白上縁起恋灯絵巻【完結】   作:DX鶏がらスープ

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どうもお久しぶりです!

最近ドキドキセリフ選手権なるもので白上フブキさんの台詞を聞きまして、
どうしてもこのセリフの背景ストーリーが欲しいと思ったので書いちゃいました!

多分結構な分量になるので、
書き貯め分が終わったら更新速度はかなりゆっくりになると思いますが、
どうぞのんびりと見ていただけると幸いです!



第一章
邂逅


 

 

 

「…ねぇ、海斗くんはどんな大人になりたい?」

 

 

 

その言葉を聞いた瞬間に僕はこれが夢であると確信する

何故なら僕は目の前の少女を知らないし、会った事もない

 

どこかの神社の境内

ミンミンと蝉の合唱が響き渡る8月のある日

うだるような真夏の日差しを優しく遮る涼しげな木陰の下で、どこまでも広がるような青空を見上げながら幼い僕に話しかける真っ白な狐耳の少女の記憶

 

そんなもの、どこにでもいる男子高校生なんかにあるわけがない

だからこそ僕は改めてこれが夢であり、現実でない事を確信する

 

だけど

 

「え?」

「だ~か~ら、海斗くんは大きくなったらどんな人になりたいのかなって」

 

そう言って微笑む少女の笑顔がどこか懐かしい気がして

 

こちらを見つめる彼女の優しい瞳を見ていると、何故か胸を引き絞られるような罪悪感と後悔が湧いてきて

 

これは夢だ

そんな事は最初から分かってる

 

きっとアニメや漫画の見すぎに違いない

そんな感想さえ湧いてくる程に非現実的な光景

 

だけど

 

「う~ん…わかんないや」

「…まぁ、そうですよね

海斗くん位の年ならまだそんな事考えませんよね」

「…でも」

「ん?」

 

あぁ、だけど

 

だけど僕は今この瞬間を忘れたくない、忘れるべきじゃないと確信していて…

 

「でもね、ぼくは…――」

 

だから僕は口を開く

茹だるような暑さを一時忘れさせてくれる木陰の下で、幼い僕はそれでも一生懸命に口を開く

 

伝えたいと

その一心だけで幼い僕は精一杯の勇気を振り絞る

そしてそんな幼い少年を白い少女は優しく、そして静かに見守る

 

そんな光景がどうしようもない程に懐かしくて

同時にどうしようもない程に辛く、悲しくて

 

(僕はーー)

 

届かない

決して届くことのない幻の光景

だけど何故か今ならそれに手が届くような気がして

 

(僕はーー!!)

 

夢の中の幼い自分と、それを見ている今の自分が気付けば重なっていた

だから僕は言おうとした

 

あの日、確かに存在したはずの時間

かつて紡いだはずの言葉をもう一度紡ごうと、夢の中の僕はその口を開こうとして………ーー

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

 

ーー次は磐ノ斗、磐ノ斗

お出口はーー

 

 

 

「ーー…んん?」

 

電車のアナウンスの音に目を開ける

それと同時にガタンと列車が揺れる

そんな中、長時間の乗車で固まってしまった体を伸ばしながら、僕はゆっくりと周囲を見渡した

 

どうやらいつの間にか眠ってしまっていたらしい

しんと静まり返った無人の電車の座席には夕日が差し込み、足元に黒い影が落ちている

とは言え無事に目的地に着いたのであろう事は、目の前に広がる広大な田園風景が教えてくれる

 

それは都会育ちの僕にとってはあまり見慣れない風景であり…

それをぼんやりと見つめている内に、ゆっくりと電車はスピードを落とし、そして止まる

 

ーー磐ノ斗、磐ノ斗

お降りのお客様はーー

 

僕以外誰もいない車内に降車を促すアナウンスが流れる

それは実質僕個人に向けた催促であり、とは言え特にそれに逆らう理由もない

だから僕が足元に置いてあったキャリーケースの持ち手に手をかけ、その場で立ち上がった時だった

 

「…あれ?」

 

頬に手をやると感じる確かな湿り気

気付づくと右頬を伝っている一筋の涙に困惑する

 

「………寝すぎたかな?」

 

そう首を傾げるも、自分で言っていて説得力がない

不思議だとは思うものの、取り敢えずは涙を拭いて立ち上がり、電車から降りた

 

誰もいない寂れたホームを横切り、改札口へ

そしてその先のタクシー乗り場で一台のタクシーを捕まえると、僕は運転手に行き先を告げる

そして動き出した車の中からふと外を見ると、そこには見慣れた都会の喧騒はまったくなく、だだっ広い何もない田舎の光景だけ

そしてその何もない光景は、まさに今の僕自身の境遇をそのまま鏡に写したように見える

 

「…」

 

タクシーの中は静寂に満ちている

 

それは単に僕が何も話さないからというだけなのだが…これが例えば、お喋りですぐに誰とでも仲良くなれる父が乗っていたとしたらまったく違っただろう

タクシーに乗るたびに運転手のおじさんと仲良くなり、毎回大いに盛り上がっていた父さんが今この場にいれば、きっとこんなに静かではないはずだ

毎回母さんは呆れていたけど、それでも呑気に笑う父親の姿は見ていて退屈しなかったものだと少しだけ懐かしくなる

 

