白上縁起恋灯絵巻【完結】   作:DX鶏がらスープ

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さぁ、皆さん
某動画サイトはお手元で開けるようになっていますか?

それではどうぞ



キセキ

 

ーー実は最初から気付いてたんですって言ったら…あなたはどんな反応をするんでしょうか?

 

そうです

あの日、冥獣ケガレに食べられそうになっていた君を助けた時から

もっと言えば顔を見た瞬間から白上は気付いていました

 

あぁ、あの子だって

もう二度と会えないはずだったあの子だって

 

その瞬間に白上の中を駆け巡った感情はとても一言では言い表せません

 

どうしてこんなところにいるの?

記憶は消したはず

白上はまた同じ過ちを…

懐かしい…

どこも怪我はしてないよね?

 

様々な想いが胸の中に溢れる中で、それでも白上の心の大部分を満たしたのは再会の喜びでした

また会えて嬉しい

そんなシンプルな喜びが心を満たし…けれどそれを表だって見せる訳には行きません

 

だって彼と白上は初対面・・・ですから

「白上さんっていうお名前なんですか?」なんて真っ直ぐに言われたのは流石にショックでしたが…それでも彼が白上の事を完全に忘れているのなら、彼にいぶかしまれる様な言動をするわけにはいきません

それは普通に怪しい人だと思われるからというのもありますが、それ以上に覚えていないのなら下手に記憶を刺激するのはあまり良くない事だと思ったからです

 

とは言え、海斗くんは覚えていなくても白上にとっては本当に久しぶりの再会です

正直その場で歓声を上げなかったのが奇跡です

そして、だからこそその時の白上はこの感情を隠しきるのは不可能だと思い、何をとち狂ったのか、それならいっそはっちゃっけて誤魔化す事にしました

 

つまり

 

「ふわふわしっぽのごぼうせーい!あなたの心の一番星 、白上フブキです!Hi friends!」

 

今でもこの判断を白上は間違いだとは思っていません

思っていませんが、それでももっとこう…何か他のやりかたは無かったのかと、たまに思い出して頭を抱えています

 

だけどそうやって自分を誤魔化して

そのままでは危ない事自体は事実なので、一先ず彼の避難も兼ねて白上神社に連れていって

そして彼に寝床を提供して一先ず落ち着くと、どうしても白上は自分を抑える事が出来なくなってしまって…

 

だからあの日、白上はこっそり寝ている君の顔を見に行くことにしました

 

「お、お邪魔しま~す…」

 

夜の詰所

誰もいない寝静まった廊下を忍び足で進み、音もなく扉を開けます

そして同じように扉を閉めて、寝ている海斗くんの側まで近づいたところまでは順調でした

だけど、思えば白上はそこから先の事はなんにも考えてない事に気が付いて愕然としました

 

(どうしてこんな事しちゃったんですか!

白上のお馬鹿ぁ!!)

 

衝動的な自分の行動に悶えましたが、そんな時ふと自身の前で眠る海斗くんの顔が目に入ります

 

きっと最後に会ってから色々な事があったのでしょう

目の下に深いくまがあるその姿はとても痛ましいものでしたが、それでも流石に今夜の事には疲れてしまったでしょう

ぐっすりと眠っています

 

そしてその体は五体満足で、特に肉体的な障害があるようには見えません

だからあの後、少なくとも大きな怪我や負傷は無かったのであろう事だけは白上にも容易に想像が出来て…そこまで考えたところで耐えられなくなりました

 

「…良かった...本当に、良かった...」

 

ぽたり、ぽたりと私の涙が畳に落ちます

 

気が付けば白上は海斗くんの頬に手を添えていて

それでも海斗くんは起きませんが、その頬の暖かさが確かに海斗くんが生きているという証拠のように思えて、更に泣けてきました

 

「…~っ!」

 

彼が今日まで普通に生活出来ていた事に対する喜びと安堵、もしかしたらそれを奪ってしまっていたかもしれないという恐怖と罪悪感

相反する二つの感情に胸が詰まり、何も言えなくなります

溢れ出る涙も、もう自分では止める事が出来ません

 

それでも

 

「…大丈夫だよ」

 

そっと私は海斗くんの頭を撫でます

月日が経つのは早いもので、今の海斗くんの体は白上が知るものよりも何倍も大きくなっていますし、きっと中身だってそうでしょう

見守る事が出来なかった年月を思うと少し悲しくなります

 

それでも寝顔だけは変わりません

あの頃遊び疲れて神社で寝てしまっていた少年のあどけない寝顔は、それでもここにあります

かつて守りたかったものは、今再び目の前にあります

 

それなら…

 

「今度は...絶対に守るから」

 

そう誓いを立てます

あの時、白上は海斗くんを守れなかった

海斗くんの笑顔を守れず、危うくその命までも奪ってしまうところだった

だからこそ、白上は誓ったんです

今度こそ、この子を守って見せるって

もう二度と、彼にあんな思いをさせるもんかって

 

そう、確かに誓ったのに…

 

(守れなかった…)

 

白上は結局、海斗くんを守れなかった

 

こんな白上と友達だって言ってくれた彼を

白上のささやかな願いを一生懸命に叶えてくれた彼を

ずっと側にいてくれた彼を

 

そして、よく似合ってるってあんなにも素敵な髪留めを白上にくれた彼を

昔言った通りに、白上の事を守れる位強くて優しい人になってくれた彼を

 

結局…結局白上は守りきる事が出来なくて…

 

 

 

「…ねぇ、白上さん」

 

 

…あぁ、だからきっと今聞こえる声だって、白上の都合の良い幻聴に違いなくて

だけど…どうしてだろう?

