心機一転
身構えている時に死神は来ないものだ、とは一体誰の言葉だったか
その言葉が真実なのかどうかはさておいて、重要なのは恐らくその逆パターンは決して間違いではないのだろうという事だ
すなわち、身構えてない時に限って死神はわりとあっさり来る
天気予報は傘がない時に限って外れるし、お金がない時に限って欲しい漫画やゲームの新作は出るものであり、総じて青天の霹靂とはある意味起こるべくして起こるものであるという事はこの世の真理だろう
だからこそ、今目の前で起こっている事態は、僕が油断していたから起きてしまったのかもしれないと、そんな思考がふと脳裏をよぎる
だが同時に、こんな事予想できるわけがないじゃないかという考えも普通に湧いてくる訳で…思わず頬がひきつる僕の前で、しかし無情にも事態は進行していく
「…えっと、それじゃあ転校生のみんな
自己紹介をお願いできるかな?」
朝のHR
突然の転校生の知らせに沸き立つ教室に入ってきた五人の生徒たちに、担任の先生が声をかける
そしてそれを受けてどこかで見たことのある少女が「うむ!任せろ!!」と頷くと同時に、転校生として紹介された五人全員がザッと横一列に並んだ
その無駄に無駄のない無駄に統率の取れた美しい整列にざわめくクラスメイト達
だが彼女達は動じない
どころか、これまた無駄に整った完璧な連携で、まるであらかじめ示し合わせたように彼女達はどこかで聞いたことのあるような自己紹介を始めた
つまり
「そこに跪け!」
「吐いて捨てるような現実を!」
「一刀両断ぶった切る!」
「終わりなき輪廻に迷いし子らよ!」
「漆黒の翼で誘おう!」
「我ら、エデンの星を統べる者!」
「「「「「秘密結社holoX!!!!!」」」」」
(でござるー!)
「………で、なんでここにいるんですか?」
「?
おかしな事を聞くな?
学生なんだから学校にいるのは当然の事だろう?」
時は流れて休み時間
早速転校生に群がるクラスメイト達に何とか断りを入れ、どうにかラプラスさん達を廊下に連れ出せたところまでは良かったものの、肝心の質問の答えがこれである
「…僕が聞きたいのは、何故あなた方が学生としてこの学校にいるのかなんですが…」
早くも痛み始めた頭を押さえながら僕がそう聞くと、ようやく得心がいったとばかりにラプラスさんは頷いた
「あぁ、それは簡単だ
吾輩達はしばらくこの地に住むことにしたからだ」
「この地に…住む…?」
この愉快な五人組が?
その衝撃の事実に一瞬目眩を覚えるが、そんな僕に慌てて鷹嶺さんが説明してくれる
曰く、ラプラスさん達は僕が認識しているよりも、前回黒上フブキに協力し、僕らや磐ノ斗の人々に迷惑をかけた事を反省しているらしい
そしてその償いをする為にここに来たのだという
「償い…ですか?」
「そう、私達を騙したあの黒いフードの少女の捕縛さ」
首をかしげる僕に、鷹嶺さんはうなずいた
「君達にとっては勿論の事、私達ホロックスとしても彼女に良いように利用されてしまったツケは払わせたい
…それに知っての通り我々は異世界からの漂流者でね
比較的この世界の人間に近い容姿のいろはや沙花叉はともかく、私を含めた他三人は普通の街だと暮らしにくいんだ」
その点ここなら君や白上神社の祭神達のような理解がある人間がいる分暮らしやすいしね、とウィンクする鷹嶺さん
そこでふと気が付く
「…あぁ、そう言えば言われるまで気が付きませんでしたけど、鷹嶺さんの頭やラプラスさんの角って...」
「そう、こよりの道具で認識を反らしてる
話題に上がらない限りは誰も気付けないようにしているんだ」
君のところの神様達と違って、私達はそうそう便利には行かないんだ、と苦笑する鷹嶺さん
そんな彼女の言葉を引き継ぐ形でラプラスさんが話をまとめた
「…ともかく、幹部が説明した通り我々にとってもメリットのある話だし、何より我らホロックスが白上神社の警護に加われば、件の少女も簡単には手を出せないだろう」
だからこそ
「と言う訳で、我々ホロックスはしばらくこの地を拠点とし、その間白上神社の冥界の扉守護にも助力することとした
後でフブキさん達にも正式に挨拶に伺う予定だが、これが吾輩達なりの君達への謝罪と誠意の示し方だ
どうか受け取ってくれないだろうか?」
そう言ってラプラスさんが握手を求めてくる
そしてその瞳には一切の曇りがない
本気で先日の自分たちの過失を反省し、ある程度利害の一致という側面こそあれ、自分達の出来る範囲で僕らの力になろうという確かな誠意をラプラスさんから感じた
であれば
「…分かりました
こちらこそお願いします」
僕はラプラスさんの手を取る
色々と思うところがないわけではないが、それでもラプラスさんの説明は納得できるものだったし、ちゃんと反省しているというのなら僕からこれ以上何か言う事もないだろう
少なくとも彼女達が僕らの敵ではない事は分かった
それだけで十分だろうと握手をする僕に、ラプラスさんは嬉しそうだ
「うむ
あの時は迷惑をかけてすまなかったな
だが、その分の働きは必ずするぞ」
「えぇ、これからよろしくお願いします」
「…ところで海斗、あの時のホロックスに入るという話考えては…」
「あ、それは遠慮しておきますね」
そんなやり取りをしていると予鈴のチャイムがなった
「そうか…だが気が変わったら言ってくれ
いつでも待ってるからな!」
そんな言葉と共に教室に入っていくラプラスさんとホロックスのメンバー
その姿は初めて会った時のような不穏な雰囲気を纏わせるようなものではなく、見た目相応の学生然としたものであり、それを見た僕は内心胸をなでおろした
(…一時はどうなる事かと思ったけど)
取り敢えずは何とかなりそうで本当に良かった
そう心の中で呟きながら、僕も彼女達を追うように教室の中へと戻る
そして実際少々奇抜な言動が目立つとは言え、ホロックスのメンバーが学校に馴染むのはかなり早く、一週間もしない内に彼女達はすっかりクラスの一員となっていた
「あ、あの…すいせいさん!
