予定通り戦場のプロローグのラストになります。
アル・シャハルの空が燃える。けたたましいほど鳴り響く銃声音。ワルキューレの歌によってヴァールシンドロームの恐怖から希望を取り戻した市民達の表情に陰りが見え始めた。それは市街地の空で激化する戦場に対する不安や恐怖。デルタ小隊が辛うじて抑えているが、市街地に被害が出るのは最早時間の問題であった。
六機のアンノウン機。今のところ母艦の存在は確認されていないが、デフォールドと同時にアル・シャハルの守備隊を瞬殺しただけのことはあり、全員が手強い。更にその中でも群を抜いている機体が一機。デルタ小隊のエース、メッサーと互角の戦いを繰り広げる機体に、その飛び方に覚えがった。
「あの飛び方は!?」
メッサーと激しい死闘を演じているのは、どうやらテロリストのエース機。アンノウン機を抑える為にミラージュやチャックのフォローに回っていたメッサーが一機の敵に対し、全力で対処しなければならない。それが意味するのはこの防衛網が突破されるのは時間の問題だと言うこと。
「ちぃ!! 甘いわっ!!」
アンノウン機の増設された両翼ブースターは単純な追加ブースターなどではなく、機体と分離することによって独立した無人兵器、ゴーストへと変わる。一機が三機へと変わり、二機の相手をしていたアラドからすれば二機が六機へと変わる。
機体から分離したゴーストは無人機だからこそ出来る、発生する引力や重力を無視したデタラメな軌道を描き、アラドのVF-31Sを責め立てるが、幾多の戦場を潜り抜けてきたアラドには通用しなかった。これまで培ってきた経験、知識がこの場での最適解をはじき出し、機体に反映させる。
ファイターからガウォークに変形と同時に急制動を掛けると同時にスラスターを逆噴射させ、機体を後方に下がらせる。そして両腕部に装備されたレールマシンガンで応戦し、迫りくる四機のゴーストの攻撃を回避し、同時に二機撃墜する。相手している二機はゴーストの扱いなどを察するにまだアンノウン機の中でも下の方か。ならば速攻で片を付ける、そう思っていた矢先のことだ。
「ぐおっ!?」
コックピット内が敵の攻撃を知らせる警告アラートを響かせ、アラドに危険を伝える。真下から別のアンノウン機が増援でVF-31Sのコックピットを目掛けて機首の両側に計2門装備したビーム機銃を放ったのだ。これで一対三だ。咄嗟の判断で機体を旋回させ、ガウォークからファイターに変形。熱核タービンエンジンを吹かせ、降り注ぐビームの雨を潜り抜ける。
別の空域を見ればミラージュ、チャックはアンノウン機をそれぞれ一機ずつ相手にしているが変則機動に翻弄され、まともな反撃も出来ずにいた。一歩間違えれば即撃墜まで持っていかれてしまう。援護に回りたくてもゴーストを含めれば一対七の不利な戦いを強いられたアラドは鳥籠に閉じ込められた鳥そのもの。
辛うじて得られる情報から指示を出すことが出来ているが、加勢に入った敵は先ほどまで相手をしていた二機と違って相当な手練れのようだ。
「くそっ!! 一機そっちに行ったぞリーダー!!」
ミラージュと交戦をしていたアンノウン機が抜けた。VF-31Cはゴースト二機の相手に手こずっている様子だ。援護に行けなくとも、せめて情報だけはとカナメに対し、敵が接近していることを知らせる。少しだけ持ってくれれば、ここを抜けて援護に回れる。
そのことを第一に考え、撃墜まで追い込めなくとも、この空域から逃げられさえすれば道を作れるはずだとアラドは考える。更に言えば、部隊の頭である自分が抜ければ戦況に大きな穴が開く。隊長とは戦闘技能以上に広い視野と如何なる状況であろうとも最適解を考えだして指示する責任があるが、それを果たせない。
焦りがアラドの思考を蝕む。敵の攻撃を潜り抜け、反撃をする中でミラージュを突破したアンノウンの方に目を向ける。風を切るほどの凄まじい速度で市街地へ進路を取り、ワルキューレに迫るアンノウン。ワルキューレにはマルチドローンプレートによる守りがあったとしても、限界はある。
小型のサポートメカがどれだけ集まろうとも戦闘機に搭載されたビーム兵器やミサイル攻撃は強力だ。直撃すれば例えドローンで防げたとしても無事で済むはずがない。アラドの不安を、もっとも避けたい事態をアンノウンは実行する。左右のエンジンブロックの上下にあるマイクロミサイルポッドをワルキューレに向けて一斉射したのだ。
