白上縁起恋灯絵巻【完結】   作:DX鶏がらスープ

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さぁ、これでいよいよ某動画の三つのお題のセリフはフルコンプです!

是非とも本家も聞いてみてください

それではどうぞ!!

※ちなみに本家では初めてのプレゼントはお揃いの指輪でしたが、この作品では金木犀の髪留めに変更しています
元のセリフを変えるのは非常に心苦しかったのですが、この作品において、主人公が白上さんに渡した初めてのプレゼントはそれだったので、泣く泣く変更しました
ご了承ください…



結婚前夜編 明日へ

 

なんとなく目が冴えてしまって眠れない

 

だから気分転換に少し散歩でもしようと思って外に出ると、そこには拝殿の片隅に座って月を眺めているフブキさんがいた

 

「…あ、海斗くん

どうしたんですか、こんな夜更けに?」

「ちょっと眠れなくて…

フブキさんは?」

「白上も同じですよ

なにせもう明日ですからね」

 

そう言って、また月を見上げるフブキさん

その隣に僕もまた腰を下ろす

 

暫しの沈黙

夜の神社の境内は静まり返り、ただ夜空には月が一つぽっかりと浮かんでいるだけだ

そんな場所に二人きり

だけど、不思議と互いに嫌な空気にはならない

それどころか流れる空気はひどく穏やかなもので

 

「…そう言えば、再会して初めて冥獣ケガレから助けてもらった時の夜も、こんな夜でしたよね?」

 

ふと月を見ながら思い出したのは、この土地にやってきたばかりの時の事

まだ僕が昔の記憶を思い出しておらず、初めてフブキさんと会ったと思い込んでいた時の記憶で...

 

「あぁ、そうでしたね…」

 

懐かしそうに遠い目をするフブキさん

そんな彼女と同じように、縁側に座る僕もまた、今日までに駆け抜けてきた日々を思い出す

そんな僕らの頭上には、あの日と同じように美しい月が優しく輝いていて

それを見ていると、自然とあの頃の思い出が自身の中から溢れてくる

 

ーーあの後白上神社に連れていかれて、いきなり修行の日々が始まって…

ようやくそれを乗り越えたと思ったら冥界の扉マガツトボソが開いて大変な事になって…

 

ーーその後、海斗くんが白上祭りを復興してくれましたよね

私の何気ない一言を覚えていてくれたばかりか、実際に廃れた祭りを復活させてくれるなんて…あれは本当に嬉しかったなぁ…

 

ーーそして、あのクリスマス会の日

当時は本当に大変でしたけど、あの出来事があったからこそ、僕らは互いの気持ちを確かめあう事ができて…

 

ーーそうですね…

あの時海斗くんが私の事を受け入れてくれたから今がある

こういう事があるから、人の縁というのは不思議なものだと思いませんか?

 

互いに語る言葉は尽きない

とは言えその内容は、僕がこういう事があったというと、フブキさんもこういう事もあったよねと返すというだけ

ただその繰り返し

特に発展性など望めない、ただ過去を懐かしむだけの時間

 

だけど、そうやって彼女と会話をする時間は、生産性など皆無であってもとても楽しいもので…

何より、それが出来る程の時間を、僕らは一緒に歩いてきたんだなという実感が湧いてきて...

 

だからこそ

 

「………良かったんですか?」

 

その質問にしかし、何がとはフブキさんも聞かない

静かに頷く彼女の姿には、確かな覚悟が宿っているような気がして

 

「…勿論ですよ」

「でも、本来ならフブキさんはもっと長い時間を生きる事が出来たんですよ?

