まぁ身内しかいないところだったりすれば普通にため口なんですが、一応後輩なので対外的にそういうことが必要な場面では基本敬語です(多分今後そういう場面は出て来ませんが)
「海斗先輩、何やってるんですか?」
その声にふりむくと、そこには珍しい事にみこさんがいて
まさか図書室で彼女に出会うとは思ってなかった僕は普通に驚く
「みこさん?どうしてこんなところに?」
「ラノベを借りに来ただけですけど…
何を読んでるんですか?
随分根を詰めているみたいですけど…」
そう聞かれて一瞬何と答えて良いのか迷う
だけど、その間にみこさんは素早く机の上に広げられた資料に目を通し、僕の集めた資料の内容にあたりをつける
「磐ノ斗村の郷土史?
確かこの間の課題はもう終わってますよね?」
「いや、何というかこれは…」
「…それによくよく見れば白上神社関係の記録ばかり…
先輩ならフブさんもミオちゃんも答えてくれると思いますけど、どうしてそうしないんですか?」
「えっと、それは…」
「怪しい…何か企んでませんか先輩?」
みるみる内に逃げ場を潰され、気が付くと僕は怪訝そうな顔をしたみこさんに追い詰められている
そして、こうなってしまうともうどうしようもない
今更隠す方が怪しまれるので、僕は今読んでいた本のページをそのまま素直にみこさんに見せた
「何々…あれ?これって…」
「そう、白上祭り
昔磐ノ斗の地で一年に一度行われていたらしいお祭りです」
「それは知ってますけど…
それなら尚更、何でわざわざ隠そうとしたんですか?
そもそもどうしてフブさん達に聞こうとしなかったんですか?
当事者でしょうに」
「うっ、それは…」
思わず返答に詰まる
だが「ど う し て で す か ?」と迫るみこさんの圧力には逆らえず
「…実は、このお祭りを何とか復興出来ないかなと考えていまして…」
「白上祭りをですか?
どうしてまた?」
不思議そうに首を傾けるみこさん
そんな彼女に言いよどむ僕だったが
「先 輩 ?」
「………この間みんなで課題の為に出かけたの、覚えてる?」
「覚えてますよ、それで?」
「その時白上さんが言ってたんですよ
せめて一度くらいは白上祭りが見てみたいって」
「…」
「だから…もし叶うならその願いを叶えてあげたいなって
まぁ、一学生なんかにできる事なんてたかが知れてるけど、それでも何とかできる事はないかなって…ーー」
「ーーどうして先にそれを言わないんですか!?」
「へ!?」
いきなりのみこさんの態度の豹変に僕は驚く
しかし、そんな僕の様子などお構い無しにみこさんは脇に抱えていたラノベを適当なところに置くと、近くの机から椅子を引っ張り出してくる
「それで先輩、今どこまで進んでるんですか?」
「あの、みこさん
図書室では静かに…」
「そんな事は今どうでも良いんです
それで?」
まるで鬼のような迫力のみこさんに気圧され、僕は思わず答えてしまう
「…お祭りの場所やスケジュールの確保、各方面への伝達や宣伝、当日の人員の誘導等々、足りないものはいくらでもある
だけどそもそも、お祭りのメインイベントの、白上神社の祭神に捧げる巫女の神楽を舞える人材のあてがない
勿論、その為の楽隊のあても」
そう、白上祭りを開催するには、まず白上神社の祭神に舞いを奉納する巫女が必要だ
元々伝承にある地獄の穴を塞いでくれた神様への感謝を捧げるために始まったこのお祭り
その最大の特徴は日々の感謝を伝えるための巫女の舞い、そして神様が好むという金木犀の枝の二つを本殿に捧げるというもの
だが後者はともかく前者が難しい
「…みこは神楽舞えますけど、それじゃあダメですか?」
「難しいと思う…
そもそもが磐ノ斗に住む人々の感謝を神様に捧げるお祭りだから
前座としてならともかく、一番大事な最後の神楽については磐ノ斗出身者が踊る事が望ましい
それに調べてみた限り、この最後の神楽を舞う事はとても名誉な事だったらしくて、それこそ磐ノ斗の人みんなに認められるような人物でなければならないらしい
だからーー」
「ーー神主代理として他所から派遣されてるみこでは相応しくない、ですか…」
そう、それこそが一番の問題点
他が用意出来たとしても、肝心の巫女が用意できなければ白上祭りの復興は絶対に不可能
だけどそんな人材いるのだろうか? 神楽が舞えて、それでいて磐ノ斗の人達みんなが認めてくれるような…少なくともこの人なら文句はないと、そうみんなが言ってくれるような、そんな人材なんて...