「まずい!!」
デルタ小隊が誰にも救援に行けない中、彼女達の元へ急速に接近する反応が一つ。先ほどアンノウンと同時に出現した蒼天使は、背の蒼い翼を広げてワルキューレの元に向かっていた。デルタ小隊が動けない以上、後は託すしかなかった。
「頼むっ!!」
多くの戦場で見てきた。あの機体が多くの人を庇いながら戦闘するところを。やむを得ず生身の人を撃つことがあっても、それは二次被害を防ぐ為。そんな機体が戦場を混乱させるテロリストの一味であるなど考えられない。部隊の隊長としてでなく、一人の人間として信じる。
そして、アラドは一刻も早くワルキューレと市民の救援に回るべく、意識を再びアンノウンへと向けてゴーストを含めて一対七の戦況を覆すべく、死力を尽くす。
■
「みんな気を付けて!!」
アラドより敵機が防衛を突破した知らせを受けたカナメは近くに居たマキナとレイナに警戒するように告げる。それぞれライブの演出用に使用していたマルチドローンプレートを敵の攻撃を防ぐ為、防御の陣形に備え自分達だけでなく、市民の盾として展開させる。
「備えてっ!!」
アラドの知らせから数分と経たない内にミサイルの弾道はワルキューレを捉え、彼女達の頭上へと注がれる。降り注ぐミサイルの攻撃からドローンはピンポイントバリアを内蔵されたバッテリーにエネルギーがある限り展開をし続けるが、耐えきれなくなったドローンが一機、また一機破壊されていき、レイナの直ぐ傍にミサイルは着弾し、衝撃波によってその体が建物から投げ出された。
「レイレイっ!?」
マキナが反応し、咄嗟に飛び降りてレイナを抱きとめると少しでも着地時の衝撃を抑えられるようにスカート内に内蔵されたスラスターを吹かせ、受け身の体制を取る。レイナの身を案じ、少しでも彼女が傷つかないようにと頭を抱え、着地をするが二人分の重量を支え切れずに大きく体制を崩してしまう。
「マキナ、レイナっ!? きゃっ!?」
二人の身を案じるカナメだったが、彼女を守るドローンも耐久限界を迎え、爆散する。その時に生じた爆風がカナメを大きく吹き飛ばす。辛うじて意識を保った彼女もまた、残りの稼働可能なドローンに指令を下し、地面に激突する寸前のところで自身の体を受け止めさせる。
女神達が次々と倒れていく。彼女の歌声が途絶えたことにより、再びヴァールが発生する。その様子を間近で見ていたフレイアは、ハヤテの腕の中に居た。近くにミサイルが降り注ぎ、その爆風や破片から自分を守る為に、咄嗟に抱きしめてくれたのだ。
「ハヤテ!? 大丈夫かね!?」
「これぐらいどうってことねーよ。それよりも……」
「ワルキューレが……」
この状況を唯一打破できる希望の灯が、吹き消されようとしている。最後まで先頭に立ち、歌い続ける美雲も度重なるミサイルの飽和攻撃によって逃げ場を失い、ついにピンポイントバリアで受けて立つしかなくなった。その表情は遠目から見ても険しい顔つきで、余裕など見当たらなった。
「美雲さんっ!!」
フレイアの悲痛な叫び。だが彼女の叫び声は銃声によって掻き消され、美雲に届くことはなかった。また新たなミサイル群がシャハルシティ全域に迫る。その軌道は確実に美雲を捉えている。まさに絶対絶命の状況だった。助けたいのに助けられない、自分の無力さが虚しさとなってフレイアを襲う。
「冗談じゃねぇ!!」
一方のハヤテは迫るミサイル群を肉眼で確認したと同時に逃げ込める場所がないかを必死に探す。自分達にはワルキューレのような身を守る装備などはない。VFのミサイル攻撃を防げそうな場所、なんでも良い。直ぐに逃げ込める場所はないか必死に探すが、どこを見ても瓦礫の山。逃げられそうな場所など何処にも見当たらなかった。
詰みだ。運よくミサイルが逸れて明後日の方向にでも飛んでいかない限り、自分とフレイアはミサイル攻撃に巻き込まれて死ぬ。直撃は免れても爆風や破片での重症は免れないか。刻一刻と迫る絶望を前に、ハヤテは苦虫を嚙み潰したよう表情を浮かべる。どうしようもない、この状況に対して。
誰もが諦めてしまうような状況で、毅然と振舞い続ける者も居た。ワルキューレのエースボーカル、美雲・ギンヌメールだ。依然と険しい表情は変わらないが、この状況を覆すことが出来ると謎の確証があった。根拠などない、自分らしくもないが勘と言ってもいい。
