砂塵のアルファ~死にたがりおっさんパイロットの俺が、世界の危機を救うまで~   作:KIWIさん

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戦闘シーンで1話全部使います。
本題始まってすら、いないのにね。


3話「作戦コード:ブラック・リーフ③」

撃墜王 カロン。

 

その動き出しは迷いなく、そして的確な一手であった。

 

着地から数巡。動き出した護送車を視界に収めた刹那。

 

撃墜王のタクティレイヴ、ノクスは勢いよく跳躍し、地面を擦るかのような低空から、刃を構えた。

 

(まずい……ッ!!)

 

その狙いは明らかだ。"ハッキングされた車両を移動不能にする"こと。

"回収"を目的とした今、護送車はマーズの急所となった。

 

反射的に、イシュマエルの右腕の機銃を、ノクスに向けて撃ち放つ。

銃弾が命中するよりも先に、ノクスは鋭く躍動し、当然のようにその掃射を回避しきるが、

射撃と同時に駆け出したイシュマエルは、ノクスと護送車の間にその身体を滑り込ませることに成功する。

 

互いに間合いを測り、睨み合いになるよう、照準は決してノクスから外さない。

 

一瞬の膠着。

その僅かな時間のうちに、イシュマエルの背中の先で

護送車がトンネル網へと入り込んで行ったのを確認し、マーズはオープン回線を開いた。

 

『……容赦ねぇな。撃墜王。自分らの子供だろ?』

 

言葉を投げかけると共に、じりじりと、イシュマエルを護送車が入って行ったトンネルの方へと下がらせる。

 

"ノクス"は実体剣を扱う高機動軽量機体。

トンネルのような狭いロケーションならば、実体剣は満足に振るえなくなる上、得意の機動力も活かせなくなる。

 

対して機銃持ちのイシュマエルは、射角内に敵を納めることが容易になり、地理的有利を得られる。一石二鳥の戦場。

 

 

しかし。

そんな単純な策が通るならば、

カロンが"撃墜王"と呼ばれることは無かっただろう。

 

 

膠着の主導を得たマーズは、イシュマエルの高機動ブースターに点火し、一気に後退を開始した。

同時に、当たらないことを前提とし、ノクスの回避を誘発する為に機銃の実弾をバラ撒く。

 

 

目論見は全て通る。

 

 

ノクスは銃撃を避け、そうして出来た攻撃が来ない隙を縫い、イシュマエルはトンネル網へと滑り込んだ。

完全な閉所。絶対的な有利。

 

それでも、マーズの直感は警鐘を鳴らし続けていた。

 

銃口は、常に敵のど真ん中を捉えるように。

トンネルの狭い入り口を狙いながら、進む護送車につかず離れず。ノクスを待ち受ける。

 

生唾を飲み込む。有利な場所に立ったというのに、気分は袋のネズミだ。

 

じり、と引いた足が、ガラス片を踏み付けた瞬間。

 

動いた。

 

イシュマエルのセンサが動体を捉えた瞬間に、機銃の引き金を引き絞る。

しかし、その銃弾は、思わぬ方法で凌がれた。

 

(俺が壊したシャッターを、盾に!?)

 

串に刺すように、その両手の実体剣でシャッターを固定し、ノクスは、華奢なその機体の全身をすっぽりと覆って、突進してきた。

 

イシュマエルの機銃は、本来であればシャッター程度は容易に貫く。

しかし、その盾はイシュマエルの加速を利用し突進で捩じ切ったもの。凸型に変形し、斜めに銃弾を受け流す。

 

『良いもん拾ったな、生産者は顔が高いぜ!』

 

 

距離が詰まる。一気にマーズの有利が潰される。

 

 

刃が届く距離にまで入り込むと、ノクスはまるで紙を切るかのような滑らかさでシャッターを切り裂き、その姿を現すと共に。

イシュマエルのコクピットだけを斬り取るようなコンパクトな斬撃を、連続で繰り出してくる。

 

