時系列的には後日談その一の少し後の話になります
先に言っておきますが、この話に関しては基本シリアスする予定はありません
ですので、そこまで重い展開にもしません
ホントホント、サクシャウソツカナイ
それではどうぞ!
それは圧巻の光景だった
視界を覆うほどの巨大な水槽に、その中を自由自在に泳ぎ回る無数の魚の群れ
明かりの落とされた展示コーナーに差し込む光は、水槽越しに差し込むものだけであり、そのせいか水槽の外側であるこちら側までぼんやりとした青い光に包まれている
そしてそれは当然、そこにいる僕達もまた例外ではない
魚達の動きに合わせてゆらゆらと揺れる光の中で、それらを見守る白上さんの白い髪もまた、今回ばかりは深い青色に染まっている
青に沈んだ世界
その中を悠々と泳ぐ魚達の姿は、実に優雅なもので
それを見た白上さんは、水槽の方を向いたまま、目の前に広がる光景を前にして、圧倒されたよう口を開く
「凄いですね…」
だがそれも無理はない
なにせ磐ノ斗には水族館なんてものはない
こんな巨大な水槽はそれこそ生まれて初めて見るものだろうし、だからこそ、こんなにも様々な魚が目の前で悠々と泳ぐ光景なんて、これまで想像さえした事が無かったに違いない
文字通り初めて見るであろう景色に息を呑む白上さん
そんな彼女の様子を何となく見つめていると、自分が見られている事に気が付いたのだろうか
なんですか?と小首をを傾げながらこちらを向く白上さん
そんな彼女に何でもないと苦笑しながら、楽しんでいますか?と尋ねると、彼女も笑顔で勿論です!と答えてくれる
それが何だかとても得難いもののように感じて…
「?
どうしました?」
「…いいえ
それよりも、そんなに喜んでもらえたなら、連れてきたかいがありましたね」
胸の奥から込み上げてくるものを一旦棚上げしながらそう言うと、白上さんも素直にそれに頷く
「噂には聞いていましたが…こんな大きな水槽は初めて見ましたよ!
本当に綺麗ですね!!」
目をキラキラと輝かせながら水槽を見つめる白上さん
だけど、まだここは水族館の入り口から入ってすぐのところ
当然まだまだ奥にはたくさんの展示がある
だからこそ
「えぇ、そうですね
でも奥はまだこんなものじゃないですよ?」
「そうなんですか?
それは楽しみですね!」
「はい
だから行きましょう、白上さん」
そう言って白上さんに手を差し出すと、それを見た瞬間に白上さんはピクリと反応する
顔を赤くし、少しだけ目をそらす白上さん
その顔には、やはりまだ慣れないのか微かな羞恥と戸惑いが浮かんでいる
だけど、それも一瞬の事
おずおずと、しかし確かに差し出されたその手が、そっと僕の手の上に置かれる
だから、僕もそれを静かに握ると、一緒に歩き出す
互いに互いの手を意識しながらも、それでもちゃんと今回は手を繋ぐ事が出来た僕らは、その事に安堵し…しかしやはり気恥ずかしさから互いに少し目線を反らしながら、一緒に水族館の奥へと進んでいく
ゆっくりと、それでも確実に
僕らは自分達のペースで歩いていく
そして、そうやって比較的お互いに落ち着いていられるのも、流石にそろそろが慣れが出てきたからだろう
と言うのも、あれから…白上さんとの初デートから数えて、今日は三回目のデートだからだ
白上さんとの関係は今のところ順調に進んでいる
あの後さらにもう一度デートに行く機会があった事もあり、少しずつ仲が深まっているように僕は感じる
そもそもデートどころか女性とお付き合いをする事自体が初めてだが、それでも白上さんといると凄く落ち着くし、何より彼女と過ごす時間は本当に楽しい
勿論幼い時から彼女と一緒に過ごす時間はかけがえのないものではあったのだが、こうして晴れて恋人になってみると、ますます彼女との時間が愛おしく感じてくるから不思議だ
だからこそ、今日のデートも目一杯楽しめるものにしたい
白上さんにも、振り返った時に楽しかったと言ってもらえるようなものにしたい
そう思いながら僕らは水槽の展示を二人で回る
「白上さん、ほらあれ!」
「わぁ!あれがジンベエザメですか!!
