白上縁起恋灯絵巻【完結】   作:DX鶏がらスープ

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ところで、お忘れかもしれませんがこの作品って「R15」とか「残酷な描写」タグとか付いてるんですよね

「R15」とか「残酷な描写」とか



ホワイトクリスマス

 

「それじゃあ今年も一年お疲れ様でした!」

 

そんなみこさんの言葉と共に集まった皆が飲み物を掲げる

 

「それと、ホロックスのみんな!ようこそ磐ノ戸村へ!!

乾杯!!」

 

「「「「「「「「「「「乾杯!!」」」」」」」」」」」

 

そして、ついにクリスマスパーティーが始まった

 

「いや~それにしても、最終的にすごい大所帯になっちゃったねぇ」

「ホロックスの子達全員招待したから全部で9人だもんね

圧巻だよ」

 

そんな事を言いながらCC◯モンを飲む星街さんとそれに頷く夏色さん

だけど一般人である彼女達が気付いていないだけで、実際にはその人数はもう二人程多い

とは言えそんな事を彼女達は知るよしもなく

 

「…なぁ、こより

神様が見えるようにする道具って作れないのか?」

「う~ん…現段階では無理だね

神様の観測なんて、それこそ異世界の観測に等しい程難しいものだからね~…」

 

ラプラスさんの問いに博衣さんは首を横に振るが、当の神様である白上さんは全然気にしてないよと微笑む

それに対して不満そうなラプラスさんだったが、そんな彼女に白上さんは、自分はみんなが楽しそうにしているのを見ているだけでも十分ですから、と飲み物を渡した

 

「それに今日は楽しいクリスマスパーティーの日です

楽しまなきゃ損ですよ?」

「…そうだな」

 

そう言ってラプラスさんは渡されたコップに口をつけた

 

一方その頃、料理が並べられたテーブルの方も盛り上がっていた

と言うのもこのクリスマスパーティーに集まったメンバーには料理が得意な人間も多く、その為テーブルに並ぶ料理もまたかなりのクオリティになっていたからだ

 

「相変わらずいろはのクッキーは美味しいね」

「いやいやそんな

ルイねぇのビーフストロガノフだって凄く美味しいでござるよ」

 

そう言って互いの料理を口にする鷹嶺さんと風真さんの横で、沙花叉さんと大神さんが話をしている

 

「へぇ...このハンバーグ凄く美味しい

これ本当にクロヱちゃんが作ったの?」

「ふっふーん!凄いでしょ!!」

 

そんな風に胸を張る沙花叉さんに、大神さんが作り方のコツを聞き始め、それに興味を示した鷹嶺さんと風真さんもそこに合流

料理談義に花が咲く中、テーブルに並べられた料理を食べたみこさんが夏色さんと星街さんを呼び、そのクオリティに驚く彼女達に、やって来たラプラスさんが嬉しそうな顔をしてメンバーの自慢を始めた

 

こんな風にパーティーは順調に進み、僕もまたみんなと一緒に並べられた料理に舌鼓を打ったり、博衣さんがパーティーの為に作ったというトンチキ発明に驚いたり、ビンゴゲームに興じたりとパーティーを楽しむ

 

そしてそんな楽しい時間が流れていき、恒例のプレゼント交換も終わった頃の事だった

 

「白上さん」

 

大神さんが作ったという筑前煮を食べていた白上さんに話しかける

この頃にはもうみんなすっかり打ち解けて、それぞれ思い思いの時間を過ごしていた為、会場の端にいた白上さんに僕が声をかけても気にする人はいない

星街さんも夏色さんも見ていないので普通に声をかけた僕に、白上さんは首を傾げる

 

「なんですか、海斗くん?」

「ちょっと外の空気を吸いに行きませんか?」

 

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

 

詰所から出た僕達の前に広がっていたのは、一面の銀世界だった

こんこんと降りしきる雪があたりを白く染め上げ、見慣れた境内はまるで別世界のようだった

 

「わぁ…」

 

そんな声と共に、白上さんはそっと落ちてきた雪の一粒を手に取る

 

すっかり日が沈み、暗くなった境内

そこに静かに降り積もる雪の中で空に手を伸ばす白上さんの姿は、彼女自身の美しい白髪や白い服も相まってか、まるで雪の妖精のようで…

 

それを見ていると、先日の沙花叉さんの言葉が脳裏を過る

 

(「ーー海斗はさ、フブキちゃんの事好きなの?」)

 