かざま、その…ファンでして…えっと…!!」
「おぉ!嬉しいね~、ありがとう!!」
「…あ、いろはちゃんが昇天した」
「元々ファンだって言ってたもんね
もしかしたらこっちにやって来て一番得してるのは、案外いろはちゃんかもしれないね?」
そう言って笑う博衣さんと沙花叉さん
その横でラプラスさんはクラスの女子生徒達に猫可愛がりされており、鷹嶺さんはというと、少し離れたところでそんなラプラスさんをまるで母親のような顔をして静かに見つめている
そんなホロックスの面々を何とも言えない目で見つめながら、夏色さんはぽつりと呟いた
「…何というか、濃い人達だね…」
「…あはは」
昼休みの教室
目の前でお弁当を食べている夏色さんの言葉に、僕は曖昧な笑いで返す
だけどそんな夏色さんはふと何かを思いついたようにこちらに向き直った
「…でも、ちょうど良いかもね」
「え、何がですか?」
「ほら、まつり達クリスマスパーティーするじゃない?」
「…初耳ですけど」
思わずそう聞き返すと、え?と一瞬不思議そうな顔をする夏色さん
しかし心当たりがあったのか、気が付くと彼女はどこか遠い目をしていた
「…みこち、伝え忘れてたんだね…」
「あぁ…道理で…」
しばし二人で宇宙を背負うも、再起動した夏色さんが続けた
「…え~と、じゃあ最初から話すけど、今まつり達はクリスマスパーティーをしようって計画してるんだ
メンバーはまつりとみこちとすいちゃんと海斗くん」
「えっと…何故普通に僕の名前が入ってるんですか?」
「そんなの友達だからに決まってるじゃん
この夏あんなに一緒に駆け回った海斗くんを、今更仲間外れなんかにしないよ」
そうさらりと言うと、夏色さんは話を戻す
「で、そのクリスマスパーティーなんだけど、ホロックス?のみんなも招待して、歓迎会も兼ねたら良いんじゃないかって話なんだけど」
「まぁ、別に良いと思いますけど場所はどうするんですか?
僕達だけならともかく、ホロックスの方々も参加するとなると、ちょっと広い所が必要だと思いますけど」
僕の疑問に夏色さんはそこは大丈夫だと返す
なんでもこの話は元々、みこさんがクリスマスに白上神社の詰所のスペースの使用許可をもらってパーティーをしようと言い始めたのが発端らしく、だからこそ場所については問題ないそうだ
それなら僕も特に問題はない
「そのついでに海斗くんにも話を通してくれるはずだったんだけど…」
「まぁ、あの人は決める時にはちゃんと決めてくれる人ですから…」
「…まぁ、今はその事は良いや
それで海斗くん、どう思う?」
そう聞かれ、僕は良いんじゃないでしょうかと答える
ホロックスの人達が良い人ばかりなのは知ってるし、そんな彼女達だからこそ夏色さんの心遣いを無碍にする事はきっと無いだろう
それに彼女達としても表には出していないものの、新天地での生活にはまだ慣れていないところだろう
そんな中で頼れる友人ができるのは何かとありがたいに違いない
夏色さん達としてもホロックスの人達の事を知り、仲良くなれる良い機会であるので、双方にとって悪い話ではない
それに…
(白上さんにも楽しんでもらえるかな…?)
そう、白上神社の詰所、つまり白上神社の敷地内で行うのであれば、その祭神である白上さんや大神さんもこっそり参加できる
…まぁホロックスの面々はともかく、夏色さんと星街さんは二人の事が見えていないので、どうしてもできる事は限定されてしまうけど、その辺りは僕らがフォローすれば二人も十分に楽しめるだろう
「よしっ!それなら決まりだね!!
じゃあまつり、らぷち達にも話して来るね!!」
言うが早いが、早速ホロックスのメンバー達に突撃する夏色さん
そんな彼女の姿を見ながら僕は来るクリスマスパーティーの日に想いをはせるのだった
と言うわけで、ホロックスが磐ノ斗に引っ越してきました
まぁ、彼女達なりに色々と思うところがあったという事ですね