あれから、世間では白上祭りの事が大々的なニュースになった
なにせ80年前に失われた伝説の祭りの復活だ
その字面だけでもインパクトは抜群だし、実際の現地での盛り上がりもかなりのもの
最後に謎の不審火があったとはいえ、それも特にめぼしい被害が無かったことからすっかり忘れられ、祭りの評判は僕らの当初の想定以上に広まることになった
そして、その結果として磐ノ斗の名前もまた全国に広まり、問い合わせや観光客の数が増加する事になったらしいのだが、それを受けてか来年以降も白上祭りを継続していく事を村の役場が正式に発表
流石に来年以降は僕らではなく村主宰の祭りになっていく訳だが、それでもこれで白上祭りは本当の意味で復活する事になった
そして、現代における村起こしや地方復興の一つの成功例として世間には認知される事になった白上祭りだったが、現役高校生が主導となって失われた祭りを復活させたというドラマチックな展開がうけたのか、祭りの復興の流れ自体もワイドショーで持ちきり
そのおかげで立ち上げメンバーの僕ら四人は何度か取材を受ける事になり、テレビにも何度か出演する事になったのだが…人の噂も七十五日
時が経つにつれて世間の関心は次第に薄れていき、気が付くと僕らは普通の日常に帰還していた
「それにしても、まさか自分の再現VTRを見ることになるなんてね~」
学校の昼休み
皆が教室の各所で思い思いに昼食を取る中で、お弁当のサンドイッチを頬張りながら夏色さんがそんな事を言い出し、それに星街さんもうなずいた
「分かる
要所要所でちょっと吹きそうになったよね
美化され過ぎって」
「そうそう
でも最後の神楽のシーンは凄かったな
やっぱり照明とか演出とかが全然違って、まつりのよりも映像としてはずっと綺麗なの
いや~プロの技ってあぁいうのを言うんだなってまつり感心しちゃったよ」
「え~、でも神楽に関してはまつりの奴の方が綺麗だったとすいちゃんは思うけどな~?
別にTVのが悪いとは言わないけど、やっぱり現物が一番だよ」
「そうかな~?」
「そうだよ
ねぇ、海斗もそう思うでしょ?」
「え?
あぁ、うんそうだね」
そう答えると、途端に星街さんも夏色さんも心配そうな顔をする
そんな二人の反応に驚くも、僕には心当たりがない
だからこそ慌ててどうしたのかと聞くと、星街さんがため息をつきながら答えてくれた
「あのさぁ…海斗最近大丈夫?
何か悩んでたりしない?」
「別にそんなことは…」
「嘘だね
最近ため息多いし、よそ事ばっかり考えてるでしょ」
「…」
黙り込む僕に夏色さんが微笑む
「困った事があるならまつり達にも頼ってよ
まつりもすいちゃんも友達なんだから」
「そうだぞー
すいちゃん達は他人じゃないんだぞー」
そんな二人の温かい言葉を聞いて、僕は彼女達の心遣いに感謝する
これは本当の事
だけど平和な世界で生きる彼女たちに僕は本当の事を言う訳にもいかない
「ありがとう
…それより、そろそろ昼休み終わるけど…」
僕が指摘すると、話すのに夢中でほとんどお弁当を食べてなかった二人はギョッとした顔で時計を見る
そして僕の言葉が正しい事に気が付くと、二人は途端に慌て始めた
「あ、ヤバ!
急いで準備しないと!!」
「ともかく、海斗は何か悩んでるならまつり達に頼る事!
まつり達がダメならみこちでも良いから!