凌ぎきれない。

 

マーズもイシュマエルの腰に下げられた、設備溶断用のヒートダガーを以てカウンター気味に応戦するが。

 

二刀の有利というだけではない。

マーズの読みを超える反射速度で刃の軌道を随時修正し、

小さいながらも確実に命の周囲をなぞって来る。

 

 

"このまま戦闘を続ければ、確実に敗北する"

その確信が、マーズの覚悟に火を付けた。

 

 

イシュマエルは後退気味の戦いから一変。

ノクスの剣が双方切り下ろされた瞬間。

 

一気にブースターに点火し、極近接の間合いへと猛突した。

 

実体剣の怖いところは、その刃の切れ味である。

直撃時に熱し、溶断することを主とするパルスブレードやヒートダガーとは異なり、

超速で振るわれるナノカーボンの武器は、当たった時点で大なり小なりダメージが発生する。

 

ただ、先述の通り弱点も多い。

マーズの突進は、それを突くためのものだ。

近接戦において、致命的に機能する最大の弱点。

 

抱き込めるほどの極付近に入り込まれると、その切れ味を一切発揮できなくなる。

 

ノクスもそれを承知しているのか、詰めた間合いを離すべく、後ろへと跳躍しようとする。

 

 

しかし、間に合わない。

 

 

実体剣を斬り下ろした踏み込みの直後だからだ。

前傾姿勢からの後退は、どう足掻いてもトップスピードには至らない。

 

『抱きしめてやる。逃げるなよ撃墜王』

 

機体と機体が衝突する。

互いのブースターによる推進ベクトルが複雑に交差し、縺れ込む。

コックピットとコックピットが擦れ合い、耳障りな金属音を奏で上げた。

 

死神は藻掻く。絡みついた亡霊を引き剥がさんと刃を振るうも、それが亡霊に致命を与えることはない。

 

イシュマエルは、足掻く死神の背中へと、ヒートダガーを突き立てた。

 

直撃させ、熱して、溶断する。

設計思想に沿った使い方をした武器は────強い。

 

勝利。その二文字がマーズの脳裏に浮かぶが、

その希望が仮初であることに初めに気付いたのは、

押し黙り、戦局を見守っていた傍観者であった。

 

『マーズ!!まだだ!!』

 

アレスの忠告を受け、マーズは反射的に水平ブースターを起動し、ノクスに覆い被さっていたイシュマエルを退避させる。

 

 

しかし、間に合わない。

 

 

決して放たれるはずの無かったノクスの斬撃が、イシュマエルの右肩部を捉え、切り裂く。

 

胴体と腕を繋げていたジョイントはその機能を喪い。切り飛ばされた右腕は大きな音を立てて落下した。

 

 

喪失の衝撃が冷めない中、マーズは目を見開いた。

ノクスの握る双刃の片側が、元の半分以下の長さになっていたからだ。

 

『……実体剣を、自分で斬って……間合いを調整したのか……?』

 

最悪だ。

状況は振り出しどころか、マイナスへと変遷した。

ノクスを抑える為に必須であった機銃は、切り飛ばされた右腕ごと取り戻しようのない位置まで転がり、

対するノクスは、軽微な損傷が残るのみ。軽量機からすればノーダメージと同様だ。

 

『マーズ……!』

 

通信を通して聞こえてくるアレスの声は、悲痛そのものだった。

 

アレスは、マーズが一人で戦う時に口を出すことは殆ど無い。ダイモスも同じだ。

それは、マーズが会話へ割くリソースを、そのまま戦闘へと向けられるようにするための気遣いだった。

 

しかしたった今、その気遣いは意味を失った。

アレスの叫びは、言葉裏にマーズの敗北を示していた。

 

 

『三分四十一秒。過去二十年に渡って、私の前でこれほど長く戦闘行為を続けられた機体は居なかった』

 

