臆することなく進んでいる。

 

「やっと、温まってきたみたいね!」

 

 女性は、この都市でキラに声をかけた女性だった。

 その正体は───

 

「行くよ!It’s showtime!!」

 

 被っていた帽子を投げ捨てたと同時に、ブルーグリーンだった髪色が淡い紫色へと変化した。そして彼女が身に纏う衣装は光を宿し、“フォールドプロジェクター”によって淑女のような衣服から一瞬にして華やかな衣装へと変わり、コスチュームチェンジが終わると同時に高らかに告げる。

 

「歌は、神秘!!」

 

 美雲・ギンヌメール。ワルキューレのエースボーカルにしてこの地獄を終わらせることが出来る女神は、この凄惨な戦場へと踊り出た。

 

「やっぱり、美雲さんっ!!」

 

「んぐぁ!!」

 

 憧れの人物を目の当たりにしたフレイアはミラージュの非ではない、興奮を隠しきれず、ハヤテの頭を支えにして大きく身を乗り出し、羨望の眼差しを向ける。更に、彼女の登場と同時に四機の戦闘機、VF-31が編隊を組んで出現し、その機体群はスラスターより小型のドローンを射出、黒のジークフリート、VF-31Fと黄のジークフリート、VF-31Eより更に二人の人物が舞い降りる。

 

 彼女達も美雲と同様、フォールドプロジェクターによってコスチュームを変化させる。そして、地上にて潜入を続けていたメンバーと合流することで、女神は集う。

 

「歌は、愛!!」

 ───レイナ・プラウラー

「歌は、希望!!」

 ───マキナ・中島

「歌は、命!!」

 ───カナメ・バッカニア

 

「聞かせてあげる!!女神の歌を!!」

 

 女神は戦場に集い、ワルキューレの頭文字を示すWをそれぞれの指を使い、天に掲げる。それは、絶望する人々に女神を降臨したことを知らせる為に、希望を与える為に。マルチドローンがライトでライブ劇場かのように煌びやかに彼女を照らし出す。

 

『超時空ヴィーナス!!!ワルキューレ!!!』

 

 美しく神々しい。ヴァールを鎮静化させるべく彼女達は今、希望と救済を告げる女神の歌を奏でる。




今日中に間に合いました。
四話目にしてようやく名乗る主人公………
次回から戦闘描写に入ります。

戦場のプロローグは後二話ぐらいかと思います。
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