───来るわね。
大きな影が美雲を覆う。その影はどんどんと美雲に近付いている。その存在にハヤテ達も気が付く。空高くから舞い降りる背に蒼い翼を持った機体を。凄まじい速度で急降下しているが、間に合うかどうか分からない。刹那、彼女にミサイルが直撃するタイミングと同時にその蒼は舞い降りた。
ミサイルの直撃によって激しい爆発音と共に黒煙が立ち込める。周囲一帯は黒煙で何も見えない。そんな中、瓦礫の隙間に生じた空間に隠れることによって生き延びたハヤテとフレイアは急いで逃げ出そうとするが、フレイアはミサイルが直撃した方へと視線を向ける。
「美雲さん……」
一体どうなったのだろうか。雷鳴のような爆音、それが消えたと同時にここが戦場であることを忘れさせるような一瞬の静寂が訪れた。そして黒煙が晴れると同時に、空気が変わった。その光景を目の当たりにしたハヤテとフレイアの二人。いや、二人だけじゃない。その巨大な背に守られた女神もまた、驚愕の表情を浮かべた。
両腕のガントレットから発生している青白い光のシールドと機体の装甲で全てのミサイルを受け止め、無数のミサイルの爆炎を押し返す影。彼女を守るかのように舞い降りた存在の、その姿を、知っている。数多の戦場に出現してはヴァールを無力化させ、時には非情な判断も厭わず、多くの人々を救う為に奔走するその天使を。
「蒼、天使……」
機体を浮遊させ、美雲の呼びかけに応えるように背にある翼を大きく広げた。その光景は、女神の元に天使が舞い降りたかのように神秘的であった。
混沌の戦場に今、蒼き天使が女神の元へ降臨した。
■
いつもより戦闘が激しい。明らかにヴァールシンドロームではなく、テロリストが戦場を混乱させている。どちらかと言えばヴァールはデルタ小隊とワルキューレの活躍によって鎮静化しつつあったようだが、テロリストの攻撃によって歌は中断され、再びヴァールシンドロームが発生しようとしている。
あの所属不明機の形状を察するに“SV”シリーズだろうか。機体の名称までは思い出せないけど、これはテロリストではなく、敵軍の機体だ。中途半端に記憶が残っているから、つい考えてしまうが思い出せないものは仕方がない。それに生身の人間に対して平然と攻撃をする。
「生身の人間にミサイルって、どういう神経してるんだ……」
機体を加速させて両腕部のガントレットに装備された“MMI-X2200 エグレージュビームシールド”を展開して美雲との間に割り込んで全て受け止める。機体の状態を確認するが、損傷などは無し。フリーダムのセンサーは敵機体の位置を的確に押さえている。
ヴァールの次は戦争しろってか。そうだ、原作主人公と邂逅した時点で気が付くべきだった。まだハヤテとフレイアもケイオスに所属していない、互いに初めて出会ってそんなに経っていないはず。直ぐにここが戦場になるとは気が付いたけど、戦争勃発とまでは考えが至らなかった。
「歌が止まってヴァールは再発する状態。敵の攻撃のせいでワルキューレは態勢を大きく崩された……」
なら狙うはテロリスト一択。機体が必要な情報を伝えてくれる。現在確認できるテロリストの位置、武装類など適切な情報を瞬時に把握し、まずは一機フリーの状態で動いている敵を叩く。ドラグーンのように独立して動く兵器、ゴーストも確認することが出来るが二機か。
初めての交戦にはなるが、大丈夫なはずだ。ドラグーンでどれだけ対抗できるかは分からないが、最悪ヴォアチュール・リュミエールで加速したフリーダムで直接叩けばいい。理性を持った人間を相手にするのは不安だが、不思議なことに操縦レバーを握る手に震えはなかった。もう戦っていることが当たり前なのか、慣れてしまったのか。もしそうだとしたら泣けるな。
背部のメインスラスターを吹かせ、大空に駆け上がると同時に八基のドラグーンを展開する。二基のドラグーンはゴーストに当て、残りの六基は敵機体を取り囲むようにビームを照射する。ヴァールみたいに一撃で倒されてくれれば御の字なのだが、そんな簡単に撃墜できるはずもなかった。
ドラグーンに攻撃されるや否や、敵機体は迎撃の為に怒涛のようにミサイルを吐き出し、回避運動を始める。機体のエンジンノズルが火を噴き、機体を前方へ宙返りさせながらビームの光が織りなす光の網、その隙間を搔い潜って市街地から上空へと離脱する。