 

オープン回線を伝い、無機質で、平坦で、物静かな男の声が語り掛けてくる。

 

撃墜王カロン。軍事企業グラン=セレスタ最強の男。

その男が紡ぐ言葉は、そのすべてがあまりに機械的で、

音声データの先に居るのが血の通った人間だとは、とても思えないものだった。

 

『賞賛しよう。旧国の亡霊。型落ちの機体で此処まで戦えたお前を、私は心から尊敬する。

お前が"α"にさえ手を出して居なければ、別の未来もあったろう。残念だ』

 

『……"α"?』

 

『お前が奪おうとした、次の時代を作る兵器だ』

 

『……"兵器"ね。俺にゃ……普通のガキに見えたが』

 

『それがどのような形をして、どのような意思を持っていようと……人の力を超えた破綻をもたらすのなら、それは"兵器"だ』

 

カロンは、受け答えに迷いが無い。

逡巡は無く、読み上げソフトのような声も相まって、AIと会話しているような気分にさせてくる。

 

『……考え方が大分違うね。アンタとはお友達にゃなれなそうだ』

 

言い切るより先に、ノクスの斬撃がイシュマエルの首へと飛んだ。

逆手に持ったヒートダガーでそれを防ぎ、ギリギリと、鍔迫り合いにまで持ち込む。

 

『……なぁ。アンタが勝って、護送車止めて……あの子はどうなる?』

 

『前線に送られる。死ぬまでの交戦データから、より深度の高い"α"を作り出す礎となるだろう』

 

真面目な男だ。耳障りの良い文句など幾らでも思いつくだろうに、その言葉には、嘘など微塵も無いのだろう。

 

鍔迫り合いから、脇差しとなった実体剣の横一閃。

ステップでそれを躱し、言葉を続ける。

 

『なら猶更返せねえな!!子供を戦場に送れるかよ!!』

 

『お前の事情は考慮されない。返して貰う』

 

反撃の手段を無くしたイシュマエルを、ノクスは一切の手加減無く攻め立てる。

しかし、イシュマエルは思いの外攻撃を捌き、受け流し、凌ぐ。凌ぐ。凌ぐ。

 

『アレス!!ダイモス!!すまん。後のことは全部お前らに任せる!!』

 

『……マーズ?』

 

『おヌシ……まさか!!』

 

 

 

 

『ガキ一人、戦場から逃がせた。今日は、死ぬには良い日だ』

 

 

 

 

────イシュマエルは。その手に握ったヒートダガーを、真横に投げ放った。

 

 

 

 

ノクスの動体センサは、必然的に投げ放たれたダガーを追い、

そしてそれが、地下に張り巡らされた配管のうちの一つへと突き刺さったのを視界へと収めた。

 

 

『────何を』

 

 

旧公国の物流を担うトンネル網。

そこを走る配管は、ライフラインとして今もなお生きている。

 

 

それ即ち、"未だそこには可燃性ガスが流れている"と言うことに他ならない。

 

 

その事実を証明するかのように、ダガーを受け入れた配管が、息を吸い込んだように膨張した。

トンネル内の空気は一瞬で消費され、無限に等しい刹那の内、静寂が場を支配する。

 

そして次の瞬間。白の閃光と、壁面全体が内側から弾け飛ぶ衝撃。

 

天井の梁が衝撃で傾き、

支えを失った数十トンのコンクリートと土砂がその場に降り注ぐ。

 

破片。煙、熱、そして音。

 

その全てが一斉に殺到し、

 

爆発に巻き込まれた二機のタクティレイヴ────イシュマエルとノクスの姿は、黒煙の奥へと飲み込まれて消えた。




まだ本編始まってないのに戦闘シーン書きすぎな気がします。
でも、好きなんです。
ロボットが、人が、戦う姿。

感想とか頂けると、励みになります。とても喜びます。
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