白上縁起恋灯絵巻【完結】   作:DX鶏がらスープ

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書きながら思ったんですが、最後にホタル見たのっていつだったか・・・

ちゃんと住んでる場所を調べて自分で見に行かなきゃ、最近は中々見れないですよね


蛍火の庭

 

「それでは結果を発表するにぇ!」

 

紅に染まる白上神社の境内

 

文字通り神のおわしめす聖域と言えど、8月の真昼の熱気がいまだ残る夕方の境内

そこでさっきまで最終試験と称した大神さん、みこさん、白上さんとの練習試合をしていた僕に向けて、みこさんが高らかにその結果発表を宣言する

 

(どうだろうか?)

 

いまだに滴る汗を拭いながら、僕はその言葉の先を待つ

 

(出来る事は全部したはずだ)

 

それこそ体力作りから退魔の勉強から、実践も含めた戦闘訓練まで

ここまで僕が出来る事は全部した

だからこそ、後は天運に任せるしかないのだが…果たして?

 

静かに結果を待つ僕

そんな僕に、それまで努めて険しい顔を心がけていたのであろうみこさんが笑いかける

そして、それと共に僕は今日までの成果が報われた事を知る

 

 

 

「試験の結果は…合格!

今ここに海斗の修行の終了を宣言するにぇ!!」

 

 

 

 

 

「おめでとう!海斗くん!!」

「やったね、海斗くん」

「ありがとうございます、白上さん、大神さん」

 

みこさんの修行の終了宣言と共に、こちらに抱きつかんばかりの勢いで駆けてきた白上さんと、普通にお祝いの言葉をかけてくれた大神さん

その両者にそれぞれお礼の言葉を述べる

 

そしてそれは当然僕の修行のほとんどを監督してくれていたみこさんに対しても同じだ

 

「みこさんも、今までありがとうございました」

「気にすんな

後輩の面倒を見んのもえりーと巫女の務め…

達者でな」

「はい」

 

 

「…いや、別に海斗くんどっか行ったりしないからね?

普通にこれからもこの磐ノ斗村に住むからね?」

「わ、わかってるよ!」

 

恥ずかしそうなみこさんに、僕らが笑う一幕はありつつも、その後も白上さん達は無事に修行を終えた僕の事を褒めてくれる

すると、自然とその話題は僕の修行の内容…これまで潜り抜けてきたそれらへと話題がシフトしていく

 

「いやぁ...それにしても本当によく頑張ったねぇ、海斗くん」

「そうですね、我ながら本当によく生きて帰れましたね…」

 

思い出すのは段々と難易度の上がっていく修行内容とそれを駆け抜けた日々

当時はとにかく必死だったから考えもしなかったけれど、今にして思えば、後半になればなる程修行とは名ばかりの試練のようになっていたような気が…

 

「…確か、熊と一日鬼ごっことかあったよね?」

「…白上は亀◯人チャレンジとか言って、大岩担いで泳がされてたの覚えてますよ?」

 

そう言って大神さんと白上さんはじとっとした目をみこさんに向ける

 

流石にやりすぎじゃない?

 

そんな視線を受けたみこさんは、しかし逆に憤慨する

 

「いやなに他人事みてぇな顔してんだよおめぇら!

途中からおめぇらもノリノリだったじゃねえか!!」

「…大神さん?白上さん?」

 

僕は二人の方を見る

だがしかし、不思議な事にまったく目が合わない

それどころかベタベタな事に下手な口笛まで吹き始める始末で…

 

「イヤイヤソンナコトアリマセンヨ~?」

「アハハ,ミコサンハジョウダンガウマイナ~」

「お、おめぇらっ…!」

「ま、まぁまぁ…」

 

二人のあんまりと言えばあんまりな態度に、額に青筋を浮かべるみこさん

それをなんとかなだめる僕だったが、その最中に当のみこさんが「あ、そうだ」、と何かを思い出したような事を言い出したので中断する

 

そしてみこさんは僕に問いかける

 

「そう言えば海斗、今日は家に早く帰らなきゃいけない用事とかある?」

「?いえ、特には」

「それじゃあ今日はみんなで打ち上げしない?

