白上縁起恋灯絵巻【完結】   作:DX鶏がらスープ

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ありがたいことに、後日談を見たいという声をいくつかいただいたので、後日談シリーズその一です
何とか頑張りました…

と言っても、時間軸としては最終話とその前の話の間の話なので、厳密な意味では後日談ではないのですが…

なお、本編が例の動画の一番最初のお題に至る話なのに対して、これは二番目のお題に至るまでの話となっております

それではどうぞ!



後日談など
初デート編 忠告


創造というのは何時だって大変な事だ

何故ならそれは0から1を作り出すという事に他ならないし、参考にする物や手本になる物すらない事も珍しくないからだ

 

この営みがどれだけとんでもない事なのかなんて、例え科学や歴史を学んでいなかったとしても簡単に想像がつくだろうし、なんなら実際にやってみれば嫌でも分かる

どこぞの最高神にとっては「光あれ」と口にするだけで済むそれはしかし、神様でも何でもない僕らにとっては極めて困難な事であるのは疑いの余地もない事だろう

 

だが、それはあくまで0から1を作り出す時の話

逆に1を2や3にする事は、0を1にする事に比べれば格段に簡単であり、だからこそ今の人類文明というものがある

 

他の動物と違い、言葉や文字という形で自身の知識や経験を後世に残す事ができる僕ら人類は、そうやって過去の偉大な業績を積み重ねる事でここまで来た

巨人の肩の上に乗っていると言うのはまさしくその通りで、僕らは数多の先達や手本があるからこそ、より高度な思考や発想を出来るのだ

 

それはつまり、何か叩き台になるものさえあれば、技術の進歩は著しく進むという事で

 

「それじゃあ海斗くん、もう一回お願い!」

「はい」

 

博衣さんの合図に従い、僕は結界術を使用して目の前の空間に穴を開ける

結界術の奥義は空間の再定義、及び異界創造

それを生かして僕が作ったどこでもない場所に繋がる穴は、文字通りこの世界ではない場所に繋がるものだ

これは僕自身の能力である「生と死の境界線を定める能力」も併用して、この世界そのもの境界線いじり、世界の外へと繋がる穴を作成している訳だが、博衣さんはそうやって僕が開けた穴を色々な機械を使って調べたり観察したりしてデータを取っている

 

その様子はとても真剣なもので、いつものトンチキ発明をしている時の雰囲気とは似ても似つかない

とは言え、あくまでも実験の協力者でしかない僕の役割は、結界術を使用して空間に穴を開けるところまで

だからこれ以上僕に出来る事はなく、有り体に言うと凄くヒマである

だからこそ、特にする事もなく椅子に座ってぼんやりと博衣さんが空間の穴を調べるのを見ていた僕だったけど、そんな僕らにラボに入ってきたラプラスさんが声をかけてきた

 

「おぉ、二人ともやってるな」

「あ、ラプラスさん

こんにちは」

「うむ、苦しゅうない

それでこより、進捗の方は?」

「バッチリだよ!本当に海斗くんにはお世話になりっぱなしだね!!」

 

そう言いながら嬉しそうに微笑む博衣さんに、そうかそうかとラプラスさんもまた優しい目をする

と言うのも、それは長い間滞っていた彼女達の悲願への道のりがようやく一歩進みそうだからに他ならないだろう

 

「まだ異世界の観測どころか、世界の壁に穴をあける事すらこよ達には出来ない

でも、海斗くんのおかげで世界の壁を観測出来た!

これはすっごく大きな進歩だよ!!」

 

そう言いながら、たくさんの機械をイキイキした様子で動かす博衣さん

その顔にはよく見ると少し隈が浮かんでいる

それでも穴の観測を続ける博衣さんの表情は実に楽しげで

 

(多分、研究者としての性もあるんだろうけど…)

 

それと同じ位に、自分達の世界に帰るというホロックスの本来の目的がちゃんと前進しているのが嬉しいのかもしれない

真剣な、それでもどこか嬉しそうな博衣さんの観測作業は気が付くと終わっていて

 

「…よし!こんなものかな?

