マクロスΔ 自由の翼ーFREEDOMー   作:ロマンティクス

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すみません、今回は短めになります。


戦場のプロローグⅣ

 ──歌が、戦場を満たしていく。

 

 風に乗って届く彼女達の歌声は、まるで遠くで光が瞬くかのように鋭く澄み渡り、戦場の空気を震わせていた。凄惨な地獄の底から湧き上がる絶望を一瞬で溶かし、戦場の凍り付いた時間を溶かしていく。

 

 彼女達の歌声は、ただの音ではない。生体フォールド波という時空を超える神秘の波動は、ヴァールシンドロームを発生させる原因となるフォールド細菌に干渉し、戦場に巣食う暴徒──ヴァールを鎮圧する。黒煙の上がる戦場の闇を切り裂き、燃え盛る炎を忽ち魔法のように虹色の光へと変わる。

 

 戦場は荒廃から華麗な女神達の舞台へとその姿を変える。まるで、この世の地獄に差し込む一筋の光のように、彼女達の神秘の歌声がこの絶望を洗い流していくのだ。

 

 焦土に響き渡るは悲鳴か銃声。だが、今は違う。彼女達の歌声によって上がるのは人々の希望の歓声。逃げることに疲れ切った市民達が、ヴァールシンドロームから解放された者達が、喉から振り絞り、この惑星を覆いつくさんとする希望の灯は波紋のように広がっていく。

 

「凄い!ゴリゴリ~!!」

 

 その歓声を上げる者達の中に、フレイアも居た。まさかヴァール騒動に巻き込まれ、憧れのワルキューレに、美雲・ギンヌメールの姿を見ることになるとは夢にも思っていなかっただろう。先ほどまでの絶望は消え去り、彼女の瞳には憧れの人物の姿を、その歌声を聴けることへの喜びに満ち溢れていた。

 

 そんな人々の歓声の中を美雲は駆ける。ワルキューレの衣装には戦場で生き抜く為の装備が多く搭載されている。腰回りや厚手のスカートの中には高所からの落下などに備えた“ガスジェットクラスター”と呼ばれるスラスターが搭載されており、窒素ガスを噴出することによって空中を短時間飛行したり、急な方向転換をすることができる。

 

 だが、戦場ライブの途中にそんな激しい動きを取れば歌が乱れる───はずなのだが、美雲・ギンヌメールの歌が乱れることはない。寧ろ、彼女はより大勢の人々を、ヴァールに歌を届ける為に歌いながら高所から飛び立ち、戦場を駆け巡る。

 

 戦場は彼女達、ワルキューレの色に染まっていく。マルチドローンプレートがライブ演出装置としての役割を果たす。それはホログラムを投影することでワルキューレの歌と連動し、人々を楽しませ、喜ばせる妖精のようなダンサーが戦場の夜空を彩る。人々はここが戦場であることを忘れ、ワルキューレのパフォーマンスに魅了され、彼女達から目を離すことができない。

 

「すげぇ、マジかよ」

 

 ハヤテも颯爽と戦場を駆け抜ける美雲、リガードやクァドランから攻撃を受けてもドローンで防ぎ、物怖じせずに歌い続けるワルキューレの姿を見て驚愕していた。ヴァールシンドロームを歌で鎮圧する。彼女達は幾多の戦場ライブを乗り越え、人々を救ってきたことはニュースや知人から情報は得ていたが、半ば半信半疑だった。だが、彼女達のパフォーマンスを見るとそれは事実だったのだとハヤテは知る。

 

 皆彼女の一挙手一投足に目を離せない。歌声やパフォーマンス、そして彼女が腕を空に向けて掲げ、指を差した時、その場に居た者達は彼女の動作に釣られて空を見上げる。

 

「VFっ!?」

 

 空より舞い降りたのはワルキューレを護衛するデルタ小隊。その彼らが駆るVF-31S、隊長のアラド・メルダースの駆るジークフリートであった。VF-31Sの登場と同時に美雲は再びスカートに内蔵されたスラスターを吹かせ、低空飛行とは言え高速に移動する機体の上に飛び移った。

 

