ちなみに、多分今後描写する暇がないので先に書いておきますが、
星街さんも結婚式には参加してくれますが、世界的スターという事もあって多忙なため、彼女のみ結婚式当日だけの参加となります
当日は他の参列者と一緒にお祝いしてくれる他、二人の為に歌ってくれる予定です
と言う訳で、今回の話では以降星街さんは出て来ません
あしからず…
結婚の話をみこさんにしてから、少しの時間が経過した
あの後、夏色さんのおかげで僕らは村の小さな式場を押さえる事ができた
地元の有力者の一族でかつ、現役の地方議員の彼女と言えど中々に大変だったらしく、本人からもこれが限界だと謝られたのだが…とんでもない
最初は結婚式を上げる事すら出来ないと思っていた僕らからしてみれば、場所を押さえてくれただけでも十分過ぎるし、そもそも僕も白上さんも親戚なんてものには縁遠い身だ
必然呼ぶことになるのは互いの友人だけという事になるが、事情を知っていてかつ、結婚式に呼べる程の友人となるとその数はかなり限られる
具体的にはミオさんにみこさん、夏色さんと星街さんに、ホロックスのメンバー位だろう
それを考えるならむしろ小さい式場の方がちょうど良いし、先も言ったが最初は結婚式は出来ないと二人共諦めていたのだ
だから、それを何とかしてくれた夏色さんには、正直感謝の気持ちしかないし、本当に足を向けて寝られない
そしてその上で、僕らもまた結婚式の準備に追われていた
ありがたい事に、大体のところはみこさん達がやってくれる事になっているのだが、それはそれとして僕らにしか出来ない事もいくつかある
例えば結婚指輪の購入や衣装の試着なんかは僕ら自身がやらなければいけない事であり、だからこそ今日のお出かけの目的もそれらだ
「…待ちましたか?」
「いいえ、今来たところですよ海斗くん」
いつもの待ち合わせ場所
そこでベタベタなお約束の挨拶を交わし、いつものように連れたって目的地へと向かう僕ら
だけどいつもと違うのは、隣を歩く白上さんの姿が普通の人にも見えている事
通りを歩く僕らの姿が普通のカップルと何ら遜色ないものである事だ
「…まぁ、僕から見ると普段と何も変わらないんですが…」
「あはは、確かに普通に見えてる海斗くんからすればそうですよね?」
そう言って笑うフブキさんの姿は、僕にはいつもと何ら変わらないように思える
しかし実際いつもと違い、通行人の視線が本来見えないはずのフブキさんに向かう事があるのをはっきり知覚できるし、何より偶然近くを通ったお店のショーウィンドウのガラスには、いつもなら絶対に映らないはずの彼女の姿がちゃんと映っている
そして、それに気が付いたフブキさんは感心したようにガラスに映る自身の姿を見つめた
「確か…『神様見える君』でしたよね?
海斗くんとの研究で確立した、見えないものを観測する技術を用いてこよちゃんが作成した薬だと聞いていますが…本当スゴいですね、これ」
そう言ってガラスを見ながら、くるりとその場で一回転するフブキさん
するとガラスに映った鏡像もちゃんとそれに追随するように動き、彼女が身に付けている緑色のプリーツスカートもまたふわりと風をはらむ
初デートの日以来、お気に入りになったらしい私服姿のフブキさんのそのなにげない動きは、端から見ていても実に絵になるもので
だから
「…行きましょうか」
一拍おいて咄嗟にフブキさんの手を取った僕は、その場を後にしようとする
しかし、そんな僕の少し強引な行動に不思議そうな顔をしていたフブキさんは、すぐにその意図に気付いたのかニヤリと意地悪そうな顔をした
「おやおやぁ?
どうしたんですか、海斗くん?
そんなに急いであの場を去る理由もなかったですよね?」
「…」
「ふふ…もしかして、独占欲でも湧いたんですか?
白上の姿を周りの人に見せたくなかったとか?」
軽く周りを見回してからそう聞いてくるフブキさん
だけど、珍しく僕はその問いに対して素直に答える気にならない
「…もう、しょうがないな~」
だから、そう言って少しだけ嬉しそうに苦笑するフブキさんの様子に僕は気が付かない
直後に右手に感じる熱と柔らかな感触
思わずそちらを見ると、そこにはニヤニヤとした顔でこちらを見ながら僕の手に抱きつくフブキさんの姿があった
「どうです?安心できましたか?」
「ど、どうって…」
咄嗟に何も言えず口ごもる
そんな僕を見て「まだこんなのでも照れてくれるんですね?」とクスクス笑うフブキさん
だけど
「ーー大丈夫ですよ
心配しなくても、私は海斗くんの事が好きですから」
そう言ってふんわりと微笑むフブキさんの笑顔には確かに嘘がなくて
それを見ていると、一瞬前の自身の行動が少しだけ恥ずかしくなる
とは言え
「…そんな事言いながら、フブキさんだって結構いっぱいいっぱいですよね?」
「あ、分かります?
