白上縁起恋灯絵巻【完結】   作:DX鶏がらスープ

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さぁ、ラストバトルの始まりです


Cross road

 

「――どうして生きている!?」

 

お前は確かにあの時殺したはずだ!

 

奇しくも、かつて初めて出会った広場の同じ場所でそう叫び動揺する黒上

…いや、冥界に取り残された白上さんの魂の片割れである、言わばもう一人の白上さん…黒上フブキ

80年前の最後の戦いの余波に巻き込まれて生まれ、以来ずっとたった一人で孤独に冥界をさ迷い続けたのであろう彼女の瞳は驚愕に染まっていった

 

だけど今の僕はもうあの時の僕とは違う

 

黒上さんの瞳を…かつて白上さんが使った禁術の影響で捻れた因果の揺り戻しの結果現世に現れたのであろう彼女の瞳を、僕はしっかりと見つめる

 

「理由なんてどうでも良い

僕がここに来た理由は一つです」

「!」

「白上さんを、返してもらいます」

 

その言葉と共に一歩踏み出す僕に、黒上さんが叫んだ

 

「な、嘗めるなぁっ!!」

 

その瞬間に黒上さんの周囲に展開される無数の氷柱

それも冥界の瘴気が付与されたそれを、黒上さんはまるでマシンガンか何かのように高速で射出してくる

それを僕は即座に結界を展開して弾き飛ばす

 

だが

 

「はっ!馬鹿が!!

何のために瘴気を纏わせたと思ってるんだ!!」

 

見れば氷柱の命中と共に結界に纏わりついた瘴気が結界を侵食し始めている

更に次から次へと放たれる氷柱の雨も一向に終わる気配がない

恐らく取り込んだ白上さんの力である氷による質量攻撃と、自身の力である瘴気による侵食を合わせたのだろうそれは、時間が立てば立つほどに僕を追い詰めていく結界術殺しの必殺の布陣だ

 

「このまま結界ごと押し潰してやる!!」

 

勝ち誇ったような顔で叫びながら圧倒的な物量を展開し続ける黒上さん

しかし、その顔には次第に怪訝そうな色が浮かび、やがてそれは驚愕の表情となる

 

「何故だ…何故結界が壊れない!?

これ程の物量と瘴気を受けて結界が無事なはずが...!?」

「…黒上さんは、墨汁を垂らすだけで海を染め上げられると思いますか?」

「なんだと?ま、まさか…!!」

 

顔を青くする黒上さんに僕は告げる

 

「結界術の本質は空間の再定義、及び新たな世界の創造

…黒上さんが教えてくれた事ですよ?」

 

僕はそう言い終えると同時に結界の制御を手放す

そして敢えて暴走させた結界の崩壊エネルギーを結界の外へと放出、発散させる事で、周囲の氷柱をまとめて吹き飛ばした

 

「くっ!ならこれならどうだ!!」

 

そう言って彼女が次に放ったのは、瘴気が込められたいくつもの衝撃波

飛翔する三日月のようなそれらは、面制圧の為に放たれていた先の氷柱と違い、その威力に重点がおかれているのだろう

 

恐らく直撃すればコンクリートの壁を簡単に粉々にするであろうそれらの群れは、だけど僕の前まで来た瞬間に一瞬で消滅する

僕の前に空いた、虚空へと繋がる穴の彼方へと消えていく

 

結界術による空間の再定義

これを更に進めて創造した「この世界のどこでもない場所」へと衝撃波を追放する

それはかつて黒上さんが教えてくれた結界術の奥義の領域に踏み込んだ技であり…その光景に唖然としていた黒上さんは、しかし流石に僕が今やった事に気が付いたのだろう

焦燥の表情で、今度は大量の冥獣ケガレを召喚して僕にけしかけながら叫んだ

 

「異界創造だと…?

そんなもの、人間ができる領域のものじゃない…

お前、一体どうやってそれを!?」

「別に大した事じゃありませんよ

単に死にかけた事で、僕は自分の力をより深く使えるようになった

それだけの事です」

 

異界創造の応用、世界一つ分の質量を封じ込めた小石をばらまき、周囲の冥獣ケガレ達を押し潰しながらそう返す

すると、黒上さんはようやく気が付いたようで…しかし信じられないというような表情を浮かべて叫んだ

 

「そうか!白上神社の神主一族の力か!!」

「ご明察」

 

そう、これは結局それだけの話

僕の「生と死の境界線を定める力」が、一度極限まで死に近づき、死の境界線の理解が深まった事で、今までより精密に、そしてより広い範囲で使えるようになったというだけの話