戦闘機だからこそ出来る、小回りの利く見事な回避運動。これまでは暴走したヴァールの駆るVF-171との戦闘が殆どだった為、棒立ちの的に等しかったがここまで差があるものなのかと思わず舌を巻く。それに機動力も桁違いに速い。あれがこの時代における最新鋭の機体、なのだろうか。
「だけど、ドラグーンも意外にやれてるな……」
一体どこまで対抗できるのか、そもそもフリーダムも見た目だけで性能は圧倒的に向こうの方が上、ということも考えられたのだが、ゴーストと撃ち合えるドラグーンのおかげで対抗は出来そうだと安心する。もし一方的に撃ち落されでもしたら目も当てられない。
ゴーストとドラグーン。互いに無人戦闘機と遠隔機動の兵装は役割が似ているようで全く異なる。兵器としての思想も異なるはずなのに、パイロットの指示に従って互いが互いを破壊しようと真空の空を抉るようなビームが交差し、ドラグーンとゴーストは絡み合う双龍の如く、螺旋軌道を描きながら交戦を続ける。
ドラグーンの方が小型な分、定期的に推進剤やエネルギーを補給しなければいけない頻度は高い。その点もゴーストに競り負けるかと思ったが今のところは互角。正直少し時間稼げればいいなぁ程度に使った分驚きである。ゴーストは無人機として人工知能を搭載し、機械的限界まで運動性能を追求した機体だ。文字通り機械的な動きを最小限のエネルギーで行い最大の成果を生み出す化け物なのだが……。
「どれだけ改造されているんだお前は……」
それに対して対抗が出来ている。いや、ストライクフリーダムは好きだ。だが、敢えて言おう。技術体系では地球圏で戦争をしているガンダムシリーズより、銀河に大きく活動圏を広げ、星間文明を築き上げているマクロスシリーズの方が上だと思っている。
同じ実弾兵器、ビーム兵器であってもバジュラのような地球外生命体と交戦だって出来るし、プロトカルチャーというこの世界の技術の基盤と言っても過言ではない存在は規格外の遺産を遺しているし。作品が違う時点で比べること自体ナンセンスだが、今の俺にとっては現実だ。争いが起きるような論争であったとしても許してほしいのだが……。
「でも本当に助かる!!」
今乗っているフリーダムはこの世界の兵器に対抗できる。それは戦場で生き抜く上で重要なファクターの一つ。それが分かっただけでもありがたいと思う反面、戦場で出て来させるなとも思うが。そしてドラグーンとゴーストは互いに交戦を続け、遂にドラグーンがゴーストを一基落とし、そしてフリーになったもう一基が残りのゴーストを挟み込み、撃墜に成功する。
それに続くかのように機体の機動力がヴォアチュール・リュミエールによって最大速度を叩き出せるフリーダムは、未だ六基のドラグーンの猛攻を凌ぐテロリストへの機体へと急速に接近し、機体の腹部に装備された高出力ビーム砲、“トヴァシュトリ超高インパルス砲”を敵機のエンジン部へ目掛けて放つ。
しかし、空を抉るかのように放たれた赤い閃光は敵機に直撃することはなく、華麗に躱されてしまうがフリーダムは相手が逃げるであろう場所に先回りをしていた。信じていたのだ。これだけの機動をやってのけるパイロットであれば、このような大技を撃てば必ず回避してくれると。
ドラグーンの攻撃も直撃を狙ったものではなく、敢えて行ってほしくない方向へ行かせないようにする為の囮。本命は超至近距離にから抜刀されるビームサーベルによる一撃。既に接近と同時に左手は腰部のビームサーベルの柄を握っており、すれ違い様に抜刀されたそれは光の一閃となる。
「パイロットはっ!?」
狙い通り、振るわれたビームサーベルは敵機の翼からスラスターにかけて紙のように溶断し、機体を撃墜するに至る。殺してしまわないよう、コックピットは外したが、振り返りパイロットの安否を確認する。軍人であれば、敵を撃てる時に撃てと怒号が飛んで来るだろうが、自分は軍人ではない。
幸いにも、パイロットはコックピットシートと一緒に脱出に成功。味方機が回収して空へと上がっていく。その様子を見届け、戦況を再度確認。市街地の方を確認すれば、ワルキューレのライブは再開している。残りはデルタ小隊と交戦中のアンノウンだろう。
