すっかり日が落ち、暗くなった神社の境内に明かりが灯される
それは元々配置されている石灯篭のものであり、またこの日の為に急遽各所に設置された篝火のものでもある
いずれにせよ、それは薄暗い神社を蛍光灯の灯りとは違う柔らかで温かみのある光で包み込み、
それを見た人々の内のいくらかは幻想的な雰囲気に小さな歓声を上げる
だけど、それもほんの僅かな間の事
やがてどこからか笙の音色が聞こえてくると、境内に集まった人々のざわめきは次第に静まっていく
そして、まるでそれを見計らったかのように厳かな雅楽の演奏が始まると共に、
まつりは境内の中心に設置された舞台へと向かって歩き出した
今日の朝から始まった白上祭りも遂に終盤
この白上様への神楽の奉納という最も重要な儀式を一目見ようと集まった人々の視線の真ん中を歩き、
やがてまつりは舞台の裾へとたどり着く
そして舞台に上がると共にピタリと止まる喧噪
張り詰める空気
舞台を照らす篝火の薪がパキッと音を立てて割れ、境内の全ての人々の視線がまつりへと集中する
だけど、今更そんなことで怖気づいてたりなんてしない
プレッシャーに押しつぶされたりなんてしない
だってまつり達は今日この瞬間の為に頑張ってきたから
みんなで必ずこの祭りを成功させるって誓ったから
だから負けない
絶対にやり切って見せる
そんな決意と共に、まつりは楽隊の演奏に合わせて舞い始めた
(…ねぇ、神様
見てますか?)
ひらりと裾を翻してまつりは舞う
ステップを踏むたびに手に持つ鈴がシャンッと音を立て、その端に結わえられた鮮やかな色の紐が優美な軌跡を描く
舞いながら視界の端に映るそれを見て思い出すのは、かつて子供の頃に見た不思議な狐火の事
迷い込んだ深い森の中で自身を導いてくれたそれが、まるで今この瞬間も自身の周りを漂っているように思えて、まつりは思わず微笑んだ
(あの時からまつり、こんなに成長しました
こんなに大きくなれました)
鼓の音がリズムを取り、竜笛の音色が響き渡る
そしてそれに合わせてまつりもまた体を翻す
みこちとの猛特訓の末に身につけた神楽は今や自身の血肉に溶け込んでいる
だからこそ体はまつりの思った通りに動くし、何よりこれは神様に捧げるために必死に練習したものだ
であれば失敗などあり得ないし、するわけがない
篝火に照らされたまつりの影が舞台を踊り、流れ出る汗が一歩動く度に弾ける中、それでもまつりは舞い続ける
そして、息を呑む観客達の様子を他所にまつりの心の底から溢れだしてくるのは、あの時自分を助けてくれた神様への深い感謝と、そんな神様の為に舞いを捧げる事ができるという誇らしさだ
(全部あの時神様が助けてくれたおかげです
まつり達をいつも見守ってくれているおかげです)
だからこそ全力でやりきる
ありったけの感謝の気持ちを込めて
まつりは舞う
だってこれは神様に捧げるための舞いなのだ
神様に喜んでもらうための神楽なのだ
だからこそ、届けと
伝われと
この磐ノ戸のみんなの想いを、どうか受け取って欲しいと
そんな想いを原動力にまつりは踊り続け、ついにまつりは神楽を舞いきった
「はぁっ…はあっ…」
息を切らし、だけどそれを周囲に悟られないように平然とした顔をする
正直な事を言えば、その場に座り込みたい
何度も練習したとはいえ、それでも身体中が疲労を訴えているし、服の内側は汗でびしょ濡れだ
それでもこの磐ノ戸の地の代表として、栄誉ある白上祭りの神楽の踊り手として、まつりにはそれ相応の振る舞いをする義務がある
それに何より、神様にカッコ悪いところなんて見せられない
だからこそ、静まり返った舞台の上でまつりはそれでも意地を張り続ける
疲労困憊で今にも倒れそうな体に鞭打って、それでも余裕と自信に溢れた所作で、見てくれた人達に一礼する
直後周囲から沸き起こる拍手の嵐
そのあまりの勢いに一瞬唖然とするまつりだったけど…
すぐにそれも笑顔に変わる
確かにやりきったんだという達成感が胸の内から溢れてきて、何だか泣きそうになってくる
でも、まだ終わりじゃない
