一応本作におけるホロックスは異世界からの漂流者達、つまり望まぬ理由でこの世界に迷い込んでしまったメンバー達が集まり、立ち上げた組織となっております
「…と言う訳でヤロウ共、買い出しだぁっ!!」
「「「「おぉーっ!!」」」」
真冬の商店街
その片隅に集まり、威勢の良い鬨の声を上げるホロックスのメンバー達
そんな彼女達と合流した僕達は、それぞれの分担を確認すると商店街の各地へと散っていく
目的は勿論買い出しだ
今日は12月23日
いよいよ明日に迫ったクリスマスパーティーの最後の準備の為に商店街に来た僕らは、効率よく買い出しを終わらせる為に何人かのグループに別れて行動していた
内訳は例えば、ラプラスさんと鷹嶺さん、風真さんと星街さんといった感じの2人ペア
急な用事で来られなくなったみこさん以外の8人を2人ずつに分けた計4つのグループで商店街に散らばり、それぞれの買い物をこなすという計画だ
そして厳正なるくじ引きの結果、僕と一緒に商店街を回ることになったのは…
「え~と、ジュースはこれで良いかな
次は…」
「ねぇねぇ見て見て海斗!
この魚お目々がクリクリでかわいいよ!!」
脇から聞こえてきたその言葉に、僕は少しだけそちらに目を向ける
「そうですね
でも魚は日保ちしないので買うのは当日にしましょう」
「え~、やだやだ!
こんなにかわいいのに!!」
「でも沙花叉さんだってお腹を壊すのは嫌でしょ?」
だが、そんな僕の言葉は沙花叉さんには不服だったようだ
「ぶ~!海斗のケチ~!!」
「はぁ…分かりました
後で魚肉ソーセージ買ってあげるのでそれで我慢してください」
「いいの!?
ありがとう海斗!!」
そう言って都合よくにぱっと笑みを浮かべるのは、ホロックスのインターンだという沙花叉さん
これまであまり話した事がなかったけど、とにかく自由できままな彼女との買い物は本当に大変で…
「沙花叉さん!
買い物籠にこっそりお菓子を入れないで下さい!!」
とか
「沙花叉さん!
そんなの買ったら予算オーバーです!!
戻してきて下さい!!」
とか
「沙花叉さん!
学生がパチンコに入るのは流石にまずいですって!!」
とか、ともかくハプニングのオンパレード
だから僕は暴走する彼女の手綱を握るので精一杯だ
「はぁっ…はぁっ…」
流石に体が持たないという事で休憩を申し出た僕は、近くのベンチに倒れるように座り込む
そして沙花叉さんもだらしないな~、などと勝手な事を言いながらも、今のところは大人しく隣に座ってクリスマス一色に染まる商店街の様子を眺めている
そう、季節はもう冬なのだ
だからこそ、この商店街も既にかじかむような寒さに包まれているはずなのだが、不思議な事に今の僕はそんなものは一切感じない
むしろ、暑くて暑くて堪らないくらいで
「やだ~海斗ったら沙花叉に興奮してるの~?
やらし~♡」
「お願いですから...変なからい方を…しないで下さい…」
ニヤニヤと笑う沙花叉さんにそう懇願した時だった
「ん?」
ふと近くの小物屋に目を向けた沙花叉さんがパアッと目を輝かせる
「ねぇ海斗!
あの店入ってみない?」
「え?でもまだ買い物が...」
「そんなの後で良いじゃん!
それにあそこなら、良い感じのクリスマスプレゼントが買えそうだし、何なら沙花叉が選ぶの手伝ってあげるから!!」
お願い!
そう言って僕の腕を引く沙花叉さんの言葉に、少し考える
確かにまだ買わなきゃいけないものはあるが、別に順番が前後する分には問題ない
むしろ、ここで断って無駄に体力を使うよりは、大人しく彼女の言うように先にクリスマスプレゼントを買うというのもありかもしれないし、何より沙花叉さんの協力があるなら僕が一人で選ぶよりもよっぽどみんなに喜んでもらえるものが買えるだろう
「…分かりました」
「よしっ!
じゃあ早速突撃~!!」
ばっくばっくばく~ん♪、と上機嫌に沙花叉さんが木製のドアを開くのに合わせて、僕も店内へと足を踏み入れる
すると漂う静謐な木材の匂い
踏み入れた店内は、ロッジハウスを思わせる木製の壁に覆われた、どこか隠れ家的な雰囲気の漂う落ち着いた空間だった
各所に並べられた棚には、ネックレスや指輪、イヤリングなどのアクセサリーやコップや手帳などといったちょっとした小物、また大きなくまの人形などといった商品が立ち並んでいる
天窓から差し込む暖かな陽光を受けながら、静かにただその存在を主張する商品達は、まるで誰かが手に取るのを今か今かと待ちわびているようにも見えて
そんな店内の雰囲気を一望していると、ここはアタリだね!、と言うが早いが沙花叉さんは早速すぐ近くにあったアクセサリーの棚を物色し出した
「ねぇ!
