他の人はどうやってるんだろう?
あれから二週間が経った
その間、僕は白上神社でそれはもう徹底的にしごかれていた
白上さん達の間での相談の結果、僕の修行はひとまず一般的な退魔師の修行をベースに行われることになった
そういう訳で基本的にはメイン講師は同じ人間で、退魔の技術も修めているみこさん(そう呼べと言われた)、そして適正を見ながら必要に応じて白上さんや大神さんがサポートをしていくという事になったわけだが、これがまた大変だった
「いい、海斗?
アイドルは一に体力ニに体力、三四も体力、五も体力なんだからにぇ!」
というアイドル(?)理論の下で行われる10キロ単位の走り込みやインターバルを挟みながらの連続シャトルラン、山登り(時間制限付き)や近くの川での水練等の過酷な肉体的鍛練
これだけでも相当キツイが、こんなとんでもない脳筋理論をブン回しながらも、滝行や座禅などの霊力把握、並びに操作の為の修行が付け加えられ、更に霊力をちゃんと運用する為の基礎理論や、足止め用の式神や結界を作成する為の符の作り方といった座学の時間もしっかり取ってあり、1日のスケジュールは常にパンパン
「いや…それが必要な事は分かるんですけど…」
いくらなんでも詰め込みすぎなのでは?と愚痴を溢すと、隣で聞いていた白上さんはそれは大変ですね、と苦笑した
「…それでも、海斗くんは投げ出さないんですね?」
「…まぁ、自分で決めた事ですから」
「偉いですね~」
白上が褒めてあげましょう~、と僕の頭に手を伸ばそうとする白上さん
しかし、その瞬間に彼女の持っていた釣竿に何かが掛かった
「んんっ!これは!?」
「白上さん!!」
予想外の重さに逆に川に引きずり込まれそうになる白上さんの釣竿に慌てて飛び付くと、なんとか状況を拮抗させる
とは言え獲物の力が衰えた訳ではなく、このままでは僕も白上さんもいずれ力尽きるだろう
だから僕は叫んだ
「合わせてください!白上さん!!」
「分かりました!行きますよ!!」
「「せーの!!」」
掛け声と共に僕らは息を合わせる
そしてどうにか僕らは獲物を釣り上げる事に成功した
「や、やりましたね白上さん!」
「はい!それじゃあ早速獲物の確認を…ーー」
「a domo same deshu」
「…」
「…」
丁重にお帰りいただいた
「…それにしても、僕で良いんですか白上さん?」
白上神社の近くの小さな川
その河原に腰を下ろした僕は、同じく隣に座っている白上さんに問いかける
だが、白上は今一質問の意味を分かっていないようで怪訝そうな顔をする
だから僕は、僕といるより大神さんやみこさんと一緒の方が楽しんじゃないですかと尋ねてみた
「まぁ、僕としてはこうして修行から連れ出してくれるのは大変ありがたいですけど」
そう言いながら僕はエサを付けた釣竿を川に向かって投げる
ポチャンという音ともに沈んだ浮きがすぐに浮き上がり、それと共に一時的に会話が途絶えた
静かだ
聞こえるのは目の前を流れる川の微かな水の音だけ
騒々しい夏の蝉の合唱から切り離されたこの空間には静寂が満ちていて、僕達の間にしばし沈黙が流れる
しかし、少しして白上さんがポツリと呟いた
「…まぁ、二人は忙しいですからね」
こんな風にちょいちょいサボってる白上とは大違いですね、と笑う白上さん
その彼女の横顔がどうしてか少し寂しそうに見えて…咄嗟に僕が何かを言おうとした瞬間、白上さんは自分の竿を引いた
すると、その瞬間にキラキラと水しぶきをあげながら小さな鮎が川から飛び出し、それを見事にキャッチした白上さんは、それを隣に置いてあった自分の魚籠に入れて立ち上がった
「じゃあ、そろそろ白上は行きますね」
「あれ?昼ご飯食べていかないんですか?」
突然の行動に思わずそう尋ねるも、まだそんなにお腹空いてませんしね、と笑う白上さん
そのまま、適当にぶらぶらして来ますよと自分の荷物を片付け始める白上さんに、だけど僕は何も言えず、せめて気を付けてと声をかける僕に白上さんは笑った
「ふふ、白上は神様ですよ?
気を付けるも何もないですよ」
そしてそのまま、海斗くんもほどほどにね~と言いながらどこかへと去っていく白上さん
だけどお気楽な言動とは裏腹に、その背中にはどこか疲れたような雰囲気があるような気がする
そしてそれが今日始めて感じたものではなく、むしろ日に日に少しずつ積み重なっているように感じられるからこそ、僕はこっそりため息をついた
(…いつもそうだ)
彼女がこうやって修行から連れ出してくれるのは別に初めての事ではない
何だかんだと理由をつけて白上さんは時々こうして僕に息抜きをさせてくれる
その事自体はありがたいし、修行を担当しているみこさんもそれは黙認している
自分がスパルタでいく分、周りの人間がそれで足りないところを調整してくれれば良いというのが現在のみこさんのスタンスであり、だからこそ、この白上さんの行動も彼女の計算の範囲内
だからその事自体は良い
問題なのは最近見る白上さんがその言動とは裏腹に、いつもどこか疲れたような感じがする事で…
(無理してないと良いけど…)
思えば、僕は白上さんの事をあまりよく知らない
この磐ノ斗の地を守る祭神で、夜な夜な冥獣を退治している事ぐらいだろうか?