だけど

 

(…もう、父さんはいない)

 

そして、毎回そんな呑気な父さんに辟易しながらも、それでも暖かく見守っていた母さんもまた…

 

そんな現実を認識すると共に、スッと心の奥が冷たくなる

 

懐かしい思い出

確かにそこにあったはずの時間はしかし、もう既に遥か彼方

かつての暖かな日溜まりは消え、暗く冷たい現実のタクシーの中に僕は一人取り残されている

そんなどうしようもない現状が、いまだ僕にはまるで出来の悪い夢か何かのようにしか思えない

現実感というものがない

 

だから

 

(僕は、どうすれば良いんだろう…)

 

そんな事を思いながら、僕は徐々に暗くなり始めた空をぼんやりと見つめる

 

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

 

高校一年生の時の家族旅行の伊勢参り

その帰り道で、僕達家族の車に居眠り運転の大型トラックが正面衝突してきてから、大体一年が経つ

 

運転をしていた父さんと助手先に乗っていた母さんは即死

後部座席に座っていた僕だけが奇跡的に助かった

 

そしてその日から色々な親戚の間をたらい回しにされ、最終的にこの磐ノ斗の地にやって来た

 

それが簡単なこれまでの僕の経歴だ

 

とは言え言う程悲惨な境遇と言うわけでもない

 

親戚をたらい回しにされたとは言ったが別に虐待を受けた事はないし、転校続きだったとはいえ、ありがたい事にどこの家も高校にはちゃんと通わしてくれた

親身になって接してくれる事はなかったが、それでも彼らは最低限の面倒は見てくれたのだ

これで文句を言う方が罰が当たるし、だからこそ僕は自分は恵まれていると思わなければならない

 

そしてそれは今回も同様

顔も見たことがない遠い遠い親戚のご厚意で、彼らが権利を所有する田舎の空き物件に住む許可をもらった訳だが、別にボロボロのあばら屋という訳でもなく、ごくごく普通の木造一戸建て

 

確かにちょっと年季は入ってるし、しばらく誰も住んでいなかったから掃除は必要だが、それでも電気水道ガスは全部通ってるし、建て付けもしっかりしている

むしろ一人で暮らすにはちょっと広すぎる位だ

 

とは言えここは田舎も田舎、ど田舎である

まずコンビニがないし、そもそもWi-Fiに至ってはなにそれ美味しいのというレベル

 

勿論学校があるような人が集まるような場所まで出てくればもう少しはマシになるものの、少なくとも僕の家の回りには本当に何もない

 

だから夜寝られない時の暇潰し…

すなわち、何とか目的地までたどり着いたは良いものの、長旅の途中でかなり寝てしまった為に目が冴えて寝られない僕としては、その辺を散歩する位しか出来る事が無いのだ

 

「本当に何もないな...」

 

月明かりを頼りにそのあたりをぶらぶら歩く

この辺りは当然のごとく街頭もないが、幸い今日は月が明るい

それに風の音や林のざわめきに虫の声、カエルの鳴き声など案外田舎の夜も賑やかだし、何より少し遅い時間なのが怖いとはいえ、それでも知らない場所を歩くのは思ったよりもワクワクする

 

だから意外に楽しめているのだが、それでもふと足を止めると自分は今一人っきりなのだなという事に気が付いてしまう

この暗い夜空の下、自分は今ひとりぼっちなんだという事に、どうしようもなく胸を引き絞られるような思いに駆られる

 

それならいっそ…

 

(このまま夜の闇に溶けてしまえるなら…)

 

それはきっと、どれたけ幸せだろうか

でも残念な事にそんな都合の良い事は起きない

だからこそ、陰鬱な気分で一人夜道を歩いていた時の事だった

 

「ん?」

 

まず感じたのは違和感だった

月明かりに照らされた農道

アスファルトで舗装されていない剥き出しの地面には良く分からない雑草が色々と生えており、それをサンダルで踏んで歩くたびにガサガサと音がなる

 

それは別に良い

だが…僕はふと自分の足音の少し後ろで同じ音が鳴っている事に気が付いた

 

だがこの時点ではそれは他に散歩をしている人がいるのかなという程度の違和感であり…だから次の違和感は、そんな誰かの足音が自分の歩くペースとまったく同じである事に気が付いた事だった

 

僕が一歩を踏み出すのと同じタイミングで足音がする

止まると足音も止まり、また歩きだすと足音もまた復活する

 

初めは偶然かと思うが、歩き続ける内にそれが偶然でも何でもない事に気が付く

じんわりと冷たいものが背中を走り、次第に恐怖が僕の内から込み上げてくる

そしてその頃には既に、自身の後ろに迫る獣の匂いと、その唸り声のような音が聞こえ始めていて

 

「…っ!」

 

咄嗟にその場から全力で走り出したのが正しい判断だったのかどうかは分からない

だが思えばこんな遅い時間に散歩をしてる人間なんてそうそういないだろうし、何より相手は多分人間じゃない

 