だが今は彼らの救援よりも地上のヴァール無力化が優先だろう。幸いにも敵は撃墜した一機とパイロットを回収した機体を除けば四機。それぞれがデルタ小隊と対抗している。なら戦闘は任せ、ワルキューレを援護し、ヴァールを鎮静化させた後にでも無力化すればいい。
全てのドラグーンを呼び戻し、市街地へと機体を向かわせる。
■
美雲・ギンヌメールは戸惑っていた。
ワルキューレとして如何なる状況であろうとも迷わず歌い続ける彼女は、自分の命を救い、そして市民を救う為に戦う目の前の存在に言葉にし難い、感じたこともない感覚に戸惑っている。
覚えのない記憶の中で一瞬だけ姿を見せた蒼天使。光の刃を二本携え、次々と暴走するヴァールの戦闘力を奪っていく。なるべく中に乗っているであろうゼントラーディを傷付けぬようにと、リガードの脚部、ヌージャデル・ガーは武装だけを切り払う。
これまではデータだけで観ていた。だけど、直接見る彼の戦闘は悲しい音色が聞こえる。そしてその音は、昼間にあった少年と全く同じもの。美雲の中であの機体の中に誰が乗っているのか、それが誰なのかが確信に変わる。だけど、それは彼女が戸惑う理由にはならない。
だから聞かねばならない。貴方が何者であるかを、どうして覚えのない景色の中に、貴方は居たのかを。興味すら持とうとしなかった、三年以上前の記憶。歌えれば良かったのに、今となってそれが気になる。いや、気にさせる存在に強い興味と感心を抱いている。
そんな中───心が震える。
「この声!?」
「胸がチクチク!!」
「アクティブ反応っ!? 私達以外に!?」
どうやらカナメ、マキナやレイナ達も感じたようだ。この戦場の中でも銀河に歌を響かせようとする風の音を。その音はワルキューレの歌声に負け劣らず、戦場の中で掻き消されることはない明るい音。今日は驚かされてばかりだとつくづく実感する。だけど、不思議とこういうのも悪くない。
ただ一つ、胸の中で何かが引っかかっている。その理由は分からず、だけど胸がざわつく。それは再び蒼天使に目を向けた時のことだ。ワルキューレの周囲のヴァールは完全に鎮静したことを確認するや否や、風の音がする方へと駆け寄り、ヴァールの攻撃から逃げるVF-171の援護に回っていた。
「なに、この感覚は……」
右手のサーベルがリガードの足を切り払い、振り向き様に右腰部のレールガンだけを前方に展開して砲門を撃ち抜き、破壊。目にも止まらぬ怒涛の速さでヴァールを切り倒していく姿は戦闘に関して知識がなくとも、並大抵の技量では実践することなど不可能に近い技術だと分かる。
だけど、それ以上にワルキューレ全員に感じさせるほどの強い歌を響かせる、彼女とそれを守るVF-171のパイロットが傷つかないよう立ち回る蒼天使の姿にモヤっとしたのだ。
そして美雲の胸の中に渦巻く感情が何なのか、その答えを見出すことはできないまま、戦いは突然終わりを告げる。それはヴァールが完全に鎮静化すると共に、上空より飛来したアンノウンが撤退行動を始めたからだ。目的も分からず、自分達ワルキューレを襲撃した謎の戦闘部隊。
───戦いは、いけないボーダーラインと共に終わったのだ。
そして美雲はゆっくりと地上へ降下する蒼天使の元へと駆ける。蒼天使は戦闘が終わると共にフォールドして戦闘空域から離脱するのだ。次現れるのはまた次の戦場。これまでもデルタ小隊やワルキューレが戦場に到着すると同時にその姿を眩ませていた。
───逃がさない。
好機なことに蒼天使は損傷したVF-171を抱えてゆっくりと降下している。接触するチャンスは今だと、美雲は蒼天使が地上に着陸したと同時に胸部のコックピットらしき胸部装甲の上に飛び乗った。
「今度は貴方の言葉で感想を聞かせてもらえるかしら?」
この時、美雲は知る由もなかった。蒼天使、いや、フリーダムのコックピットの中でとんでもない跳躍力でフリーダムのコックピットに飛び乗ってきた彼女の身体能力の高さと───乗り移られたことによって逃げることが出来なくなったこの状況に震えていることを。
(えっ、はぁ!? やばい……強引に振り落とせない、詰んだ!?)
頭を抱えて叫んでいることを。
次回から覚悟のオーディション編になります。
ちょっと投稿のペースは落ちますが、頑張りますので
感想や評価を頂けると嬉しいです。
よろしくお願いいたします。