海斗の修行が終わった記念に!」

 

そのみこさんの発言に大神さんが名案だとばかりに頷く

 

「おぉ、良いねぇ!でもそれなら買い出しに行かないと…」

 

だがそんな彼女に「その必要はない!」と高らかに叫んだみこさんは、得意気に話し始めた

 

「朝の時点で食材はもう調達して詰所の冷蔵庫に入れてあるんだ!

だから後は、倉庫にしまってあるグリルを出して、皿とかコップとかを用意するだけだよ!!」

 

今晩はBBQだにぇ!!と自信満々に宣言するみこさん

しかし、そんな彼女の言葉に僕らは戦慄した

 

「ば、馬鹿な!

みこちがそんなに準備が良い訳がない!!

ーーフブキ!!」

「えぇ、ミオ!!

きっと偽物に違いありません!!

正体を現しなさい!!」

「おめぇら本当ぶっ◯すぞ!マジで!!」

 

そして再度みこさんの逆鱗に触れた二人

しかし肉を前にした時の人間の団結力とは偉大なもので、僕の必死の仲裁もあり、すぐに和解した彼女達は、テキパキとBBQの準備を進める

そして、落ちかけていた日がすっかり沈んでしまった頃の事だった

 

「ふぅ...」

 

手に持っていた荷物をその場に置き、これでひとまずは終わりかなと周囲を見渡しながら僕は汗をぬぐう

そんな僕の視界の端では、大神さんが神社の詰所から食材を運び出しており、更に別の場所ではみこさんがグリルの火加減を調整している

 

準備は概ね順調だ

途中みこさんの服の端に火が付くなどのちょっとしたハプニングはあったが、幸いいずれも大事には至らなかったし、ここまで準備が進めばよほどのことが起きなければ後もう少しもすればBBQは始められるだろう

 

だから、休憩がてら大神さん達の作業をぼんやりと見ていると、後ろから「海斗くん」と声をかけられる

 

振り替えると、そこにいるのは白上さん

だけど、その様子はどこか落ち着かない

そんな彼女の様子に内心首をかしげながら、どうかしましたか?と聞くと、白上さんは少しの間言いよどんだ後にこういった

 

「ちょっと付いてきて欲しいところがあるんですが…一緒に来てくれませんか?」

 

その言葉に僕は思わず大神さん達の方を見てから聞く

 

「今ですか?

でも、もうすぐ準備が整いますよ?」

「そんなに遠い場所じゃないので大丈夫ですよ

お願いします、この通り!」

 

そう言って手を合わせる白上さん

そんな彼女の言葉に僕は少し考えて頷いた

 

「…分かりました

ちょっとだけですよ?」

「やった!

そうと決まれば早く行きましょう!

大丈夫です、本当に近くですから!!」

 

そうして僕は白上さんについていく形で白上神社を抜け出した訳だが…彼女が僕を連れて行きたかった場所というのは確かに彼女の言う通りすぐに分かった

 

白上神社のすぐ近くを流れる小川のほとり

そこから少しだけ上流へと登ったところに、ひっそりとその川へと合流する小さな支流がある

そしてその支流を遡って、とある林を抜けた先にそれはあった

 

 

 

「わぁ…」

 

 

 

目の前の光景に、思わず声が出る

 

忘れ去られた小さな用水路

そこに咲き誇る無数のミズアオイに、飛び交う蛍の群れ

 

穏やかに流れる川のせせらぎをBGMに、小さな虫達の一夜限りのオーケストラが催されている中、静かに咲き誇る紫の花の絨毯

それは都会ではお目にかかれない絶景であり、またそこから天へと昇っていく無数の淡い蛍の光は、どこかこの世のものとは思えないような幻想的な雰囲気に満ちている

 

それはまるで光の海、あるいは地上に写した星空の合わせ鏡

今この瞬間だけは、目の前に広がる景色から地平線という境界が取り払われているという錯覚を覚える程の光景

 

