砂塵のアルファ~死にたがりおっさんパイロットの俺が、世界の危機を救うまで~ 作:KIWIさん
0話「海戦-護送戦艦襲撃-」
星も、月も、一切見えない暗闇に。
波間を駆ける巨大な影が3つ。
『02:00。敵影なし。航行続行』
全長160m。広い海に在っても限りなく巨大な『弩級戦艦』三隻が足並みを揃え、西へと向かっている。
船体から漏れ出る灯りでは周囲を照らすには足りず、一寸先さえ見えない暗闇の中で、
波を割く音と、エネルギージェネレーターの駆動音のみが響いていた。
「……ソナーにも反応なし。平和なもんだね。くぁ……」
一団の先頭。旗艦内部の戦闘情報センターにて。
船員の一人が欠伸交じりにそうぼやくと、即座にその頭に手刀が振り下ろされた。
「ってェ!?」
「莫迦者。ソナーマンが気を抜くんじゃない!」
「艦長ぉ……!!脅かさんといてくださいよォ。余計に集中力が切れちまう」
船員の気の抜けた返事に、再度、手刀が炸裂した。
「護送任務は索敵が生命線だ大莫迦者。貴様一人海の藻屑で済むならまだしも、全員をダイビングに引き込む気か?」
「いちち……はいはい……やりますよ」
船員が再度、ソナーマップへ視線を落とした刹那であった。
鼓膜をつんざくような轟音と共に、ソナーマップの左後方が赤く染まった。
「──────!?艦長、二番艦が!!」
音の正体は、船団うち一隻が爆沈した音であった。
暗い闇の中で、炎上する船から逃れんと数人の船員が飛び降りる姿が確認できる。
そして、爆発によって半分に折れた甲板に足を置き、残りの二隻へと顔を向けている八mそこらの黒鉄色の人型が、するりと夜の闇に溶けて消えて行った。
艦長はすぐに船団無線を開き、無線機に向けて張り裂けるような声を吹き込む。
『──────襲撃者アリ!!襲撃者は"タクティレイヴ"一機を確認!!各員戦闘配備!!』
────タクティレイヴ。
旧時代に発明された有人人型陸戦兵器群の総称である。
全身を覆うセンサ・装甲類・消費弾薬などによる高い維持コスト、
高精度の操作を要求するが為の高い育成コストを支払う必要があるが、
人型が故に活動場所の制限が殆ど無く、兵装の選択肢も多岐に渡る上、
多くの兵器に対して体系化された対応策を取れる為、高いコストパフォーマンスを持ち、
国家解体戦争以来世界各国の戦場で猛威を振るい続けている。
「おいジャック……!どうして気が付かなかった!!」
「分かりません!レーダーにもソナーにも反応が無く…………!」
ジャック、と呼ばれた船員は気付く。
目視でタクティレイヴの存在を確認出来たというのに
"今になってもレーダーには反応がない"という事実に。
「……まさか……最初から……レーダーに誤情報を流して……?」
敵機体の紅いブースター噴射炎が、宵闇の中空に弧を描く。
奇襲時の混乱の内に、決着をつけんとする動き。
『──────敵は一機だ!!旗艦三番艦両艦、一斉掃射用意!!』
タクティレイヴに対して、戦艦が取る対応策は、基本的には一つ。
タクティレイヴの兵装では攻撃が届かない遠距離からの、絨毯射撃による飽和攻撃である。
中量兵器であるタクティレイヴは、回避能力と装甲のカスタマイズ性に大きく優れるものの、
弩級戦艦が有する砲撃・射撃に耐えられる耐久性を持たない。
飽和攻撃の内の砲弾数発が命中すれば、あるいは、基幹部位に機銃の弾が一発でも当たれば、タクティレイヴは墜とせる。
国家解体戦争以前の戦艦であれば、対航空機・対戦艦と言った、
タクティレイヴに比べ小回りの効かない相手を想定した兵装しか積んでおらず、この戦術を取ることは出来なかっただろう。
『最新式を舐めるな……!!』
中空を駆けるタクティレイヴに向けて、全八十六門の砲門と銃口が向けられる。
即応した敵機の後の先を取った機銃掃射により、砲台数門が爆破されるが、致死に一切の影響なし。
『交互掃射、撃てェ!!!!』
第一波。機銃掃射と16センチ砲弾の
砲弾は高機動ブースターによる空中機動で回避。機銃掃射は追従し、数発命中。
カーボン繊維と鉄のぶつかる鈍い重低音が、掃射の音に搔き消される。然し敵機、健在。
ブースターの軌跡が、ジグザグに、されど確実に三番艦へと接近していく。
被害の少ない攻撃を受けるリスクを許容し、より危険な一撃への回避を徹底するダメージの組み立て。
攻撃『され慣れている』者……熟練のパイロット特有のマニューバである。
しかし、第二波。明確に敵機を補足したセンサ類が、より精度の高い予測射撃を繰り出し始める。
高機動ブースターを使ったならば、その移動先では急停止が不能となる。
移動角の候補を絞り込み、その先へと砲弾を叩き込む不可避の連撃。
