白上縁起恋灯絵巻【完結】   作:DX鶏がらスープ

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ここから主人公達の長い一日が幕を開けます


祭りの始まり

 

「待って!待って下さい!」

 

こちらに背を向けてどこかへ行こうとする人々に私は叫びます

みんな知ってる人達です

だけど誰も振り返ってさえくれません

静かに何も言わず去っていくみんなに振り向いて欲しくて…だけど、誰も足を止めません

 

「お願いです!待って下さい!!」

 

そう言ってみんなを追おうとして…そこで私は自分の体が動かない事に気が付きます

 

「っ!な、なんで!?」

 

どれだけ必死に体を動かそうとしても私の体はぴくりとも動きません

まるで自分の体が石にでもなったかのようにそこから動けなくなって…

 

このまま一人で置いてけぼりにされたらどうなってしまうのだろう

そう想像した瞬間に得体の知れない恐怖に捕らわれます

 

だからただひたすらに懇願します

置いていかないでと

白上に悪いところがあったのなら治すからと

何でもするからと

 

必死に叫びます

それでもみんながこちらを振り返る事はありません

そして、私にはただただそれを眺めていることしかできません

それがあまりにも辛くて、悲しくて…

 

「み…みんな…」

 

気が付くともう周りには誰もいません

どこまでも続く闇の中、自分が一人ぼっちになってしまった事に気が付いた私は、その場に崩れ落ちました

 

「置いて…いかないで下さい…

白上を…白上を…」

 

ーーひとりぼっちに、しないでください…

 

ぽたりと一滴の涙が頬を伝います

それを皮切りに私は思わず嗚咽をもらしてしまいます

しかしそんな私の悲しみも嘆きもどこにも、誰にも届きません

誰にも聞かれる事なくあたりに溶けていきます

そうして私はただ真っ暗な世界の中心で一人失意のどん底に落ちる事しかできなくて…

 

 

 

 

 

(…フ…キ!…ブキ!!)

 

「う~ん…」

 

「フブキ!起きて!!」

 

布団を揺さぶるミオの声で目を覚ます

一瞬ここがどこだか分からずあたりを見回しますが、すぐにいつもの白上神社の本殿であると気が付きホッとします

 

(とすると、さっきのは夢ですか…)

 

朝から嫌な夢を見たものだと辟易しながら頭を振りますが、そのあたりで白上を起こしたミオの様子が少しおかしい事に気が付きます

何というか…少しそわそわしているというか、焦っているというか…

 

「どうしたんですか?」

 

不思議に思って聞いてみると、即座に手を掴まれます

そして、驚く間もなくそのまま白上を連れて走り出したミオに「え、何?何なんですか?」と聞きますが、それに対する返事はひどく曖昧なものでした

 

「何なんですかじゃないよ!大変なんだよ!!」

「ちょ、ちょっとミオ!一体どうしたんですか!?」

「とにかく来て!来れば分かるから!!」

 

そう言って白上の手を引っ張るミオに慌てて付いて行きます

そして、一体何が起きているのだろうと内心混乱しながら辿り着いた境内を見て白上は絶句しました

 

「!?な、なんですかこれは!!」

 

そう叫ぶ白上の目に入ったのは見渡す限りの人の群れでした

 

境内いっぱいに押し込まれた参拝客達

普段は1日に2、3人程度の人間しか来ない白上神社の境内にはあまりにも似つかわしくない大勢の人々に、白上は瞠目します

 

(な、なんで急にこんな!?)

 

あまりの人の多さに驚く白上でしたが、異変はそれだけではありません

そう、境内の真ん中に設置された特設の舞台

昨日の時点では間違いなくなかったはずの木製のそれは、簡素ながらしっかりとした造りの立派なもので、しかも軽く相撲くらいはできそうな程に大きく広いもの

いつの間にか人混みに紛れてさも最初からありましたよという顔をしていますが、そんなものがあった記憶なんて白上にはありません

 

「本当に何が…?」

 

目の前の光景に戸惑う白上

だけど隣にいるミオは笑っています

そして、まるでちょっとしたイタズラが成功したかのような顔でミオは言いました

 

「いや~あらかじめ聞いてたとは言え、流石に実際に見ると壮観だよねぇ

正直うちは海斗くんの事見直したよ」

「あらかじめ聞いていた?海斗くんの事を見直した?

ミオ、何か知ってるんですか!?」

 

思わずミオの顔を見るも、彼女はただいたずらに笑うだけです

とは言え、これ以上白上を困惑させる気はないのでしょう

ミオは肩をすくめながらも続けました

 

「まぁ、うちもちょっとだけ協力したからね

とは言え、詳しい事は本人から話を聞いた方が良いんじゃないかな?

ちょうど来たみたいだしね」

「本人?」

「ーーえぇ、ここからは僕が説明します」

 

その言葉に振り向くと、そこにはさっき名前が上がった海斗くんの姿があって

 

「少し、歩きませんか?」

 

久しぶりに会う彼は、そう笑顔で提案するのでした

 

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

 

「まったく…一体いつから準備をしてたんですか?」

「以前課題学習でここに来た事がありましたよね?