であれば、きっと走り出した事自体は間違いじゃなくて…惜しむらくはそれが恐らく少しばかり遅かった事に違いない

 

「ぐっ!?」

 

突如として背中に何か重いものがぶつかった衝撃と共に、自身の体が進行方向に吹き飛ぶ

2、3mは飛んだだろうか

幸いにも大きな怪我はない

吹き飛ばされた方向とタイミング、それから足場の農道の雑草がちょうど良いクッションになってくれたおかげで、怪我自体は少し手足を擦りむいただけですんだ

だが慌てて振り返った僕が見たそれは、そんな常識的な判断の外側にいるものであり、だからこそ僕は流石に呆気に取られる

 

「あ、あぁ………」

 

そこにいたのは獣の形をした影だった

夜の闇よりも深く、おぞましい漆黒の闇で象られた獣の影

紅玉のように血塗られた瞳を紅く輝かせ、3mはあろうかという巨体でこちらを睨みつけながらゆっくりと迫るその何かが纏う禍々しい気配はかつて僕自身も味わったもの

すなわちそれは濃密な死の気配

目の前の影から感じるそれに思わず僕は後退り

 

(ーー僕は、死ぬのか?)

 

恐怖で引きつる体とは裏腹に、嫌になるほど思考は冷静に回る

心の底の深いところがスッと冷えていくような感覚

かつて喉元まで迫り、そして去っていた『死』との再開に、僕はポツリと心の中で呟く

 

(こんな、ところで?)

 

鼻を突くような獣の匂いに、こちらを押し潰さんばかりに放たれる強烈なプレッシャー

目の前に確実に死が顕現しているというのに、今だに悪い夢か何かのように抜け落ちたリアリティ

しかし如何に目を反らそうと、誤魔化そうと、それは確かにそこにあって

 

でも

 

(ーーそれも良いのかもしれない)

 

本能的、根元的な恐怖の権化を前にして体が強ばる中、ふと僕はそんな事を思う

それは常識的に考えるならあり得ない考え

だけど、それは今の僕には何だか妙にしっくり来る気がして

 

(今死ねばーー)

 

きっと父さんや母さんに会える

そう考えれば今ここで死ぬのは悪い話じゃない

むしろ願ったり叶ったりじゃないか

 

そんな事を考え出すと止まらない

生物としての本能に反して、僕の心には目の前の死に対する納得と諦観がじんわりと溢れてくる

 

(それに…もう疲れたんだ)

 

この一年良いことなんて一つもなかった

このまま残りの人生も何も良い事がないまま生き続けるというのなら、いっそのこと…

 

気付けば体の震えは止まっていた

もう目の前まで来ていた獣の影はゆっくりと、まるで見せつけるかのようにその大きな口を開いて僕の方へと迫って来る

 

だけど僕はそれに対して何もしない

人間の体なんてバターのように簡単に切り裂けるであろう鋭い牙と爪

それを前にして、僕は何もしない

 

だからもう少しすれば僕の人生は終わるだろう

何も良いことがない、きっと無駄に長く続いていくだけの人生

その幕引きに際して僕は少しだけ安心して

 

(幸せに、なりたかったな…)

 

そう最後にポツリと呟くとゆっくりと目を閉じ、その身を目の前の化け物に委ねようとしてーー

 

 

 

「ーーさせません!!」

 

 

 

その声に思わず顔を上げた僕が見たのは、夜の闇を切り裂く一条の銀閃

あれ程禍々しい気配を纏っていた化物が一刀両断されてその場に倒れ込む姿

 

そして…

 

「ふぅ…何とか間に合いましたね」

 

そう言って月をバックに安心したように持っていた刀を納刀する少女の姿

白い狐の耳と尻尾を生やした明らかに普通の人間ではない少女

袖の長い、巫女服とも制服とも付かない不思議な服を纏った白髪の少女

 

その姿は、明らかに普通の人間のものではなくて

だけど同時に、惚れ惚れする程美しかったから…

 

 

ーーだからそれが始まり

 

 

 

「あ、あなたは…」

「………ぇ?」

 

戸惑う僕の声に、しかし思わずと言った様子で振り返った目の前の少女もまた、時の止まったように一瞬動きを止める

 

「………えっと、もしかして…見えてたりします?」

「え?」

「いや、だからその…

白上の事、見えてたりします?」

「?

…白上さんっていうお名前なんですか?」

 

驚いたような顔で問いかけてくる白上さん(?)の言葉に戸惑う僕と、その僕の言葉にもっと驚く白上さん

 

だけど

 

「ーーこほん

それでは私の姿が見えると言うのなら改めまして自己紹介を…」

 

この夜の出会いが

この時の白上さんとの出会いが僕の人生を大きく変える事になるなんて

 

 

 

「ふわふわしっぽのごぼうせーい!あなたの心の一番星 、白上フブキです!Hi friends!」

 

 

 

その時は僕も思わなかったんだ…




これからも戦うシーンが結構あるので先に書いておきますが、
白上フブキさんをはじめとした登場人物の武器や戦い方は基本的には『ヤマト神想怪異譚』ベースです
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