敵タクティレイヴの機動を、少しずつ砲弾が掠め始める。
鉄と鉄が擦れ合う音。すんでのところで雷管が起爆しないギリギリ。
毛髪一本さえ挟めない回避をしたタクティレイヴへと正確に、第三波の一射が撃ち込まれる。
『16センチ砲命中確認!敵機撃つ──────』
『まだだ!!射撃を続けろ!!』
撃墜確認を急ぐ部下を諫め、艦長は叫ぶ。
敵を熟練と見定めたためだ。射撃には相応のコストがかかる。然し、そのコストを惜しんで良い相手ではないと確信したが故だ。
確認出来た兵装は二番艦を潰した兵装と、砲門を潰した機銃のみ。
タクティレイヴの武装は多岐に渡るが、一機のエネルギージェネレーターが賄えるのは平均4~6個。
それもエネルギージェネレーターへの負担が少ない実弾機銃を用いているところから、当然『積んでいる』と判断した。
センサ類が、爆炎によって敵機を見失った刹那を突き、飛び出した敵タクティレイヴの周囲には、その判断を裏付けるかのように球系の蒼白い膜が形成されていた。
ジェネレーターの内部エネルギーを使い果たす高エネルギー兵装。グラン=セレスタ製電磁バリアユニット。"AB-Φ テレゾーンフィールド"
一度限りの使い捨てで三秒。実弾兵装も通さない電磁バリアを形成する兵装である。
使い切ったのちに、五~六秒ブースターを扱えないクールダウンが発生する為、正式軍では扱いにくいとして採用されていないが、
独立して活動する"独立傭兵"には、稀に採用するものも居る。
敵タクティレイヴのブースター炎は途切れるが、先の上昇はこの為か。
三番艦へ接近する慣性と重力加速度を利用し、ブースターが切れてなお、黒鉄の悪魔は加速を続け、そして──────
左腕に積まれた槍──────リバティ・ノード系列企業カリバス・マキナ社製パイルバンカー"BPX-4 ジャッジメント"を、戦艦のブリッジ……指揮系統へと突き刺した。
通称"審判槍"。直径14㎝の杭をそのまま40㎝鉄板を用意に貫かせる磁気射出機構と、もう一つ。
『艦ちょ──────』
"撃ち込まれた杭が自動的に爆発する"と言う、人道から外れた破壊能力が評価されている兵器である。
再びの、轟音。
先ほどまで無線を通して会話していた船員の総てが、確認するまでも無く全滅する音。
機器の管制系統・制御系統を担う部位の致命的な欠損。喪失。
制御を喪った砲台らの自動装填機構が誤動作を起こし、船体の各所で爆発が発生する。
「か、艦長……三番艦が……俺、俺が……レーダーの異常に気付かなかったせいで……」
ソナーマン、ジャックは狼狽える。
対タクティレイヴの訓練はしてきたはずだった。
しかしどうだ。今の状況は。
墜とせるはずだった機体に接近を許し、護送艦二隻が墜とされた。
平常通り、セオリー通りに戦闘を行えていたならば負ける相手では無かった。
目が震える。口が渇く。
身近な仲間の死が、鼓動を早めて呼吸を浅くする。
「俺の、俺のせいで………ッ!!!!!!」
「ジャック」
手刀が、ジャックの頭に振り下ろされた。
唐突な痛みに動揺し、ジャックの思考に、隙間が出来る。
艦長はその間に艦内放送へ、言葉を吹き込んだ。
『艦長オリバー・キングより艦内に伝達。総員。船外へ避難せよ。繰り返す。総員。船外へ避難せよ』
「か、艦長……!?」
受話器を置き、艦長はジャックへ向けて、言葉を続けた。
「お前は逃げろ。ジャック。あのタクティレイヴの相手は私一人でする。泥船に最後まで付き添う必要はない」
「艦長!!なんで……!!」
「奴が三番艦の燃料タンクを潰さなかったのは、艦内に残った船員を盾に、槍の再装填とブースターの冷却を終える為だ。冷却を終えても距離600m。十分生きて逃げる時間はある」
「そうじゃない!!あなたが残るなら俺も戦う!!この状況は俺のせいじゃないか!!」
ジャックは、艦長へと掴みかかり、感情の儘に叫ぶ。
艦長オリバーはそれに対して、あくまで冷静に、諭すように言葉を返す。
「ジャック。お前はまだ若い。今回は敵が上手だったというだけだ、次気付ければ、それでいい」
「でも……!!」
「あれは、敵機は、旧公国のタクティレイヴの改修機だ。パイロットは十中八九解体戦争の生き残りだろう」
「……何の話ですか?」
「あれは、私の過去から来た"責任"だ。大量の人間を海に沈めた、私のような人間へ下された審判なのだ」
艦長は、ジャックを突き放し、
倒れたジャックに戦闘情報センター……ブリッジの出口を指示した。
「行け。ジャック。お前が責任を感じるならば、いつか必ず審判が来る。戦場とはそういう場所だ」
「……!!」
「だから、その日まで生きろ。行け」
ジャックは駆け出した。
一人でも多くの船員を拾い上げる為、只急いだ。