大きいですね~!!」
「鯨を除いた最大の大きさの海の生き物らしいですからね
圧巻ですね…」
「これはメンダコですね!かわいい!!」
「…美味しそう」
「海斗くん!?」
「あはは、冗談ですよ!」
「もう!びっくりさせないでください!!」
「わ!見て見て海斗くん!!
チンアナゴですよ!!」
「おぉ、かわいいですね」
「チ、チンアナゴ~!」
「?」
「…そっか~、海斗くん知らないのか~…」
「…」
「…」
「a domo same deshu」
「海斗くん…あれって確か、前に川で釣った…」
「…言わないでください
僕にだって分からない事はあるんです…」
そうやって二人で楽しみながら水族館の展示を満喫している途中の事だった
「………あの、海斗くん」
白上さんから声をかけられる
なんですか?と振り返ると、何故か白上さんは少し顔を赤くしながらモジモジとしていて
それを見て、僕はもしかして何かあったのだろうかと慌てるが、様子を見ているとどうにもそうではないようで
「…あ、すみません
もしかして体調とか悪いですか?」
「い、いえ
そうではないんですが…」
………やっぱり、何でもないです…
そう言って恥ずかしそうに顔をそらす白上さん
そのどこか塩らしい様子に疑問を覚えるも、本人が何でもないと言うのなら無理に聞かない方が良いのだろう
そう思い、一応本当に体調が悪い訳ではない事を確認する
そして、そろそろイルカショーの時間だからイルカプールに移動しませんかと提案すると、白上さんは同意する
しかし、表には出さないようにしていても、どこかその瞳には何かを残念がるような光が宿っていたような気がしたから
(どうしたんだろう?)
内心僕は首をひねる
しかし、そんな彼女の様子も一緒にプールまで移動し、始まったイルカ達のパフォーマンスを見始める頃にはすっかり元に戻っていた
「スゴイ!スゴイです!!」
かわいらしいイルカ達による一糸乱れぬ軽やかな演技に、まるで子供のように目を輝かせながら喜ぶ白上さん
その様子は実に楽しそうで、見ているとこちらまで胸が暖かくなるもので…
・・・・・・
「いや~楽しかったですね!水族館!!」
「はい、僕も久しぶりだったので、とても楽しかったです」
「ですよね!特にさっきのイルカのショー!!
やっぱり話に聞くのと実際に見るのとでは大違いですね!!」
水族館を出た後に入った近くのレストラン
そこでよっぽどさっきのショーが面白かったのか、お土産屋で買ったイルカの人形を抱き締めながら白上さんは楽しそうに感想を語る
そんな彼女の話をうんうんと頷きながら聞いていると、そんな僕らの前に注文していた海鮮丼が運ばれてきた
「わぁ!美味しそう!!」
そう言って、いただきますと手を合わせ、早速箸に手を付ける白上さん
だが、一口海鮮丼に口をつけた瞬間に美味しい!と顔を輝かせる
と言うのも、出された海鮮丼が美味しいというのも勿論あるが、そもそもこの手の料理を食べるのが始めてだからだろう
元々磐ノ斗は内陸であり、そこの神様である白上さんは、これまであまり海の幸に触れる事がなかったのだという
だからこそ、水族館の近くにあったこのお店を選んだのだが…この反応を見るにどうやら正解だったようだ
尻尾をブンブンと振りながら、初めて食べる海の幸に舌鼓を打つ白上さん
そんな彼女の微笑ましい姿を見ながら僕も自分の分の海鮮丼を食べていると、白上さんから午後はどうしましょうか、と尋ねられる
それに対して少し考えた後、僕は答えた
「そうですね…
近くにショッピングモールがあるみたいなので、そこに行きませんか?」
「おぉ!良いですね!!
