ちなみに二人は今日の為に、ホロックスから二つの道具をもらっています
そのうちの一つが前回出てきた白上さんの遠出を可能にした『どこでも磐ノ斗君』ですが、もう一つ、持ち主が話題に出すまで周囲から特定の事象に対する認識をズラす道具ももらっています
それのおかげで主人公一人で席を二つ取ったり、ご飯を二つ注文しても周りから違和感を持たれないので、白上さんと一緒に遊園地を楽しめるってわけです
白上もそれなりに長い年月を生きているつもりですが、それでも初めて行く遊園地は想像以上に楽しい場所でした
メリーゴーランドにコーヒーカップ、お化け屋敷に巨大迷路
生憎白上は高い場所が苦手ですし、海斗くんも絶叫系が苦手みたいだったので*1、定番と言われるジェットコースターや観覧車には乗れません
それでも十分以上に白上達は楽しい時間を過ごします
「海斗くん!次はこれ行きませんか!?」
「白上さん、そんなに慌てなくてもアトラクションは逃げませんよ」
そう笑いながらも、はしゃぐ白上に付き合ってくれる海斗くん
そんな彼に分かってますよ、と言いながらも、白上は浮かれる気持ちを完全には押さえることが出来ません
(楽しいなぁ…)
それは勿論、目に映る物全てがもの珍しいからというだけではありません
当然それも理由の一つではありますが、一番大きな理由はやはりずっと隣に海斗くんがいてくれるからです
(本当に、楽しいなぁ…)
胸の中に暖かな気持ちを感じながら、白上達は遊園地を回ります
コーヒーカップを回しすぎて、二人そろってグロッキーになったり
普段本物のお化けと戦っているだけに、お化け屋敷のお化け達が逆にかわいく思えてきて二人で苦笑したり
あるいは、思いの外難しい迷路に完全に迷ってしまい、やむなく海斗くんの結界術による壁抜けでズルしてゴールしようとしたら、余計に迷ってしまって二人で頭を抱えたり
海斗くんと一緒に過ごす時間はどれもまるで夢のように楽しくて、それでいて満ち足りていて…
本当にこんなにも幸せな時間は始めてで、だからこそ白上はこれ以上ない程の笑顔で海斗くんに微笑みます
「楽しいですね!海斗くん!!」
「えぇ、そうですね」
次のアトラクションへと向かう途中で買ったチュロスを食べながら海斗くんにそう言うと、海斗くんもまたそれに応えて笑ってくれます
それが白上にはとっても嬉しくて…
(あぁ、これがデートというものなんですね…)
噂でしか聞いたことのなかったアトラクションを実際に体験出来た事も嬉しかったですが、でもそれ以上に海斗くんとずっと一緒にいれた事、彼の笑顔をたくさん見れた事が、白上にとっては何より嬉しい事です
「ーー午後からはどこに行きましょうか?」
昼ご飯を食べ終え、一先ず一緒にベンチに座って休憩をしていた白上がワクワクしながらそう言ったタイミングで、白上の肩に何かがこつんと当たります
「?」
不思議に思い横を見ると、そこには海斗くんの頭があります
それを見て、どうしたんですか?と一瞬声をかけようとしますが…直前で白上は海斗君が寝ている事に気が付きます
「…海斗くん?」
思わずそう呟くも、白上の肩に体重を預けたまま海斗くんは静かに眠り続けます
よっぽど疲れていたのでしょうか、その寝顔はしばらく目を覚ましそうには思えなくて…
(…そっか)
その瞬間に気が付きました
結局今日も海斗くんは白上を楽しませる為に頑張ってくれていたんだなって
勿論、明確な根拠や証拠はありません
だけど、何となくそんな気がします
そして、それはきっと間違っていないはずです
それに気付くと共に、白上の胸の内から愛しい気持ちと、少しばかりのもどかしさが湧いてきます
(…本当に、白上の事ばっかりですね
海斗くんは...)
それだけ彼が白上の事を好いてくれるのはとても嬉しい事ですが、それでもたまには白上だって海斗くんを喜ばせてあげたい
笑顔にしてあげたい
そんな事を考えていると、ふとこの状況なら「あれ」が出来るんじゃないかと白上は思い付きます
とは言え、それは実際に実行するには勇気が必要な事
だから流石に白上も少し葛藤します
(…ちょっと………ううん、かなり恥ずかしいけど…)
僅かばかりの躊躇い
それでも白上は決意します
何故なら白上だって海斗くんの為に出来る事はしてあげたいから
もらいっぱなしと言うのは良いことではありませんし、何より今の白上は海斗くんの恋人です
(だ、だから…こういう事しても大丈夫…だよね?)
そう内心で誰とも分からない誰かに言い訳をしながら、白上はさっき思い付いた「あれ」を海斗くんにしてあげます
それはすなわち…
(ほ、本当にしちゃった!)