 振り落とされないようにワイヤーで固定し、急速に暴走するリガードに急接近する。そして接近と同時にワイヤーを振り上げ、動作に連動するかのようにVF-31Sは戦闘機から手足が生えたようなガウォーク・ファイターから人型の全長15メートルにも達するバトロイド形態へと変形し、近接格闘用兵装、“ガーバーオーテックAK/VF-M11”、アサルトナイフを両腕のシールドより抜刀し、リガードの腕、足を華麗に切断した。

 

 何もヴァール騒動の戦場を駆け抜けるのはワルキューレだけではない。彼女達を守り、共に戦うのはVF-31を駆るデルタ小隊の面々も同じだ。眼前のリガードを無力化したことを確認したアラドは機体をガウォーク形態へと戻し、肩部に位置する美雲もリガードの無力化を確認すると同時にいつの間にか機体からまた次の激戦区へと建物や瓦礫を伝って移動をしていた。

 

(全く、とんでもない人だ。しかし、流石は美雲さんだ)

 

 戦場ライブの度に発揮される驚異的な身体能力には驚かされてばかりだが、彼女の、いや、彼女達ワルキューレの歌声はヴァールを鎮めることが出来る。これまでは無力化、やむを得ない殺しをしなくてもヴァールとなった人を正気に戻す為の唯一の方法。

 

 ワルキューレの面々が少しでも安心して歌えるようにするには、デルタ小隊である自分達が暴走するゼントラーディ軍の兵士を止めるしかない。それがワルキューレの歌を、ひいては市民の安全を確保することに繋がる。女神の歌声は戦場全体に響けばこの戦局も変わる。

 

「しかし、蒼天使はなぜ現れない……」

 

 そして、もう一つの戦局を変える要因、蒼天使───ストライクフリーダムの存在。

 

 これまではヴァールが発生すると同時に出現していたのに、この戦場においては現れない。常に先陣を切り、ヴァールの無力化と同時に姿を消す。今回はこちらが先回りして出動したから現れないのか。いや、理由としては弱すぎるとその考えを切り捨てる。

 

 今回が直接コンタクトを取れる絶好のチャンスだと考えていたのだが、予想が外れた。出現しない理由も気掛かりではあるが、今はそれよりも目の前の戦場ライブの方が優先だ。アラドは思考を切り替え、機体をガウォークから戦闘機形態、ファイターへと戻して空高く舞い上がった。

 

 

 

 ■

 

 

 

 デルタ小隊とワルキューレが戦場を駆け抜ける。そんな中、シャハルシティから少し離れた砂漠地帯にキラは居た。燃える町は少しずつ遠くなっていく。それは戦場から逃げる為ではなく、自らも戦場に行く為の、戦う為の剣を持つ為に。

 

 本心を言えば即刻逃げ出したい気分だ。昼間まで平和だった賑やかな町は人々の阿鼻叫喚の地獄絵図に様変わりしている。そんな状況を容易く生み出せてしまうヴァールシンドローム。本当に、冗談ではない。もうさっきから脳裏を突き抜ける感覚が告げているのだ。

 

 ───逃げるな、戦えと。

 

 もう分かっている。どこに逃げたって同じだ。例えフリーダムを捨てて雲隠れしたとしてもヴァール騒動に巻き込まれて死ぬか、それとも自分もヴァールとなって誰かを殺すか。どうしようもない、クソみたいな選択肢しかないのなら嫌々でも戦う以外に道はない。

 

 本来この世界に存在しないはずの自分。

 そして───

 

「ストライク、フリーダム……」

 

 本来存在しないはずのストライクフリーダムガンダム。

 自らの意思のようなものを持ち、地上でドラグーンを使える。単独でフォールド航行ができる。これだけでも俺の知っているストライクフリーダムとは大きくかけ離れていると言うのに、見た目はキラ・ヤマトが駆るストライクフリーダム弐式そのもの。

 

 戦闘の始まりを察知したのか、砂漠のど真ん中に放り出した時とは真逆。今度は自ら乗りてを迎えに俺の目の前に現れた。乗れ、そして戦え。そう言っているかのように砂煙を払って膝を折る。ただ一人の乗り手を迎え入れるその姿に、拒むという選択肢などなかった。

 

「…………」

 