今日もありがとね、海斗くん!!」

「いえいえ、こんな事で良ければいつでも呼んで下さい」

 

観測用の機械を片付けながらお礼を言う博衣さん

そんな彼女の言葉に構わないですよと返す僕だったけど、そんな僕らを見ていたラプラスさんが苦笑した

 

「…海斗

お前に悪気が無い事位はちゃんと我輩も分かっているんだが…あまりそういう事は言わない方が良いんじゃないか?」

「?」

 

その言葉に首を傾げる僕に、呆れたようにラプラスさんは続ける

 

「…仮にも恋人がいる男が、若い女にいつでも予定が空いているなんて宣うのはどうなのか、という話だよ」

「!!」

 

その言葉に顔が赤くなる僕と、やれやれと肩をすくめるラプラスさん

一応ちゃんとフブキさんには許可取ってますよ?、とは聞いていた博衣さんの言葉だけど、そんな事は分かってるさ、とラプラスさんはため息をつく

と言うのも、ラプラスさんは僕と白上さんの関係があまり進展していない事を知っているからだろう

 

そう、あれから…黒上フブキの件から既に一週間程の時間が経過している

その間、磐ノ斗では特に事件は起きていないけど、それとは対称的に僕と白上さんの関係は非常にギクシャクしていた

 

と言うのも、お互いにこれまで恋愛経験などなく、お互いにお互いが初めての恋人という状況

あの件で互いに気持ちを伝え合ったたのは良いものの、いざ恋人になってみるとお互いに恥ずかしさが先行してしまい、手を繋ぐ所か上手く会話も出来なくなる始末

 

別に白上さんの事が嫌いになったという訳では全く無いし、多分それは向こうも同じだろう

だけどお互いがお互いの事を意識しすぎてしまって、却って空回りしてしまっているというのが現状なのだ

 

「みこさんも言ってたぞ?

あんなにお互いが好き好きオーラ全開なのに、実際に会うと互いに真っ赤になって何も出来なくなる

もどかしすぎて見てるこっちが気が狂いそうだ、って」

 

呆れたような目でこちらを見つめるラプラスさん

だけど、僕としてもこの現状を何とかしたいとは思っていて…

でも実際に白上さんの顔を見ると中々上手く行かない

白上さん綺麗だなとか、可愛いなとか、そんな事を考えてる内に急に何かものすごく恥ずかしくなってしまい、まともにやり取り出来なくなるのだ

 

(…今思えば)

 

今までどうしてあんなに可愛らしい人と一緒にいて、平然としていられたのかが分からない

と言うか、今でも白上さんが僕の恋人になってくれた事自体がたまに信じられなくなる

 

とは言え、事実として僕らはあの時互いに想いを伝えあって恋人になった

それは本当の事だし、だからこそもっと白上さんの事を知りたい、仲良くなりたいと思っている事も本当の事だ

そして、きっと白上さんも同じことを思っているはず

 

だからこそ、この現状は僕らにとってもあまり好ましいものではなくて…

 

そんな事を考えているとラプラスが肩を竦める

 

「やれやれ…若いってのは難儀だねぇ」

 

なぁ、こより?

そう言って笑うラプラスさんの態度に、流石に少しだけカチンとくる

 

「…ラプラスさんに言われたくないんですが?」

「ん?

我輩にか?どうして?」

「どうしてって…」

 

チラリとラプラスさんの爪先から頭までを見る

だがその姿は高校生どころか小学生でも通じそうな幼い容姿である事は変わらなくて...

 

(…海斗くん

ラプちゃんってね、実はホロックス最年長なんだよ?)

(え?嘘ですよね?)

 

機械を片付け終わったのか、ラボから出ていこうとする博衣さんの耳打ちに思わず彼女の方を見る

しかし博衣さんは無理もないよね、と苦笑するばかりで

 

「………ん?

もしかして海斗、お前我輩の事ガキだと思ってたのか?」

 

まったく失礼な奴だな、と頬を膨らませるラプラスさん

だがそんな彼女の口から出た彼女の実年齢に僕は唖然とする

 

「………億?」

 

なんだそれは

そんなのこの磐ノ戸の地を長く守ってきた白上さんや大神さんだって届かないじゃないか

 

あまりのスケールの大きさに、流石に怪訝な目でラプラスさんを見る僕だったけど、凄いだろ?とドヤ顔をするラプラスさんが嘘をついているようにはとても思えなくて...

 

「ふふん!我輩の偉大さがようやく分かったか!!

