白上縁起恋灯絵巻【完結】   作:DX鶏がらスープ

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…え~なお、この作品におけるユニーリアは因習村みたいなところです

「故郷が人里離れた場所」「ホロライブの配信を見て家を飛び出した」という公式設定から、当初から実家との仲が悪いという設定を考えていたのですが、突き詰めていく過程でエラい場所になってました…

後、ちょっとしたオリキャラっぽい人が出るので注意



結婚前夜編 交錯

 

扉を開けた瞬間に後悔した

 

どうして自分は外に誰がいるのか確認しなかったのか

そもそもどうして自分はこんな時間の来客を警戒しなかったのか

 

しかし、もう遅い

 

ここで扉を閉めたところで、中にラミィがいることが分かった以上彼らは居座り続けるだろうし、そうでなくても彼らが何をするか分からない

 

それならまだ話合いが出来る段階で何とかするしかない

それが例え限りなく低い確率であったとしても、今のラミィに選択肢はない

 

だからラミィは渋々家の外へと出る

間違っても家の中になんて入れたくないし、その方が何か騒ぎがあっても外から分かりやすいだろう

 

そういう打算の元で後ろ手に家のドアを閉めながら、ラミィは目の前の男…何人かの男達を引き連れた、初老の男性に話しかける

 

すなわち

 

「久しぶりですね…」

「えぇ…

かれこれ約五十年ぶりでございますね、お嬢様」

 

お会いしとうございました…

 

そう言って、かつてラミィの家で執事をしていた男は頭を下げた

 

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

 

「ラミィの故郷、ユニーリアはとても閉鎖的な土地で、そこに住む『雪の一族』は基本的に自分達以外の全てを見下している人達です」

 

だから、その日ラミィの元に来た彼らも、ここに残りたいと訴えるラミィの言葉なんて、最初から耳を貸す気もなくて…

 

「それでも何とか穏便に済ませようとは頑張ったんですが…無駄でした

何を言っても、彼らにとってこの村は下等な種族の営む穢らわしい村でしかありませんし、さっさと忘れるべきだという旨の事しか言いません

それよりも、由緒正しき王族の血をひくラミィ様には、この世で最も偉大で尊いユニーリア王国を導くという大いなる義務がある…という話ばかりで...」

 

それでもなお拒むラミィに業を煮やし、彼らが実力行使を行おうとした所で、中々帰ってこないラミィを心配したクロちゃんが、家の中から出てきたんです…

 

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

 

「ふむ…それではどうあってもユニーリアには戻らないと?」

「最初からそう言ってるはずです」

 

毅然とした態度でそうはっきりと答えると、流石にラミィの意志が固い理解出来たのか、困りましたねと目の前の男も考え込む

 

そして、そこがチャンスだと考えたラミィは一気に畳み掛けた

 

「それに、そもそもラミィだってもう立派な200代です!

自分の事は自分で決められますし、王族の血筋という点でも王宮にはまだお兄様やお姉様がいらっしゃいますよね?

それなら今更ラミィが戻る必要だってないはずです!!」

 

そう言ってわざと怒ったようなふりをしながら、ラミィは自分の家のドアノブに自然に手をかける

 

(後は、このまま家の中にさえ入ってしまえば…)

 

氷の魔法でドアを封鎖し、その隙にクロちゃんを回収

そしてあらかじめ用意していた転移魔法を施した床の上に乗れば、一先ずここからは逃げられるはず

 

そこまでの算段を思い浮かべながら、それでもラミィの気は進まない

と言うのも、先にも言ったが、ラミィにとってここは第二の故郷のようなものだからだ

 

(…正直、ここを離れるのは辛いけど…)

 

思い浮かべるのは、行き倒れかけていた当時のラミィを助けてくれた老夫婦の顔と、彼らへの恩を返すために必死で立て直した雪花酒造の看板

そして、よそ者のラミィの事を、それでも温かく受け入れてくれたこの村の人達の顔だ

 

そしてそれらの全てを今から捨て去ると考えた瞬間に、ラミィの心に鋭い痛みが走る

 

(ラミィがいなくなった後…)

 

雪花酒造はどうなるのだろう?

