白上縁起恋灯絵巻【完結】   作:DX鶏がらスープ

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少しだけ血の描写があるので注意



ラミィの日記3

 

♨月★日

 

ーークロちゃんと出会ってから、もうどのくらいの月日が経つんだろう?

 

それまで色んな事があったけど、流石にここまでずっと一緒に暮らしていれば、ラミィでもそろそろ気付くんだよね~

 

つまり

 

 

 

…クロちゃん、君普通の狐じゃないよね?

 

 

 

…いや~、おかしいと思ったんだよね~

 

だってクロちゃんの姿、いつまで経っても子供のままで全然大きくならないし、一緒に暮らし始めて少ししてから、身の回りで不思議な事が起こるようになったし

 

例えば泥酔して寝落ちしたはずなのに何故か翌朝布団で目を覚ましたりとか、仕事が忙しくてやり損ねた家事を、いつの間にか誰かがやってくれてたりとか

絶対クロちゃんだよね?

多分ラミィが見てない時に人間に化けてやってくれてるよね?

 

特に料理とか一体どこで習ったの?

ラミィが自分で作るのより遥かに美味しくて、女としてのプライドに地味にヒビが入ってるんだが?

 

それに多分ラミィの言ってる事全部理解出来てるよね?

今まで一言も言葉を話した事はないけど、なんかリアクションと仕草がいちいち人間臭いし

特にラミィが抱き締めようとした時とか酔っ払った時とかの「面倒臭ッ」って顔は、普通のペットじゃ出来ない位に感情籠ってるしね

あんなに心の底から面倒臭いって顔できるペットは多分他にいないよ?

 

やっぱりクロちゃん、普通の狐じゃないよね?

所謂化け狐って奴なんじゃないかな?

 

 

 

…でも、まぁいっか

 

 

 

そもそもラミィだって普通の人間じゃないし、クロちゃんと一緒に過ごす毎日はとっても楽しい

 

それに何より、もうクロちゃんはラミィにとっては家族みたいなものだからね

今更正体が普通の狐じゃありませんでした~、って言われても、ラミィからしたら「へ~」位の感想しかないんだよね

 

それに…正直クロちゃんの正体よりも、ラミィとしては実家からの追っ手の方が怖いかな

 

…思えば実家を飛び出して、もう50年

 

閉塞的で排他的な故郷の空気に嫌気がさして、衝動的に家を飛び出したまでは良かったんだけど、結局大した目的があった訳でもないしね

ここに流れ着くまでは本当に苦労した

 

それで、その時お世話になったお爺さんとお婆さんへの恩を返す為に、潰れかけてた雪花酒造を立て直そうと必死に頑張り続けて、気が付いたら今年で50年目

 

本当あっという間だったと思うけど、それでももうこの土地はラミィの第二の故郷みたいなものだから、今更帰りたくないんだよね…

 

流石にもう半世紀も経ってるから大丈夫だとは思うけど…最近うちの酒造のお酒人気だからな…

 

多分大丈夫だとは思うけど、あそこの人達は頭が固くて強引なところがあるから…

もし穏便にいかなかった場合、無理な手段を使ってでもラミィを連れて帰ろうとするかもしれない

 

そしてそうなった場合、多分ラミィはクロちゃんと二度と会えなくなる

きっとここにも戻って来る事だってできなくなるだろうし…ラミィが今まで積み上げてきたもの全部を無かった事にされちゃうかもしれない…

 

…まぁ、本当に今更の話だし、だからこそ例えあの人達がラミィの居場所を掴んだとしても、流石に連れ戻しに来たりはしないと思う

何度も言うけど、もう50年くらい前の話だし、いくらラミィ達の種族が長生きでも、そんなに経てばもう諦めるよね?

 

とは言え、可能性はゼロじゃないし、何か対策を考えとかなきゃかもしれないな

ラミィはこの土地が好きだし、何よりクロちゃんと、もっと一緒にいたいしね!

 

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

 

ーー雨が降る

 

空から落ちてくる天の涙

降りしきる悲しみの欠片が、その場に飛び散った赤い飛沫の跡を静かに押し流していく

冷たい水の流れと共に、ワタシの手の中からその鮮烈な赤を洗い流していく

 

それでもきっと、この手は汚れたままだ

少なくとも、気軽に誰かに触れられるような…差し出された手を軽々しく取っても良いような資格は今のワタシにはない

 

その事に改めて気付くと同時に、ワタシは今自分がどこにいるのかを思い出す

そして、そこに誰がいるのかまで思い至った瞬間、ワタシの後ろから声がする

それは今この瞬間に最も聞きたくなかった人物のものであり、同時に最も今の自分の姿を見られたくなかった人物のもので…

 

 

 

「クロちゃん…なの?」

 

 

 

ザーッ、という音が周囲を包む

そんな中で、恐る恐ると言ったように発せられるその声に、しかしワタシの肩はわずかに跳ねる

 

いつも通りの優しい声

ずっと聞いていたくなるような安心感のあるその声はしかし、今のワタシには、まるで自身の罪を責め立て、糾弾するもののように聞こえて…

 

冷たい雨に打たれながらも、それでもゆっくりとワタシに近づこうとするその声の主にワタシは叫ぶ

 

「来るな!!」

「!」

「………頼む、来ないでくれ」

 

そう言って振り返った先にいた人物

今この瞬間ワタシが一番会いたくて、同時に一番会いたくなかった人物であるラミィは、案の定ひどく困惑したような顔をしていて…

何が起こったのか分からないという顔をしている彼女の顔を見ていると、心のどこかにズキリという痛みが走る

 

(そんな顔をさせたかった訳じゃないのに…)

 

ワタシはただ、ラミィの事を守りたかっただけなのに…

そんな事を考えるも、目の前にある現実は変わらない

降りしきる雨の中、倒れ伏す何人かの男達の中心で佇むワタシの姿は、誰がどう見ても人殺しのバケモノのものにしか見えなくて…

 

(トドメまでは刺してない…なんて言っても、あんまり意味ないよな)

 

そう自嘲しながら開いた右手には、ベットリと赤黒い液体がこびりついていて…

 

(「ば、化け物…」)

 

そんな風に呟きながら、恐怖に怯えていた男達の一人の言葉がリフレインする

だがソイツを傷付けた事自体に後悔はなくても、ソイツが言った事自体は別に間違っているとは思えなくて...