だが、それに対する僕の答えはまだ出ていない

結局、僕はこの期に及んでまだ自分が白上さんに対してそんな感情を持っているのかどうかが分からない

だから僕は降り積もる雪に目を輝かせる白上さんを見ながら、内心で自嘲する

 

(情けないな…自分の事なのに…)

 

積もった雪で白く染まる境内を見ながら、こっそりと苦笑する

とは言えこれはあくまでも僕自身の問題であって、取り立てて誰かに言うべきものでもないだろう

それも今が楽しいクリスマスパーティーの真っ最中であるならなおさらだ

 

だからこそ、僕は自身の内心を一緒にいる白上さんに悟られないように取り繕いながら降り積もる雪を静かに眺める

そして、そんな僕に白上さんが話しかけてくる

 

「ホワイトクリスマスですね、海斗くん!」

「えぇ、そうですね」

 

素敵ですね、と返す僕に、本当です!と頷く白上さん

そこで一瞬だけ会話が途切れる

少しの間黙り込む僕らの前で、静かに雪が降り積もる

しんしんと、針を落としても聞こえそうな位の沈黙の中で白い雪が白上神社の境内の空間を静かに埋めていく

 

「…えぇ、本当に良い日です

クリスマスパーティーも楽しかったですし、もう本当に言うことないですね」

 

ふとそんな事を呟く白上さん

その表情はどこか感慨深げで、それでもとても満足げだ

本当にさっきまでのパーティーが楽しかったのだろう

その幸せそうな表情を見ていると、見ている僕の方も嬉しくなってくる

 

だけどそんな彼女に僕は敢えて問いかけた

つまり、本当にそうですか?と

 

その質問にキョトンとした顔をする白上さん

とは言え、それは別におかしな反応ではない

実際、僕が見ている分にも白上さんはとても楽しそうだったし、ついさっき彼女は自分でもそう口にしたばかりだ

嘘偽りなく、白上さんは今日のクリスマスパーティーを心から楽しんでいた

それは事実なのだろう

 

だけど

 

「え?

いえ、本当に白上は満足してて…」

「さっきのプレゼント交換、白上さんは参加してませんでしたよね?」

 

そこで白上さんは少しだけ視線をそらした

 

「あ、あれはまぁ…

まつりちゃん達は白上の事が見えてないんですから仕方がないですよ」

 

そう言って苦笑する白上さん

だけど僕は知っている

あの時、盛り上がる僕らを見ながら白上さんが少しだけ寂しそうな顔をしていた事を

プレゼント交換のプレゼントを悲しげな眼で見つめていた事を

 

だから

 

「白上さん、これを」

「え?何ですか、これ?」

 

僕が袋を渡すと、白上さんはそれを不思議そうに見つめる

どうもこの流れで未だにそれが何かわかっていないようだ

そんな白上さんの様子に、鈍いですねと少しだけ苦笑しながら、僕はこれが白上さんへのクリスマスプレゼントであることを打ち明ける

すると白上さんは信じられないというように目を丸くした

 

「えぇっ!!

い、良いんですか!?」

 

途端に慌て出す白上さん

そんな彼女にみんなには内緒ですよ、と口の前で人差し指をたてる

 

「せっかくクリスマスパーティーに出席してるのに、プレゼントがもらえないなんて寂しいですからね

みんなには秘密ですよ?」

 

その言葉に彼女は咄嗟に回りを見回すも、当然ながら周囲には誰もいない

ひらひらと舞う雪の中、静まり帰った夜の境内には遠くから微かに詰所のみんなの声が聞こえてくる位だ

 

それでも恐る恐るというように、まるで何か悪い事でもしているかのようにキョロキョロと周囲を見渡した後、白上さんは尋ねた

 

「…開けても良いですか?」

 

その言葉に僕は頷く

そして白上さんが開いた袋の中身は、当然あの小物屋で買った金木犀の髪留めだ

金色のヘアピンの先に付けられたオレンジのガラスの花が光る

それを見た白上さんは、わぁ…と感嘆の声を上げる

 

「…綺麗」

「そう言ってもらえたならとても嬉しいです」

「つ、着けてみても良いですか!?」

「勿論です」

 

その言葉にいそいそと髪飾りを自身の髪につけ始める白上さん

そんな白上さんの様子を見ながら、僕は改めて思う

 

(…確かに、僕には自分の気持ちが分からない)

 

本当のところ自身が白上さんをどう思っているのか

彼女に対して友情や親愛以上の何かを僕は抱いているのか

今の僕にはまだそれが分からない

 

それでも…

 

(それでも、大切な人だって思ってる事だけは本当だから…)

 

だから今はこれが精一杯

 

