一般通過冒険者が知り合い達に狙われる話 作:一般通過冒険者
吾輩は冒険者である、まだ苗字は無い
今吾輩はベリス商会の商隊の護衛として馬車の荷台に乗り込んでいる。
商隊の護衛の依頼とは中々稼ぎの良い仕事である。
まぁトラブルが起きなければの話だが……。
吾輩は知っている
商隊の護衛をすると云うことは面倒事に巻き込まれると云う事を。
出来ればこの依頼を断りたかったが大恩あるベリス殿のご指名ともなれば断るのは漢が廃るというモノ。
そんなこんなしていると吾輩の馬車の中に1人の初老の男が幕を上げて入ってくるや否や言う
「モーゼン殿、此度依頼を受けて下さり感謝申し上げます」
吾輩の様な下賤な生まれのモノにも頭を下げるこの人はベリス殿の孫娘エリカ嬢の教育係のシード・ホーガルド殿だ。
名から分かるが元騎士らしい。吾輩もいつの日か苗字を名乗って見たいモノだ。
いえいえ此方も暫し身体を動かしていなかったものでそろそろリハビリしようと思っていた所、まさに渡りに船!此方こそ感謝致します
「そう言って下さると幸いです」
まぁ実際今回商隊が通るのは南方の戦から逃れてきた民が盗賊と化し居着く地域、護衛無しで通るのは厳しいだろう。
事情に加えこのご時世中々護衛も見つからなかったのだろう、吾輩の様な傭兵くずれに依頼する程切羽詰まっておるのだろうな
このご時世商隊が運ぶ物品はまさに宝の山、盗賊や不届き者共からして見れば唾涎モノだろう
「失礼致しますモーゼン殿」
吾輩が暇そうに得物の柄で手慰めしていると礼儀正しく挨拶をして1人の女性が入って来る。
これはエリカ殿大きくなられましたな
「お陰様で」
エリカと呼ばれた女性は行儀良く会釈する
うんむ……やはり美しい女性だ 頭からつま先まで至る末端まで高貴なオーラで満ちている。
「重ね重ねとなりますが此度の商隊の護衛を受けて下さりベリス商会を代表して感謝申し上げます」
頭を上げて下され嬢に頭を下げさせたとベリス殿に知られれば吾輩のクビが飛びます
「その時はお父様の首を先に刎ねますのでご安心下さい」
ハッハッハ!エリカ嬢ジョークのセンスも磨かれましたな
「…?いえ、ジョークではありませんが…?」
え?
「はい?」
吾輩の言葉にエリカ嬢は不思議そうに首をこてんと傾げる
…………ホーガルド殿?
吾輩がそうホーガルド殿にアイコンタクトを送るがホーガルド殿は何処か苦笑している
苦笑していないで何か言って欲しいモノだ
「モーゼン殿?如何されました?」
いえ、目的地に着いたら何をしようかと少し考え事を
「そうでしたか!もし良ければお食事致しませんか?」
エリカ嬢の提案を吾輩は出来る限り優しく断る
ベリス殿にエリカ嬢と食事をしたのだとバレた暁には本当に打ち首獄門にされかねない
「ご予定があられましたか…」
しょぼんとするエリカ嬢を見ると胸が痛むが耐えるしか無い
また機会があればご一緒させて頂きたい
「!それは勿論!」
吾輩がそう言うと瞬く間に元気を取り戻す
愛らしいお方だベリス殿が溺愛してしまうのも無理は無い
…嫌な気配が…エリカ嬢失礼!
「きゃ!?」
次の瞬間馬車の天幕を突き破って飛んできた矢を手甲で弾きエリカ嬢を胸に引き寄せる。
商隊を囲む様に何かが展開している、十中八九盗賊共だろう
やはり商隊の護衛は碌な事が起きない、しかし依頼を受けたからには最低でも死人を出す訳には行かない
やれる事はやる、それが吾輩のモットーである。
◆◆◆
昔から英雄になりたかった。
子供の頃から英雄の物語ばかりを読み、友達と勇者ごっこばかりをしていた。
俺は生まれてこの方ずっと街の中で過ごしてきた。
だが俺は今日この街ダンカルクを商隊と共に出る。
隣街の伯父さんの養子になるからだ。
俺が街を出る日両親と幼馴染や知り合い達が見送りに来てくれた。
嬉しかった早く大人になって冒険者になって英雄になるんだ!
街を出た時、俺は世界に圧倒された。
物語の中でしか知らなかった動物達
見たことの無い程大きな川や山
何処までも蒼く広い空
それら全てが俺を圧倒した。
「どう?世界って広いでしょ?」
俺の乗っている馬車の護衛の女性の冒険者が言う
俺は上手く返事を返せなかった、年上のお姉さんに少しドギマギしてしまったからだ。
そして俺は人の悪意を知った。
商隊が盗賊の襲撃に遭い馬車が横転した、頭を打ったせいか視界が揺れていた
「ぁ゙?何だ餓鬼か丁度いい」
馬車から這いずり出てきた俺を見た盗賊が薄汚い笑みを浮かべて俺の顔を掴んで言った
「人質だ!動いたらこの餓鬼を殺すぞ!」
どうやら盗賊は護衛のお姉さんと戦っていた様だった
「卑怯ね!」
「それは俺にとっちゃぁ褒め言葉だ、さっさと武器を捨てて両手を上げて膝をつけ!早くしねぇと餓鬼を殺すぞ!」
男がそう叫ぶとお姉さんが悔しそうに武器を離した
それを見た男はいやらしい目付きでお姉さんを見ま
「お前には仲間を大勢殺されたかなぁ!オラっ!」
「ぐぅっっ!」
お姉さんに近づきお姉さんの腹を蹴った
俺を投げ捨ててお姉さんに馬乗りになって殴り続けた
怖かった 人が 俺が
物語では教えてくれなかった、人を襲う人が居るなんて
知らなければ良かった、人を殴って笑う人が居るなんて
あの男がお姉さんの服を破く音とお姉さんの叫び声が耳に入った
でも俺の身体は動かなかった
俺は英雄にはなれない、誰かを助けるどころかお姉さんの迷惑になってしまった。
気持ち悪かった 力のない俺が 無知な俺が
そんな時、彼は来た
返り血に寄って朱く染まった鎧、表情の分からない鉄兜を被った戦士が人の脂の付いた戦斧を振るう
鈍い鈍鉄の何処までの鋭く重く疾い一撃が朱の華を盗賊に咲かした
そこで俺の意識は途絶えて気が付けば隣街に着いていた
あまり昔の事は覚えていないがでも一つだけ確かな事がある。
俺はあの日、英雄を見た