白上縁起恋灯絵巻【完結】   作:DX鶏がらスープ

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お待たせしました!
後日談シリーズその二です!!

本当はその三を書き終わってから出す予定だったのですが、
そっちがそろそろ何とかなりそうなので、フライングで投下します

先に書いていた通り、とある人物と新しく登場するホロメンのお話です
ちなみにそれが誰なのかに関しては…
まぁ、前者はともかく後者はもうお察しですよね?(ヒント:タイトル)

あ、それからちょっとばかし残酷なシーンがあります

それではどうぞ!


ラミィの日記1

 

○月✕日

 

居酒屋でお酒をたくさん飲んだ帰り道で、黒い狐の子供が倒れているのを見つけた

 

身体中傷だらけだったし、衰弱が激しい

 

かわいそうだったので、連れて帰って面倒を見る事にした

 

 

 

○月△日

 

…昨日面倒を見るって言ったけど、よくよく考えたらラミィ世話の仕方とか何も分かんない

流石に狐なんて飼った事ないし…

 

やっぱり、お酒飲んでる時に勢いで行動するものじゃないね…反省しなきゃ…

 

でも、拾っちゃったものはもう仕方がない

ちゃんと責任は取らなきゃね

 

取り敢えず動物病院に連れていって話を聞いた後に、ペットショップで一通りの道具やご飯なんかを揃える事にする

 

 

 

○月□日

 

…もしかしたらこの子、人に虐められた経験とかがあるのかもしれない

 

ご飯にも水にも口を付けないし、ラミィの事を睨んでくる

無理に食べさせようとすると、本気で威嚇してくるから迂闊に触るわけにもいかないし…

 

でも、このままじゃ死んじゃうよ!

 

どうすれば良いんだろう…

どうすればこの子はご飯を食べてくれるんだろう…

 

 

 

○月♨日

 

狐の子供が高熱を出した

 

いつものようにご飯をあげる為に様子を見に行ったら何だか苦しそうにしてて、抱き上げてみたら案の定

 

慌てて動物病院にかけこんで薬を貰い、看病をした

 

流石に高熱に浮かされてる状態ではろくに抵抗も出来ないのか、ちゃんと薬は飲んでくれたし、水やご飯も食べてくれた

 

とは言え元々体が弱ってる状態だったからかなり苦しいみたいで…心配だ

 

早く良くなってくれると良いんだけど…

 

 

 

▲月☆日

 

熱がなかなか引かない

 

意識が朦朧としているのか、抵抗なく水とご飯を受け入れてくれるのはありがたいことなんだけど

それでもずっと苦しそうにしているのを見ていると、こっちまで苦しくなってきちゃう…

 

白上様、どうかこの子が早く元気になりますように…

 

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

 

(クソッ!クソッ!!)

 

心の中で何度も悪態をつきながら走る

もう人の姿は保てない

だからとっくに本来の狐の姿に戻っているが、それでも存在と力の殆どを向こうに持っていかれたワタシの体は既にボロボロで

 

「…くっ!」

 

突然右足から力が抜けて、ワタシはそのまま地面へと倒れ込む

強かに体を打ち付け、それでも痛みに耐えながら即座に立ち上がろうとするも、もう体に力が入らない

 

(動け!)

 

そう念じるものの、その願いは届かない

完全に力が抜けた体はピクリとも動かず、おまけに意識まで遠くなっていく始末

 

限界

 

そんな言葉が頭をかすめるも、まさにそうとしか言い様がない

ばんやりと頭の中に霧がかかっていく感覚の中で思い出すのは、もう少しで上手くいきそうだった計画とそれを阻止した二人の人物の事で…

 

(クソッ…ここまで…か!)

 

視界も徐々に霞んでいく中、悔しさのあまり歯噛みするワタシだったが、そんな中ワタシのところに誰かが近寄ってくる気配を感じる

 

(だ、誰だ…!?)