これとか良くない!?」
「へぇ、悪くないですね」
沙花叉さんが見せてきたのは小さなイルカのイヤリング
だが安価ながらも作りはしっかりとしていて、装飾も細かい
良い品だと思い、素直にそう口に出すと、でしょでしょ!と沙花叉さんも嬉しそうに買い物籠にそれを入れると、また別のところへと赴く
「海斗も色々見てみなよ
掘り出し物があるかもよ?」
その言葉に甘える形で僕もざっと店内を一週して見るが…なるほど、確かに良い店だ
お洒落なマグカップに変わり種の文房具、良い匂いのするお茶に珍しいお菓子
正直クリスマスパーティーのプレゼントではなく自分用に買いたいなと思うような品がいくつもあり、思わず目移りしてしまう
(確かにここはアタリだな…)
そう思いながら近くにあった棚を物色している時だった
(あ…)
たまたま目に入った、小さな金木犀の髪留めに目が止まる
(そう言えば、白上さんは金木犀が好きだったっけ…)
実は先の白上祭りにおいて、祭りが始まる直前、金木犀が好きだったのは先代の白上神社の祭神だと気が付いて、慌てて大神さんに確認を取ったという裏話がある
その時は幸い白上さん本人も金木犀が好きだという事で胸を撫で下ろしたのだが、そんな事を思い出していると、ふとこれをプレゼントすれば白上さんは喜んでくれるのではないだろうか?という考えが脳裏を過る
その考えに促されるままに髪留めを手に取る
金色のヘアピンの片側に金木犀の花がいくつもあしらわれているデザイン
小さなガラス製のオレンジの花がいくつも重なり合い、ところどころから同じく緑のガラスでできた小さな葉っぱが覗くその髪留めは、見た目の儚さに反してしっかりとした作りになっており、陳腐さを感じさせないかわいらしい仕上がりだ
そしてそれを見ていると、実際にこの髪留めを付けた白上さんの笑顔が頭の中に浮かんできて…
「ーーどう?
いいものあった?」
「うわぁ!?」
突然横からにゅっと顔を出した沙花叉さんに、思わず声をあげてしまう
「もう!
そんなに驚かなくてもいいじゃん!!
ってあれ?それ…」
「あ、えっとこれは…」
訝しむ沙花叉さん
そんな彼女に咄嗟に言い訳が思い付かなくて
「…ん~
ねぇ、海斗」
「な、何ですか?」
「ーー海斗はさ、フブキちゃんの事好きなの?」
「………え?」
「だからさ、海斗はフブキちゃんの事好きなのかって」
聞いてる?、と怪訝な表情でこちらを見つめる沙花叉さんに、しかし今の僕は何も返せない
何故なら…
(………好き?)
僕が?白上さんの事を?
思考が空転する
脳が停止する
今まで考える事すらなかった命題に、僕はその場でフリーズしてしまって
「あ~…成る程、そういう感じね」
気が付くと沙花叉さんが渋い顔でこちらを見ていて
「沙花叉さん…」
「あ~いいよ、大体分かったから」
この分だと多分向こうも同じだよな~、と頭をかきながらため息をつく沙花叉さん
「何があったのか知らないけど、お互い難儀だよね君たちって」
「あの…言ってる意味が…」
「いいよいいよ、分からなくても
どうせここで沙花叉が言っても分かんないんだから、聞く意味もないよ」
そう言って沙花叉さんはヒラヒラと手を振る
だけど
「…あ~、だけどそうだな
一つだけ忠告しとくよ」
そう言ってこちらを見る沙花叉さんの顔は、今まで見たことがない程に真剣なもので
「見ないふりなんて止めな…とは言わない
それでも伝えるなら早くした方が良いよ
いつでも相手に伝えられるとは限らないからね…」
そう告げる沙花叉さんの言葉には妙な重さと実感が伴っていて
「さっ!
それじゃあそろそろお会計と行こうか!!
海斗は買うのそれだけで良いの?」
そう言ってにぱっと笑うと沙花叉さんは、いつの間にか買い物籠いっぱいに詰め込まれた商品をレジへと持っていく
だけど何故か僕はそれを追うことが出来なくて…
(見ないふり…?)
手の中の髪留めをもう一度見る
だけど当然それは何も答えてくれない
それでも、髪留めに施された金木犀の装飾はとても繊細で美しいものだったから
「…待ってください!沙花叉さん!!
そんなに買えるわけないでしょう!!」
「え~!やだやだ全部買いたい~!!」
そう言って駄々を捏ねる沙花叉さんを宥めながら、こっそり僕はその髪留めを包んでもらうのだった
公式に金木犀が好きな花だと公言されているこちらの世界ならともかく、軽い面識しかない状態で更に白上祭りのお供え物というヒントしかない本作の状況下で、そこから金木犀の髪飾りを見ただけでピンポイントに色々察せるホロックスのメンバーは、流石に沙花叉クロヱさんしかいないかなって