白上縁起恋灯絵巻【完結】   作:DX鶏がらスープ

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疑問には思いませんでしたか?
いくら主人公という世界に選ばれた人間とはいえ、それでも最初から白上フブキさんからの好感度がやけに高かった事に
初対面のはずの主人公に対して妙に彼女が積極的だった事に



夏の欠片

 

ーー突然だけど、僕には友達がいる

 

すごく明るくて、優しい人

色んな事を知っていて、たくさんの面白い事を教えてくれる人

一緒にいるだけで笑顔になれるような、楽しくなれるような、そんな自慢の友達だ

 

一年に一回、夏休みの間にしか会えないけど、それでも僕はあの人の事を友達だと思ってるし、あの人も毎年僕と会えるのをとても楽しみにしてくれている

 

だからようやく今年もそんな友達と会える時期がやって来て、僕はいてもたってもいられずいつもの待ち合わせ場所である神社へと向かった

 

「はぁっ、はあっ」

 

村の小さな山の麓にある神社の階段へと足をかける

初めてここに来た時はまだ小さかったからすごく大変だったけど、そんな僕ももう立派な小学三年生だ

 

あの頃より大きくなった分簡単に…とは行かないけど、それでもずっと楽に、そして早いペースで石段を駆け上がっていく

 

「はぁっ、はあっ」

 

神社特有の長い石段を登りながら、あの人に会ったらまず何を話そうかと考える

何せここに来るのも久しぶりだから、話したい事はたくさんある

学校の事や勉強の事、面白かった漫画やアニメの事に、楽しかった事や嬉しかった事

土産話はたくさんあるけど、まずは顔を見ない事には始まらない

 

だって本当に久しぶりなんだ

ここに来るのは一年に一度、詳しくは知らないけど遠い親戚の用事でこの村に来る時だけだ

当然あの人に会うのも一年ぶりで、だからこそ今からまた会えると思うと嬉しくて嬉しくて仕方がない

どんな話をしよう、何をして遊ぼうと考えるとワクワクが止まらない

そしてそんなことを考えている内に、いつの間にか僕は神社へと続く階段を登り終えていた

 

「はぁっ、はあっ…」

 

境内の入り口、小さな鳥居の前で僕はひとまず息を整える

そして顔を上げると、そこにはいつもの様に誰もいない境内が広がっていた

 

苔むした石灯籠に古びた社殿

一応最低限の整備はされているのか、どこもかしこも雑草だらけという事にはなってないけれど、それでも人の気配がまったくない寂れた雰囲気の境内

それを見て、ここは変わらないなと僕は少しだけ安心感を覚える

 

そして、だからこそ遠慮なく僕はその言葉を口にする

きっといるはずだと、聞いているはずだと確信し、僕は久しぶりに会う友達を呼ぶことにした

 

すなわち

 

 

 

「お~い!白上さ~ん・・・・・!!」

 

 

 

すると神社の裏手の方からはいは~い、という声が聞こえたかと思うと、一人の女の人が顔を出した

白い髪に白い狐耳、それから立派な白い尻尾

明らかに人間ではないその女の人はだけど、僕に気が付くとパッと表情を綻ばせる

そしてこちらに駆け寄ると、軽々と僕の体を持ち上げた

 

「久しぶりですね!海斗くん!!」

「うん!久しぶり、白上さん!!」

 

そう言って抱え上げた僕ごとくるくる回りながら喜ぶこのお姉さんは白上さん

この白上神社の守り神をやってるらしい白上さんとの出会いは数年前に遡る

 

きっかけは退屈しのぎに家の近くを散歩していた事だ

 

あの頃、僕はとにかく退屈していた

 

だってここにはテレビもなければコンビニもない

図書館やプールもないし、当然一緒に遊ぶ友達だっていない

さらに、父さんも母さんもここにいる間は大人ばっかりで話していてあまりかまってくれないから、本当にできることが何もないのだ

 

小さな頃からの毎年の恒例の行事だったから慣れてはいたけど、それはそれとして退屈で仕方がない

だから僕は行く宛もなくその辺をぶらぶらと散歩をしていて、その途中でこの神社を見つけたんだ

 

「今でも覚えてるよ、あそこの藪に頭から逆さまに突っ込んでたの」

 

境内の隅の小さな木陰

一通り再会を喜んだ後、持ってきたアイスを白上さんと一緒に食べながらその時の事をふと思い出す

 

そうだ、確かあのあたりの藪だったはずだ

ふと目についた山の上へと繋がる石段

それを何となく登ってみた先にあった神社の境内を探検していた僕は、突然誰かの悲鳴と何かが落ちる音を聞くことになった

そして、何だろうと様子を見に行った僕が出会ったのが白上さんだったんだ

 

「確か、木の上で足を滑らせたんだっけ?」

「あはは…お恥ずかしい」

 

僕が聞くと、そう恥ずかしそうに白上さんは頭をかく

本人にとってはあまり掘り返して欲しくない話題のようだ

 

だけど、そんな出会いではあったけど白上さんは良い人だった

 

