白上縁起恋灯絵巻【完結】   作:DX鶏がらスープ

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あらすじにも書いていますが、ここから先は設定の捏造が多々あります
ご注意ください


明月

 

煌めく銀閃

舞い踊る白髪

そして駆けるは、気高き人狐の少女

 

三日月が照らす月下の戦場を白上さんは縦横無尽に駆け巡る

自在にその身を翻し、まるで踊るようにその刀で冥獣ケガレを切り刻んでいく白上さんの姿はまるで一枚の絵画のようだ

そしてそんな彼女のまるで舞うような剣さばきを見ていると、うっかりここが戦場である事をわすれてしまいそうになる

 

とは言えだ

 

「白上さん!」

「!」

 

僕の警戒の言葉と共に白上さんが飛ぶ

真後ろからの襲撃を前方へと身を投げ出す事で躱した白上さんは、そのまま僕が作った結界の足場を足掛かりに空中で宙返り

その勢いのまま襲撃をかけてきた冥獣ケガレの後ろを取ると、そのまま切り捨てた

 

「ふぅ、今夜はこれで終わりですね…って痛!」

「白上さん!?」

 

最後の冥獣ケガレを切り捨て、やれやれと刀を納める白上さんだったが、急にその体勢が崩れる

だから僕が慌てて白上さんのところへと駆け寄ると、彼女は痛そうに右足を擦っていた

 

「あはは…ちょっと挫いちゃったかも

でもまぁこれくらい平気平…」

「すいません白上さん、失礼します」

「ふえっ!?か、海斗くん!?」

 

突然足を取られて動揺する白上さん

だが僕はあえてそれを無視して白上さんの靴を脱がせる

すると案の定そこは腫れ上っていた

 

「少しじっとしていて下さいね…」

 

それを見た僕は、こういう時の為に用意しておいた包帯を取り出すと足に巻き付け始める

そして患部をしっかりと固定できた事を確認するとようやく安心して立ち上がる

 

「はい、これでおしまいです

しばらく動かさないで下さいね?

後はみこさんに連絡をして迎えに来てもらって…ってどうしたんですか?」

 

目を丸くしている白上さんに僕は問いかける

 

「え、えっと…手際が良いんですね?」

「まぁ、一応元サッカー部ですからね

このくらいは余裕ですよ」

 

そう言いながら僕はみこさんに電話をかける

一応ちゃんと応急処置はしたけど、こういう時にはやっぱり誰かに迎えに来てもらうのが一番だろう

 

別に大神さんでも良かったのだが、そもそも彼女は携帯を持ってないし、そうでなくとも、みこさんから事情を聞けば多分一緒に来てくれるだろう

 

「…はい、はい

それじゃあお願いしますね」

 

電話を切って白上さんに向き直る

 

「少ししたら迎えに来てくれるそうです」

「い、いやいや!

このくらいの怪我で二人に迎えに来てもらうなんて…」

「たかが捻挫だと侮っていると、歩けなくなりますよ?」

「で、でも白上は神様ですし、神通力でちょちょいのちょいで…」

「それでもです」

 

まだ駄々をこねそうだったので少しだけ口調を強める

 

「怪我をしたら休む、誰かに助けてもらう

当たり前の事だと思いませんか?」

「で、でも…」

「それにもう呼んじゃったんです

良い休憩だと思って少し休んだらどうですか?

…ただでさえ最近特に働き詰めなんですから」

「!?どうしてそれを…!」

 

思わずぎょっとしたような目でこちらを見つめる白上さん

 

だが

 

「…ようやく尻尾を出しましたね?」

「~っ!

か、鎌をかけましたね!?」

「さて、何の事やら?