何十年もかけて育ててきた自慢の酒造

そろそろ後継を育てようと思っていた矢先の出来事であり、だからこそ自分がいなくなった後にそれがどうなるのか、不安で不安でしょうがない

 

(それに、ラミィはまだ村の人達に十分に恩返しができてない…)

 

酒造の再興を始めたばかりの頃、経営が上手くいかなくて明日の食事にも困っていた頃に、よく畑の野菜や川の魚をくれた木村さんに、商売のいろはも分かってなかった当時のラミィを見かねて、色々なことを教えてくれた佐藤さん

少しずつ経営が上向き始める中で、雪花酒造のお酒が一番美味しいと何本も買ってくれた田中さんに、仕事柄村の外に出向くことが多く、その縁でいろんなところでお酒をおすすめしてくれて、それが村外への様々な販売ルートの開拓に繋がった加藤さん

 

それに何より、行き倒れて死にそうだったラミィの世話をしてくれた

帰る場所のないラミィに、ここにいても良いよと言ってくれた雪花夫妻

もう二人とも亡くなってしまったけど…それでも彼らには今でも本当に感謝している

 

他にもたくさんの…本当にたくさんの人が支えてくれたから今のラミィがある

だからこそ、そんな彼らに何の恩返しもせずにこの地を去ることは、ラミィにはとても辛い

それにそうでなくとも、優しい彼らと二度と会えないかもしれないと思うと、悲しくて仕方がなくて…

 

(あぁ…ラミィってこんなにもこの村が好きだったんだ…)

 

たったの50年…しかしそれでも50年分ものかけがえのない思い出が、この土地にはたくさん詰まっている

そんな場所を自分から捨てなければならないことは、ラミィが自分で想像していた以上に辛く悲しい事だと今更ながらに気が付く

 

(それでも…こうなってしまったからには仕方がない)

 

そう思いながら、ラミィは唇をかむ

今まで磐ノ戸で培ってきた全てを失っても、それでも故郷に連れ戻されるよりはずっとマシだと思い込むしかない

実際それは事実だし、だからこそラミィもまた覚悟を決める

 

それに今回はクロちゃんがいてくれる

あの素直じゃない推定化け狐の子供も、事情を話せばきっとついて来てくれる

そして、あの子がいるならラミィもきっと頑張れる気がする

なんだかんだ言ってラミィのことが大好きなあの子となら、例えどこに行くことになったとしても楽しく暮らしていけるはずだとラミィは思うし、きっとあの子も同じことを思ってくれるはず

それなら

 

(きっと、何とかなるよね?)

 

そんな事を考えながらドアノブを捻り、開いたドアの中へと入ろうとしたところで

 

「ーーはぁ、まったくお嬢様はいつも我々を困らせますな…」

 

そんな言葉と共に、いつの間にか両脇に回り込んでいた男達に取り押さえられる

そして、突然の出来事に咄嗟に反応できなかったラミィは、そのまま地面に押し倒される

叩きつけられた体の痛みに耐えつつも藻掻くが、二人がかりでラミィを取り押さえる男たちの体はびくともしない

それでも何とかその場を乗り切ろうと、大暴れの末に辛うじて自由になった右手で魔法を使おうとして

 

「おっと、そうはさせませんよ?」

「っ!?」

 

魔法を使おうとした右手を思いっきり踏まれたラミィは、痛みで制御を手放し、抵抗の試みは失敗に終わる

 

そして、そんなラミィを見下ろして、執事だった男は苦笑する

 

「まぁ、そういうところがお嬢様らしいと言えばそうなのですが…

まったくお痛わしいですな…こんな虫けら共の村などにそこまで入れ込んでしまわれるなど…」

 