境界線を定めるという事は、もっと言うならば境界線を自在に設定できるという事

そしてその力を結界という境界線で世界を切り取る事を主とする結界術の運用に流用しただけの事

これは単にそれだけの話なのだ

 

「ーーそして黒上さん、あなたは僕だけに気を取られ過ぎだ」

「なにを…がっ!?」

「捕まえ、た!…にぇ!!」

 

気付けば黒上さんの足元には巨大な桜の紋様が展開されている

そして、そこから伸びた無数の桜色の鎖に何重にも拘束された黒上さんは苦悶の声を上げる

 

「い、一体いつの間に!?」

「お前が…海斗に気を取られている間に……決まってるじゃん!」

 

そう言って笑うみこさんだが、その態度とは裏腹にその顔にはいくつもの脂汗が浮かんでいる

良く見れば既に黒上さんを縛る桜の鎖には罅が入り始めており、それを維持するみこさんの口から一筋の赤い液体がしたたり落ちる

それだけ白上さんという神を取り込んだ黒上さんの存在は強大なものであるという証左であり…しかし、それでもみこさんは自慢の巫術で黒上さんをその場にとどめ続ける

 

折れそうな膝を気合いで支え、今にも砕け散りそうな術を必死で維持する

まがりなりにも神を相手に、それでもみこさんは膝をつくことなくまっすぐに向き合い続ける

 

なぜなら

 

「だって…みこは…「えりーと」だから

皆が…そう…信じてくれるから」

 

その言葉と共に、黒上さんを縛る桜の鎖がギシッと軋む

 

「だったら…やるしか…ないじゃん!!

頑張るしか…ないじゃん!!

お前なんかに…負けるもんかぁぁっ!!」

 

そんな叫びと共に更に拘束を強めるみこさん

そして、そんな彼女を黒上さんは悔しそうに睨みつけることしかできない

 

とは言え、この状態が長く持たない事なんてみんな分かってる

いかにみこさんと言えども苦しい事は変わらず、このままではじり貧だ

だからこそ

 

「海斗くん!」

 

待ち望んでいた声に僕は振り向く

そして飛んできたある物ををキャッチする

 

「準備は出来た!いつでも行けるよ!!」

 

そう言って隣へと駆けてきて刀印を構える大神さんの言葉に、僕は改めて自分の手の中のそれを見つめながら直前の彼女との会話を思い出す

 

(「いい、海斗くん

今からうちはこれに一つの術を施す」)

 

そう言って大神さんが取り出したのは金木犀の髪飾り…あの日、黒上さんに僕が殺されかけた日に、白上さんが落としていったクリスマスプレゼント

それを僕に見せながら大神さんは続ける

 

(「施す術はその人の持ち物を媒介に対象の精神領域を具現化し、そこへの侵入口をこじあける術

これを発動することができれば、海斗君はフブキと融合した黒上の精神領域に入れる

そしてそうすれば…」)

(「…今の僕なら二人の存在境界を再定義して二人を完全な形で分離できる

白上さんを完全な形で取り戻すことができる…」)

 

そう言うと大神さんがニッコリと微笑む

 

(「そう

だから海斗くんにはうちが術をかけたこれを黒上の体のどこかに押し付けて欲しいんだ

術の発動と制御の為にうちは動けないからね」)

 

そんなやり取りを思い出しながら、僕は手の中の髪飾りの存在を確かめると一気に走り出した

 

「任せたよ!海斗くん!!」

「えぇ、任されました!!」

 

だが黒上さんもただでは終わらない

 

「…いいや、まだだっ!」

 

黒上さんはまだみこさんの鎖に捕らわれている

だから今のままでは冥界の扉マガツトボソの封印を解けない

それでも彼女はまだ勝機が残されていると笑う

 

すなわち

 

「既に冥界の扉マガツトボソの封印の解除作業は殆ど終わってる!

ここまで来れば、後は直接触らなくても言霊での起動だけでも十分だ!!」

「なっ!?」

「くそっ!間に合え!!」

 

僕は全速力で黒上さんの元へと駆ける

だが、僕が彼女に触れるよりも黒上さんの言葉の方が早い

 

であれば当然

 

「もう遅い!

開け!冥界の扉マガツトボソ!!

この世の全てを飲み込め!!」

 

黒上さんの言霊が起動する

冥界の扉マガツトボソの封印が解ける

 

だが

 

「な、なんだ?どうして冥界の扉マガツトボソが開かない!?」

 

慌てて冥界の扉マガツトボソへと目をやる黒上さん

 

「確かに封印は解除した!