 

「僕は、君に伝えたい事があるんです」

 

その声は幻聴のはずなのに、何故だか聞いているだけで心が安らいでくるような気がして

まるで穏やかな朝の光を浴びたように暖かな気持ちになって

 

「白上さん、僕は………」

 

目を開ければ、そこは文字通り闇の中

どこまでも続く果てない闇

希望などないとでも言わんばかりに広がる圧倒的な闇

色彩という概念の一切を許さない無限の黒に支配された場所

そんな闇のイデアとでも言うべき場所の更に底の底

光という概念からは最も縁遠い場所

 

…そのはずなのに

 

 

 

「ーー君の事が好きです」

 

 

 

ーーまるで、光がそこから差し込んでいるように感じて…

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

 

「…今思えば一目惚れだったのかもしれない」

 

僕はそう言って頬をかく

…でも仕方がないじゃないか

だってーー

 

「初めて会った時から

…それは勿論子供の時に会った時から、君は本当に綺麗でかわいらしい人で…

正直言って、見惚れているのを悟られないようにするので精一杯でした」

 

それだけじゃない

 

「それでいて優しくて頼りになって…ちょっと詰めが甘いところがあるけどそれもまた愛らしくて…」

 

そう言って僕は次々と白上さんの良いところやかわいいところを上げていく

 

いつもひた向きに頑張っているところや気配り上手なところ

意外と恥ずかしがり屋なところとか、高いところが苦手なところ

耳や尻尾もかわいいのは勿論の事、その明るい性格に何度助けられた事か分からない

 

そうやって一つ一つ白上さんの魅力をあげていく度に、自分の中にある白上さんへの想いが強くなっていく気がして…

 

あぁ、だからこそだ

 

「…だからこそ、僕は君とこれからも共に歩みたい」

 

君と一緒に生きていきたい

そう言って虚空に右手を伸ばす

 

「君と同じ苦しみと悲しみを共に背負い、君と同じ喜びと幸せを分け合いたい」

 

――あなたと、同じ時を過ごしたいんだ

 

そんな自分の正直な想いを、誰もいない闇の中へ告げる

 

勿論返事はない

だけど、きっとどこかで聞いているはず

伝わっているはず

そんな確信に導かれるままに何もない闇の中へと語りかけ続ける

 

「だから僕は知りたい

君がどうなのか

僕の事をどう思っているのかを

だから…」

 

もし良かったら…それを聞かせてはくれませんか?

 

そんな問いかけを、僕が投げた直後だった

 

 

 

「………ずっと、ずっと前から好きでした」

 

 

 

そっと、差し出された僕の右手の上に白い手が置かれる

そのほっそりとした小さな手はまるで妖精の手のようで、それでもとても暖かくて安心するもので

 

「私はあなたと同じ人間じゃないけど…

本当はこういうのダメなことも分かってるけど…」

 

気が付くと目の前に立っていた白上さん

その手は微かに震えているけれど、それでも僕は敢えて何も言わない

 

ただ静かに見守る

白上さんを信じて待つ

それだけで、白上さんはちゃんと続きを話してくれる

 

「あなたの姿を見てきて

あなたと言葉を交わして

あなたと一緒に過ごす日々が本当に楽しくって…」

 

語る端からぽろぽろと零れ落ちて来る涙

 

それはまるで、白上さんの中の想いが形になって溢れ出しているようで

きっと、ずっと言えなかったのだろう後悔や罪悪感もそこには混じっていて

 

だけど

 

「ずっとこんな日が続けばいいのにって…

続けたいって!もっともっとわたしのこと知ってほしいって…」 

 

それでも真っ直ぐに僕を見据えるその瞳は

そのターコイズのような深い青緑をたたえた目に映るその想いは

 

「お別れしたくないって………」

 

きっと、僕と同じものだから…

 

気が付くと周囲の暗闇は晴れていた

どころか、そこは僕らにとって馴染み深い白上神社の境内になっていた

 

だけど、別にそれはおかしな事ではない

何故ならここは黒上さんの精神領域であり、同時にそこに閉じ込められ、肉体の制御権を奪われた白上さん自身の精神領域なのだ

それならそこが白上さんにとっても馴染み深い場所であっても何らおかしくはない

 

そして、それまで一面の闇に覆われ、何も見えなかった場所がこうなったという事は、黒上さんに支配されていた自身の精神領域の主導権を白上さんが取り戻したという事で

 

ーーそれはつまり、白上さんの中でちゃんと心が定まったという事でもあって

 

…あぁ、だからこそ

 

「あなたもわたしと同じ気持ちなら…」

 

そう言って微笑む彼女の顔は

 

「この気持ち、受け取ってもらえませんか?」

 

世界で一番かわいい、最高の笑顔で…

 

 

【挿絵表示】

 

 

「………はい、喜んで」

 

その言葉と共に周囲に光が満ちる

地響きと共に、具現化した精神領域が崩壊する

だけど、僕らは動じない

何故なら、お互いに世界で一番大切な人が一緒だから

きっと二人でなら、どんな困難でも乗り越えられるって信じてるから

 

術が解け、精神領域が完全に崩壊して現実世界へと帰還するまで、僕らはずっと互いの手を繋いでいたのだった

 

 





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