なのに...」

 

そこまで言いかけて、だけど頬に何かが当たる感触にそれを止める

気が付くと、白上さんが人差し指で僕の頬に触れていて

 

「後悔なんてしてませんよ

自分で決めた事なんですから」

 

スッと指が離れる

だけど、その目は気遣う僕の事を優しく見つめていて

 

「…それにね、海斗くん

実は私、嬉しいんだ

ちゃんとあなたと同じ時間を生きれる事が

同じ歩幅で歩いていける事が、とっても…とっても嬉しいんだ…」

 

ーーだから、全然怖くないよ

 

そう言って微笑むフブキさんの表情にはなんの陰りも後悔もなくて…

 

その笑顔に、僕は先の黒上さんと白上さんのやり取りを思い出す

 

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

 

「いいか?神っていう存在には、基本的に寿命っていう概念がない

何故なら神という存在は信仰によって形作られているものであり、だからこそ信仰が途絶えさえしなければ、理論上神は死ぬことがない」

 

だから普通の方法で神を殺す事は出来ないし、それをなし得る術や道具も、それこそ伝説や神話クラスの逸品でしかあり得ない

 

それだけ神という存在は特別な存在なんだ、と黒上さんは語る

 

しかし、何事にも例外は存在する

 

「ワタシと白上フブキはまったく同じ魂を持つ存在であり、そういう意味ではまったく同じ人物だ

だからこそ、互いの魂の情報を一切のデメリットなしで受け渡す事が出来る

自分の血を輸血された奴が拒絶反応を起こさないように、ワタシと白上フブキの間での魂の情報の受け渡しにも、何の齟齬も障害も発生し得ないんだ」

 

だからこそ可能なのだ

今この時、この場においてなら、奇跡を起こす事が出来るのだ

 

故に、黒上さんはその選択肢を白上さんに提示する

今まで誰も思い付きもしなかったその選択肢を

本人も心の底で不可能だと切り捨てていたそれを、しかし可能だと黒上さんは告げる

 

それはすなわち

 

「ワタシと魂を同期すれば…白上フブキ、お前は死ぬことが出来る」

 

そう告げる黒上さんの眼差しは、どこか優しげなもので

 

「ワタシと寿命を共有することになるが…それでもお前はちゃんと定命の存在として死ぬことが出来る

愛する人と、本当の意味で同じ時間を共に生きる事が出来るんだ」

 

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

 

「………ねぇ

初デートの時の事、覚えてる?」

 

そう言って、改めて月を見上げるフブキさん

その言葉に僕は答える

 

「…えぇ、覚えてますよ」

「…あの時、家の前で別れる時にキスしようとしましたよね?」

 

 

内心冷や汗をかきながら、錆び付いた機械のような動きで隣を見る

 

ーー気付いてたんですか?

 

恐る恐るフブキさんに尋ねるが、そんな僕の反応がよっぽど面白かったのだろうか

吹き出しながらも彼女はちゃんと答えてくれる

 

それはつまり、今夜僕に一つ、新たな黒歴史が出来るという事で…

 

「バレバレだよ~!

それから何度もチャンス作ったのにさ

結局5回目のデートでやっとだったの、ちょっと笑っちゃった!」

「…面目ないです」

 

そう言ってがっくりと項垂れる僕

そんな僕の様子を見て、私も中々踏み出せなかったからおあいこだよ、とフブキさんは笑ってくれるけど…正直、絶対にバレていないと長年思い込んでいただけに、結構キツイ

 

(穴があったら入りたい…)

 

心の底からそう思う

だけど、それでも隣で屈託のない笑顔で笑うフブキさんを見ていると、何だかそんな事もどうでも良くなってきて…

 

そこでふと思い付いた僕は、フブキさんに聞いてみる

 

「………そう言えばフブキさんって、まだあれは持っているんですか?」

 

あれ?と、首を傾げるフブキさん

今一ピンと来ていないらしい彼女に、僕はもう少し詳しく説明する

 

「あのクリスマス会でのプレゼントですよ」

 

そう言って話題に出すのは、あの金木犀の髪留めの事だ

 

初デートの日に買ったお揃いのキーホルダーに関しては知っている

なんなら僕だってまだ持っているし、フブキさんも時々カバンに着けてるのも知っている

 

ただ、最近あまりあのクリスマス会であげた金木犀の髪留めを着けている姿を見ていない気がして

 

「金木犀の髪留め?

勿論持ってるよ、ほら!