それから少しして、ですかね」

「全然気が付きませんでしたよ

おまけにミオに白上への誘導や誤魔化しまで頼んで…」

「すみません、せっかくだから驚かせたかったんです」

 

そんな会話をしながら僕らは神社のある山の麓の道を歩く

いつも通る何の変哲もない道

だが今日はそんないつもとは違い、たくさんの出店がそこらじゅうに立ち並び、人々が行き交っていた

 

わたあめに焼きそばにりんご飴

射的に輪投げにくじ引き等々…出店の数と種類は多岐に渡り、それらを人々は各々の形で楽しんでいる

買ったばかりのたこ焼きを頬張る人もいれば、慎重に射的の的を狙って姿勢を調整している人もいる

金魚すくいに一喜一憂する人もいれば、ベビーカステラの袋を分け合う人達もいる

そこに老若男女の区別はなく、皆一様に楽しそうだ

そしてその中には磐ノ斗の地に住む人々の姿だけでなく、外からやって来た人達の姿も多く見られ、中には明らかに海外からやって来たのであろう人達の姿もちらほらと見られる

 

そんな光景を見ていると、思い出すのはここまで漕ぎ着ける為に駆けずり回った日々、さながら地獄のような強行軍の日々だ

 

(…よく頑張ったよな、我ながら)

 

最初は本当に大変だったのだ

 

みこさんの機転と夏色さん、星街さんの協力で、白上祭りで一番重要なイベントの開催の目処は何とかついたとは言えそれ以外の用意がまったくできていないという状況は変わらない

 

だから僕達は地域の人々の理解と協力を得るために磐ノ斗じゅうを走り回った

勿論、メインの夏色さんの神楽の練習も並行してである

 

学校に商店街に村役場に…思い付く限りの場所を駆けずり回り、説明と打ち合わせを繰り返した

 

その過程で難色を示されることも多かった

時には高校生程度に何ができると鼻で笑われた事もあった

 

それでもみんな諦めなかった

白上祭りを復興させる、その一心で各々ができる事を精一杯に頑張った

そして、気が付けばそんな僕らの行動が周囲の人達から少しずつ受け入れられるようになっていった

 

頑張ってね、と応援してくれた人がいた

高校生がこういう活動をしているようだと、周囲の人々に伝えてくれた人がいた

 

それを聞いて倉に残っていたという戦前の白上祭りの神楽のビデオを提供してくれた人もいたし、僕達の話を聞いて白上祭りの復興は地元の活性化や村起こしに使えるかもしれないと判断し、協力を約束してくれた人もいた

 

気付けば多くの人々が協力してくれるようになっていたのだ

 

また、神楽の完成度がある程度仕上がったところで星街さんが夏色さんの練習風景をネットに上げる事を提案してきたのだが、それが受けた事も良かった

 

元々この活動の初期の頃から、星街さんは音楽のツテを辿りながら、自分のネット活動の傍らで地道に祭りの宣伝をしてくれていたのだが、そんな下地があった事もあって夏色さんの動画は瞬く間に広がり、白上祭りや白上神社についての問い合わせが村役場に殺到

 

そしてこれにより白上祭りの復興の有用性が行政にも認識され、遂に僕らは村役場の正式なバックアップをも勝ち取ったのだ

 

こうして最初は僕の妄想に過ぎなかった白上祭り復興計画は、みこさん達のおかげで最低限の体裁が整い、気付けばたくさんの人達の力添えのおかげでより現実的で洗練されたものになり、遂には行政まで動いてくれた事で完全な形で実現した

 

失われた祭りが80年ぶりに正式に復活したのだ

 

(まさか本当に実現するとはね…)

 

協力をしてくれた皆や村の人々には本当に感謝の念が尽きない

だがそれはそれとして、今気になるのは白上さんの反応だ

 

そもそも僕がこんなことを始めたのは白上さんに祭りを見せてあげたいと思ったからだ

 

あの日、神社で寂しそうにお祭りを見てみたかったと言っていた白上さんの様子が気に掛かっていたからだ

 

(喜んでくれるといいな…)

 

そう思いながら横目でちらりと隣に視線を向ける

 

色々と言いたい事はあるだろうが、ともかく一度外の様子を見て欲しい、と連れ出した白上さん

今はさっきよりは落ち着いているみたいだけど、果たして…

 

「…ねぇ、海斗くん」

「はい」

「みんな楽しそうですね」

 

白上祭りのメインイベントである舞いの奉納まではまだまだ時間がある

だからそれまでは皆神社の周りで各々好きに時間を潰している訳だが、そんな彼らの顔は明るい

道行く人達はみんな笑顔だ

それを確認して僕は答える

 

「そうですね」

 

「若い人も年を取った人も、男の人も女の人も関係ない…

いまここにいる人達はみんな楽しく過ごしてる

そうですよね?」

 