ーーすべて、お嬢様の教育を担当していた私の落ち度ですね

 

そう言ってラミィを見るかつての執事の顔には本気の苦悩と憐憫、そしてラミィへの深い愛情が籠っていて

 

思わずゾッとするラミィに、しかし一転して彼はその場に膝をついて頭を下げる

 

「ーー手荒な真似をして申し訳ありません

ですが、こんな肥溜めのような場所で暮らすお嬢様の姿など、臣下の一人として…いいえ、一人の『雪の一族』としても、とても見ていられないのです」

「…っ!例えあなた達にとっては肥溜めでも、ラミィにとってはかけがえのない大切な場所です!!」

 

思わず叫んだラミィに、しかし目の前の男は優しく微笑む

その顔には、まるで聞き分けのない子供をあやす優しい父親のような苦笑が浮かんでいて

 

「…えぇ、存じております

思えば昔からお嬢様はとてもお優しい方でしたからね」

 

恐らくラミィの言葉を完璧に理解した上でのその笑顔は、しかしだからこそ恐ろしい

向けられる愛情がすべて本物であるだけに、基本的に彼の行動のすべては善意から来ている

そして、だからこそ彼のそれにはブレーキというものがない

歪んだ価値観の下に示される、どこまでも真っ直ぐなその忠誠心と愛情はしかし、一般的な価値観からすれば異常としか言いようがないもので

 

 

 

「ですから...お前達、この方の四肢の骨を折りなさい」

 

 

 

思わぬ言葉に顔から一気に血の気が引く

ヒュッという声にならない声が口から漏れるが、流石に周囲の男達も予想外だったのだろう

困惑するように互いを見つめる男達だったが、そんな彼らに執事だった男は平然と続ける

 

「君主が道を誤った時、敢えて諫言するのは臣下の務めです

…責任はすべて私が負います

なんなら、後に私自ら自身の首を跳ねましょう」

 

ーーそれでも、我々にはお嬢様を連れ帰る義務があります

臣下として、歪んでしまった思想を正しく矯正して差し上げる責務があります

 

「そして、その為に必要であるのなら、私は喜んで嫌われましょう

この命を捧げ、未来永劫蛇蝎のごとく恨まれましょう

それが私の臣下としての誇りと覚悟です」

 

そう言って、執事だった男は魔法で氷のこん棒を出すと、ラミィの右腕に向かってそれを振りかざす

いかに氷で出来たものとはいえ、あのサイズの氷塊をぶつけられれば骨も折れるというものだろう

だから、そんなものが振り上げられた瞬間ラミィの脳裏にはこれで終わりだという絶望しかなくて

 

(ごめんね…クロちゃん…)

 

ラミィはもう、二度とクロちゃんに会えそうにないや…

 

でも、同時にあの子を巻き込まなくて済んだ事に心の底から安堵する

こんな頭のおかしい奴らにクロちゃんを見せたら、あの子までろくな目に合わない事なんて、分かりきっている

だから、せめてクロちゃんがこの件と関わらずにいられる事が、ラミィにとっての唯一の救いで…

 

(お別れがこんな形になっちゃうなんて、思いもしなかったけど…)

 

それでも、きっとクロちゃんなら一人でも生きていけるから…

ラミィがいなくても、きっと幸せになれるはずだから…

 

(…不甲斐ない飼い主でごめんね?

でも…大好きだよ、クロちゃん…)

 

一筋の涙がラミィの頬からこぼれ落ちる

それと同時に、振り上げられたこん棒が振り下ろされようとして…

 

 

 

「…ほぉ?