そんな正しく絶景と言えるそれを見た僕は、思わず息を呑む

 

(これは…すごいな…)

 

あまりの光景に閉口する僕に、そんな僕の反応を隣で見ていた白上さんが嬉しそうに微笑んだ

 

「どうですか?気に入ってくれましたか?」

「白上さん、これは…」

「ふふ、私の秘密の場所なんです」

 

どうやら連れて来て正解だったみたいですね、と微笑んだ白上さんはそのまま歩き出す

それに僕が慌てて着いていく最中でも、蛍は静かに漂い続ける

そしてその最中、気が付くと右手の先に一匹の蛍を止まらせていた白上さんは、それを見ながら話し始めた

 

「ここに連れてきたのは、きみが修行を完遂したことに対するちょっとしたご褒美と…

実はお礼が言いたかったからなんですよ」

「お礼?」

「はい、先日のお礼です」

 

白上さんはそう言うと僕の方を見る

そして、海斗くんは私の生い立ち知ってますよね?と問いかけてくる

 

「えっと…それは…」

「大丈夫ですよ、別に気にしてませんから

それにいつかは言わなきゃいけない話ですからね」

 

僕から目線を外し、再び前を向いた白上さんは続ける

 

「…海斗くん、あの時きみは私が誰かの為に頑張れる神様だって、そう言ってくれましたよね」

 

でもそれは本当は違うんです

 

「本当はただ、寂しかっただけなんです…」

 

そうポツリと溢した白上さんはそのまま自分の過去について語り出した

 

曰くあの日…先代白上神社の祭神に拾われた日から、自分は怖くて怖くて仕方がなかったのだと

また一人になってしまうことが怖くて仕方がなかったのだと

 

だからこそ必死に努力したのだと

先代様とミオに恩を感じている事は嘘ではない

それでも…絶対にあり得ないと頭では分かっていても、それでも役に立たないと見捨てられる事が…

また一人ぼっちになることがどうしても怖くて仕方がなくて…

 

だから走り続けるしかなかったのだと

繰り返すが二人への感謝と恩は嘘ではない

嘘ではないが…それでも捨てられたくない、一人ぼっちに戻りたくないという思いで必死だったのだと

 

そこまで語った白上さんは少しだけバツが悪そうに笑う

 

「…だからミオではなく自分が白上神社の祭神に選ばれてしまった時、正直私はどうすれば良いのか分からず途方にくれたんです」

「…」

「それでもまだ、あの頃は私は神でいられました

あの頃はまだ、この磐ノ斗の地にもまだ人がたくさんいて、私やミオの事が見える人も少しとはいえちゃんといて…

幸せでした」

 

こんな自分にもちゃんとできる事があるんだって

大好きなこの磐ノ斗の地と、そこに住むみんなの事を守れるのなら、それに勝る喜びはないと思っていました

 

そう語る白上さんの表情は、どこかここではない遠くを見ているようで…

その瞳に浮かぶ何かを懐かしむような光はしかし、続く彼女自身の「でも、それも一時の事でした」という言葉と共に、瞬く間にどこか寂しげなものに変わった

 

「これまでこの磐ノ斗に人が住んでいたのは冥界の扉マガツトボソから湧き出る冥獣ケガレの進行を食い止める為、ひいては冥界の扉マガツトボソ自体を封印し、この世界を守るためです

そして80年前、それが成された以上、この地に人が残る理由は永遠に失われました」

 

そう語る白上さん

そして、そんな彼女の語るその後の磐ノ斗の変化は寂しいものだった

 

曰く、時を経るごとに磐ノ斗の地からかつての活気が消えていく

人々の数が少しずつ減っていく

 

その理由は様々だ

冥界の扉マガツトボソ封印が成された事で、それまで各地から定期的に訪れていた霊能力者達の足が磐ノ斗から遠退き、村の産業が打撃を受けた事や、戦後復興の中で発展していく都会に憧れてこの地を去る若者が出てきた事