 機体は何も語ることはない。ただ頭部にあるデュアルセンサーアイは妖しく光り、こちらを見据える。そこに感情はない。だけど“死にたくない、怖い、逃げたい。”そんな不安を抱える俺の自己保身から出る本心を見抜き、こう言っているように思えるのだ。“お前が戦わなければもっと死ぬ”と。今回はデルタ小隊とワルキューレが既に戦場に居る。だから大丈夫、という問題ではないのだ。

 

「言われなくても行くよ」

 

 逃げても夢見はきっと最悪だ。逃げた先に待つのは血塗られた悪夢。戦っても魘されるが……。同じ地獄でも誰かを助けた後に見る地獄を見よう。守る為に殺した、生きる為に殺した。そして力を持たぬ者は殺される。マクロス世界は歌の力で何とかなるかと思いきや、その裏で多くの人が死んでいる。悲しいくらいに。

 

 腹は括った。もう後は戦場に飛び込むだけだ。乗降用のクレーンに足を乗せ、落ちないようにしっかりと握る。そしてクレーンはゆっくりと上昇し、コックピットへと俺を誘う。フリーダムに乗り込める位置まで上昇したら迷わずにコックピットシートに背を預け、機体のコックピットがスライドして閉じた。

 

 機体のシステムは全て完全に立ち上がっている。本当に誰が作ったんだろうか……。

 

 そんなことを考えながらも、深呼吸を三度繰り返し、気持ちを落ち着かせる。右手は操縦レバーを強く握り、左手でスラスターの推力を調整するギアを一気に前に押し出す。そして背部のメインスラスターと脚部のサブスラスターとドラグーンに内蔵されたスラスターにも火が灯る。

 

「行こう……」

 

 コックピット内のモニターに水面のような波紋が広がる。きっとフリーダムが応えてくれているのだろう。寧ろ遅すぎて待ちくたびれた、とも言っていそうだ。フリーダムも気合を入れたのか、デュアルセンサーアイが再び黄色に輝く。スロットルを踏み込み、赤く燃える空へと飛翔する。

 

 戦場へと機体を進ませる。スラスターから赤き粒子と青白い光を散らしながら。そしてフリーダムが戦場に向かうと同時に、空からは禍々しい光の帯が戦場へと降りつつあった。

 

 

 

 ■

 

 

 

 メッサー・イーレフィエルトの駆る背に死神のエンブレムが描かれたVF-31Fが市街地を駆ける。機体をガウォーク形態に変形させ、市街地の、それもビルとビルの間を巧みなスラスター操作によって建物に衝突することもなく、何より前方から嵐のように放たれるビーム群を最小限の動きで回避する。

 

 距離を詰めると同時に機体をバトロイドに変形し、ゼロ距離から前腕部に装備された“ラミントンLM-25s / LM-27s” レールマシンガンでリガード、ヌージャデル・ガーの武装だけを的確に打ち抜き、リガードに関しては両膝の関節だけを破壊することで機動力を奪う。

 

「メッサー中尉!!」

 

「カナメさんは皆と合流を!!」

 

 まだ動くことの出来るヌージャデル・ガーの両腕を抑え、加速と同時に瓦礫の山へと叩き付ける。これによってヌージャデル・ガーを装着したゼントラーディ軍の兵士の意識を狩り取る。そして直ぐに近くでヴァールの攻撃を受けていたワルキューレのリーダーカナメの元へ機体を走らせ、他のメンバーと合流するように告げた。

 

「はい!!」

 

 そしてカナメもマキナとレイナ、美雲と合流する為にそのマルチドローンプレートと共に戦場を駆け抜ける。その神秘的な姿は女神のようにも見えるが、古き神話に伝わる戦乙女のようにも見えた。メッサーはカナメの離脱を確認すると同時に、三機のリガードに囲まれるが、避ける動作を取ることはなかった。

 

「これでこちらも完了か」

 

 VF-31Fを取り囲むと同時にワルキューレの歌で正気を取り戻したからだ。正気を取り戻した彼らはなぜ自分達が非常時でもないのにリガードで出撃しているのか、分からず混乱している様子だったが気にかける余裕などない。いや、その必要もないと判断したメッサーは機体をファイターへと変形して空へと上がる。

 

 その様子を遠方から確認していた竜の頭骨が描かれたVF-31Aの中でアラドはシャハルシティを覆うヴァールシンドロームが次々と鎮静化されていくことに安堵する。

 

「よし!! 歌の力が効いてきたか!!」

 