だからまつりはもう一度だけ周囲の人々に礼をすると、舞台から下りる
そしてあらかじめ用意されていた三方を手に取ると、本殿の前まで進み、それを掲げた
白上神社の祭神が好むという金木犀の花がついた枝
それが納められた三方を本殿に捧げながら、まつりは自身の内心でも彼らへの感謝の言葉を告げる
(改めて、ありがとうございます神様
あの時助けてくれて
いつもまつり達の事を見守ってくれて
本当に…本当にありがとうございます)
そして短い祝詞を詠む
それで白上祭りは完全に終わる
その瞬間にこれまでの様々な場面がまつりの脳裏を掠める
みこちに呼び出されて白上祭りの復興を手伝う事になった日の事
住民達の協力を得るためにみんなで走り回った事に、みこちに神楽の練習をしてもらった時の事
中々協力が得られず落ち込んだ日の事に、過酷な練習に心が折れそうになって泣いた日の事
少しずつ理解を得られていった日の事に、初めてみこちに合格をもらった日の事
辛い事もあったし苦しい事もあった
それでもまつり達はここまでこの瞬間の為に必死で頑張って来て…
だけどそんな日々ももう終わる
夢のように突然始まった日々が、今ここにまた夢のように終わる
その事に、一欠片の寂寥感を感じないかと言われれば嘘になる
だけど
(…きっと、これで良いんだよね)
だってまつり達は頑張ったんだ
やりきったんだ
だったらもう思い残すことなんてない
まつり達がうまくやれたかどうかは、後に続く人達が決めてくれるだろう
(後は神様が喜んでくれたかどうかだけだけど…)
それを直接聞くことは出来ない
だから、この祭が本質的な意味で成功したのかどうかは誰にも分からない
それだけが残念だと、そう思った時だった
(ーーありがとう)
思わず振り返るも、そこには誰はいない
金木犀の枝が納められた三方がちょこんと置かれているだけだ
だけど、それでも確かに自分には誰かの声が聞こえた気がして…
(…まぁ、いっか)
先程聞こえたものが何なのかは分からない
それでも自分達は間違いなくやり遂げた
失われていた祭りを復活させたのだ
今はそれで十分だ
そう思いながら、まつりは境内の人達に一礼をすると、詰所へと退出していく
そして祭りは終わる
まつり達が80年の時を超えて復活させた白上祭りは、今この瞬間をもって静かにその幕を下ろすのだった
・・・・・・
「まつり~!お疲れ様~!!」
「すごいよまつりちゃん!とっても綺麗だった!!」
そう言って詰所に帰ってきた夏色さんに飛び付くみこさんと星街さん
そしてそんな二人に苦笑しながらも、僕もまた夏色さんの事を褒め称えた
「立派だったよ、夏色さん」
「ありがとうみんな!
まつり、ちゃんと舞えてたかな?」
その言葉に僕は頷き、それにみこさんと星街さんも追従する
「もちろん!
きっと教えたみこ以上に上手かったよ!!
うぅ…まつりみたいな立派な弟子を持てて、みこは嬉しいにぇ!」
「そうそう!本当に良かった!!
いっその事、このままアイドルとか目指してみない?
きっとまつりちゃんなら出来るって!!」
「あはは…そんなに褒めてもらえると悪い気はしないな~」
照れ臭そうに頬をかく夏色さん
そんな彼女の姿を見ていると、ふと本当に祭りが終わってしまったのだという実感が湧いて来る
そしてそれと共に、今日までこの日の為に走り回ってきた日々を思うと、少しだけ寂しい気持ちが沸き上がって来る
(あんなにも苦労したのに、終わるのは本当にあっさりだったな…)
少しだけ感傷的な気分になるが…それでも、それ以上に僕の中に沸き上がるのは、やり遂げたという満足感と充足感だ
改めて、僕らは見事失われていた祭りを復興するという難行を達成する事が出来た
その事実を思えば、祭りの終わりに感じる一抹の寂寥感など些細なものだし、むしろここまで張り詰めていた分の疲労がここで一気に湧いてくる
だからこそ、僕は改めてみんなに労いの言葉をかけた
「…まぁ、何はともあれ本当にお疲れ様でした」
「うん、海斗くんもお疲れ様!」
「いやぁ~、それにしてもすいちゃん達凄いこと成し遂げたね!