(勘違いならそれでも良い)
でももし彼女が無理をしているのなら
(力になりたいな…)
そうぼんやりと水面に揺れる浮きを見ながら僕は思う
・・・・・・
「うんうん、良い感じ
それじゃあそのまま発動してみて」
「はい!」
白上神社の境内の一角
そこで今日の修行を行う僕は、大神さんの言葉に従って目の前の空間に意識を集中する
すると地面に指定していた四つの空間座標を起点にして立方体の形をした結界が構築される
そしてその一番上の面に、地面に置いていた三つの燭台の内、真ん中の燭台だけがちょこんと乗っかる
更に僕が少し術式を弄ると、結界の上に乗っていた燭台はそのまま結界をすり抜けて垂直に地面に落下し、コトンという音をたてた
「できました!」
「うん、合格
…まさかたったの2週間ちょっとで、ここまでできるようになるとは思わなかったよ」
海斗くんは結界術の素質があるみたいだね、と満足げに頷く大神さん
そしてそんな僕らの修行の様子を側で見ていたみこさんは、この分ならそろそろ弱い冥獣との戦いになら連れていっても良いかもしれないと大神さんに提案した
「勿論みこかミオちゃん、それかフブさんがいるっていう前提だけど…」
「そうだねぇ…
少し早い気もするけど、今の海斗くんの技量なら降り掛かる火の粉位は払えるかな…」
そう言って少しの間考え込むも、すぐにみこさんの意見に賛成する大神さん
そしてそれを受けて、明日からは僕も彼女達が行っている冥獣に付いていく事、今後は座学の代わりに実践形式の練習試合も少しずつ入れていく事が決定された
「取り敢えず基本的な事は詰め込んだから、後は実践で身に付けていくだけだにぇ!」
「分かりました、よろしくお願いします」
「ふっふっふっ…
ぼっこぼこにしてやるから覚悟して…って痛!」
「はいはい、あんまり脅さないの」
そう言って何やら悪い顔をしていたみこさんの頭に軽くチョップを落とした大神さんは、そのまま修行道具の後片付けも兼ねた境内の掃除を始める
そしてそれを見た僕らも大神さんを手伝い始めるのだが、そんな時ふと疑問に思った事を大神さんに尋ねてみる
「そう言えば大神さんも白上さんと同じく白上神社の祭神なんですよね?」
「うん?まぁ、そうだけど」
「それなのにどうして名字が「大神」なんですか?
「白上」って名乗らない事には訳があるんですか?」
それを聞いた大神さんはあぁ、と頷き答えた
「それはうちが正式な白上神社の祭神じゃないからだね」
「正式な祭神じゃない…ですか?」
首を傾げる僕に大神さんは続ける
「そう、あくまでもこの神社の主神はフブキであって、うちは一緒に奉られてるだけの普通の神様なの
そして「白上」って名字は正式な白上神社の祭神のみが名乗って良いものだから、同じ神社に住んでるからってうちが勝手に名乗って良いものじゃないんだよ」
「へぇ、そうなんですね」
大神さんの言葉に納得した僕はそのまま掃除を続けようとする
しかし
「…まぁ、実は正当な白上神社の血筋を継いでるのはフブさんじゃなくてミオちゃんの方なんだけどにぇ」
「へ?」
「みこち!」
思わぬみこさんの発言に驚く僕と、割りと本気で苦言を呈する大神さん
だが当のみこさんは平然としていた
「いいじゃん、話してあげなよミオちゃん
もう海斗だって赤の他人って訳でもないんだし」
「でもみこち!」
「それにみこは友達が自分の事を卑下してるのも、卑下されてるのを見るのも嫌だな
それも他ならぬミオちゃん自身の手によって謝った認識を植え付けられた人に、間違った認識でミオちゃんが誤解されるのなら尚更」
「うぅ…」
痛いところを突かれたのか苦虫を噛み潰したような表情をする大神さん
しかしそれとは対照的にやさしい顔をするみこさん
「それにきっと海斗は特に何も気にしないよ
フブさんの事もミオちゃんの事も、別に変な目で見たりしない
ミオちゃんが恐れるような事にはならないよ」
そう微笑むみこさんの言葉にしばらく悩ましげな表情をする大神さん
だがしばらくするとため息をつきながらじっとりとした目でみこさんを見つめた
「…恨むよ、みこち」
「はいはい、いくらでも恨んでくれて構わないよ
…それじゃあミオちゃん、聞かせてくれない?」
そう言ってにこやかに微笑むみこさんと、またため息をつく大神さん
そんな二人を見ていると軽々しく聞くべき話ではなかったかなと、少しばかり罪悪感が出てきて
「あ、あの、別に言いたくないのなら僕は別に…」
「…はぁ、別に良いよ遠慮しなくても」
それに、いつかはする必要のある話ではあるしね
そう言って大神さんは、どうして自分が白上神社の正式な祭神にならなかったのかを語り始めるのだった
でも現実世界でも、神社とかで祭ってある神様の一覧を見てみると、割と二、三柱の神様が
一緒に祭ってあることはよくありますよね
案外創作でよくある、祠の神様と出会って~みたいな、そこに一柱の神様しか祭ってない神社とかって我々が思ってるより少なかったりして?