それに伴い少子高齢化が進んだ事や、辺境である事とその特殊な事情故に、周辺地域の発展から置いていかれた事

色々と理由はあるが、いずれにせよ事実として磐ノ斗の地は徐々に疲弊していく

 

そしてそれを白上さん達は指をくわえて見ている事しかできない

それどころか、人口の減少と共に白上さん達の事が見える人達も減り、次第に存在そのものすら忘れられていく有り様

 

そんな状況が、白上さんにはあまりにも辛くて、悲しくて…

 

「何もできず、ただ忘れ去られるだけだというのなら、白上達に…神様という存在に一体何の意味があるんでしょうか?

…そう思わなかったと言えば、嘘になります」

 

そう語りながら白上さんが右手を空に掲げると、そこに止まっていた蛍がゆっくりと飛び立った

ぼんやりと淡い光を放ちながらどこかへと飛んで行く小さな蛍

それを静かに見送る白上さんの背中は、何故かいつもより小さく見えて

 

だけど

 

「ーーそんな時に出会ったのが、海斗くんだったんです」

 

そう白上さんは続けた

 

「あの日…

海斗くんの命を助けた日

久しぶりに…本当に久しぶりに私達の事が見える人と出会えた事が、私にとっては本当に…本当に嬉しくって…」

 

だから事あるごとに構いに行った

 

誰かと触れ合える事が嬉しくて

誰かと一緒にいられる事が楽しくて

何より誰かの為に力を振るうことができる事が誇らしくて

 

こんな自分でもちゃんと神様でいられるような気がして…

 

「でも、実は最初の頃は自己嫌悪でいっぱいだったんです、白上

結局、私はただ誰かと一緒にいたかった寂しがり屋なだけだったんじないかって

海斗くんを自分の寂しさを埋める為に利用している最低の神様なんじゃないかって」

 

そんな自分が白上神社の祭神を名乗っても良いのか

やはり自分は白上神社の祭神には相応しくない存在ではないのか

 

そんな想いから、少しでも白上神社の祭神として相応しい行いをしようと頑張って、空回って、しまいには海斗くんにも迷惑をかけてしまった

 

自分はなんて情けない神様なんだろう

こんな有り様じゃあ、先代様にもミオにも顔向けできない

そんな事を考えていたのだという白上さん

 

だけど

 

「だからこそ、あの時海斗くんが言ってくれた事が…

あなたはあなたで良いんです、って言ってくれたのが本当に…本当に嬉しくて…」

 

救われた気がしたんです

少しだけ、自分の事を認めてあげられた気がしたんです

 

そう言って足を止めてこちらを振り返る白上さん

舞い踊る蛍の光に照らされたこの場所はどこか幻想的な美しさに包まれていて…

 

だけど…どうしてだろう

 

「だから…ありがとう海斗くん

この村に来てくれて

白上と仲良くしてくれて」

 

そう言って笑う白上さんの笑顔から目が離せない

いや、そもそもだ

 

「きみは私の大切な友達だよ!!」

 

そう言ってこちらに手を伸ばす白上さん

そんな彼女は…こんなにも美しい人だっただろうか?

 

気が付けば僕らは用水路の真ん中にいた

聞こえるのは川のせせらぎと虫の声だけ

静寂な夜の闇を照らすのは、空に輝く無数の星達と、宙を舞う無数の蛍火だけ

 

いまだ蒸し暑い夏の熱気が残る夜

目の前で微笑む白上さんの笑顔は本当に綺麗で

 

地上に浮かぶ蛍火の天の川

その真ん中で佇むその姿はまるで絵本から切り取ってきたかのように美しくて

 

「…僕も」

 

だから、僕も伝えたいと思って

 

「白上さんの事…」

 

あの日からずっと心の中にあった事を、僕も伝えたいと思って…

 

 

 

 

 

――その瞬間、化物の咆哮が夏の夜を引き裂いた

 

 

 

 

 

 

 





次回、激闘
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