それじゃあ今日こそホロックスの一員に…」

「あ、それは遠慮します」

「…毎度の事ながら、一切の躊躇がないなお前…」

 

まぁ、今回は別に良いけど

と言いながらラプラスさんは懐から二枚のチケットを取り出すと僕に渡してくれる

受け取ったそれには、とある遊園地の1日無料券という文字が記されている

 

これは?と思わず尋ねる僕に、ラプラスさんは胸を張った

 

「商店街のくじ引きの特賞でもらったんだが…我輩には不要なものだ

フブキさんと一緒に楽しんでくると良い」

 

そう語るラプラスさん

だけど、この遊園地は国内でもトップクラスの人気を誇る有名な場所であり、そのプレミアチケットともなれば早々手に入るものではない

 

思わずこんな貴重なものをもらっても良いのかと尋ねる僕

だがラプラスさんは、ここ数日こよりの実験に付き合ってくれた礼だと笑う

 

「…それにな、海斗

これは我輩なりのお前へのお節介でもあるんだ」

「お節介…ですか?」

「あぁ、そうだ

…ところで海斗、我輩はさっき自身の年齢をお前に教えた訳だが…」

 

ーーこの長い人生の中で、我輩が出会ってきた人間の数は…

仲良くなった人間の数は…

そして、その死を看取った数は、一体どのくらいになると思う?

 

そう問われ思わず黙り込む

それはその質問の答えがあまりにも膨大な数になるのであろう事を察したから…だけではない

その瞬間にラプラスさんの雰囲気が一瞬で長い長い時を生きる長命種に相応しい貫禄を持ったものに変わったからだ

 

「…と言っても、質問しておいてなんだが、実は我輩も正確には覚えていないんだ」

 

すまんな

 

そう言ってラプラスさんは笑う

だけどその目はどこか寂しげで

 

「だかな、海斗…こういう事なんだよ

長い時を生きるっていうのは」

 

近くにあった椅子に腰掛け、ラボの天井を見つめながらラプラスさんは語り出す

それは間違いなく長い長い時を超えて来た正真正銘の長命種の言葉で

 

「…覚えてないんだよ

確かにその時間は存在したはずなのに

確かに心を通わせたはずなのに」

 

思い出せないんだよ

ぼんやりとしか

もう、思い出せないんだ…

 

そう言ってラプラスさんは口を閉じる

だけど、言外にその発言はお前にも無関係な事ではないんだぞ、と言っているように思えて

 

そこまで考えてゾッとする

 

僕は白上さんを一人にさせたくない

可能な限り一緒に同じ時間を歩みたいと願っている

でもそもそも僕は普通の人間で、白上さんは神様だ

だから大前提からして生きる時間の長さが最初から違うし、先に彼女をおいていくのは間違いなく僕の方だ

そしてそれはきっと、白上さんをまたひとりぼっちにしてしまうと言う事で...

 

(僕の…僕のやってきた事は…)

 

全部…無駄だったって事なのか?

無意味な事だったって、そう言うのか?

結局僕には、白上さんを真の意味で救うことなんて…

 

そこまで考えた時だった

 

「…だけどな、海斗

それでも確かに…確かにあの時間は存在したんだ」

 

気が付くとラプラスさんは僕の目の前に立っていて

 

「そうさ

確かに我輩はその詳細を覚えていない

顔も名前も、もうほとんど思い出せない

それでも、それがあった事だけは覚えてる

ちゃんと覚えてるんだ

そしてそれで十分なんだ」

 

そう言ってラプラスさんは改めて僕の手の中の遊園地のチケットをしっかりと握らせる

 

「過去を積み重ねたものが今であり、今を積み重ねたものが未来だ

それなら今我輩が楽しく生きていられるのは、きっと過去が楽しかったからだし、前を向いて歩いていけるのも今が楽しいからだ」

 

ーーだから海斗、フブキさんと共に歩むことを選んだのなら、目一杯その時間を楽しめ

振り返った時に彼女が幸せだったと胸を張って言えるような、そんな最高の時間を最後の瞬間まで共に作り続けろ

 

「…それが、我輩がお前に出来る唯一のアドバイスだ」

 

そう言ってラプラスさんは微笑むのだった





初デート編とか銘打っときながら、全然デートに行けてない…
つ、次の話ではちゃんと行くので大丈夫です!!
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