だったら今すぐその覚悟とやらを見せてみろよ、糞ジジイ」

 

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

 

「…そこからは一方的でした

家から人の姿で出てきたクロちゃんは、即座に彼を蹴り飛ばすと、ラミィの体を押さえていた男二人を昏倒させ、体勢を立て直した執事を倒した後に、彼の部下達も一掃しました」

 

ーーそして、その間ラミィはそれを呆然と見ている事しか出来ませんでした

 

そう語る雪花さんの顔には、堪えきれない程の後悔が滲んでいて

 

「でも、途中からクロちゃん何だか辛そうな顔をしはじめて…

それに気が付いて駆け寄ろうとしたら、来るなって言われちゃって…

その後、クロちゃんはどこかに行ったっきりでまだ帰って来ません

ありがとう、そしてさようなら

そんな言葉だけ…残して…」

 

そこが限界だったのだろう

雪花さんの瞳からポロポロと涙が溢れ落ち始める

その表情は隠し切れないほどの悲哀と苦悩に満ち溢れていて

 

「そんなの…ありがとうだなんて、それはラミィのセリフだよ…

だってラミィ、まだあなたにありがとうって言ってない…

あの時助けてくれてありがとうって、ずっと一緒にいてくれてありがとうって

ラミィまだちゃんとクロちゃんに言えてない!伝えられてない!!」

 

そんな風に感情を吐露する雪花さん

だけど、事情を聞いた僕としてはそれどころじゃない

 

(まだ生きている事は知ってたけど…)

 

まさかこんな近くにいたなんて、と僕は驚愕する

灯台もと暗しとは言うけど、それでもまさか磐ノ戸の、それもこんなに近くにいたなんて思わなかった

 

そして僕は同時に確信する

きっとクロちゃん…黒上フブキがいる場所に白上さんもいる

根拠なんて何もないけど、なぜか僕にはそれが正解なような気がして…

 

「それで…どうして雪花さんは白上神社へ?」

「実は…クロちゃんを探す中で、ダメ元で落とし物探しのおまじないを使ったら反応があって…

でもクロちゃんはここに来てないんですよね?」

 

キョロキョロと周囲を見渡す雪花さん

しかし、そこに黒上フブキの姿は見当たらない

だけど、もし彼女のおまじないが指し示しているのが白上神社ではなかったら

白上神社のその奥にある冥界の扉マガツトボソの事であるのなら…

 

「でも白上神社にこれ以上先なんてないし…無駄足だったかな…?」

「…いいえ、ありますよ先」

「へ?」

 

思わず、と言った様子でこちらを見る雪花さん

とは言え、ここまで黒上さんに関わっているのなら、流石に説明はしておくべきだ

 

「…今から話すことは、他言無用でお願いしますね」

 

そうして僕は諸々の冥界の扉マガツトボソ関連の事情について、簡単に雪花さんに説明する

最初こそ驚いていた雪花さんだったが、長くこの地にいるだけあって、何か思い当たる節はあるのだろう

真面目な顔で聞いてくれた彼女を、僕は冥界の扉マガツトボソへと繋がる山道へ案内する

 

「きっとこの先に黒か…クロちゃんはいるはずです」

 

ですが、それが雪花さんの知っている優しいクロちゃんである保証はできません

 

「それでも…進みますか?」

 

そう尋ねる僕に雪花さんは頷く

 

「進むよ

だってクロちゃんはラミィにとっては大切な家族なんだから」

 

ーーあなたにとっての白上様も、そうなんでしょ?

 

そう言ってこちらを見る雪花さんに、僕もまた頷く

そうだ、雪花さんにとって黒上さんが家族であるように、僕にとってもフブキさんは大切な人なんだ

だからこそ

 

「行きましょう、雪花さん」

「はい!」

 

そうして僕らは山道へと足を踏み入れる

そして長い長い階段を抜けたその先

山の中なのに開けたその場所には、相変わらずの朱塗りの大きな門が立っていて

 

「ーークロちゃん!!」

 

そこで倒れている黒上さんを見て、雪花さんは駆け出したのだった

 





次回は黒上さん視点です
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