「…よく似合っていますよ、白上さん」

「そ、そうですかね?」

「勿論です

とてもかわいいですよ?」

 

早速髪飾りを付けてくれた白上さんに、嘘偽りのない感想を僕は返す

そしてそれを受けて照れていた白上さんだったが、やがて彼女は花が咲いたように笑顔を浮かべる

 

「えへへ…ありがとうございます、海斗くん!!」

 

その笑顔だけで、僕は自分のしたことが正しかったことを知る

単なる思いつきだったけど、白上さんが喜んでくれているならきっと間違いなんかじゃなかったと確信する

 

だから

 

「…それじゃあ戻りましょうか

流石に外に長くいるのは寒いですし…ーー」

「ーーすみません

それなんですが、ちょっと待ってもらえませんか?」

「?」

「手を出してもらえませんか?」

 

そんな白上さんの言葉に従って手を出すと、白上さんは僕の手の中にそっと何かを置く

見るとそれは小さな白い狐のキーホルダーだった

 

「えっと…これは?」

「白上からのお返しです!」

 

驚く僕に白上さんは話し始める

何でも白上さん達も僕達に秘密でこっそりクリスマスプレゼントを買いに行っていたのだという

 

「もちろん白上達自身がプレゼント交換に参加できない事はちゃんと分かってますよ?

でもせっかくなので、白上達からもみんなにプレゼントがしたいなって思いまして…」

 

とは言え、普通の人間には見えない彼女達は自分達だけでは買い物ができない

そこでみこさんに頼んで、こっそりクリスマスプレゼントの買い物を手伝ってもらっていたらしいのだ

 

「一体いつの間に…」

 

と言いつつも、まるっきり心当たりがないわけではない

そう言えばこの間僕達がクリスマスパーティーの買い物に行った時、確かにみこさんはその場にいなかった

そしてその理由は外せない用事だったはずだけど…成る程、今の話を聞けばそれが何だったのかは明らかだ

内心で納得する僕に、白上さんは言う

 

「という訳で、本当はもう少し後で渡そうと思ってたんですけどお返しです!

是非受け取ってください!!」

 

そう言って渡されたプレゼントに、僕は戸惑う

まさかプレゼントのお返しが返ってくるとは想定していなかったので動揺してしまう

 

「い、良いんですか?」

「勿論です!」

 

…まぁ、人数が多い分予算が取れなかったので、クオリティに関しては言いっこなしですよ?

白上さんは言い訳のようにそう付け加えるが、こういうものは貰えただけでうれしいものだ

 

だから僕は白上さんからもらったキーホルダーをしげしげと見つめる

手の平に収まる程度の小さな白い狐のキーホルダー

特に変わったところのない普通のキーホルダーだけど、それでも白上さんがくれたものだと思うだけでとても暖かな気持ちになってくる

だから僕も白上さんにお礼を言おうとして

 

だけど

 

「ーーお店でプレゼントを探している時にその子を見つけてふと思ったんです」

 

ーーそう言えば海斗くんは、いつも誰かの為にばっかり頑張ってるなって

 

そうどこか寂しげな、悲しそうな顔で言う白上さんの言葉に、僕は思わず黙り込む

そして、そんな僕の目をまっすぐに見つめながら白上さんは続ける

 

「勿論それは立派な事です

誰かの為に頑張れる人はすごく優しい人です

そしてそれができる海斗くんもとても良い人だと思っています

だけど…海斗くん」

 

 

 

ーーその誰かの中に、海斗くん自身は入っていますか?

 

 

 

「!?」

 

思わず言い返そうとして、だけど自身の口から何も出てこない事に僕は驚愕する

それは逆説的に白上さんの言葉が正しいという事を証明していて…

 

だけど

 

「ーーだからこそ、白上はこれを海斗くんに渡すんです」

 

思わず後ずさった僕の手を白上さんの小さな手が握る

 

「白上は海斗くん自身にも笑って欲しい、幸せになって欲しいって思ってます

そして、白上がそう思うのは海斗くんが海斗くんだからです

他の誰でもない、私の大切な友達だからです」

 

そして白上さんは改めて僕の手を、中の狐のキーホルダーと一緒に両手で握りしめた

 

「白上さん…」

 

「海斗くん、忘れないで下さい

白上はいつだって海斗くんの味方です

いつだって側にいます

だから…だから…!」

 

そう言って白上さんは真っ直ぐに僕の目を見る

その瞳に映る感情はとても一言では言い表せない

それでも、白上さんの目は何よりも真っ直ぐに、僕だけを見ていたから

 