あなたからの初めてのプレゼント失くすわけないじゃん」

 

そう言って取り出されたそれは、記憶にあるものよりも少し古くなっている

一部の装飾が欠け、ピン先も折れてしまったそれは、もう普段使いするには少し厳しそうだ

それでも、ちゃんと今でも手入れをされて大切にされている事は一目見るだけで分かる

だから、それを見た僕の胸の中には暖かい気持ちがじんわりと広がって…

 

「…私の宝物なんだ」

 

そう言って大事そうに髪留めを抱き締めるフブキさんの表情はとても穏やかなもので…

まるで本物の宝物のように丁寧にそれを扱う彼女を見ていると、彼女がどれだけそれを大切にしてくれているのかが僕にも伝わってくる

そしてそれが僕にはとても嬉しい

自分のあげた最初のプレゼントを、壊れてもずっと持っていてくれた事もそうだけど、何よりそれを宝物とまで言ってくれた事が…自分と同じものを大切だと思っていてくれた事がとても嬉しい

 

だからこそ、そんなフブキさんがふと遠くを見つめるような目をし始め、僕は不安になる

遠く遠く…まるでここではないどこかを見つめるようなその目からは、温度というものが抜け落ちているような気がして…

 

 

 

「…本当に明日結婚式なんだね」

 

 

 

ポツリとこぼれたその言葉には、どこか実感が伴っていない

まるでセミの脱け殻のように、形だけがそこに残っているようで…

 

「…私達結婚しちゃうんだ」

 

そう言いながら月を見上げるその顔は、どこか心あらずといった様子で…まるで底無しの闇の中に一人ぼっちで取り残されたかのような不安を感じさせるもので…

 

「…フブキさん?」

 

思わずかけた言葉に、だけどフブキさんはハッとしたかのように、普段の雰囲気に戻る

とは言えその表情にはどこか影がある

 

「ごめんね違うの!嫌なんじゃないんだ…嬉しいんだ!」

「…」

「素直に嬉しい…

本当に嬉しくて…」

 

ーーだけど、ちょっとだけ不安なんだ

 

「私、あなたにとっての良いお嫁さんになれるかな?」

 

ーーちゃんとあなたと一緒に生きていけるのかな?

 

そう不安げに呟くフブキさん

よく見ると、その肩が微かに震えている

それだけはなく、その瞳もまた微かに揺れている

それは、まるで何かに怯えているかのように僕には見えて…

 

だから

 

「…大丈夫ですよ」

 

僕はそう言って彼女の肩をそっと抱き締める

開かれた未来に、悠久の時間の監獄から解放されて得た自由に怯えるフブキさんに、それでもきっと大丈夫だと僕は告げる

 

「だって…あなたは一人じゃないんですから」

 

その言葉にハッとしたように僕を見つめるフブキさん

そんな彼女の視線を優しく受け止めながら、僕は続ける

 

「だから、大丈夫

きっと大丈夫ですよ」

 

そう言って、僕は優しくフブキさんの肩を叩く

これまでよく頑張りましたね、と

お疲れ様でした、と

そう言いながら不安と恐怖に怯える小さな神様を慰め続ける

 

それに、これはきっと僕だけではなくてこの磐ノ斗に住むみんなの総意だ

そして数十年もの長きに渡り、この地を守り続けた彼女の為だけに送られるそれには、同じ分だけの感謝の念も込められているはずで

 

だからこそ、しばらく黙っていたフブキさんの口から一人言のような小さな言葉がこぼれ落ちる

それは願い

きっと彼女が胸の内に秘めていた…決して誰にも言った事がないのであろう、小さな、それでも確かな願いに違いなくて…

 

 

 

「…いいお嫁さんになりたいな」

 

 

 

ーーそして、家族を作りたいな

 

震える口から出た小さな願いの欠片が、静かに夜に消えていく

しかし、恐らく今までずっと心のどこかで望んでいたのであろうそれは、本来なら不可能な事

仮に叶ったとしても、彼女自身の命の長さが、それを瞬く間に過去のものにしてしまう

フブキさんをまた一人にしてしまう

だからこそ今日まで、叶わぬ夢であり叶わぬ願いだったもの

どんなに望んでも手が届かなかったはずのもの

 

だけど

 

「みんなに自慢出来るような楽しいくて、ドキドキがいっぱいな家族…」

 

ーーそんな家族を、作りたいな

 

