色々と設定を練ってもフレーバーにしかならないものも沢山あるのが悲しい…
磐ノ斗村は人口4000人程度の小さな村だ
特産品はお酒と和紙
また磐ノ斗織と呼ばれる伝統的な織物が有名
昔から色々な不思議な話や妖怪話が伝わる古い村であり、その歴史は遡ればなんと平安時代にそのルーツを求める事ができるのだとか
近年は都会への人口流出も進み、次第に過疎化の波に飲まれつつあるとはいえ、結構由緒正しい村であり、それだけにその成立過程としてとある昔話が語り継がれている
「なんでも、昔この地には地獄に繋がる穴があって、夜な夜なそこから鬼が現れては人を食べていたんだって」
そう語りながら夏色さんが壁にかけられた一枚の絵巻物を指差す
それは磐ノ斗村の成立の伝承が描かれているという巻物であり、そこには地獄の穴から鬼達が這い出し、人を襲う絵がそれはそれは生々しいタッチで描かれていて
「うえ~…、いつ見てもグロい絵だな~…
すいちゃんこういうの苦手…」
「あはは、まぁこの時代はコンプラなんてないしね?
仕方がないよ」
眉をひそめる星街さんに苦笑する夏色さんだったが、少しすると続きを話してくれる
「それで、鬼に襲われて悲しむ人々の姿を見た優しい神様がその穴を塞いてくれて、鬼は地上に出てこれなくなった
そしてそんな神様に感謝した人々は祠を建ててその神様を祭る事にした
これが今の磐ノ斗村の始まりだと言われてる昔話だよ」
「う~ん、改めて聞いてみると中々ロックな伝承だね…
要するにすいちゃん達は地獄の穴の上に住んでるって事でしょ?」
「まぁそういう事になるのかな?
とは言え、これはあくまでも昔話
だから、どこまで本当なのかは分からないけどね」
それでこっちが~、と所蔵品の説明に戻る夏色さん
そんな彼女に付いていきながら、僕らは地域の歴史について知るならここ!、と夏色さんにオススメされた磐ノ斗歴史資料館を回っていく
正直今まで郷土資料館なんて類の場所には来た事がなかったけど、これが中々面白い
歴史的な資料だけでなく、当時の生活用品や地域の特産品などもおいてあり、この磐ノ斗という土地に根付いた人々がどうやって暮らしてきたのかという事がよく分かるし、図書コーナーには地域に関する本がたくさんあったので、課題の資料集めにも事欠かない
何より夏色さんの解説がとても丁寧で分かりやすい
流石は地元の有力者の一族というところだろうか
彼女の磐ノ斗の地に対する深い見識と理解には今のところとても助けられていて
(頼んで正解だったな)
そう心の底から思う
実際ここまで巡ってきた他の場所での体験も実に有益な時間だった
地元で一番の酒処である雪花酒造での取材に、磐ノ斗の有名な童謡である「めだまの学校」の歌詞が彫られた石碑での記念撮影
磐ノ斗商店街での取材兼買い食い等々
どれも非常に楽しい時間であり、また為になる時間だった
もし機会があるなら、今度は課題関係なくもう一度行けたら良いなと思う位には
そんな事を考えていると、ふと白い狐耳の神様の笑顔が思い浮かぶ
(もし叶うならば…)
白上さんも…この磐ノ斗が大好きなあの神様も連れていけたら…
(きっと喜んでくれるだろうな…)
・・・・・・
「それじゃあ最後の目的地に行くよ!」
歴史資料館を堪能した僕らは、少し休憩をした後に、夏色さんの先導の元、最後の目的地へと向かう
その途中で気になった事があった僕は、夏色さん達に付いていきながらこっそりとみこさんに耳打ちする
「…みこさん、さっきの資料館の昔話って…」
「…まぁ、概ね事実にぇ」
もっとも、かなりオブラートに包んであるけど、とはみこさんの言
実際のところはこの地に空いていた地獄の穴、もとい冥界の穴を埋めてから人が住み出したのではなく、その穴から溢れ出す冥獣の脅威を恐れた時の朝廷が、それを食い止めるべく選りすぐりの陰陽師達を派遣し、それと並行して彼らの拠点となる町を築いたのが磐ノ斗村の始まりなのだという
「一応みこがここにいるのもそれの延長線上だしにぇ」
「そうなんですか?」
「うん
いくら封印されたとはいっても、今までそれを監視していた一族がいなくなっちゃった以上、いつそれが解き放たれてこの間みたいな事が起きてもおかしくないでしょ?