 

咄嗟に顔を向けようとするも、上手く視界にとらえられない

それにさっきから感じていた意識が薄れる感覚もより一層強くなってきていて…

 

(…っ!)

 

いよいよ本当に限界を迎え、完全に昏倒してしまう瞬間、視界の端をライトブルーの髪が掠めたような気がして…

 

 

 

「あれれぇ~?

きみぃ、どうしたのぉ~?」

 

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

 

目を覚ますと、そこはどこかの部屋の中だった

 

(…ここは?)

 

まだ少しぼんやりとする頭で周りを見回すも、その間取りに見覚えはない

また、自分の体を見るとそこら中に包帯が巻かれており、更に柔らかいタオルを敷いた籠の中に寝かされているところを考えるに、意識を失っている間に誰かに拾われ、手当てを受けたと言うのが妥当な線だろう

 

だけどワタシにとって、それは屈辱以外のなにものでもなくて…

 

(クソッ!余計なことしやがって!!)

 

ワタシが冥界で苦しんでいる間、現世でのうのうとお気楽に暮らしてた奴らなんかの庇護なんて受けたくもない

だからワタシは即座に自分にかけられていた暖かい毛布をはね除けようとする

しかし、力と存在の大半を白上フブキオリジナルに奪われて大幅に弱体化した今のワタシの体は、本来の姿である幼い子狐の姿に戻っている

それに加えて、布団をはね除ける程度の事さえ出来ないほどに、今のワタシの体はすっかり弱りきっている

 

それでも意地になって毛布をはね除けようと悪戦苦闘していると、部屋のドアが開き、中からライトブルーの髪をした一人の少女が入ってきた

 

「あ!起きたんだね!!」

 

そう言ってニコニコとお気楽な笑顔を浮かべるその少女は、持っていたトレーを机の上に置くと、そこから水とペットフードの入った皿をワタシの前へと置こうとする

 

 

「…」

「ほら、ご飯だよ~!

…って、なんかめっちゃ睨んできてないこの子?」

 

でもダメだよ、ちゃんとご飯は食べないと

治るものも治んなくなっちゃうからね

 

そう言いながら、少女は皿をワタシの手が届くところに置くも、ワタシはそれを一瞥するとプイとそっぽを向く

だけど、それを見た少女は気難しい子なんだね、と苦笑いをしつつもそれ以上何かをする事はない

 

「まぁ、初めて会ったラミィの事が怖いのは仕方がないよね

でも安心して、ここにはキミの事を虐める人なんて誰もいないから」

 

そう言って少女は、少し寒いかもだけどと言って部屋の窓を少し開ける

換気は必要だよね、と笑う彼女の笑顔は実に暢気なもので

 

(…いや、別にワタシはお前の事が怖い訳じゃないんだが?)

 

見当違いな気遣いに流石に呆れて少女の方を見るも、当の少女はと言うとそんなワタシの気持ちが分からないのか、相変わらず呑気にニコニコとしていて

 

「それじゃあまた来るからね!

ゆっくり休んでね!」

 

そう言ってワタシに気をつかったのか、早々に部屋から出ていく少女

だが、だからと言ってアイツの言うことを聞いてやる義理なんてワタシにはない

それに何より、今までどんなに助けを求めても誰も助けてくれなかったっていうのに、今更手を差し伸べられても信用などできない

 

(そうだ、こんな奴ら信用出来るわけがない)

 

そう考えると、ますますこの状況が不快で不快で仕方がなくて

 

だからワタシはあのラミィとかいう少女の持ってきたご飯と水に、結局一切口を付けなかった

そしてそれはこの日だけではなく次の日も、その次の日もだ

 

「どうして食べてくれないの?