 もうすぐこの事態が収束を迎える。まだ油断はできないが、終わりの兆しが見えてきたのだ。後はゴールに向かって突っ走るだけだ。チャックのVF-31Eはワルキューレを乗せて市民に歌を届け、ミラージュのVF-31Cはその直衛に回り、ミサイルなどの攻撃が市民に及ばないように上手く迎撃している。そしてアタッカーのメッサーが歌の影響がまだ少ない場所へ遊撃することによって被害も最小限に抑えられている。

 

 部隊の連携によって突発的な戦場ライブであっても被害を都市だけに留められている。負傷者を多数、そして瓦礫に埋まった死者はまだ不明だが、その数は少ない。事前の対策と行動がこれだけの結果を出しているのは上々だろう。それをチーム一丸となってようやく出来ることを、単機でやってのけてしまう人間もこの銀河には居るようだが、と考えながら空を見上げると通信が入った。

 

「アラド少佐、緊急事態だ」

 

「緊急事態? 何があったんです?」

 

 “惑星ラグナ”より大柄のゼントラーディ、アーネスト・ジョンソンより緊急の通信が入った。アラドは惑星アル・シャハルでのヴァールシンドロームは収束の兆しを見せていることから、同じタイミングで別の惑星でも発生したのかとでも思ったが、戦火の拡大を告げる最悪の知らせであった。

 

「アンノウン数機がアル・シャハルの守備隊を突破したとの知らせがあった。現在大気圏を突入しており、突入コースを計算したところシャハルシティへと向かっているようだ」

 

「アンノウンだぁ?」

 

 アラドが空を見上げると、新たな戦火を引き起こす六つの流星を見た。ようやく終わりが見えてきたこの状況で、更に言えば守備隊、新統合軍の艦隊を突破した機体群。味方なわけがない。まさかヴァールによる被害ではなく、次はテロによる被害かと考えると迅速に対応しなければ多くの人に被害が出る。

 

 仕方あるまい。

 

「デルタ1より各機、上空より守備隊を突破したアンノウン機が接近!! これよりデルタ小隊で迎撃に当たる!! 全機、オールウェポンズフリー!!」

 

『了解!!』

「ウーラー・サー!!」

 

 アラドの号令によってデルタ小隊のVF-31が上空より飛来するアンノウン機を迎撃する為に飛翔する。メッサー、ミラージュ、チャックは機体の武装制限を解除し、接敵に備える。

 

「フォーメーション、ヘルモス!!」

 

 VF-31Sを先頭に、左翼にVF-31E、右翼にVF-31F、そして後方にVF-31Cのひし形の陣形を取る。機体群は陣形を維持したまま機体を加速させる。わずかでも情報がないか機体に登録されているデータバンクと照合するが、該当するものはない。目視で得られる情報は単発エンジンノズルに緑の塗装が施され、両翼に増設したブースターらしきものをつけていることだろうか。

 

 そしてデルタ小隊がアンノウン機と戦闘を開始する直前のことだ。

 

「隊長っ!! アンノウン以外にこの空域に接近する機影ありっ!!」

 

「次から次へとっ!!」

 

「これは……早いっ!?」

 

「一体なんだって……」

 

 レーダーが反応する方向に目を向けた瞬間、アラドは目を見開き驚愕の表情を浮かべた。アンノウン機と同時に出現したことから地上に潜んでいた敵なのか、そう思った。しかし、アラドの目に映るは眼前のアンノウン機とは全く異なる機体。三年前から出現した、謎多き蒼き天使。

 

「現れたのか、蒼天使っ!!」

 

 フォールド反応もなく、シャハルシティより離れた砂漠地帯からの出現。いつもとは違う出現に違和感を覚えたが、考える暇もなくアンノウン機と接敵し、戦闘が開始された。先陣を切るのはメッサー。そしてチャックとミラージュが各個撃破に当たろうとする。

 

 アラドも今は目の前の敵が優先だと、蒼天使から意識をアンノウン機へと向ける。同時に出現したことから関係性を疑ってしまうが、蒼天使がアンノウン機の仲間ではないことを祈って、戦場の空へと身を投じた。




キリが良かったので、区切りました。
拙い文章だったかと思いますが如何だったでしょうか。
次回も頑張りますね。

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もし良かったらよろしくお願いいたします。
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