だから監視の人員が派遣されてるってわけ」
そう聞くと成る程、一応巫女であるはずの彼女がどうして白上神社神主代理なんていう肩書きなのかが分かる気がする
などと話をしているうちに目的地に着いたらしい
と言っても、実のところ今回の場所に関しては目新しさというものは特にない
むしろ僕とみこさんに関しては見慣れていると言っても良いほどで
「はい、と言うわけで最後の目的地はここ白上神社!
この磐ノ斗村の神様を祭る神社で、この村の始まりとも言える場所だね!!
…もっとも、ここでバイトしてるみこちについては、今さらだったかな?」
そう言って一礼してから鳥居の中へと歩みをすすめる夏色さん
すると当然神社の中の人が出てくる訳で
「おぉ、いらっしゃい!
ゆっくりしていくと良いよ!
…って海斗くんとみこち?」
「あぁっと!
そう言えばみこちょ~っとやることがあったなぁ~!!
すぐに済まして来るから先に楽しんでて~!!」
「あ!ちょ、ちょっと…!」
言うが早いが、僕達を残してすごい勢いで境内の奥へと駆け込んでいくみこさん
そのついでに、ぽかんとした様子の大神さんの手をひっつかんで詰所の影へと引っ込むみこさんだったが、そんな彼女を見て夏色さんと星街さんは不思議そうに首を傾げる
「…どうしたんだ、アイツ?」
「…さ、さぁ?」
「ま、まぁすぐ戻って来るって言ってたんだし、先に行っとこう?
それで夏色さん、ここはどんなところなの?」
「う~ん…まぁ、そうだね!
えっとね、この白上神社はさっき話した昔話の、地獄の穴を塞いだ神様が祭られてるところで…」
上手い具合に話題を反らし、夏色さんによる神社の概要説明が終わったあたりでみこさんが戻ってきた
その姿は先程までの私服ではなく、僕にとっては見慣れた巫女服姿であり、それを見た夏色さんと星街さんはみこち可愛いと大はしゃぎ
「せっかく神社に来たんだからサプライズだにぇ!」とみこさんは語るが、実のところそれはついでで、恐らく大神さんに事情説明をしていたのだろう
別に大神さん達がいても全然問題はない
とは言え彼女達の姿が普通の人には見えない都合上、堂々と彼女達と話している姿を見られると、何もないところに向かって話し続ける人のように見られる事は間違いない
もちろん予めここに来る事を知っていたなら、前日にでもその事は話しているのだが、何分僕らもここに来るとは思っていなかったので当然向こうにも話は伝わっておらず、その分の打ち合わせを今してきたというところだろう
「えりーとですから!」とふんすと胸を張るみこさんに、ありがとうございますと密かにアイコンタクトを送っていると、視界の端でふわりと白いものが揺れる
そこでちらりとそちらへ目線をやると、そこには思った通り白い狐耳の神様がいて
(何も言わなくて良いですよ
ミオから概ね事情は聞いてます)
(ありがとうございます
それとすいません、いきなり押し掛けるような形になってしまって…)
(いえいえ、大丈夫ですよ
むしろ白上としてはみなさんが来てくれるだけでも嬉しいですから)
こそこそと境内の隅でそんな事を白上さんと話していると、現役の白上神社の巫女である(という事になっている)みこさんに解説してもらった方が良いのではないかという話になり、夏色さんからみこさんに解説役が変わる
最初はまつりみたいにはできないよと戸惑っていたみこさんだったが、そこは流石のエリート巫女
すぐに慣れて見事な解説を披露し始め、その姿に星街さんも中々やるじゃんと満足げな様子
…たまにうっかり喋りすぎて冥獣とか冥界の扉みたいな言わなくて良いことについて喋りそうになっては、大神さんに口を塞がれてもごもご言ってたけど、それでも十分様になっていたと思う
そんな白上神社での滞在中の事だった
「そう言えばさ、まつりちゃんは神様って信じてるの?」
「うん、信じてるよ」
一通り神社の説明が終わり、最後にみんなで神様に今日のお礼を言おうという事になる
そんな時、星街さんが何の気なしに尋ねた問いに、夏色さんはうなずいた
と言うのも、昔小さな頃に近くの森で迷子になった時に、白い狐火に導かれて家に帰る事が出来たという不思議な体験をしたことがあるらしい
「もっとも、誰も信じてくれなかったけどね」
そう言って夏色さんは笑うが、
「それでもまつりはあの時の事、今でもちゃんと覚えてるよ」と続ける
「確か綺麗な蝶々を追いかけてたんだったかな?