これって通知表にも書けるんじゃないの?」
「確かに...
廃れていた村の祭りを復興させたっていうのは、受験や就職の時には実績として書けるかもしれませんね」
「え、何それ?
みこ達の受験が楽になるってこーと?
最高じゃね?」
「みんなで頑張ったかいがあったね!みこち!!」
僕らは互いの健闘を称え合う
この中の誰一人欠けても、今夜の結果には辿り着けなかった
だからこそ互いに喜びを分かち合う
今夜の奇跡の実現をみんなで祝う
そこには確かに、共に何かを成し遂げた者達だけが持ちうる絆があった
そんな時だ
(海斗くん、ちょっと良いかな?)
振り向くと、近くの暗がりに大神さんがいる
そして、僕の邪魔をしてしまった事を詫びるように手を合わせながら彼女は続けた
(…忙しいところ本当に悪いんだけど、少しだけ顔を貸してもらえない?)
(え?でも…)
(…良いじゃん、行ってあげなよ海斗)
戸惑う僕に、そのやり取りを見ていたみこさんが耳打ちする
(しかし、みこさん…)
(上手い事言い訳しといてあげるから、ね?)
そう言うが早いが他の二人に気付かれないように、僕の背中を押すみこさん
加えて夏色さんや星街さんとも話しつつも、さりげなく二人の視線から僕を反らすように誘導するその横顔には、早く行けとしっかり書いてある
だから僕はその厚意に甘えることにし、そっとその場を抜け出し
(…ありがとうございます)
そう内心お礼を言いながら、大神さんに案内されるままに神社の奥へと足を向ける
・・・・・・
「…あれ?海斗くん?」
「こんばんは、白上さん」
白上神社の裏手
誰もいない本殿の裏に、白上さんは一人静かに座っていた
秋の澄んだ夜空に浮かんだ青白い月が地上を照らす
その光を受けた神社の裏手は、どこか神秘的な静謐さと神聖さを纏い、まるで聖域のような空間となっている
そして、そんな場所の中心にいる白上さんの姿は、普段よりも神様としての神秘性が強く出ているように感じる
月光を受けて艶めく美しい白い髪に、こちらを驚いたように見つめるまるで澄んだ湖の底のように深い青緑の瞳
ピョコピョコと動く狐の耳と手触りの良さそうな立派な尻尾もまた、淡い月の光を受けて今更のように見ている僕に非現実的な感覚を与えてくる
(今更だけど…)
神様なんだよな、白上さんも
僕がそんな事をぼんやりと考えていると、不思議そうな顔をしながら白上さんが僕に話しかけてきた
「白上祭りの後片付けとかで忙しいのでは...?」
「あぁ、そういう事は基本的に専門の人がやってくれますので」
さらりと嘘をつきながら、僕は白上さんの近くへと歩み寄る
そして、そんな僕の言葉に納得したのか、白上さんも特に何も言わずにそれを見ている
「隣、座っても大丈夫ですか?」
「えぇ、問題ないですよ」
では失礼して…と、僕は白上さんの隣に座る
だがそれ以上白上さんが何か話す事はなく、僕もまた何も話すことはない
周囲に沈黙が流れる
とは言え、それは別に息苦しいものではない
何故なら僕も白上さんも互いの事を邪魔だとも迷惑だとも感じていないから
ただ今この瞬間は互いに口に出す言葉がない
それだけだから
いまだ祭りの余韻が残る夜に、それでも僕らがいるこの本殿の裏だけはとても清涼で静寂な空気が流れる
静まり返った夜に鈴虫の音色がひそやかに広がり、白い月が静かにあたりを照らし出す
そんな中でしばらく僕らは無言で座っていた
とは言え、そんな時間も長くは続かない
ポツリと、静謐な夜に白上さんの言の葉が静かに落とされた
「………海斗さん、改めて今日はありがとうございました」
その言葉に横を向くと、白上さんはじっと月を見つめていた
その視線はどこか遠く、ここではないどこかを見ているようで...だけど僕の視線に気が付いた白上さんは、パッと明るい笑顔を浮かべる
「まさか白上祭りをこの目で見られるなんて、私思っていませんでした
本当に感謝してます」
「いえいえ、僕が自分の都合でやった事ですから」
「だとしてもです
正直こんなに白上神社に人が来てくれたのは久しぶりで…」
それにたくさんの人々が白上にお礼を言ってくれました
そう言って、白上さんは嬉しそうに笑いながら視線をまた空へと向ける
「普段はあまり神社に来られない方もたくさんお礼を言って下さって…
特にまつりちゃんはあの時助けてくれてありがとうって、いつも見守ってくれてありがとうって、言って…くれて…」
そう言葉を続けようとする白上さん
だけど、その言葉は続かない
代わりにポタッポタッと白上さんの足元に何かが落ちる
しかし白上さんは止まらない
頬を伝う銀の雫をそのままに、ぎゅっと拳を握りしめながら、それでも白上さんは無理に言の葉を紡ぎ続けた
「私は…私は、こんなにも、沢山のお礼をもらっても…良いのでしょうか?