いや~、自分でもちょっと大胆過ぎたかなって、内心ドキドキしてまして…」
たはは、と今さらのように照れ臭そうに頬を赤く染めるフブキさん
だけど、かくいう僕も人の事をとやかく言えるような状態ではない
だから会話が途切れる
二人の間に沈黙が流れる
だけど、フブキさんは僕の手を離さないし、僕もまたそんな彼女を振りほどこうとは特に思わない
そのまま人通りの多い路地を手を繋いで歩く僕とフブキさん
周囲の喧騒に対して、しかし僕らはお互いに何も言わない
だけど
「…ねぇ、海斗くん」
「…はい、なんですか?」
「………呼んでみただけです」
「………そうですか」
そんな言葉とは裏腹に、フブキさんは少しだけ僕の方へと体を寄せてくる
だから僕も繋いだ手に少しだけ力を込める
「…」
「…」
相変わらず僕らは何も話さない
それでも、今はきっとこれで良い
そんな確信と共に僕らはそのまま歩き続けて…
・・・・・・
「じゃ、じゃあ行ってきますね…」
「は、はい…」
そう言って部屋の奥へと向かった白上さんの言葉に僕は頷く
そして、取り敢えず近くにあった椅子に腰掛けてその時を待つ
恐らく長くても大体一時間程度
だからこそ、ゆっくりと待てば良いと思う反面、妙に緊張してしまう
だけど、それ以上に僕は自分がワクワクしている事に気が付く
(…どんな感じになるんだろう?)
そんな事を思いながら僕が待っているのは、今日の最後のイベント
午前中に一緒に済ませた結婚指輪選びに並ぶ、最重要イベントであるフブキさんの衣装合わせであり、詰まるところ、彼女が結婚式本番で着るドレスの試着だ
わざわざ博衣さんから『神様見える君』の試作品を貰って、フブキさんの姿が見えるようにしたのは全部この為
本番の為の性能テストという側面もあるものの、その一番の目的は普通の人にも見えるようになったフブキさんに、普通の人と同じようにドレスの着付けをしてもらう事だ
(流石にこればかりは、ちゃんとプロの人に見てもらう必要があるからな…)
文字通り見てもらう事こそが重要であることから、初デートで行った遊園地のように、周囲の認識を反らすという手法は使えない
そこでホロックスに協力を仰ぎ、いつもの如く博衣さんの発明品に頼らせてもらっている訳なのだが…
(楽しみだな…)
ドレスのイメージについての話し合いは既に何度かしているし、ドレス自体の確認もさっき済ませているのだが、それでも実際にフブキさんがそれに袖を通すのは今回が初めて
だからこそ、ちゃんとそれを着たフブキさんの姿が、個人的にとても楽しみで…
カチッカチッと鳴り続ける時計の針
そんなにすぐに出来るものではないと頭では分かっていても、その音がどうにも心を惑わせる
まだだろうか?とドキドキしながら待っていると、ようやく終わったという知らせが入る
だからこそ、着付けを終えて出てくるフブキさんを一目見ようと、僕は彼女が出てくるドアへと視線を移し
「…どうでしょうか?」
少し照れ臭そうに出てきたフブキさんはしかし、まるで雪の妖精のようだった
一片の汚れもない純白のウェディングドレス
まるで光の糸を編み上げて作ったように輝くそれは、元々色白で髪の毛も白いフブキさんには抜群に似合っている
本当に彼女のためだけにしつらえたのではないかとさえ錯覚してしまうそれを身に纏い、こちらへと静かに歩いてくるその姿は、フブキさん自身の神性も相まって、まさしく神話や伝承の世界から迷い混んだかのような幻想的で美しいもので...
「…何とか言ってください」
ハッとして目の前を見ると、そこには既に手が届く距離まで近づいていたフブキさんの姿
顔を真っ赤にしながらも、それでも瞳を潤ませて僕の答えを待つ彼女のその姿に、僕としてもただ見惚れているだけという訳にもいかない
だから
「似合ってますよ…すごく…」
「そ、そうですか…」
嘘偽りのない、正直な言葉
それを聞いた瞬間に、ただでさえ赤くなっていたフブキさんの顔が更に赤くなったような気がして…
「本当に…とてもよく似合ってます」
続けてそう告げると、赤い顔のままフブキさんは苦笑する
「流石にこう真っ正面から何度も言われると照れますね…」
だけど
「ーーでも嬉しい、ありがとう」
そう言って心の底から嬉しそうに笑うフブキさんの笑顔は、とても満ち足りていて
憧れていたのだというウェディングドレスを身に纏ったその姿は本当に綺麗で、美しくて…
ーーそんな彼女が突如としていなくなったのは、この少し後
結婚式前日の朝の事だった
はい、と言う訳で前置きはここまでです
改めて結婚前夜編スタートです