「はい、きっと」

「そっか…それならきっとこのお祭りは成功ですね」

 

そう言って改めて僕の方に向き直る

その顔には心からの喜びと安堵が満ちていて

 

「ありがとう、海斗くん

きみのおかげでこんなにも素敵な光景が見られました

この光景が見られただけでも白上は満足です」

 

そう言って微笑む白上さん

 

だけど何故だろう、何故だか僕はそれが気に入らなかった

 

「…何か勘違いしてるみたいですね、白上さん」

「え?何がです?」

「このお祭りは白上祭りです

白上神社の祭神に磐ノ斗の民が日々の感謝を伝える為のお祭り

そうですよね?」

「え、えぇ

そうですね」

「それなら白上さん、他ならぬあなた自身が楽しまなきゃ意味がないじゃないですか」

 

そう言って僕は白上さんの手を握るとそのまま歩き出す

 

「か、海斗くん!い、いきなり何を!?」

「…このお祭りの復興は僕だけでは絶対にできなかった事です

みんなの力があったからこそできた事です」

 

だからこそ知って欲しい

このお祭りがどれだけの人達の思いで出来ているのかを

みんながどんな思いでそれを作りあげたのかを

 

そして楽しんで欲しい

それこそ白上さん自身にも目一杯に

いつも頑張ってる神様に、少しでもその努力の見返りを受け取って欲しい

 

だから

 

「行きましょう、白上さん

お祭りは始まったばかりなんですから」

「あ…」

 

どこからか祭り囃子が聞こえる中、僕は白上さんの手を握ったまま祭りの喧騒の中へと踏み込んでいく

80年ぶりに甦ったその光景の中を、僕らは特にあてもなく目についた場所から場所へと片っ端から回っていく

 

だけど、互いにはぐれそうになるほどの人混みの中で、僕の握った手を白上さんが離す事はなくて…

 

…そうは言っても白上さんの姿が普通の人には見えない都合上、残念ながら僕が彼女にできる事は少ない

せいぜい出店で目についたものを買ってあげたり、白上さんが気になると言った場所に連れていくことくらいだ

 

それでも彼女はとても楽しそうで

人目につきにくい近くの川原で美味しそうにりんご飴を頬張る白上さんを見ていると、何故だかこっちまで嬉しくなってくる

 

こうして祭りの時間は賑やかに、そして穏やかに過ぎていく

だがどんなものにも終わりはある

やがて日が暮れ白上神社の境内の石灯籠に灯りが灯る

そしてその頃になると、それまで思い思いの時間を過ごしていた人々も、境内へと集まってくる

 

その流れに乗って神社に戻った僕は、大神さんのところに行き、白上さんと一緒に本殿の一番景色が良いところに行くようにお願いする

 

そしてすぐに向かった詰所の中には、直前まで音響設備の点検と楽曲の打ち合わせをしていた星街さんと、リハーサルや演者の着付けの準備などに奔走していたみこさん

そしてそんなみこさんの手によって美しく着飾られた、とても綺麗な着物を身に纏った夏色さんがいて

 

「遅い!本当にギリギリだにぇ!!」

「すみません…

でも、何とか間に合ったみたいだね?」

 

謝る僕に、星街さんがため息をつく

 

「まったく…

後ちょっと遅れてたら海斗なしで始めるところだったよ?」

「ごめんごめん

それで星街さん、みこさん

首尾の方は?」

「上々!すいちゃんの方はいつでも大丈夫だよ?」

「こっちもOKだにぇ!

もうお客さん達もたくさん来てるよ!!」

 

そう元気よく答えてくれる二人の反応に頷きつつ、僕は最後の一人である夏色さんの方を見る

すると目があった彼女はニッコリと微笑んでくれて

 

「それで夏色さんの方は…って聞くまでもないかな?」

「大丈夫!いつでもやれるよ!!」

「そっか

それなら最後に僕から一ついいかな?」

 

そこで言葉を一旦切ると、僕は目の前の三人に向けて頭を下げる

 

「まずはお礼を言いたい

三人とも、僕のお願いを聞いて白上祭り復興を手伝ってくれてありがとう

本当に…本当に感謝してる

みんなここまでよく頑張ってきたと思う」

 

そしてその上で

 

「これが最後のイベントだ

これさえ成功すれば白上祭りは完全な形で復活するし、逆に失敗してしまえばこれまでの僕らの努力は完全に無駄になる」

 

でも、僕らならきっと出来る

今ならそう確信を持って言える

 

「だからみんな!必ず成功させよう!!

僕らのこれまでの全てをここで皆に見せつけよう!!」

 

そんな僕の言葉に三人もまた喚声を上げる

そして遂に時刻は白上祭りの最大にして最後のイベントの始まる時刻を向かえる

 

 

 

――祭神へと捧げる巫女の舞いが始まる

 

 

 

 




イベントとしての白上祭りのクライマックスです
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