私は、こんなにも…満たされてしまって…良いのでしょうか?
私は…私は………」
ーーこんなにも、幸せでも良いんでしょうか?
はらはらと涙を流す白上さん
その瞳に浮かぶのは、喜びというよりは困惑
本当に自分がこんなにもたくさんの想いを受け取っても良いのだろうかという躊躇い
自分にこれだけの感謝を受け取る資格があるのだろうかという迷いだ
だけど、そんなもの今更迷う間でもない
だからこそ、僕は白上さんに優しく告げる
たった一つの事実を...彼女が忘れている大切な事を、改めて教えてあげる
つまり
「当たり前ですよ
だってあなたは白上フブキ…
この白上神社の偉大な神様で、この磐ノ斗の地の守り神
誰よりもがんばり屋で誰よりも優しい…そんな僕らの自慢の神様なんですから」
そう告げると、僕は白上さんから視線を切って空を見上げる
するとそこにあるのは一面の星空
元々ここは星の綺麗な土地だけど、空気の澄んだ秋の夜空はまさに格別の一言で、都会では絶対にお目にかかれない程の…それこそ空が落ちてくると錯覚する程のたくさんの星が煌めいている
特にこの時期だと俗に言う秋の四辺形、ないしペガススの四辺形と言われる四つの星がよく見える
遥かな昔、自在に空を駆けたという天馬の姿を夜空に幻視する
だから僕はそうやって星を見つめ続けた
隣にいる白上さんが泣き止むまで
今日までみんなの為に頑張ってきた優しい神様の涙が止まるまで
あの日、彼女が僕に泣いて良いよと言ってくれた日のように、ずっと…
「…すみません、見苦しいところを見せてしまいましたね」
「いいえ、そんなこと思ってませんから」
しばらくして落ち着いた白上さんに僕はそう答える
だが、それに対して白上さんは少し訝しげだ
「…疑問なんですが、海斗くんはどうしてここまでしてくれるんですか?」
「と言うと?」
そう問い返すと、白上さんは何故だか慌てたように続ける
「ほ、ほら!今回の事だってそうですよ!!
ずっと昔に廃れた白上祭りの復活なんて、普通は出来るはずがありません!
それでも頑張って、あげく実現までしてくれて…
勿論気持ちはとても嬉しいんですけどなんと言うか…海斗くんは白上に甘過ぎるんですよ!!」
「…あぁ、そういう事ですか」
何となく白上さんの言いたい事を理解する
だけど、それに対する僕の解答は既に決まっている
「…別に大した理由じゃないですよ
端的に言えば白上さんに恩返しをしたいっていうだけですから」
そう答えながら思い出すのは、あの夏の日
出会って間もない白上さんと一緒にお出かけをした日の事だ
「本当に…本当に感謝してるんです
そしてだからこそ、僕もまたその恩を白上さんに返したい」
そうなのだ
突き詰めれば結局のところ僕の行白上さんに対する行動理念というのは、これに尽きる
自分が受けた多大なる恩を白上さんに返したい
あの時白上さんが僕の力になってくれたように、今度は自分が白上さんの力になりたい
僕の事を救ってくれたように、僕も白上さんの願いを叶えてあげたい
結局のところ僕が動く理由なんてそれだけなのだ
「だから僕は白上さんの為ならなんだってしたいと思ってます
それで白上さんが笑ってくれるなら、僕にとってもそれは幸せな事ですから」
そう告げると、気が付くと白上さんは真っ赤になっていて
「ど、どうしたんですか?」
「な、何でもありません!」
流石に心配になった僕だったが、白上さん本人がそういうのならそれ以上は追及できない
だけど
「…まったく、海斗くんは本当にお人好しですね」
そう言いながらもどこか嬉しそうな白上さんの笑顔が
月の光を受けて淡く輝くような彼女の優しい瞳が、どうしてかいつもより幻想的で美しいものに見えて
「でも…ありがとうございます
嬉しいです」
「…」
「あれ?どうしたんですか、海斗くん?」
「…何でもないです」
…どうしてだろう?