甲板では既に緊急用のボートが降ろされ、乗員の受け入れ準備を完了しようとしている。
その様を見下ろし、艦長は微笑んだ。
その笑みは、生き残ろうとする船員へ向けてではない。
未だ三番艦の影から姿を現さない敵機へ、である。
「……馬鹿な兵だ。敵に情けを掛けているのか?」
ジャックがボートへと乗り込んだのを見届けた後、艦長は機器管制制御を司るキースイッチを、自分一人が操作する為にぱちぱちと切り替えて行く。
もしブリッジを落とされたとしても、砲台側の判断で砲撃を行うことが出来るように、だ。
艦長は最後にパチ、とオープン回線を開いて、敵機へと語り掛ける。
『此方は護送戦艦"オールド・プロミス"艦長オリバー・キング。そちらの名を聞こう。生き残り』
しばらくの間を置いて、低く、渇いた男の声が返って来る。
『……その声。生き残りはあんたもだろ?チーム"
『やはり独立傭兵か、目的は?』
『アンタらが運んでるパーツに用があるんだ。深海で錆びさせとけとな。アンタと同じく、飯を食ってく為にやってることだ。恨んでくれるなよ』
『そちらこそ。死んでも恨むなよ。野良犬』
互いの渇いた笑いが、ネットワークを交叉した。
──────刹那。三番艦の影より、黒鉄色の亡霊が紅い軌跡を伴って飛び出した。
隠れるものの無い海上。交戦開始距離六百m。高機動ブースターを用いれば、回避による迂回含め十数秒の距離である。
近付かれれば負け。近付かれる前に撃ち落とせば勝ち。
残る砲塔・銃口計四十門を敵機へと向け、飽和射撃を再開する。
敵機は中空へと飛び上がり、未だ形が残る三番艦を盾にするでもなく、三次元的な回避を試みるつもりのようだ。
展開は変わらない。
砲弾による一撃だけは決して受けないように回避行動を続け、機銃の銃弾は無理に避け切ることをしない。
更に三番艦が潰され、交叉射撃を行えていた先ほどから状況は不利に傾いている。
オールド・プロミスの演算による予測射撃も、一隻だけでは敵機の動きを補足しきることが出来ないのだ。
四百、三百。少しずつ距離は縮まっていき、
機銃でさえも高速で動き続ける敵機を捉えることが出来ていない。
ただ、誤差の修正は早い。機銃掃射の射角に敵機を捉えるタイミングは確実に増えている。
しかし、間に合わない。
誤差の修正よりも先に、亡霊の槍は古兵の頭蓋を貫くだろう。
最後のチャンス。射角がタクティレイヴを捉えた。
ブースターの起動判断は的確だ。
弾丸の雨が機体を掠めるよりも先に、斜め前へと滑り込み、その射角から逃れんと機動する。
その瞬間。爆風が敵機を巻き込んで炸裂した。
唐突な衝撃に、制御が効かなくなったタクティレイヴは、横っ飛びにブースターを吹かし、射角から逃れることを命題として機動する。
『"
開きっぱなしのオープン回線に、牙を剥いたマーズの声が流れる。
『今ので決めるつもりだったんだがね』
艦長は嗤う。今の一撃で決めきれなかったこと。そして、その一撃の"タネ"を即座に見破られたことに戦慄したからだ。
手動で敵機の動きと機銃の照準が合う瞬間を狙い、射角内へ砲撃を行うことで、『砲弾に弾を当てて炸裂させた』のである。
それを老いた今の眼で狙える、文字通り最後のチャンス。
しかし、対する敵機は、未だ顕在。右手の機銃は海底に沈んだが──────審判の槍は、未だその左手に握り込まれていた。
『────地獄でまた会おう』
その突進は、確信だった。
右腕を前に出した半身での突進。機銃の掃射に耐え。砲弾さえ放てない刹那にそれを差し込めるという確信だった。
轟音。そして、爆発。
古兵の燃料タンクへと撃ち込まれた銀杭は、そのままその役目を果たして爆散し、戦艦の身体を真っ二つに圧し折った。
沈みゆく相棒を撫で、老兵は自らの敗北を噛み締める。
『……マーズ・カルハラ。冥途の土産に教えてくれ』
『……まだ話せるのか。設備が丈夫だねぇ。良いぜ。変なことじゃなけりゃな』
『名前はあるのか?その機体に』
マーズは、少し間をおいて答えた。
『"イシュマエル"、良い土産になったか?』
そのやり取りを最後に、燃料へと投げ込まれた火は更なる爆発を引き起こした。
通信回線ごと老兵を焼き切った爆炎が立ち上るのを見届けた後、
黒鉄の亡霊は、赤熱したブースターに再度火をつけ、戦線を離脱していった。
実質初投稿です。
このお話はエタりやすい作者に、『終わりを考えてから書くと良いよ』と言うアドバイスをしてくれたお友達のおかげで誕生しました。
『砂塵のアルファ』は、そのアドバイスに従って終わり方を明確に決めています。
血反吐吐きながら完結させますので、応援頂けますと、幸いです。
感想とか頂けると、とっっっっってもうれしいです!