白上、ゲームセンターっていう場所に行ってみたいです!!」
「あぁ、そう言えば白上さん、ゲーム好きでしたよね?」
思えば昔は一緒に花札や将棋もしたし、再会してからは、みこさんが持ち込んだゲーム機に夢中になってた事も知っているし、何なら何度も一緒に遊んだこともある
それを考えるなら確かに悪くないかもしれない
そう思いながらスマホでショッピングモールのゲームセンターについて調べていると、先ほどまで楽しそうに話していたはずの白上さんが急に静かになっていることに気が付く
そこでふと顔を上げると、目の前にあるのは、デザートとして追加で注文したアイスクリーム
そしてそれをスプーンで掬ってこちらに差し出す白上さんの姿に他ならなくて…
「こ、恋人なら…こういうのも、て、定番ですよね?」
そう言って、ちょっと目を反らしながらもこちらを見つめる白上さん
その顔は、湯気でも出そうな程に赤くなっていて…でも、その目にどこか期待するような光が宿っている事は明らかだ
だから、覚悟を決める
「え、えっと…じゃあ遠慮なく...」
そう言って差し出されたスプーンを口に含むと、口の中に広がるのはバニラの味
冷たく、そして爽やかな甘味が口内に広がる
とは言え、今の僕にとって一番大事な事はアイスの味よりも、むしろ白上さんへの返答だ
だけど、恥ずかしさのあまり、ちょっと涙目でぷるぷるしながらこちらを見ている彼女の姿を見ていると、なんだかこっちまで恥ずかしくなってきて…
「ど、どうですか…?」
「お、美味しいです…」
「そ、それはどうも…」
少しだけぎくしゃくとした空気が流れる
そしてそれを何とかしようと考えていると、ふと天啓が舞い降りる
つまり
「………し、白上さんもどうです?」
「わ、私もですか!?」
僕の言葉に仰天する白上さん
だけど、実際に僕がスプーンでアイスを掬って渡すと、少し戸惑いながらも口に含んでくれる
そうして白上さんは僕の差し出したスプーンを咥えてくれたのだが…頬を赤く染めながら上目遣いでこちらを見つめる彼女の姿を見ていると、なんだかいけない事をしている気分になってきて…
「ど、どうでしたか?」
「は、はい!と、とても美味しかったです!!」
「そ、それは良かったです!」
「ご、ごちそうさまでした!」
「い、いえいえ、こちらこそ!」
「「………」」
途端におかしくなって僕らは吹き出す
自分達はなんてアホな事をしているのだろう、そう思うと余計に笑えくる
それでもこんなバカみたいな時間が堪らなく愛おしい
端から見れば、何をやっているんだと言われるようなそれは、だけど…どうしてだろう?
僕らにとって、それはどうしようもない程に暖かくて、そして穏やかな時間で
だからこそ僕らは晴れやかな気持ちになる
「あはは!何やってるんでしょうね、僕らは!!」
「ま、まぁ良いんじゃないですか?
こう言うのも良い思い出ですよ!!」
「それもそうですね!」
「はい!!」
そんな事を言いながらも、僕らは結局その後も何度か互いにアイスを食べさせ合い、店を出る
当然ノリと勢いで誤魔化しただけで、自分がかなり恥ずかしい事をしていたのは分かってたんだけど…それでもそれ以上に、白上さんとそうして過ごす時間はとても楽しくて…
ちゃんと白上さんと同じ時間を歩めているのが嬉しくて…
「…白上さん」
「?」
「今日はたくさん楽しみましょうね!」
「!
はい!!」
そうして僕らはレストランを後にするのだった
「………また、言えなかったな…」
あ、特に曇らせとかはないです