後は何もしなくても中から冥界が現世に流れ出すはず

それなのになんで!?」

 

そんな彼女の思惑はしかし、実際に冥界の扉マガツトボソを見た瞬間に音を立てて砕け散ることになる

 

なぜなら

 

「ちょっ!無理無理無理無理!!

沙花叉もうもたないって!!

もう限界だって!!」

「うるさいでござるよ、沙花叉!

ごたごた言ってる暇があったら死ぬ気で押さえるでござるよ!!」

「そ、そんな事言っても…!

こ、こよもそろそろ限界…!!」

「みんな頑張って!もうちょっと、もうちょっとだから!!」

「そうだ!ここが勝負どころだ!!我らホロックスの意地を見せるぞヤロウ共!!」

 

そう言って開きかけた冥界の扉マガツトボソを押さえるホロックスのメンバー達

そして更にもう一組・・・・・・

 

「うぎぎぎ…!すいちゃんの専門分野は力仕事じゃないんだけどなぁっ…!?」

「でもまだやれる!そうでしょ、すいちゃん!?」

「当たり前じゃん、まつり!気張っていくよ!!」

 

そこにいたのは星街さんと夏色さんだ

 

何の力も持たない普通の高校生である彼女達

あの日初めて僕らの事情を知ることになった彼女達もまた、自分の意志でここに立ち、冥界の扉マガツトボソを押さえてくれているのだ

 

そしてそんな彼女達の決死の行動は見事に結実する

それは具体的には冥界の扉マガツトボソの解放の妨害という形であり、それを見た黒上さんはあまりにも予想外の展開に瞠目する

目の前の光景を信じられないとばかりに呆然と見つめる

 

「ば、馬鹿な…」

 

思わずつぶやく黒上さん

だがそれを気が付いた彼女達は一様にしてやったりという笑みを浮かべた

 

「ハハハッ!

どうやら、やっとお前に一泡ふかせられたようだな、黒上とやら!!」

 

驚愕する黒上さんに、脂汗を流しながらラプラスさんがニヤリと嗤う

 

「残念だがこの世界は我らが征服する予定でな

横入りは遠慮してもらおうか!」

 

それに呼応するように夏色さんも叫ぶ

 

「そうだよ!

まつり達だって友達なんだ!!

だったら友達の為に頑張らなきゃ嘘でしょ!!」

 

そう言って今にも死にそうな顔をしながら、それでも彼女達は精一杯の虚勢を張る

 

あまりの扉の重さに体が砕けそうになっても

冥界の扉マガツトボソの隙間から溢れ出る瘴気の浸食に蝕まれる事になっても

体中の毛細血管が破裂し、血を吐くことになっても

それでも彼女達は最後の一線だけは越えさせまいと必死に扉を押さえ続ける

 

そんな彼女達の奮闘を見ていると、ふと直前の彼女達との会話が脳裏をよぎる

自分のすべきことをしろという彼女達からの激励を思い出す

 

(後のことは吾輩達に任せろ

なに、これでやっとお前達への借りを返せるというものだ

それに…)

 

(海斗くんにとって白上様は大切な人なんだよね?

だったら任せてよ!海斗くんの道はまつり達が作ってあげる!!

だから…)

 

「き、貴様らっ!!」

「おっと、我輩達だけを気にしていて良いのか?

さっきも海斗に言われていただろう?」

「まつり達に気を取られすぎだってね!!」

 

その言葉にハッとした顔でこちらを振り向く黒上さん

だがその時にはもう、僕も彼女に触れられる場所まで来ていた

 

「ーーしまった!!」

 

振り返る黒上さん

だけど、もう遅い!

 

「行っけぇ!海斗くんっ!!」

 

奇しくも大神さんの声と同じタイミングで、僕は黒上さんに髪飾りを押し当てる

あの日渡したクリスマスプレゼント

白上さんが落としていったそれは、今確かに元の持ち主の下に返って来る

それは、僕と白上さんの間にちゃんと絆が繋がっている事を証明してくれた気がして…

 

だから、僕は万感の想いを込めて叫ぶ

 

そうだ、白上さんの正体がどうとかそんな事はどうでも良い

僕はただーー!

 

 

 

「ーー帰ろう!白上さん!!」

 

 

 

ーー君と一緒にいたい、それだけなんだ!

 

その瞬間、僕と黒上さんの体は闇に包まれるのだった





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