砂塵のアルファ~死にたがりおっさんパイロットの俺が、世界の危機を救うまで~ 作:KIWIさん
天井の古い照明が、かすかにチカチカと瞬く。
パイの焼ける匂いが船内に満ちて、少しだけ油煙と混ざった。
狭苦しい室内には、男が三人。妙齢の不精な恰好をした男と、背の低い如何にも職人気質な老人の二人が椅子に腰かけ、
そして、其処に交じるには随分小綺麗な好青年がテーブルの上にことり、と皿を置いた。
「はい、マーズ。ダイモス爺。今日は会心の出来だよ」
置かれた皿の上に乗るのは、素朴な変哲のないミートパイだ。
青年……『
綺麗なきつね色のパイ生地も相まって、なんと食欲を引き出す料理だろうか。
「これこれ。ストレイドッグスの祝勝会と言えばのミートパイ!いただきまーす!」
妙齢の男……チームのリーダー、マーズ・カルハラは、
んが、と大口を開けて、切り分けられた傍からミートパイを手に取って口に運んだ。
もがもがと嬉しそうに頬張った。
「ン。美味いな!いつも通り!アレスおかわり!」
無邪気に笑いながら、あまり品があるとは言えない詰め込み方をするマーズを見て、
わなわなと震える老人……整備士ダイモスがテーブルを叩いて叫ぶ。
「マーズきっさまぁ!!何じゃその態度は!!可愛い可愛い我らのイシュマエルを今日も今日とてボロボロにし腐ってからにぃ!!」
「またそれかよダイモス。良いだろもうよぉ~~。戦艦三隻相手取ったらああもなるっての。ほら、ミートパイ食えよ。今日も絶品だぜ。」
「おヌシの立ち回り次第でどうにか出来たじゃろと言っとるんじゃマーズ!!せめて申し訳なさそうにせんかい!!」
「まあまあ、ダイモスさん。マーズもイシュマエルも帰って来てくれたし。その辺で……」
狭い室内で、マーズが逃げ、ダイモスが追い、アレスが諫める。
これが、チーム
どたばたと音を立てて大の大人が駆け回る傍らで、
ダイニングルームに置かれたノートデバイスがピコン、と大きく音を立てる。
「ん?っとと。メッセージ通知かな」
「仕事か?」
三人のうち、アレスがいち早くそれに気づき、デバイスへと駆け寄り、それを見たマーズが反応する。
独立傭兵組織
彼らの生計は戦場への援助……即ち傭兵業で成り立っており、ダイニングに置かれた内部ネットワークから隔絶したデバイスは、その連絡口だ。
「そうみたいだ。依頼元は……うわ、大企業の名指しだよ。"覇辰産業"からだ」
"
規模としては巨大企業ではなく、あくまで中堅どころの企業ではあるが、徹底した実利主義と発展の速さは、他の大手よりも厄介とされている。
「覇辰か……金払いは良いんだよなぁ……内容は?」
「……それが……」
興味津々と言った様子でデバイスをアレスの背中越しに見つめるダイモスとマーズに見えるよう、アレスがデバイスを差し出すと、
其処に書かれていた一文を見て、二人は目を見開き、驚きの声をあげた。
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黒鉄の亡霊。旧公国の汎用陸戦軍機の改修機、イシュマエル。
そのコックピットは、装甲の軽量化も大して済んでいない分、少し手狭だ。
二本の操縦桿のゴムは擦り切れ、可動部分の摩耗も相応に進んでいる。
少し背もたれの硬い席へと腰掛けると、脚はギリギリ。汗と油と、焦げたシリコン。
そして、ほんの少しの血の匂いが鼻腔を擽る。
主人の快・不快に依らない、開発初期特有の設計思想。
此処に来ると、否応にも、思い出したくない過去の数々が脳裏に過る。
だと言うのに。カチ、カチと鳴るブースターの点火音を聞くと、脳はどうしようもなく冷静に冴えわたるのだ。
『システムオールグリーン。イシュマエル、起動しました。』
主の帰還から少し遅れて、モニターへと蒼白い光が宿る。
冷たい女性の機械音声。
続いて、アレスからの通信が届く。
『やあ、マーズ。ブリーフィングを始めるよ。準備は良い?』
「ああ。問題ない。始めてくれ」
マーズが頷くと、モニターには、事前に提供されたブリーフィング映像が映し出される。
覇辰産業のロゴが大きく表示され、次に映し出されたのは、画質の荒い"リーク画像"……白銀の、タクティレイヴの姿。
『改めて確認しよう。今回の仕事は、覇辰産業からの名指しの依頼だ。作戦コードは、"ブラック・リーフ"
覇辰産業は、秘匿されるルートから、グラン=セレスタが"新型フレームをベースにした、戦術兵装"を護送するという情報を入手したらしい。
この兵装の実戦配備は、ただでさえグラン=セレスタ優勢の戦況を更に傾けかねないとして、実戦配備される前に"破壊すること"が求められる』
────"グラン=セレスタ"。
全ての巨大企業の中でも最も統治的思想を抱いており、激しい美意識と選民思想から、他国家への侵略行為なども容易に実行する企業だ。
それを可能とするのは、混沌渦巻き、目まぐるしく勢力図が入れ替わる今の世界に在っても、間違いなく最高の軍事力だろう。
『作戦エリアは"グラン=セレスタ第五技術実験棟のコア階層"……即ち"地下施設"となる。
覇辰産業は既に施設のセキュリティへバックドアを仕掛けていて、イシュマエルの施設侵入と同時にセキュリティシステムは完全にダウンする。
作戦時間はダウンから復旧までの凡そ10分。脱出については、新型兵装の無人護送車のハッキングが手っ取り早いだろう。僕らの"
"最大限の協力と、最大限の利用"、作戦の成功率を上げる為の協力を惜しむことは無いが、最終的に作戦を実行させるのは傭兵へ。
覇辰産業と言う企業の在り方を、そのまま象徴したかのような依頼内容である。
モニターは、提供された地下研究区画の三次元データを映し出し、目標へのルート取りを、何度も繰り返し、赤いラインで強調している。
『……ブリーフィングは以上だ』
アレスの声色は、普段のそれに比べ、格段に細い。
生きて帰る保証のない仕事は数えられないほど乗り越えて来た。しかし、今回の"それ"は格が違う。
世界最大の軍事企業への挑戦。数多くの傭兵が企業の後ろ盾を以て挑戦し、死に絶えて来た墓場であろう。
「……」
肺に満ちる空気が、心臓が送る血液が、一段階冷え込む感覚。
"死"へと近づく、始まりの冷気。
受ける仕事は選べない。先の戦艦襲撃を以て、漸く溜まった借金を返済出来たほどだ。
生きる為には。明日の食事を得る為には。欲しているはずの命を賭けなければいけない。戦場とは、なんと理不尽な場所であろうか。
『生きて、帰って来るんだよ』
答える代わりに、操縦桿へと手を掛け、肺の底から冷え切った空気を吐き切り。小さく吠える。
「──────イシュマエル。出るぜ」
第一話です。序章の本題が始まります。
続きもどんどん投稿していければなぁと思いますが、いかんせんモチベ次第なところがあります。
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