初デート編は、今回以降基本的に白上さん視点です
ーー突然ですが、白上はこれでも神様です
それも磐ノ斗の地を守る守り神です
だからこそ、それなりの場数は踏んでいますし、所謂死線というものも幾つか潜り抜けてきた経験があります
例えば最近だと黒上フブキ関連の事件が一番の騒動でしたが、それ以前の磐ノ斗が完全に平和であったかと言われると、意外とそうでもありません
例を上げるなら、例えば色々な要因が重なる事で普段より強い冥獣が出現したり、どこからか迷い込んだ鬼の襲撃を退けたりといった感じでしょうか
それら全てを白上は何とか乗り越えています
それにそうでなくとも、地震に台風に山火事に川の氾濫などと、この70年程で村を襲った突発的な災害はいくつもあり、それらの対応に負われた事だってあります
まぁ、流石に総合的な経験の数という意味では、白上よりも前から神様としてこの地を守っているミオには叶いませんが…それでも白上だってそれなりの数の修羅場を潜り抜けてきた経験がありますし、だからこそ早々簡単に屈したりはしません
ーー白上神社の祭神の名前は決して伊達ではないのです
でも…だからこそ分かります
今白上の前に立ち塞がるこの状況は、そんな白上の力を持ってしても簡単には攻略出来ない非常に困難なものだと
…えぇ、下手をすると、これまで白上が潜り抜けてきたあらゆる戦場の中でも一等過酷で熾烈なものかもしれないと
でも、白上は神様…白上神社の祭神なんです
だからこそ、負けるわけには行きません
何故なら、白上の肩にはこの磐ノ斗の地の祭神としての名前と、磐ノ斗の人達の笑顔が掛かっているのです
だからこそ、ここで引くわけにはいきません
(三つ数えたら行きましょう…)
大きく深呼吸をし、心の中で三つ数えて物陰から歩き始めます
心臓は昨日の夜からバクバクしてますし、寝不足気味の頭も少しくらくらしますが…問題ありません
ちゃんと白上の足は動いていますし、表情もいつも通り…決してだらしなく緩んだりしてません
だからこそ白上は勝負をかけます
見えてきた目的地、それと同時に目があった目的の人物に対し、先制を行います
いついかなる時でも、戦場では先手必勝が真理です
ですから白上は、意を決してその言葉を唱えます
すなわち…
「ま…待ちましたか?」
「いいえ
今来たところですよ、白上さん」
・・・・・・
(まさか海斗くんからデートに誘ってくれるなんて…)
嬉しいなぁ…
思わず鼻歌でも歌い出してしまいそうな程に内心で浮かれていると、隣の席に座っていた海斗くんがどうかしましたかと声をかけてきます
そこで初めて自分の頬が緩んでいる事に気が付いた白上は、少し恥ずかしくなってそっぽを向きます
「な、なんでもないです」
そう言って車窓の外へと慌てて目を向ける白上
…そう、車窓の外
本来磐ノ斗の地から白上達は出られません
理由は簡単、白上達が磐ノ斗の地の守り神だからです
それは、冥界の扉の監視という役割だけでなく、土地神…特定の土地に紐付けられた神様という側面を白上神社の祭神が持つ以上、仕方のない制約です
だからこそ、今こうして白上が電車に乗れているのにはちゃんとした理由があります
それが今白上の右手にはまっているブレスレット型の道具
こよちゃんが作ってくれた、身に付けている間、その人の足元の地面を磐ノ斗の山の奥地の地面と入れ換え続けるという『どこでも磐ノ斗君』です
(…正直「磐ノ斗の外に出れないのなら、今いる場所が磐ノ戸になれば良いよね!」とか言い出した時は、本当に大丈夫なのかと不安でしたけど…)
今のところ白上の身に何も起きてないのをみるに、しっかりと効果を発揮できているようで安心です
ですから白上は初めて乗る電車の景色を楽しむことにします
ガタンガタンという音と共に、景色が後ろへ後ろへと流れていきます
それと共に、これまで田んぼや畑ばかりだった景色の中に少しずつ、少しずつ、人工物が混ざってきます
それでも初めて見る景色に、白上は内心すごく興奮していて...
「…そんなに乗り出さなくても、景色は逃げませんよ?」
「はうっ!?」
そう言って笑う海斗くんの言葉に、慌てて姿勢を正します
でも何だかさっきから白上ばっかり恥ずかしい思いをしているような気がして、白上は海斗くんを軽く睨みます
だけど、そうやって顔を見た瞬間に思いがけず海斗くんとばっちり目があって
((あ))
思わず見つめ合う事数秒
互いに気恥ずかしくなって目線を反らして
それでも何か言わなくちゃと焦る白上でしたが、海斗くんに先を越されてしまいます
「…そ、そう言えば、今日はいつもと違う服なんですね」
「え、えぇ…
折角のデートですからね
ミオとみこさんに手伝ってもらって買ってきました」
そう言って改めて白上は今日の自分の服装を確認します
白いフリルの付いた緑色のプリーツスカートに、淡い亜麻色の上着と黒い帽子
二人と一緒に相談して選んだ、お気に入りの服
…少しでも彼にかわいいって思って欲しくて選んだそれをじっと見つめて、海斗くんはスッと目を反らします
だけど、その頬が少し赤くなっているのを白上は見逃していなくて
「…と、とてもかわいいと思います」
「…!
あ、ありがとうございます…」
そう白上が返したっきり、しばらくお互いの間に沈黙が流れます
でもそれは決して嫌な沈黙ではなくて、むしろお互いに照れているからこその、どこかじれったい雰囲気に包まれた沈黙で
それに何より
(か、かわいいって...!)
その言葉を思い出す度に、つい頬が緩んでしまいます
頬が真っ赤に紅潮しているのが自分でも分かります
ほんの一言だけの感想
それでも好きな人が言ってくれたそれは、白上にとっては本当に、本当に嬉しいもので...
(ありがとう!ミオ、みこさん!!)
思わず買い物を手伝ってくれた二人に感謝します
でもそれくらい白上にとっては、とっても喜ばしい事で
飛び上がりそうな程の歓喜の中で、だけど白上はふと思います
(…思えば、白上はいつも海斗くんにもらってばっかりですね…)
ちらりと隣の海斗くんの方を見ると、私と同じように顔を赤くしていますが、考えてみればいつも海斗くんは白上にたくさんの嬉しい贈り物をしてくれます
例えば白上祭りの時だってそうだったし、あのホワイトクリスマスの時だってそう
そして今だって、照れながらではあっても白上の一番欲しかった言葉をくれました
でも白上はそれに対して何も返せていません
いつも白上が嬉しいばかりで、海斗くんを喜ばせてあげる事が出来ていないような気がします
だから
(白上も、海斗くんの事喜ばせてあげたいな…)
そう心から思います
だって白上だって海斗くんの事が大切で…白上だって海斗くんの笑顔が大好きですから…
(もっと、笑わせてあげたいな…)
それこそかつて一緒に遊んでいた頃のように
あの頃のような心の底からの笑顔を、もっと彼にさせてあげれたら良いな
そんな事を考えながら外を見つめる白上の前で、車窓から流れる景色は静かに、だけど確かに都会の色に染まっていくのでした
白上さんだけに限った話ではありませんが、衣装の描写ってすごく大変ですよね
だってまず服の名前から調べなきゃいけませんから
正直今回の白上さんの衣装に関してもちゃんと正しく表記出来ているのか怪しい気がします
服の知識が欲しいなぁ…