「良いんです、海斗くんは海斗くんで

誰かの為だけに生きなくて

自分の為に生きて良いんです」

 

そうして最後にはにっこりと笑顔を浮かべる白上さん

 

たくさん…本当にたくさん言いたい事はあったはずなのに

それでも僕に笑っていて欲しいから、笑顔でいて欲しいからという理由だけでその全てを飲み込んで笑った白上さん

 

そして、それを見た瞬間心の中の欠けていたパズルのピースが埋まったような気がした

 

「………ありがとう、白上さん」

 

…だけど、違うんだ

 

そう言って僕は一度白上さんの手を離した

 

だって分かってしまったから

僕が知りたかった答えが

求めていた正解が

 

(確かに、僕は今まで心のどこかで自分自身が幸せになる事を否定していたのかもしれない)

 

幸せになって良いって、せっかく白上さんが言ってくれたのに、それなのに自分ではなく誰かの幸せの為にばかり頑張っていたかもしれない

 

結局…僕はまだあの頃から

父さんと母さんの死から抜け出せてなかったのかもしれない

 

それでも…

 

「僕は誰かの為に頑張ってきた訳じゃない…」

 

そうだ、それでも僕が今まで頑張ってきたのは、顔も知らないどこかの誰かの為なんかじゃない

僕は博愛主義者でもないし、全てを自分の手で救えるとも思ってない

ただ僕は…僕が頑張ってきたのはいつだって…

 

「全部………白上さんに笑って欲しかったからなんだ」

 

その言葉に目を見開く白上さん

でも事実だ

 

確かに最初は憧れだった

こんな人になりたい、自分がしてもらったように誰かに寄り添えるような人間になりたい

それが最初の気持ち

 

だけど、一緒に過ごす内に、同じ時間を過ごす中で気が付けば別の感情が芽生えて来て…

 

見ないふりをしていた

知らないふりをしていた

 

だって怖かったから

拒絶される事が

あの笑顔をもう一度見れなくなる事が

 

ーーもう一度、大切なものを失う事が

 

でも、気が付いてしまった以上もう見て見ぬふりは出来ない

 

「白上さん…」

 

澄んだ空気

降り積もる雪

 

誰もいない静まり返った境内で佇む僕は改めて、今度は自分から白上さんの手を包み込むように握る

小さくて冷たい白い手

冬の寒さで冷たくなってしまったその手は、だけど僕の手を振り払うことは決してなくて

 

目線を上げると、白上さんは静かに僕の事を見つめている

顔を赤くし、少し動揺しながらも、それでも目だけはまっすぐに僕を見ていて

だから…

 

「僕は…」

 

無性に喉が渇く

心臓が早鐘のように動悸を打つ

 

言ってしまえばもう引き返せない

もう元には戻れない

あまりの恐怖に逃げ出したくなる

 

だけどそれでも伝えたい

この想いを、あなたに伝えたい

 

先の事がどうなるのかは分からない

それでも、そうでなければ僕は前に進めない

そうでなければ、僕はあなたと同じ場所にいられない

 

だから

 

「あなたの事が…ーー」

 

そう決定的な言葉を口に出す

その瞬間だった

 

ドスッ

 

そんな軽い音ともに胸に違和感を感じる

 

「………え?」

 

何が起こったのか分からず、目線を下に落とすとそこには赤い腕があって

だけどその腕は僕のものではなくて…

 

 

 

 

 

――気が付くと、僕の胸から腕が生えていて

 

 

 

 

 

状況を認識した瞬間に、口いっぱいにこみ上げる鉄の味

かはっ、と開いた口からこぼれた赤い液体の一部が目の前の白上さんの顔に飛び散り、足元の白い雪に赤い水溜りを作る

そこでようやく状況に気付いたのだろう、キョトンとしていた白上さんの顔が恐怖と驚愕と共に徐々に青くなっていく

 

そして

 

「…また」

 

そんな白上さんに声がかけられる

僕の背中から聞こえるその声は、しかし明らかに白上さんを嘲笑うもの

それが誰かは分からないが…その人物はまるで弱った白上さんにとどめを刺すかのように、とびきりの悪意と嘲笑をもってして決定的な言葉を放った

 

 

 

また・・、守れなかったな?」

 

 

 

そして、視界の端を先端の赤い黒い尻尾がよぎった直後、僕の意識は暗転して…

 

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

 

ーーうちが駆けつけた時には全部が終わっていた

 

