部屋には埃っぽい臭いと、汗と吐息の匂いが嗅ぎ取れた。
目視できるまでに近づくと先客は、女子二人組のようだ。
「どうも、こんにちは!」
出口ではなかった悲しさと人に出会えた嬉しさで感情がぐちゃぐちゃになったが、とりあえず挨拶はできた。
会話をしていた二人は驚いたように跳ねてこちらと目が合った。
ルウ
♀ 僧侶LV3
ライラー
♀ 海賊LV2
!?
詠唱省略の鑑定結果に驚いて固まる俺を、二人はじっと見ている。
よく見ると二人とも頭に猫のような耳が付いている獣人、猫人族だ。
同じ灰色の髪の毛にそれぞれ白耳と黒耳の別の色の耳が生えているが同じ顔の双子の少女達。
海賊=盗賊であり、彼女たちを殺せば英雄の条件を満たせる。
この世界、俺に試練を与えすぎではない?
初期スポーンがダンジョン内でも盗賊と出会えて英雄を取得できるようにはしました。
その代わり、猫耳美少女達を殺してください。
汚いオッサンなら迷わず殺せたかは不明だが、
「……」
黒耳の少女、ライラーが警戒心全開でこちらを凝視している。
その細い体で隠すように武器に手を当てていた。
激情のシミター
攻撃力2倍/HP吸収
!??
その武器強すぎぃ!
鑑定スキルが無いとスキルスロットの空きが分からないせいで、この世界のスキル付与の成功率は低い。複数スキルが付いた武器は滅多に存在しない。
コボルトのカードで強化したスキルが2個も付いた武器はあまりにも場違い過ぎる。
白耳の少女、ルウが困ったような表情でこちらに話しかける。
「こ、こんにちは」
同じように警戒しているが、彼女は武器を持っていない。
その視線は俺の持つ三日月槍の方をチラチラ見ている。
お互い防具こそ着ていないが、強力な武器を持っている謎の緊迫した状況。
俺も十分場違いな気もするが、俺は悪くない獣人だよ!海賊も未だ持っていないし!
馬鹿なことを考えながらどうするべきか考えているとライラーが折れて視線を背ける。
「……こんちわ」
「い、妹はブラヒム語が得意ではありませんので」
挨拶が無くて圧を掛けていたわけでは無くて……、この状況だとそう思えても仕方ないかぁ。
どうやらシミターよりも俺の持っている三日月斧が強そうと判断されたらしい。
顔は可愛いので全て許そう!
だけど、この
「私達はボスには挑戦しないので、お先にどうぞ」
これ以上会話するつもりはないとルウの言葉には拒絶と少しの怯えが感じ取れた。
「悪いな」
そう言って悩みながらボス部屋の扉へと足を進める。
一歩一歩が酷く長く感じるが、答えが決まらない。
おそらく三日月槍があればレベルの低い彼女たちは一撃で倒せるだろう。
怖いのは、もしシミターが当たれば死にはしないかもしれないが大怪我を負ってしまう。
ダメージはHP回復で何とかできるが、欠損を治すには薬が必要だったはず。
「……」
ボス部屋の目の前まで来て、三日月槍を握る手を強くする。
もしかしたら原作でもあった盗賊の待ち伏せのパターンも考える。
1階層ならソロ冒険者も多いだろうから戦闘力が低そうな女子を配置して、後ろから強武器でグサッ!かもしれない。
それならば殺す罪悪感が薄れる。
むしろ襲い掛かってきてくれ、と願いながらボス部屋の扉が開くのを待った。
ハントアント LV1
駄目だったよ。
だってさ、獣人ハーレムを作りに異世界に来たのに彼女達を殺してしまったら今後ずっと後悔してしまうだろう。
霧から生まれたボス、バイク並に大きい蟻は触覚だけが動いているが微動だにしない。
「……」
ニートアントとは違うはずだが、そうか! 銀猫の首輪の「気配遮断」スキルでまだ見つかっていない判定なのだ。
じりじりと警戒しながらハントアントの側面、首が狙える位置まで移動すると、三日月槍を全力で振り下ろした。
「グッバイ、英雄ぅ!」
一撃で倒せれば格好良かったが、ボスは15発以上必要だった。
原作主人公が村人、探索者、英雄、戦士の補正があって更にラッシュの攻撃スキルを使って数発で倒せるHPがある筈なので、村人LV1の通常攻撃ではそれくらいかかるのは考えれば妥当だったかもしれない。
獣人となった身体はアクセの効果もあって、一撃も攻撃を受けることなくひたすら攻撃できた。
ボスが消滅するのを眺めながら、初めての戦闘勝利に謎の満足感はあった。
「せめて探索者に変えれば良かったな」
今更ながらステータス再設定で、複数ジョブを選択してジョブを選ぼうとするが当然英雄は無い。
探索者 LV1
体力小上昇
スキル:アイテムボックス操作、パーティー編成、ダンジョンウォーク
しかし、探索者の他に見たことが無いジョブが表示されていた。
ジョブ:村人LV2、探索者LV1、