商人女が手押しポンプを操作すると、水が出てくる。
「おー!」
「さすが、リーベですね!」
「魔法、です!」
井戸から水を汲む世界で、これを見たら素直に感動すると思う。
原作の知識で、水は井戸か魔法の2択しか無いと思っていた。
上下水道が整備されたリーベの技術力だから可能なのかもしれない。
蛇口を捻ると水が出てくる、そんな当たり前に懐かしさすら感じてしまった。
「その手押しポンプは一般的なのか?」
「リーベでは数は少ないですが普及しておりますね。修理も可能ですのでご心配ありません」
もうこの手押しポンプだけでも、この場所に決めたい気持ちが高まっている。
適当な大きさの桶を買って設置すれば下水もあるので風呂場が完成するだろう。
これ、風呂入れるのが超楽だよね?
原作と数多の2次創作の主人公たちが水魔法と火魔法で苦労して風呂を入れていたのが火魔法だけでいい。
「ここから庭に出れます」
洗濯場なので、直ぐに外に出られるように勝手口があった。
「ここも広いな」
「はい、区画のミスで建物を建てられずに空き地となった土地で、商家の主が菜園を作るために一緒に購入した場所になります」
公園は言い過ぎだが、開けた資材置き場くらいのサイズがある庭が付いている。
四方を建物で囲まれており、日当たりもそこまで良くないが畑くらいなら十分作れそうである。
庭に立ってみると廃墟から視線を感じたので、見ると子供?達がこちらの様子を窺っていた。
「隣の建物は孤児院となっています。昼間は多少、騒がしくなりますのでこれもお安くなる要因でもあります」
隣が保育園だと騒音問題とか元の世界でもよく聞いたなぁ。
子供は元気なのが仕事だと思うが、仕事で疲れた現代人からすると苦情も言いたくなるか。
「昼間はダンジョンに行くので問題ないか」
むしろ夜はこちらが運動会でお騒がせする予定なのでお互い様だろう。
「商家の主が子供がお好きでしたので……、ご存命であれば孤児院も建て直していたかもしれませんね」
商人女が懐かしむように小声で呟いたが獣人の耳には普通に聞こえる。
善人は長生きできないと言われるが、惜しまれるくらいに立派な人物だったようだ。
2階を案内されるが、倉庫部屋には何もなく、客室として使われる予定だった部屋にはベッドが一つ残っているだけだった。
居住スペースがある3階には、大き目な寝室にベッドだけがあり、他にも書斎や子供部屋に使う予定だったであろう部屋が残っている。
「売却予定がある物件ですので、壁を崩すような大きな改修はできません。絨毯を貼るのは大丈夫ですが、釘を打つのは極力止めていただけると助かります」
姉妹の二人に確認すると問題ないそうで、この建物で決めることにする。
「ありがとうございます。家賃は1年で4万ナール、上下水道代として同じく1万ナール。こちらとしても住んでいただけると助かりますのでお安くして3万5千ナールとなります」
上下水道代で勝手に3割引きスキルが発動したのでかなり安くなった。
「書類や手続きは明日には準備しておきますので、また当店にお越しください」
リーベ
不動産屋
翌日、インテリジェンスカードのチェックも終わり、ルウに代筆して貰いながら手続きが完了した。
金貨と銀貨で支払って建物の鍵を受け取ると拠点ができた実感が湧いてくる。
不動産屋に紹介してもらった家具屋で色々と購入した。
寝室のベッドはキングサイズまで替えたいと相談したところ、分解して運んで3階で組み立ててくれることになった。
それまであったベッドは子供部屋の方に移動させておけば使い道もあるだろう。
客室も含めてマットレスは新調し、台所にはパーティーメンバーの6人が一緒に座れるように机と椅子と購入。
家具は、箪笥や食器棚は購入して3人で荷物も少ないので今後必要な物を買えばいいだろう。
桶屋は入り口のサイズなどを確認してそこそこ大きな桶を購入したので、久々に風呂にも入れそうだ。
「さて、色々手配して3日後には完全に住めるようになるわけだがどうしようか」
「アンドリーに戻られてボス周回も可能ですが、家具の搬入のタイミングがありますよね」
家賃に家具代などで財布が軽くなったので資金調達が必要だろう。
アンドリー南のボス周回なら、正直ルウの見張りも必要ない気がするのだが、家で1人待機させるのも寂しいと思う。
「リーベの8階は現状では進めないからなぁ。アンドリー南の第6階層は?」
「アンドリー南の第6階層はミノです」
「うし、です」
俺はあのダンジョンが嫌いだ。ダンジョンも俺を嫌ってると思う。
「まぁ、3体でレベルの低いミノで練習してみるのも悪くないかもしれないな」
「はい、頑張ります!」
「おにく、です」
ライラーには残念だが、ミノもボスも皮しか落とさなかったと思うぞ。