気が付いたら周りは知らない景色で、すごく心細かったのを覚えてる
誰もいなくて、どうすれば良いのかも分からなくて、怖くて怖くて仕方がなくて…
もう二度とお家に帰れないんじゃないかって思ったら涙が溢れてきて…」
でも、そんな時に目の前で明るく燃える白い火の玉に気が付いたのだと言う
「最初はなんだろうこれって思ったよ
でもまるで泣いているまつりを見て慌ててるみたいな、まるであやそうとでもするかのようにゆらゆらと揺れ動くそれを見てたら、なんとなく怖くてなくなってきてさ」
そしてその後、まるで付いて来てと言うように彼女を先導するその白い火の玉に導かれて、夏色さんは無事に森から出る事が出来たのだという
「だからまつりは神様を信じてる
例え姿が見えなくても、きっと神様はいつもまつり達の側にいる
見守ってくれてる
まつりはそう信じてるんだ」
そう微笑みお賽銭を投げた夏色さんは、神様いつもありがとうと手を合わせる
そして気が付くと、夏色さんの前に移動していた白上さんがそんな彼女の頭をそっと撫でていて…
「…いやぁ、そんな事もありましたねぇ」
あの後、もう少しだけここにいたいと言って白上神社に残った僕以外の三人は帰っていった
大神さんも何か用事があったらしく、現在外出中
境内にいるのは僕と白上さんだけであり、先の夏色さんの発言に対してしみじみと懐かしそうに思い出している様子の白上さんに、僕は問いかける
「結局、夏色さんが見たっていう白い狐火って白上さんの事なんですか?」
「はい
随分昔に森の中で迷子を見つけましてね
白上としては、そんな事があったことすらさっきまで忘れてましたが」
それにしてもあの時の女の子だったんですね…
大きくなりましたねぇ…
そんな風に嬉しそうに微笑む白上さんを見ていると、なぜだか僕と嬉しくなってきて
「…ちゃんと立派に神様やれてるじゃないですか、白上さん」
「えへへ…ありがとうございます」
照れ臭そうに笑う白上さん
だけどそんな風に笑っていた白上さんは、ふと遠くを見つめるような表情になる
「…昔は、別に珍しくもないことだったんですけどね」
そう言って目の前の僕以外誰もいない境内を見つめる白上さんの表情は、少し寂しそうで
「…知ってますか、海斗くん?