まぁ、いずれにせよ今の僕らにできる事は待つことだけですよ、白上さん」

 

そう言うと、僕もまた近くの適当な場所に腰を下ろす

そうすると観念したのか、しばらくすると白上さんも静かになる

 

田舎の良いところは星が綺麗な所だ

都会と違って高い建物がないから空が広い

おまけに空気も澄んでいるから見える星の数も多い

だから今日の夜空もまた格別だ

宝石箱をひっくり返したようなとは安い表現だけど、そんな比喩を使いたくなるのも分かるような気がする

 

そんな事を考えながらぼんやりと星空を見ている時だった

 

それまで黙っていた白上さんがポツリと話しだした

 

「…海斗くんは、すごいですね」

「へ?」

 

脈絡のない褒め言葉に思わず唖然とする

だけど白上さんの言葉は止まらなくて

 

「何にも分からないままこんな世界に放り込まれて

それでもめげずに頑張って…

今ではもう白上達と一緒に冥獣ケガレ狩りについていけるようになってる…これは凄いことです」

 

そんな真っ正面からの褒め言葉に流石に僕も少し照れる

だけど

 

「…良い人達に恵まれたからですよ…」

 

そう返す

そしてそれがすべてだと僕は思う

 

なぜなら僕が自分の力を適切に使えるようになったのは大神さんやみこさん、白上さんのお陰だし、何より壊れかけていた僕の心を救ってくれたのは他ならぬ白上さんだ

 

だからこそ僕は皆に感謝しているし、みんなのお陰で今があると思っている

 

本当に良い人達との縁に恵まれていると僕は思っている

 

だけど、白上さんから見るとそうではないようで...

 

「…いいえ、そんな事はありません

海斗くんは立派です」

「…白上さん?」

 

何だか様子がおかしい

そんな勘に突き動かされて白上さんの顔へと目をやると、その表情は普段の明るい顔とは違って、どこか重く沈痛なものになっていて…

 

「さっきの応急処置だって適切なものでしたし、その後の対応もそうです」

「いや、あのくらい…」

「…そもそも親御さんを若くして亡くして、それでも頑張ってるところからして凄い事です

立派だと思います

…えぇ、本当に」

 

 

 

ーー白上と違って

 

 

 

その言葉に流石に言い返そうと僕は咄嗟に腰を上げかける

しかし、改めて白上さんの顔を見た瞬間に僕は動けなくなる

何故なら…

 

「…本当に、どうして先代様は私を後継者にしたんでしょうか?」

 

そう呟きながらどこかを見つめる目があまりにも悲しそうで…

 

「私なんかに務まるはずがないのに…

私みたいなただの狐なんかに、そんな大役できっこないのに...」

 

そう言ってまるで自分を抱き締めるように体を縮めるその姿が、あまりにも痛々しくて...

 

そして何より

 

「私よりも、きっとミオの方がずっと立派な神様なのに...」

 

そう言って泣き出しそうになっているその小さな神様の姿が、まるで自分がよく知っている何かに似ているような気がしたからで…

 

 

 

(「…それでも、うちはフブキがこの白上神社の祭神に一番ふさわしいと思ってる」)

 

 

 

その時脳裏をよぎったのはつい先日の記憶

白上神社で聞いた大神さんの言葉だった

 

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

 

「…実はね最初から神として生まれたうちと違って、元々フブキはただの狐なんだ」

「え?」

 

予想外の話の流れに思わず声が出るが、大神さんはそれに構わず続ける

 

「あの戦いの後…80年前の最後の戦いの後で母さん…先代白上神社の祭神様が拾ってきた狐の子供

それが今の白上フブキなんだよ」

 

そう語ると大神さんは少しだけ懐かしそうに目を細める

 

「先代様曰く、両親を失って一人でさ迷っていた所を拾ったって話らしいんだけど…

当時のうちは妹ができた事がただただ嬉しくてね

最初の頃、フブキがまだ化身の術を覚えていない頃から可愛がってたっけ」

 

いや~、あれは今思えばやりすぎだったかな?