そう、だけど今ならそれが出来る

喜びも悲しみも、全てを分かち合う事が出来る家族を作れる

そして何より、そんな家族と同じ時間を歩む事が出来る

共に生き、そしていつかは共に死ぬ

当たり前の事で、それでも彼女にとっては当たり前ではなかった事

それがようやく許される

 

その事実が彼女に涙を流させる

一筋の銀光が、まるで夜空を翔る流れ星のように、スッとフブキさんの頬を流れていって

 

「ごめんごめん!笑いたいのに涙が出ちゃうんだ…」

 

そう言って無理に笑おうとするフブキさん

だけど、そんな彼女を僕は抱き締める

驚くフブキさん

だけど、しばらくそうしている内に、彼女の体が震えだす

だから、僕もそのまま何も言わずに月を見上げて…

 

(きっと今この瞬間すら、あの月の過ごしてきた時間に比べれば一瞬の事なんだろうな…)

 

それでもそれはここにある

僕の腕の中にある温もりは、それでも確かにここにある

その事実を確かめるように、僕は腕の中で泣き続けるフブキさんを抱き締め続ける

そして、それに応じるようにフブキさんも僕を抱き締め返してくる

月だけの昇る夜

僕らはしばらくの間ずっと二人で抱き合っていて…

 

 

 

「………大丈夫ですか?」

「………うん、うん!

大丈夫…大丈夫だよありがとう」

 

そう言ってまた笑顔を浮かべるフブキさん

なんだか前にもこんな事があったよね、と少し恥ずかしそうに頬を染めるフブキさんだったけど、もうその瞳には不安はない

だからこそ

 

「いつも慰めてくれてありがとね」

「もう慣れましたよ

フブキさん意外と泣き虫ですし」

「泣き虫じゃないよ!」

 

僕の軽口にフブキさんも笑いながら応じる

そんな小さなやり取りも琴線に触れたのだろうか

 

「大丈夫…大丈夫だよ」

 

また溢れてくる涙をフブキさんは自分で拭う

だけどきっともう大丈夫だろうと僕は思う

 

だってもう彼女は前を向く事が出来ているから

限りある命を、それでも精一杯に生きる覚悟が、既に彼女には出来ている

 

それなら、僕の役目はそんな彼女の背中を支えることだけだ

 

必ずフブキさんを幸せにしてみせる

その誓いを違えるつもりはない

 

それにーー

 

(「だから、絶対海斗くんの事は白上が幸せにしてみせます!」)

 

(「その代わり、白上の事は海斗くんが幸せにして下さいね!

これで二人とも幸せになれて、ハッピーエンドです!!」)

 

ふっと、思わず笑みがこぼれる

 

そして、これならきっと何の問題もないと僕は確信する

僕らはただ、互いを信じて進めば良いのだと

 

そして、だからこそ、白く輝く月の下でこちらを見つめる狐の少女の瞳もまた、どこまでも透き通っていて

 

「ねぇ、私を世界で一番幸せな花嫁にしてね?愛し…」

 

おっと

そう言って慌てて自分の口を塞ぎ、それでも優しく微笑むフブキさんの笑顔は、いつも通り世界で一番かわいかったから…

 

 

 

「これはーー明日だね!」

 

 

 

 





と言う訳で、後日談シリーズその三終了です!
いかがだったでしょうか?

実を言うとここまでの後日談シリーズ一から三までは、当初本編として書こうと思っていたものでして…
しかし、流石にここまでを本編にすると書き切る気力が持たないと思ったのと、物語としての区切り的に、後日談シリーズにあたる部分は蛇足かなと思ったので、本当は構想だけで死蔵する予定でした

ただ本編終了後、本当にありがたいことに後日談を書いて欲しいという声をいただいたので、せっかく読みたいという声があるのならと頑張ってみました
人間やればできるものですね…(瀕死)

さて、ここまで長々とお付き合いしていただきましたが、ひとまずはこれで一つの区切りとさせていただきます…と本来は言う予定でした
ただ感想を見ていると、作者が思っていたよりもデート回の受けが良かったようなので、ここまでお付き合いいただいたお礼もかねて、もう一つだけ後日談を書きました

ここまでのストーリー展開的にもこの話の話題はどこかで語っておきたいなと思っていたので、もし良かったらあと少しだけお付き合いいただけると幸いです!

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