白上の肩に体重を預けて眠る海斗くんの体を横たえ、その頭を白上自身の膝の上に乗せる
白上がやったのはただそれだけの事で…だけど世間一般に『膝枕』と呼ばれるそれを海斗くんにしてあげた白上は、恥ずかしさから内心激しく狼狽します
確かに、これを海斗くんにやるのは実は始めてではありません
彼が幼い頃、神社で寝てしまった時に何度かしてあげた事はあります
それでも、それはあくまでもその時の海斗くんが小さな子供だったからです
それに海斗くんももう大きくなり、しかも今では彼は白上の恋人という立場
昔とは明確に意味合いが異なるそれを実行してしまったこと、そして膝の上に感じる確かな重さに、白上は自分の顔が徐々に赤くなっているのがはっきりと知覚できて…
だけど
(………大きく、なりましたね)
ふと、自分の膝の上に乗せた海斗くんの顔を見ると何だか感慨深くなり、思わず白上は彼の頭をそっとなでます
男の子らしい固い髪の毛…だけど膝の上に乗っている海斗くんの頭を撫でていると、あの夏遊び疲れて眠っていた少年の面影は確かにそこにあります
それを見ていると、何とも言えない感情が胸の内から湧いてきます
(思えばあれから10年近くたってるんですね…)
なんだか不思議な気分
そしてそんな不思議な気分のままに海斗くんの頭を撫でていると、きっと自分は10年後にも同じことを思うんだろうなというぼんやりとした考えが脳裏に浮かんできます
そして次の10年後にも、そしてそのまた次の10年後にも、恐らく同じことを思うんだろうなとも漠然と想像します
しかし
(…だけど、それは一体いつまで続けられるんでしょう?)
…ふと、そんな疑問が脳裏に浮かび、怖くなります
神と人間の命の長さの違い
頭のどこかで考えていた事とはいえ、いざそれを目の前に突き付けられると白上は何も言えなくて…
(海斗くん…)
いつか必ず来る避けられない別れ
その事を考えると悲しい気持ちになります
今は良いです
それでもいつか海斗くんは死んでしまって…
この膝の上にある重さも、いつかはなくなってしまうもので…
思い出の彼方へと消えてしまう
そう考えるとどうしようもなく悲しくて、切なくて…
(嫌…だなぁ…)
じわりと涙が溢れます
せっかく心が通じ合えたのに、ようやく一緒にいられるようになったのに
それでもいずれ必ず来る別れを思うと、どうしてもやりきれない思いが溢れてきて…
そんな時でした
「白上さん…」
「え!?」
寝ていたはずの海斗くんの口から突然名前を呼ばれた白上はギョッとします
「も、もう起きて!?
い、いえその前に!えっとこれはその…」
慌てる白上
ですがそれ以上の反応がありません
「?」
怪訝に思いよく見ると、海斗くんはまだ目を閉じています
そして、更に観察した結果、白上はまだ海斗君が寝ている事という結論を下します
だとすると、さっきのは詰まる所ただの寝言に過ぎなかった訳で…
「よ、良かった…」
ほっと胸を撫で下ろします
まったく、肝が冷えましたよ…
だけど、改めて海斗くんの方を見ていると、まだ寝言には続きがあるみたいで...
「大好き…です…白上さん」
「…」
「zzz」
「…ふふ、夢の中でも想ってくれているなんて、私も幸せものですね」
気が付くと、さっきまで白上を支配していた未来への恐怖や絶望はどこかへ行っていました
そしてその代わりに胸の中に芽生えたのはある種の覚悟でした
(確かに、別れは避けられません…)
それは事実です
それでも、白上は海斗くんと一緒に歩いていきたい
同じ時間を過ごしたい
一緒にいたいと願ってくれた、優しい彼の想いに、白上もまた応えたい
例え最後が別れで終わるとしても、それでもその瞬間まで白上は海斗くんの側にいたい
だから
「…えぇ、海斗くん
私も大好きですよ」
そう言って白上は海斗くんの頭を撫でます
かつてそうしていたように、優しく頭を撫でながら白上は微笑みます
そしてこれもまたかつてと同じように、そんな事をしていると白上もなんだか眠くなってきます
「…少し、白上も休もうかな」
その言葉と共に白上もまた目を閉じます
ですが、それでも膝の上には相変わらず海斗くんの頭の確かな重さがあります
暖かさがあります
それが白上にはどうしようもなく嬉しくて、愛おしくて…
(…お休みなさい、海斗くん)
そう微笑みながら、白上もまた心地よい微睡みの底へと意識を落とします
(叶うなら…)
夢の中でも、一緒にいられたら良いな…
そんな事を思いながら白上の意識は次第に遠ざかっていって…
・・・・・・
「家まで送ってくれてありがとね!」
夕方
すっかり日が沈みかけた白上神社の境内で、白上はわざわざここまで送ってくれた海斗くんにお礼を言います
「今日はわたしの行きたい所ばかりに連れ回しちゃったんだけど、でもおかげですごく楽しかったですよ!