「ーー分かりました、何とかします」
「…え?」
「じゃあちょっと呼んできます」
「え?え?」
困惑する僕をよそに、みこさんはててきぱきとスマホを取り出しどこかへと電話をかける
そして迎えに行って来ると図書室から出ていってしばし
「…え~っと、みこちに呼ばれて来たんだけど…」
そう言って状況が分からず戸惑っているのは先日お世話になった夏色さん
みこさん曰く、連絡した時にはまだ学校にいたので来てもらったとの事だが、まだ事情も何も知らないのでそういう反応になるのはまぁ仕方がない
だけど
「先輩」
「………いけるかも」
「何が!?」
そう思う理由はいくつかある
まず彼女はこの磐ノ斗の有力者の一族だ
少々汚い話になるが、やはり権力というのは強い
そしてそれが権力基盤との結び付きが強い田舎であるならなおのこと
そういう意味で、少なくとも彼女が地元の代表として振る舞う分には文句は出にくいだろう
それに彼女の郷土愛と信仰心は本物だ
先に権力の話をしたが、白上祭りの本質を考えると、やはり神楽を踊る人物は出来るだけこの磐ノ斗の地が好きで信心深い人間であって欲しい
その点も彼女なら問題ない
先日の磐ノ斗の案内は非常に堂に入ったものだったし、何より地元への愛がなければできないものだ
加えて白上神社でのあの発言
白上祭りで人々の感謝の心を伝える巫女として、これ以上ない逸材だろう
最後に彼女はチア部のエースだ
確かに神楽の経験は恐らくないだろうが、体を動かす事には事欠かないはずだし、そうであればみこさんが教えれば神楽も舞えるようになるかもしれない
そんな事を諸々の事情込みで僕とみこさんは夏色さんに説明する
すると夏色さんは思ったよりもあっさりと快諾してくれて
「…分かった
まつりに出来る事ならなんでも言って!」
「い、良いんですか!?」
「うん!
海斗くんにはお世話になってるし、何より白上様に日頃の感謝の気持ちを伝えられるって言うのなら願ったり叶ったりだよ!!
まつりに任せてよ!!」
そう言って胸を張る夏色さんの姿は非常に頼もしいもので
「話は聞かせてもらった!!」
いつかのように突然図書室のドアが開く
だが今回出てきたのはみこさんではなく星街さんだ
「面白い事してるじゃん!
すいちゃんも混ぜてよ!!」
そう言ってウィンクをする星街さん
そして、僕らの話を聞いていたという彼女は、当日の神楽の為に必要な楽隊の準備をすると言い出した
「出来るんですか!?」
「勿論!
すいちゃんを誰だと思ってんの?
ネットの音楽活動のツテを辿れば用意できるはずだよ!!」
そう言って笑う星街さん
そして気が付けば、白上祭りの復興の為のメインにして最大の問題が片付いていて...
「…ね?何とかするって言ったでしょ?」
流石にこの場で外部への体裁を取り繕う意味もないと判断したのか、敬語を止めたみこさんが話しかけてくる
「…正直助かったよ
ありがとう」
「ふふん!えりーとですから!!」
「本当に感謝してる
…でも、どうしてここまで?」
「う~ん、強いて言うなら最近フブさんが楽しそうだからかな?」
「?どういうことですか?」
「…そのままの意味だよ」
そう言ってみこさんは少し遠くを見ながら続ける
「ねぇ海斗、海斗はフブさんのことどう思う?」
「どう…?
う~ん、明るくて優しい人だと思うけど…」
「でもね、実はフブさんって海斗が来るまではあんまり笑わない人だったんだよ?」
「そうなんですか?」
意外な言葉に僕は驚くも、みこさんは続ける
「って言っても元の性格自体は同じなんだけどね
でもみこが初めて会った時はいつも辛そうな顔をしてて…
ミオちゃんによると、10年位前の失敗を引きずってるって話だったんだけど…」
「そんな事が...」
「だからね、みこは海斗に感謝してるんだ
だって最近のフブさんは本当に楽しそうだから
そして、だからこそみこも手を貸すよ
一緒に白上祭りを復興してフブさんを驚かそう!」
「…そうだね
改めてよろしく、みこさん!」
(………それに、個人的に女の子の為に頑張る男の子ってのいうは、嫌いじゃないしにぇ?)
「?どうかしました?」
「ううん?何も?」
そう言って口笛を吹き始めるみこさんだったけど、おかげで白上祭りの復興に向けてようやく一歩を踏み出せる
正直なところ無謀じゃないかと思ってたそれは、気が付くと困難ではあっても手が届きそうなところに降りて来ていて
「…さぁ、後はみこ達が頑張るだけ!
それじゃあ、海斗!!」
「えぇ!
夏色さん、星街さん!」
「大丈夫!チア部のエースの実力、見せてあげる!!」
「楽隊の方は任せて!最高の音楽を用意するからさ!!」
皆気合いは十分だ
だからこそ、必ず成功させてみせる
かつて失われた祭りを現代に甦らせる
僕らの手で白上祭りを復興させ、白上さんに磐ノ斗の人達の想いを届ける
そんな途方もない一大プロジェクトに向けて、僕らは静かに、それでも確かに動き始めるのだった
ちなみに白上祭りが廃れたのは、80年前の戦いで白上神社の神主一族が全滅したのが主な要因です。基本彼らが主な所を取り仕切っていたので、そんな一族が全滅してしまった事で色々な記録が散逸し、また彼らの代わりに祭りを主宰できる人物が当時の磐ノ斗にはいなかったので途絶えてしまいました。