昔このあたりでは白上祭りっていう祭りがあったんですよ?」
「…そうなんですか?」
「はい
まぁ、もっとも白上は見たことがなくて、ミオから聞いたことがあるだけなんですが…」
白上さん曰く、その時にはたくさんの人が白上神社に来て、祭りを楽しんだとの事
そう語る白上さんの表情はどこかうかない
「…冥界の扉は80年前に封印されました
それによってこの地の人々が悲しむ理由は消え、同時にここにすむ理由もまた消えました」
だからいずれこの地から人は消えるかもしれません
この白上神社もまた歴史の中に消えてしまうかもしれません
これは仕方のない事です
そう語りながらも、白上さんの目にはどこか隠しきれない悲しみに満ちていて
「それでもせめて、一度くらいは白上祭りを見てみたかったですね
例えこのまま忘れ去られてしまう運命だとしても...」
そんな事をあまりにも寂しげに言うものだから
「…忘れたりなんてしませんよ」
「え?」
「僕は白上さんを忘れたりしません」
思わず口から出た言葉
だけど僕はそれを訂正する気は一切なくて
「それに夏色さんだって言ってたじゃないですか
白上さんの事を信じてるって
こんな時代でもまだそんな人がいるんです、白上神社が忘れ去られるのは当分先の事ですよ」
だから
「大丈夫です、白上さん
あなたはまだ一人じゃないんですから」
そう僕は白上さんにほほ笑む
そしてそんな僕を見た白上さんは…
「…そうですかね?」
「はい、勿論」
「………そうですよね、きっとそうですよね?」
そう言うと白上さんは立ち上がる
その瞳にはさっきまでの沈痛な色は全く残っていなくて
「ありがとうございます
少し後ろ向きになり過ぎてましたね」
「構いませんよ、そんな日もありますから」
それでこの時の話は終わる
その後特に白上さんがこの時の話題を蒸し返す事はなく、日々が過ぎていく
ただ
(「それでもせめて、一度くらいは白上祭りを見てみたかったですね」)
そう寂しげに呟く白上さんの顔が、何となく僕の頭に残るのだった
一応作中の舞台である磐ノ斗の設定をまとめておきます
磐ノ斗村の概要(表):
かつてこの地には地獄に繋がる穴があり、夜な夜なそこから鬼が現れては人を食べていたが、悲しむ人々の姿を見た通りかかった優しい神様がその穴を塞ぎ、鬼は地上に出てこれなくなった
人々は神様に感謝し祠を建てた
これが磐ノ斗村の始まりとされる
この昔話を始めとして色々な不思議な話や妖怪話がある古い村で、歴史自体はかなり古い
人口は4000人程度
特産品はお酒と和紙
また磐ノ斗織と呼ばれる伝統的な織物が有名
今では村の人口が減ってしまった為に開催されなくなってしまったが、かつては白上神社の祭神に感謝を伝える祭りである白上祭りが開催されていた
磐ノ斗村の概要(裏):
古代から現世と冥界の境界が不安定だった磐ノ斗の地は昔から化け物が跳梁跋扈する土地であり、元々人が住めるような場所では無かった。
しかし更に平安時代に起きた大地震によってついに現世へと繋がる大穴が開いてしまったことにより、このままでは日本そのものが冥界に飲まれてしまうと時の朝廷は本格的に対策に乗り出すことを決断
冥界の驚異を食い止めるために選りすぐりの陰陽師達を派遣し、それと並行して彼らの拠点となる町を築いたのが磐ノ斗村の始まり
白上神社はこの頃建立された神社で、白上神社の祭神は磐ノ斗の古くからの土地神
その後何百年もかけて磐ノ斗村に開いた大穴は埋められていき、80年前奇しくも太平洋戦争終結と同じタイミングで冥界の扉を封印する為の最後の戦いが勃発
長く磐ノ斗の地で先頭に立って戦い続けてきた白上神社の神主一族が全滅するも、そのかいあって扉が閉じられたという歴史がある。
その後戦いが終わったという事で村に残っていた人間は次第に村を去っていき、今では最低限の見張りを残し緩やかに滅びの道を辿っている。
ちなみに冥界の化物は一定以上の霊力が無ければ見ることが出来ず、また冥界の扉などという代物がある事が広まれば混乱は避けられない事から、代々朝廷や能力者の組織が綿密な情報操作を行ってきたため、上述の歴史を知っている人物は磐ノ斗村の住人であっても一握りであり、さらに最後の戦いから80年も経った今、実質この裏の歴史を知っている村人はもういないと言っても良い状況
ちなみに「磐ノ斗」という地名は村の伝承からの由来です
「磐ノ斗=岩の扉」です