このままだと死んじゃうよ!?」

 

ラミィとかいう少女はそう言ってしきりに心配するが、それでもワタシは食べなかった

 

そもそもワタシは普通の狐ではない

だから、少し位ご飯を抜いても簡単には死なない

それに何より、現世の人間から施しを受ける位なら死んだ方がマシだと本気で思っていて

 

(そうだ...信頼出来る人間なんて…)

 

だからワタシはここで死んでも良いと思っていた

どうせ計画は全部失敗に終わった

やり直す事は不可能ではないが、それにはかなりの時間と手間がかかるだろうし、そんな悠長な事をしていれば、その間に冥界の扉マガツトボソは消えてしまうだろう

 

直に確認した訳ではないが、この計画の為に冥界と、そこに繋がる冥界の扉マガツトボソについては徹底的に研究しているのだ

今それがどうなっているのかという漠然とした予測程度は可能であり、だからこそ、もう自分に出来る事は何もないということが嫌でも分かる

 

だから、ここで潔く死ぬのも悪くは無いのではないか

どうせもうワタシに出来ることなんて何もないのだ

それならもうこのまま生きている必要だってないのではないだろうか

 

この時、ワタシは確かにそう考えていたはずなんだ

 

だけど…

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

 

…体が熱い

苦しくて苦しくて仕方がない

 

声をあげることすら億劫な程の高熱に浮かされ、朦朧とする意識の中で思い出すのは、あの冥界での日々

 

10年前、突如現世へと放り出されるまで続いた、実に70年にも及ぶ文字通りの壮絶な地獄の日々で

 

(怖い...怖いよ…)

 

フラッシュバックするのは、血のように赤黒く染まった空と、荒廃しきってひび割れた大地の光景

そしてどこから現れるかも分からない、見るも醜悪な化物達の姿と、そんな化物達から必死に逃げ惑う、か弱い子狐でしかない自身の記憶で…

 

(痛いよ…苦しいよ…)

 

冥界において、死の概念というものは存在しない

それは裏を返せば普通は死ぬような目にあったとしても、冥界においては死ぬことを許されないという事に他ならない

 

何度化物達の手や足に押し潰されただろう

何度あのおぞましい悪臭のする口の中で磨り潰されただろう

何度体を切り刻まれ、血を流しただろう

 

冥界の化物達に知能はない

だからこそ、無駄になぶられたり苦しみを長引かせられたりした事こそなかったが、果たしてそれが一体何の救いになるというのか?

無限に繰り返される死の恐怖に慣れる事なんて結局一度もなかったし、何よりそんな文字通りの地獄にたった一人で取り残された孤独と絶望は、それこそ言いようもないほどに深いもので

 

(助けて…誰か)

 

高熱で現実と夢の境界が混じり合う

どこからどこまでが本物で、どこからどまでが幻なのかが分からなくなる

だからこそ、今思えばそこで溢れた言葉はワタシの素直な想いで

 

(一人ぼっちは…)

 

もう…嫌だよ…

 

そんな決して誰にも届かないはずの、誰にも打ち明けた事のないそれは、だけど…

 

 

 

「ーー大丈夫だよ」

 

 

 

そんな言葉と共に冷たい濡れたタオルが当てられ、少しだけ体が楽になる

朦朧とした意識の中、微かに開いた目ではしかし、その声の主は分からない

それでも、その声は聞いているだけで、何故だか心がスッと落ち着いてくる様な…そんな穏やかで優しい声だったから

 

「ラミィが側にいるからね」

 

そんな言葉と共に優しく頭を撫でられる

抵抗する気力もなく、されるがままにそれを受け入れざるを得ないワタシだったが、まるで日溜まりのように暖かくて柔らかいその手に撫でられていると、不思議と強張っていた体から力が抜けてきて…

 

(あ…)

 

思えばいつ以来だろうか

こんなにも心が安らいだのは

心地の良い暖かさに包まれたのは

 

だからこそ、発熱と疲労で疲れきっていたワタシは、いとも容易く深い眠りに落ちていって…

 

「だから、ゆっくり休みなね…」

 

霞む視界の中に、どこか見覚えのある少女の笑顔を見たような気がしたのを最後に、ワタシの意識はぷっつりと途絶えて...