白上さんの顔はここ数ヶ月で見慣れているはずだ
なのに、何故だかまともに顔が見れない…
元々綺麗な人だとは思っていたけれど…
それでもここまでだっただろうか?、と目の前の白上さんと自身の認識の誤差に僕は戸惑う
「本当に大丈夫ですか?」
「…え、えぇ」
「…あ!
もしかして今日までの疲労が今出てきたとか!?
大変じゃないですか!急いで休まないと!!」
「い、いえ
別に体調は問題なくて...」
勝手に勘違いしてそのままどんどん突き進んでいく白上さん
そんな彼女に必死で誤解であると説明するも、完全にテンパってしまった白上さんは止まらない
「嘘です!
だってさっきから顔が真っ赤じゃないですか!!
も、もしかして熱もあるとか!?」
「だ、だから大丈夫ですって…!」
流石に反論しようと白上さんの方をちゃんと見る
すると、目の前にこちらを心の底から心配している様子の白上さんの顔があって
「…私だって海斗くんと同じです
海斗くんが喜んでくれるなら私も嬉しいですし、逆に辛そうならこっちまで辛くなっちゃいます」
「あ…」
「だから、休める時はしっかり休んでください
そして十分に休んだら、また元気な顔を私に見せてください
私は、きみの笑ってる顔が大好きなんですから」
ね?、と優しく微笑むその顔に、もう僕は何も言えなくなってしまう
そして、それは目の前の白上さんもまた同じ
いきなり顔を赤くしたかと思うと急に動かなくなる
満月が照らし出すひとけのない本殿の裏
お互いが顔を赤くしながら何も話さないその場所は、まるで時が止まっているかのようで...
「あ、あの白上さん…」
沈黙に耐えきれず、思わず僕は口を開く
だが何を言えば良い?
何を言うのが正解だ?
ぐるぐると同じところを回り続ける思考に、やけにうるさい心臓
完全に煮詰まってぐちゃぐちゃになった思考は、自分でも思いもよらないセリフをとっさに出力しようとして...
「僕は…」
何も分からないし、何も考えられない
だけど、自分の心の中にある自分でも気付いていなかった何かが開く
その確信がある
その瞬間だった
「ーー行くぞ、ヤロウ共!」
「「「「Yes, my dark!!」」」」
天を裂くような轟音と共に突然空にそびえ立つ巨大な炎の柱
まるで地獄の業火をそのまま呼び出したかのようなそれが、白上神社のある山からも見える場所で燃え初めて
「な、何事ですか!?」
「分かりません!
でも間違いなく異常事態です!!」
駆け出す僕を慌てて追いかける白上さん
途中で合流した大神さんに白上神社の事を、まだ境内に残っていた夏色さんと星街さんを含めた一般の人達のことをみこさんに任せ、僕と白上さんは炎の上がった場所へと急行する
何が起こっているのかは分からないが、それでもまずはそれを把握しなければ始まらない
だから僕らは白上神社からは少し遠い場所であるとはいえ、それでも一秒でも早く現場へ行かなければと全力で走り出し…
「…」
ーーそれが誰かの思惑通りだったなんて、その時は夢にも思わなかったのだった
はい、と言うわけで例の方々の参戦です
別に作者は登場する新しいホロメンが二人だけとは言ってませんですしね
そして動き出す影
そろそろこの物語自体が動き出す頃ですかね?