 

と大神さんは苦笑する

だけどその表情はとても楽しそうで

 

「その内フブキも今の姿になれるようになって、嬉しい事にフブキもうちを慕ってくれるようになって…

…思えばあの頃は幸せだったな

大好きな母さんがいて、フブキがいて…

うちはそれだけで幸せだった」

 

でもね

 

「だからこそ、うちはフブキに白上神社の祭神の座を譲ったんだ」

 

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

 

「…僕は、白上さんが白上神社の神様で良かったと思いますよ?」

 

僕はゆっくりと白上さんの隣に腰を下ろす

 

「誤解しないで欲しいんですが、別に大神さんがそれに相応しくないなんて話じゃないですよ?」

 

それでも、僕は白上さんが白上神社の神様に相応しくない神様だなんて思わない

 

「だって白上さんはいつも誰かの為に頑張ってるじゃないですか」

 

そう僕が告げると、白上さんはうつむいたまま否定の言葉を反そうとする

だが...

 

「そんな…こと…」

「じゃあなんで冥獣ケガレ狩りなんてしてるんですか?」

「それは…白上神社の祭神の義務で...」

「それなら定期的にパトロールをしているのはなぜですか?

冥獣ケガレ狩りが義務でも、それなら出た後に倒せば良いだけですよね?

わざわざ時間と手間をかけて早期発見を心掛ける必要はないですよね?」

 

僕の言葉に白上さんが気まずげに目線をそらす

 

「それは…」

「ついでに言うならそのパトロール、別に冥獣ケガレ狩りの為だけにしてる訳でもないですよね?

森の動物達の悩み事を聞いたり、そこら辺に落ちてるゴミを拾ったり、重い荷物を背負ったおばあさんの荷物をこっそり持ってあげたり…」

「!ど、どうしてそのことを!?」

 

驚く白上さん

そんな彼女に「大神さんとみこさんから聞きました」と補足した上で、僕は改めて尋ねる

 

「それでどうなんです?

最初のはともかく、誰からも見えないから誰からも感謝もされないのに、なんでそんな事をしてるんですか?」

「…」

 

黙り込む白上さん

だが、そんな彼女の様子を敢えて無視して僕は続ける

 

「それに、少なくとも僕は救われましたよ」

「…」

「父さんも母さんも死んで目の前が真っ暗になったような気がして…

あの時一緒に死ねていればなんて何回思ったか分かりません」

 

だけど同時に、二人を犠牲に生き残った僕は、二人の分まで生きなきゃいけない

いや、むしろ二人を殺した僕はこれから先何があっても幸せになっちゃいけない

苦しんで苦しんで、そして最悪の死に方をしなければいけない

 

「それが大切な人の命を踏みにじって生きている罪人の義務だとそう思ってて…」

「…ーーそんなこと絶対ない!!」

 

気が付くと、目にいっぱいの涙を貯めた白上さんがこちらを睨みつけていた

そしてその目には、それ以上言ったら許さないと言わんばかりの怒りと悲しみが込められていたから…

 

「海斗くんは幸せになって良い!

ならなきゃいけない!!

だって…だってそうじゃないと白上は…白上は…!!」

 

そう言ってまた泣き出しそうになる白上さんに、僕は微笑んだ

 

「…ほら、あなたは誰かを思いやれる優しい人だ」

「…っ!」

「これでもあなたは、自分が白上神社の祭神に相応しくないって言えますか?

みんなの為に頑張ってくれる優しい神様は、神様として不合格だと思いますか?」

 

その時僕の脳裏に浮かんでいたのは、あの時の大神さんの言葉の続きだった

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「…最初から神として生まれたうちにとって、祭神としての力を受け継ぐ事は決定事項であり、その力で民を守る事は存在意義の証明でしかないんだ」

 

そう言ってまるで自嘲するかのように笑う大神さんの笑顔は、どこか寂しげに見える

だけど

 

「極論機械と変わらない

予めそういう風に願われ、そういう風に生まれたからそうする

機械と同じように、そうあるべきとされた事をする、その為だけの存在でしかない

神様の感性っていうのはね、実はとんでもなく冷淡でタンパクな物なんだよ?」

 

でも、フブキは違う

そう言った時の大神さんはどこか嬉しそうで

その笑顔は、彼女自身が言うような冷淡でタンパクなものでは決してない

 

むしろ…

 