一人で暇を持て余してた僕を虫取りや魚釣りに連れていってくれたし、神社の境内で五目並べや将棋、花札なんかを教えてくれた

 

そして僕の方も他の人には姿が見えないから買い物が出来ない白上さんの為に、家から漫画を持っていって一緒に読んだり、お母さんが僕のために買ってきてくれたアイスやお菓子を持っていって一緒に食べたりした

 

そんな風に二人で過ごす日々は、いつもとっても楽しくて

そのおかげで、僕にとっては退屈な日々でしかなかったいつもの夏休みのこの村での滞在が、白上さんのおかげで毎年楽しみなイベントになった

 

だから、本当に白上さんには感謝してて…

 

 

 

「…ねぇ、海斗くんはどんな大人になりたい・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」

 

 

 

白上神社の境内

 

ミンミンと蝉の合唱が響き渡る8月の青空

 

うだるような真夏の日差しを優しく遮る涼しげな木陰の下で、どこまでも広がるような青空を見上げる白上さん

そんな彼女からかけられたその言葉は、今まで考えた事も無かった事で

 

「え?」

「だ~か~ら、海斗くんは大きくなったらどんな人になりたいのかなって」

 

そんな白上さんの言葉に少しだけ考える

だけど僕にはまだ大人になった自分の姿が上手く想像出来なくて…

 

「う~ん…わかんないや」

「…まぁ、そうですよね

海斗くん位の年ならまだそんな事考えませんよね」

「…でも」

「ん?」

 

…ちょっとだけ恥ずかしいけど…

 

 

 

「でもね、ぼくは強くて優しい大人の人になりたい!

それでいつか白上さんの事を守れるような人になるんだ!!」

 

 

 

僕がそう言うと、白上さんは少し驚いたような顔する

でもすぐにその目は優しく細められ

 

「ほぉ?

嬉しい事をいってくれますね?」

「わっ!

もう、急に頭をなでないでよ!!」

 

そう言って急に頭を撫でてきた白上さんから、咄嗟に僕は逃げ出す

でもちょっと恥ずかしかっただけで、撫でられる事自体は別に嫌じゃなくて…

 

「~っ!今日はもう帰るね!!」

「はいはい!それじゃあまた明日~

帰り道、気を付けて下さいね~!」

 

境内を立ち去る僕を、神社の階段まで白上さんが送ってくれる

でも、何だか気恥ずかしくて、僕はその日は振り返れなくて…

 

これが僕達の夏休み

僕達の日常

 

だから僕はこの時、また明日会えるって思ってて

ずっとこんな夏が続いていくんだって思ってて

 

だけど、そんな日々は長くは続かなかった

 

 

 

 

 

「――白上のせいだ」

 

薄暗い森の中

目の前で白上さんが泣いている

でもお化けに噛まれて体が動かなくなっちゃった僕には、それを見ている事しか出来なくて…

 

「――白上が、寂しいだなんて言ったから…」

 

泣かないで、そう言おうとしても声が出ない

お腹の辺りがとっても熱くて痛くて、体がどんどん冷たくなってくる

お化けに食べられなくて済んだ右手の感覚も、もうほとんどなくなっちゃった

 

だから僕は、白上神社から程遠いこの森の一角で泣きじゃくる白上さんの事を、ただ見ている事しか出来なくて…

 

「――白上が、君に関わってしまったから!」

 

ポタポタと、白上さんの頬から落ちた涙が僕にかかる

でも冷たくないし、むしろ暖かい

 

不思議だな…

さっき僕の事を噛んだお化けの牙はあんなにも熱くて痛かったのに、白上さんの涙が当たると少しだけ痛みが引いていくような気がする

 

それに、悪いのは神社への近道をしようと普段通らない道を通った僕だ

それでお化けに襲われたのを助けてくれようとした白上さんの事を、僕はこれっぽっちも責めたりなんてしないし、するはずがない

だから

 

(泣かないで…)

 

だけど、その言葉はやっぱり白上さんには届かなくて

 

 

 

「――絶対に、助けてみせる」

 

 

 

気が付くと、涙を拭った白上さんが何かを唱えていた

そして、それと共に周りに白い光が集まってきていて

 

「…ごめんね、海斗君

酷い目に合わせちゃったね」

 

その光が僕の体に触れると、当たったところが温かくなる

 

それだけじゃない

なくなっちゃった左手や足も、光が当たると次第に元に戻っていく

感覚が戻ってくる

だけど

 

「ごめんね…

けど、絶対に助けてみせるから」

 

なんでだろう?

この光を浴びてると頭がぼーっとしてくる

なんだがふわふわした気持ちになって…僕の中から大切なものが少しずつ消えていくような気がして…

 

「――ごめんね、本当にごめんね

だけど………」

 

そして僕は光に包まれて…

意識が遠くなって…

 

最後に見たのは涙を流しながら笑う知らないお姉さんの顔・・・・・・・・・・で...

 

 

 

――嬉しかったよ、守ってくれるって言ってくれて

…大好きだよ、海斗くん

 

 

 

――そして僕は目を覚ました

 

 





それでも、確かにあの夏はあったんだ
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