ともかく一人で悩まない事!!良い!?」
そう言いながら急いでお弁当を掻き込んで自分の席に戻っていく二人
そんな彼女達にお礼を言いながら僕が考えるのはあの白上祭りの後の事
謎の黒上フブキと名乗る少女と白上さんの事で…
(一人で悩むなとは言うものの…)
こんな事、一体誰にどう相談すれば良いんだろう
それに白上さんの事も心配だが、個人的にはもう一つ悩みがある
それは僕があの時黒上フブキに手も足も出なかったという事実だ
(完敗だった…)
思い出す度に無力な自分への怒りが、憤りが沸いてくる
きっとあの時、白上さんが守ってくれなかったら僕は死んでいただろう
だが同時に彼女の結界術に対する敬意、そしてそれ故の悔しさを覚えている自分もいる
まだ自分には出来る事がある、こんなところで立ち止まっていてはいけない
そんな思いもまた僕の胸の中にはあるのだ
だから
(もっと強くならなきゃ…)
そう強く思う
今度はあの黒上フブキに勝てるように
せめて白上さんの足手まといにならないように
何より
(大切なものを、今度こそ守れるように…)
窓の外、12月の寒空の下にはもう雪が積もっている
凍えるような冬空の下、それでも立ち続ける校庭の木々を見ながら、僕は改めてそう誓う
・・・・・・
…最近フブキの様子がおかしい
そう感じているのは、きっとうちの気のせいではないのだろう
だってあの子は明らかにうちに何かを隠してる
表面上はいつも通りだけど、最近はちょっとうちが目を離すと暗い顔をしてたりするし、何か気にかかっている事でもあるのか、気が付くとボーッとしてる事が多い
それに、うちのいないところでよくため息をついているみたいで…そんなフブキの様子を見ていると、流石のうちも心配になってくる
大丈夫?って声をかけたくて仕方がないし、出来る事なら力になってあげたいと心から思う
だってうちはお姉ちゃんだから
妹の事を気にかけない姉なんてこの世にいるわけがないし、加えてその妹が何かに悩んでいるようなのであればなおさらだ
だから、うちだって出来ることなら協力してあげたいし、悩みがあれば寄り添ってあげたい
心からそう思う
だけど、きっとフブキはうちがそういう事をするのを望んではいないだろう
そもそもあの子は誰かに自分の弱みを見せるタイプではないし、見て欲しいとも思ってないだろう
むしろ、自分の弱みを知られる事を恐れているところがあり、だからこそ、うちとしても迂闊に手を出す訳にもいかない
そしてだからこそ、現在のうちの立場としては、大切な妹が悩んでいる姿をただそっと見守る事しか出来ないわけで…
「ままならないねぇ…」
そんな事を考えながら、うちは座布団に座ったまま体を床に投げ出す
だけど今ここにいるのはうち一人だから、特に何も言われる事はない
固い床に仰向けに寝転がったうちは、一度そのまま体を伸ばした後にぼんやりと天井を見つめた
白上神社の倉庫はしんと静まり返り、静謐な静寂を保っている
そして、闇の中でうちが神通力で浮かせている火の玉が照らし出す範囲だけがぼんやりと浮かび上がっている
(…)
ゆらりと炎が揺れる
物体を燃やさない特別な炎をじっと見ていると、なぜだか少しだけ心細くなってくる
この真っ暗な空間の中にある明かりがこの一つだけだと意識すると、もしそれが無くなってしまった時、うちは闇の底へと飲み込まれるような気がして…
「あぁ、やめやめ!
暗い事ばっかり考えてたら気が滅入る!!
うちに出来る事は、いつフブキが助けを求めて来ても良いように見守る事だけ………ってあれ?」
起き上がろうと思って体勢を少し変えた時、ふと棚の奥に見慣れない冊子があることにうちは気が付いた
「何だろう、これ?」
拾ってパラパラと内容を改めるが、どうもそれなりに古い冊子のようだ
そして、その外観に比例するように字体や言葉もまた古めかしい
恐らく普通の人なら即座に読むのを諦めるだろう
とは言え、そこはうちも人間の尺度で言うならそこそこ古い神様
ある程度なら古い文字でもスラスラ読めるし、何ならやろうと思えば自分でも書ける
だからこそ、目の前の恐らく日記とおぼしき冊子を読むことも、うちにとってはそこまで難しい事ではない
と言うわけで、特に何も思う事なくうちは拾い上げたそれに目を通し…
「………え?」
ーー即座にそんな自分の国語力を呪う
だってこれは…この記述は…
「なんて事…」
思わず近くの棚に右手をつくと同時に、うちの手から日記が…先代白上神社祭神の日記がこぼれ落ちる
だけど今のうちはとてもそれ拾う気にならない
だってこれが本当ならフブキは...フブキは…!
「母さん…あなたはなんて事を…!」
呻くようなうちの呟きに、しかし答える者は誰もいない
白上神社の端っこにこじんまりと佇むこの小さな倉庫には、今この瞬間にはうちしかいない
だから、うちにはただ床に転がる日記帳を見つめる事しか出来なくて…
ーーうちが倉庫の灯りを消したのは、もう少し後の事だった
と言う訳で第二章完結です
いかがだったでしょうか?
取り合えず、ひとまずは次の第三章で最後の予定です
ついに現れた謎の少女、黒上フブキの正体は?
そして大神ミオが知ってしまった先代白上神社の祭神の罪とは?
徐々に明らかになる秘密を知った時、主人公は何を思うのか
また、白上フブキはどうなってしまうのか
次回も楽しんでいただければ幸いです