「あの子はいつだって一生懸命で、いつだって誰かの心に寄り添おうとしてた

心の底からこの磐ノ斗の地のみんなの幸せを願い、そしてそれを叶えようといつも必死に努力してた

本当に優しくて、がんばり屋な子なんだ」

 

だからうちは白上神社の祭神の座をフブキに譲ったんだ

 

そう言って笑う大神さんの言葉にはだけど、心の底からの白上さんへの愛情と、そんな彼女に対する誇らしさが溢れている

そしてそんな話をする大神さん自身の笑顔も、とても温かく、そして優しいものだったから

 

「フブキはもしかしたらその事に引け目を感じているかもしれない

生まれながらの神であるうちを差し置いて祭神になってしまった事に罪悪感を感じてるかもしれない

それでも、うちはフブキがこの白上神社の祭神に一番ふさわしいと思ってる

だってあんなにも誰かの幸福を真摯に願える子なんだから

そんな子が神様に向いてないわけがないよ」

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「ーーだから自信を持ってください、白上さん

あなたはあなたで良いんです」

 

そう僕は言葉を締める

すると、呆けていた白上さんは少しして笑い始めた

 

「ふ、ふふふ

あははははっ!」

「…僕の言った事、何かおかしかったですか?」

 

流石に心外だったのでそう聞いてみると、ごめんごめん、別に君の事を笑ってるわけじゃないんだと慌てて白上さんは弁明する

 

「ただ、この間とは立場が逆だなって思うとなんかおかしくなっちゃって!」

「…まぁ、確かに考えてみればそうですね」

「あの日あんなに泣きじゃくってた男の子が、たった数週間程度で言うようになったと考えると、感慨深いですねぇ~」

「なっ!?

人の厚意をあなたは…ーー!」

 

そう言い募ろうとした瞬間に、僕の口先に白上さんの人差し指が添えられる

思わず白上さんの顔を見ると、そこには侮蔑や嘲笑の類いなんてものは一切浮かんでいなくて

 

(大丈夫、わかってます)

 

白上さんの穏やかな表情は、まるでそう言っているように僕には思えた

 

その時だった

 

「フブさ~ん!」

「大丈夫、フブキ!?」

 

遠くから聞こえた声に反応してそちらを向くと、そこには白上さんを迎えに来てくれた二人がこちらへ向かって駆けてくる

それを見て僕らは顔を見合わせる

 

「…迎えが来ちゃいましたね」

「…そうみたいですね」

 

だけどそれが互いに何故か無性に面白くて、今度は僕も笑えてきて

 

「大丈夫~!?

…大丈夫みたいだにぇ」

「まったく急に呼ばれたから何事かと思えば...」

 

そしてそんな二人で意味もなく笑い合う僕らを見て、迎えに来てくれたみこさんと大神さんは呆れ返る

やれやれと首を振る二人だったが、白上さんが怪我をしているのは事実なので、適当なところで大神さんが白上さんに肩を貸し立ち上がり、みこさんが呼んだタクシーへと運ぶ

 

その直前だった

 

「…ありがとう」

 

そう言ってこっそり振り返った白上さんは、僕にふわりと微笑む

だから僕も彼女にだけ聞こえるように小さな声で応じる

 

「…どういたしまして」

「ん?海斗くん何か言った?」

「何でもありません

それより白上さん達普通の人には見えませんよね?タクシー乗れるんですか?」

 

そんな事を話しながら、僕はさりげなく大神さんから話題をすり替える

 

そして大神さんに肩を貸してもらっている白上さんも、特に何も言わずに黙って大神さんに肩を貸してもらうがままだ

 

世は並べて事もなし

 

空に輝く月だけが、そんな僕らを静かに見つめているのだった

 

 

 




作中であんなこと言ってますが、大神さんの性格に関しては現実のものと大差ないです

と言うのも、確かに神としての在り方に変化はないのですが、なんだかんだ言って白上さんとずっと一緒にいるので、そんな彼女との暮らしの中で感性に関してはかなり影響を受けているからです

生まれながらの神としてどうしても変えられない、変わらない部分はあっても、それはそれとして自分で思っている以上に人間らしい性格になっているというのがここでの大神さんです
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