 

雨が降る

 

血塗れの姿で佇むワタシの体を、天から降り注ぐ雨が濡らしていく

それでも、こびりついた返り血は完全には落ちない

いや、このおぞましく痛ましい姿こそがワタシ自身の本性なのであれば、それは当然の事なのかもしれない

そして、そうであればワタシはこのままここにいるわけにはいかない

バケモノが人里にいることなど、あってはならない

 

だから

 

「クロちゃん…」

「………ごめん、ラミィ」

 

 

 

ーーワタシは…もうお前とは一緒にいられない

 

 

 

そんなワタシの言葉に目を見開くラミィ

そして、そんな彼女の打ちのめされたような表情に、ワタシは更に傷つく

まるで胸の奥を切れ味の悪いナイフでぐりぐりと抉られているような

そんな経験した事が無い程の強烈な心の痛みに、思わず自身の拳を握りしめる

動き出しそうになる自分の体を、必死に理性でその場に止め続ける

 

だってそうしないとワタシは即座にラミィの元へと駆けて行ってしまうから

はらはらと涙を流し始めたラミィを思いっきり抱き締めて、全部嘘だって叫びたくなるから

 

だって…だって本当はワタシだって…

 

(こんな事、言いたくないよ…)

 

ずっと、ラミィと一緒にいたいし、できる事なら、あの家に二人で帰りたい

他になんにもいらないし、なんなら全部の力を捨ててただの狐になったって構わない

ワタシは…ただラミィの側にいられれば、それだけで良いんだ

 

だけど…いや、だからこそ

 

「楽しかったよ…」

 

そう言ってワタシは優しく微笑む

自分の内に渦巻く様々な感情に無理矢理蓋をして、それでも笑う

だって、楽しかった事自体は本当だから

この胸の中にある思い出が、かけがえのないものである事だけは、本当の事だから

 

それを嘘にしたくないから、ワタシは笑う

無理矢理でも、強引でも、それでもラミィにこれ以上悲しい顔をして欲しくないからワタシは笑う

 

そして…だからこそ、自分から別れを切り出す

 

…だってワタシは、バケモノだから

ラミィの側にいて良い存在なんかじゃないから

 

ワタシにとって初めてできた家族みたいな人で、ひとりぼっちだったワタシに温もりと安心をくれた大切な人

 

ーー大好きなラミィ

 

ワタシはそんな彼女の事を傷付けたくないし、できれば幸せになって欲しいから

 

だから

 

「ありがとう

そして…」

 

ーーさようなら

 

その言葉と共に、ワタシは身を翻してその場を立ち去る

まるでワタシを咎めるかのように降り注ぐ冷たい雨の中を、後ろから聞こえる声を聞かないふりをしながら全力で走り抜ける

駆け抜ける

 

「くそっ!くそっ!!」

 

どうして気が付かなかったんだろう

ワタシみたいなバケモノがあの子と一緒にいられるはずなんてないのに

穢らわしい冥獣ケガレなんかが、あの子を愛して良いはずがなかったのに

 

「くそっ…!くそぉっ…!!」

 

こんな簡単な事に今更気が付くなんて…

気が付いてしまうなんて…

 

(あんまりじゃないか!)

 

やっとワタシの帰る場所を見つけたと思ったのに!

やっと幸せになれるって思ってたのに!

それなのに...それなのに!!

 

流れる涙をそのままに、ワタシは走り続ける

脳裏に浮かぶラミィの笑顔を振り払うように、ワタシは走り続ける

 

そして、気が付くとワタシはどこかの森の中で佇んでいて

 

さっきよりも雨足が増す中で、体を濡らすそれが降り注ぐのはワタシの体だけ

それは当然ワタシが一人だから

また、一人ぼっちになってしまったからで…

 

(「ーー大丈夫だよ」)

 

ふと、そんな言葉が脳裏を過る

高熱に苦しむ自分にかけられた暖かい言葉を思い出す

 

(「ラミィが側にいるからね」)

 

そう言って笑っていた少女の笑顔を思い出す

闇の中でさ迷う自分に光を与えてくれた少女との、暖かな日々を思い出す

 

だけど

 

(「だから、ゆっくり休みなね…」)

 

もう…それは存在しない

記憶の中の暖かい思い出とは裏腹に、降りしきる雫の一つ一つがワタシの体を冷たく打ちすえる

そして、あの時とは違ってそんなワタシを守ってくれる誰かは、もうどこにもいなくて...

 

 

 

「………くっそおぉぉぉおぉぉっ!!!」

 

 

 

誰もいない森の中でワタシは叫ぶ

だが、勿論そんなワタシの叫びが誰かに響く事もなくて…

 

雨が、降る…

 

 





はい、と言う訳で後日談その二終了です

色々と言いたいことはあるかもしれませんが、一つだけ

作者は基本バッドエンドが嫌いです
だから少なくとも、「意味もなく」登場人物が不幸になる「だけ」のものは絶対に書きません

…さて、それでは次回からはいよいよ後日談その三に入ります
具体的には本編の終了直後、結婚前夜の物語です
結構な難産でしたが、楽しんでいただけたら幸いです
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