ありがとね」
「いえいえ、僕も楽しかったですから」
そんな海斗くんの言葉に、それでもですよ、と白上は笑います
「お揃いのものも買えたし、大切にしますね
私、こういうの初めてだから本当に嬉しい!」
そう言って腕を上げると、そこには遊園地のマスコットのキーホルダーがあります
そして同じ物の色違いを海斗くんも持っています
あの後、また色々とアトラクションを回ってから、最後にお土産屋さんで買ったのですが、その時に白上が提案して二人で同じものを買いました
初デートの記念品です
これを見ればいつでも今日の事を思い出せます
それに…
「何よりあなたと一緒にこうしていられるのが…」
その先の言葉は、ちょっと恥ずかしくて続けられませんでした
だけど
「デートってこういう感じなんですね
もうお友達じゃなくて、私達恋人同士なんだね」
そう言って白上は改めて自分の手の中のキーホルダーを見つめます
海斗くんのと色違いのキーホルダー
自分が今、目の前の彼と同じものを共有できていると考えると、それだけで何だか胸の奥から暖かい気持ちが湧いてくるようで
(あぁ、そっか…
私、嬉しいんだ…)
同じ時間を共に歩けている事が
同じ喜びを共有出来ている事が
いつかは思い出になってしまうかもしれないもの
それでも、確かにそこにそれはあったんだと実感できるから
そして改めて白上は気が付きます
(私…本当に海斗くんの事好きなんだなぁ…)
でも全然嫌な気持ちにはなりません
むしろ、それを再認識できた事自体が今の白上には何だか嬉しくて...
「…っ!」
「…?
どうしたの?なんでもない?そっか」
………まぁ、海斗くんが何でもないと言うのなら…
…白上も、何も言いませんが…
「あ、次はあなたの行きたいところにも行きたいですよ!
どんなところでもついていっちゃいますからね!好きなものもっといっぱいいっぱい教えてください!
約束ですよ~!じゃバイバイ~今日はありがとう!」
そう言って白上は神社から去っていく海斗くんの背中が見えなくなるまで見送ります
バイバイ、と
ありがとう、と
彼の姿が完全に見えなくなるまで白上は笑顔で手を振り続けて…
「好き…キスしようとしたのかな?あ~!」
海斗くんの姿が見えなくなったところで、白上はその場に座り込みます
だってあれって絶対そういうつもりでしたよね?
多分無意識だったから、途中で気が付いて止めたんでしょうけど…でもそれって、無意識だったとしても、白上とそういう事がしたいって思ってるって事で…
(~っ!!)
自分と海斗くんがそういう事をする…
その場面を想像しただけで、白上の頭は沸騰します
今なら白上の顔で目玉焼きが焼けるかもしれません
恥ずかしくて恥ずかしくて…本当に顔から火が出そうです
だけど困った事に…
えぇ、本当に困った事に
別に白上も悪い気はしていなくて…
(恥ずかしいけど…)
本当に、本当に恥ずかしいけど!
それでも…
「次は、ちゃんとキスとか出来るといいな…」
…いや、むしろ
(………なんなら、白上の方から?)
そんな悪魔的な思考が一瞬だけ頭を過ります
そして直後、それに気が付いた瞬間に、白上の頭はとんでもない羞恥心の塊で爆発しそうになって
(し、し、し、白上は!い、一体にゃにを!?)
慌てて記憶を消そうとしますが、それでも自身の一瞬の閃きは鮮明に脳裏に焼き付いていて…
(「………なんなら、白上の方から?」)
そんなあまりにも破廉恥な思考が、どんなに記憶を消そうと頑張っても、頭の中から消えてくれなくて…
「あ、あ、あぁぁ…」
顔が真っ赤になるどころの話ではありません
完全にショートした脳味噌は無数のエラーを吐きまくり
天元突破した羞恥心で心も完全に木っ端微塵に砕け散り
その場から立てなくなった白上に出来ることは、奇声を上げながらその場に蹲る事位のもので...
「………うにゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっっ………」
…その後、帰りが遅いと心配してくれたミオが探しに来るまで、白上は境内の端の方で一人蹲り続けるのでした
と言う訳で、後日談シリーズその一はいかがでしたか?
正直作者はまともな恋愛描写を書くのが初めてだったので、結構七転八倒しながら書いていたのですが、楽しんでいただけたら幸いです
次の話では、これまであまり触れていなかったとある人物に触れます
と言うか、本編で明確にハッピーエンドを書けなかったこの人を救済したいがために、この後日談シリーズを書いている節もないことはないです
ただ、次の話は諸事情でバッドエンドが確定してるんですよね…
ですので、これに関しては更に次の次の話まで書き終わってからまとめて投稿しますね