 

 

 

ーー気が付くと、ワタシの熱はひいていた

あんなにも苦しかったはずなのに、もう何ともない

 

(どうやら峠は越えたみたいだな…)

 

そんな事を思いながら周りを見ると、あたりはすっかり暗くなっている

どうやら夜遅くに目を覚ましてまったらしいと思いながら、もう少し周りへ目をやると、そこにはワタシが寝ている籠のすぐ側で突っ伏しているラミィの姿があった

 

そして、周囲には乱雑に広げられた動物医学の本の数々に、恐らく動物病院でもらってきたのであろういくつかの薬、水の入ったペットボトルや、まだ完全には乾ききっていないタオルが数枚、他色々

それらは暗に、今のワタシの状況がこのラミィという少女の看病のおかげであるという事を雄弁に物語っていて…

 

(…物好きな小娘だな)

 

スヤスヤと気持ち良さそうに寝息をたてるラミィの顔に呆れ果てながらワタシはそんな感想を抱く

 

(ワタシは、別に頼んでいないというのにな...)

 

そう思いながらも、それでもワタシは目の前で眠る少女の目の下にできたくまが妙に気になってしまう

いや、それだけではない

普段は比較的片付いている印象があったこの部屋が、しかしここまで散らかりっ放しなあたり、恐らく慣れないながらに、それでも一生懸命ワタシの看病をしたのだろう

その涙ぐましい努力の跡が、目の前で眠るラミィの姿と周囲の状況から容易に想像できてしまって…

 

(………やめだ)

 

少なくとも、ここで死ぬのは

 

ワタシはため息をつく

 

…いくら頼んでいないとは言え、病気の自分をここまで熱心に助けてくれたのだ

流石のワタシも、ここまでされた上で命を粗末にするのは少しばかり申し訳がない気がするし、何よりこの少女は同じ状況になったら迷わず同じことを繰り返すだろうという謎の確信がある

無意味な事はするべきではないだろう

 

だから

 

(…メシ位は食べてやるか)

 

ため息をつくが、よく考えればただ飯である

人に奢らせたご飯よりも、この世に美味しいものは無いはずだ

 

そんな事を考えながらも、ふと寝落ちしたのであろうラミィの姿を見ると、その服装はこの季節にそのまま寝るには少々肌寒いもののように思えて

 

「…」

 

だから、そう

これは単に、かりを返すだけの事に過ぎない

そんな事を考えながら、ワタシは寝ているラミィの胸元に潜り込むと、その場で丸くなる

 

人間の時の姿ならともかく、今のワタシの姿は小さな狐のものだ

不本意とはいえ、助けてくれた礼に一晩位なら抱き枕兼布団代わりになってやるのもやぶさかではない

そんな事を考えながら、ワタシは自慢の尻尾をラミィの背中にそっと被せてから目を閉じる

 

(そうだ、これは単にかりを返すだけの事だ)

 

そう思いながらも、それでも不思議とラミィの胸の中にいる間、ワタシはかつて母親に抱かれていた時のような心地よさと安心感を感じていて…

 

(…ふふ)

 

自分が笑顔を浮かべている事に、その時のワタシは最後まで気が付かないのであった

 

 

 





と言うわけで、今回は本編でラスボスを担当した黒上フブキさんと、
新しく登場した雪花ラミィさんのお話となっております

一応雪花さんに関しても、本編で存在自体は薄っすら仄めかしてたんですけどね…
具体的には第二章の初めのあたりで
まぁ、あんなので気付けるかと言われるとそれはそうなので、
あまり気にする必要はないのですが

ともあれ、雪花さんに拾われた黒上さんはこれからどうなるのでしょうか
次回もお楽しみに!
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