静謐な夜に響き渡るフブキの絶叫

その声に驚きながらも外に出た一同が見たのは、まず胸から血を流しながら倒れ臥す海斗くん

そして、何が可笑しいのかその場で笑い続けるフブキの姿だった

 

真っ白な雪が海斗くんの体から流れ出る血によって真っ赤に染まる

そしてその横で、これまた返り血で自身の服と体を赤く染めながらも、狂笑と言って差し支えないほどのあまりにもおぞましい哄笑を続けるフブキの姿に皆が戦慄する

 

そのあまりにも異様な光景を目前にして、居合わせた皆は誰も何も言えず…だけどうちは一歩進み出る

そしてその理由は明白だ

 

なぜなら

 

「…フブキをどうした?」

「ハハッ…何言ってるんだ大神ミオ?」

 

ーーそれならここにいるだろう?

 

そう嗤いながらこちらへと向き直るその姿は、確かにうちのよく知るフブキだ

顔も姿も服装も、最後に見た時と変わらない

間違いなくそれはフブキ本人のものだ

だけど

 

「お前は誰だって聞いてるんだ!!」

 

あぁ、だけど違う

アレ・・は違う

 

だってフブキはそんな顔をしない

そんな誰かを見下すような、バカにするような顔なんてしない

目の前にいるそれは、姿かたちこそフブキそのものであっても、その本質はフブキとは…うちの大切な妹とはまるで違う!

 

だからこそうちが放った豪火を、しかし目の前のフブキの姿をした別のナニカは軽々と避ける

 

「別に嘘はついてないんだけどな?」

 

そう残忍そうな表情で飄々と抜かすナニカは、続けて放たれるうちの追撃を次々と避けると、本殿の屋根の上に着地する

 

「今のワタシ・・・はフブキであり、故にもまたフブキだ

ほら、嘘なんて言ってないぜ!」

「意味の分からない事を!!」

「それならそれで良い

どの道結末は変わらない」

 

そう言って嗤うフブキの姿をしたナニカだったが、突然顔をしかめると共に、わずかに体のバランスを崩す

そこに今度はラプちゃんが咄嗟に光弾をいくつか放つけど、すぐにナニカは体勢を立て直し、それを避ける

だが、攻撃を躱したナニカは不満そうに自分の右手を握ったり開いたりを何度か繰り返した

 

「フン…まだ完全には馴染んでないか…」

 

そう吐き捨てるように呟くと、ナニカは改めてうちらに向き直ると叫ぶ

 

「…悪いが、ここは一度引かせてもらう!」

「ふざけるな!フブキを返せ!!」

「無理な相談だな

それにいずれこの世はワタシが冥界に沈める

再開なんてそこですれば良いだろう?」

 

叫ぶうちだったけど、フブキの形をしたナニカはとんでもない事を言いながらどこかへと逃げていく

だが追おうにも、倒れ伏す海斗くんの状態も予断を許さない

咄嗟に動けないうちら

 

でも、そこは流石ホロックスの総帥と言うべきか

誰よりも早く状況を理解したラプちゃんが素早く指示を飛ばした

 

「いろは!沙花叉!奴を追え!!

こよりは海斗を!!幹部はすいせいさんとまつりさんの避難を!!」

「「「「Yes, my dark!!」」」」

「み、みこも手伝うにぇ!」

 

いろはちゃんとクロヱちゃんは逃げたナニカの追跡に、こよちゃんは未だ血の海に沈む海斗くんの救護に走り、巫術による治療の心得があるみこちもそれに加勢する

その間にルイちゃんが一般人である夏色さんと星街さんを一旦その場から退避させた訳だが、正直完全に後手に回っているのも含めて状況は芳しくない

 

まずフブキの形をしたナニカに関しては想定以上に逃げ足が早い

追手の二人も頑張ってはいるが、あれでは逃げきられてしまうだろう

 

そしてもっと不味いのは海斗だ

まだ詳しく見てないけど、あれは致命傷だろう

今は必死にみこちとこよちゃんが手を尽くしているけど、果たして助かるかどうか…

 

「フブキ…海斗…」

 

思わず二人の名前を呼ぶも返事は返ってこない

ただ雪がしんしんと降り積もるだけで...

 

「ミオさん…」

 

みんながそれぞれの場所で奔走する中、こちらを気遣うように声をかけてくれるラプちゃん

だけどあまりにショックが大きすぎて、うちはその声に応えられなくて…

そんなうちの上にも平等に、白い雪が降り積もる

すべてを白く染めながら、聖なる夜はふけていく

 

ーーこの日、白上神社からの帰路に着く者は一人としていなかった

 





次回、過去編入ります
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