異世界迷宮でプライドを   作:ブラック微糖

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036 衣食

 

 食材を買っている間にルウが台所の準備をしてくれていた。

 

「先に火を点けるか」

 

 ガスコンロのような便利なものはなく、マッチすらないのだからこの世界の住民はどうやって火を起こしているのだろうか?

 火打石とか?

 

 ファイアーボール!

 

 頭上に灯った火球に薪を入れると簡単に火が点いた。

 

「便利ですね」

「魔法、です」

 

 原作主人公もこうやって火を点けていたので……、あれこの火球はどうやって消す?

 

 水瓶に水を先に溜めておけば消火が可能だったが、これだから火遊びをするときはバケツを用意しろと。

 

 ウォーターボール!

 

 やはり発動中は上書き不可か。

 

 ターゲットを設定せずにどうしようかと茫然としていると、徐々に火球は小さくなって消えた。

 壁魔法と同じで時間で消える設定でセーフ!

 

 自宅が火事になりかけて魔物部屋の次に窮地の状況を乗り越えて料理に取り掛かる。

 

「ライラー、この固くなったパンをナイフで細かく削ってほしい」

 

「任せる、です」

 

 パン粉の作成をライラーに頼むと、彼女がパンにナイフを当てると削りだした。

 

 ナイフが触れた場所が粉になっていくのだが、まさか高振動で刃を当てるヤツを人力で!?

 

 手品を見ている気分になるが、ルウに卵を割ってかき混ぜるように指示して肉を取り出した。

 

 原作主人公も肉はとりあえず叩いとけって感じだったので、包丁の背で叩いておく。

 

 胡椒を買ったミルで砕いて両面で振りかけるが、これ振りかけるのは叩く前後どっちだったか。

 

 コボルトフラワーを混ぜた小麦粉を付けて、溶き卵にくぐらせて、パン粉を塗せる。

 

 フライパンに似た鍋で熱したオリーブオイルに投下すると、パチパチと香ばしい匂いが広がる。

 

「揚げ肉、です」

 

「トンカツだ」

 

 揚げパンを見ているのでそこまで斬新さは無いが、鮮やかな狐色に色づいた衣が美味しそうだ。

 

 包丁で切るとサクサクという音が心地よい。

 

 姉妹の尻尾が2本ゆらゆらとして、獲物を狙う目でじっとトンカツを見ている。

 

 キャベツのような野菜を千切りにして皿に並べてダンジョン産トンカツの完成である!

 

 机がまだ届いていないので、台所の床で食べることになるが3人で手を合わせる。

 

「いただきます」

「いただきます」

「いただきまする」

 

 美味いッ!!

 豚特有の臭みとか小麦粉の粉っぽさとかを感じずに純粋な旨味の暴力が口の中に広がった。

 ダンジョン産食材をただ焼いただけでも、現代食材に匹敵する美味さになるのだから調理法や調味料があまり発展しないのがよく分かる。

 

 ぁ、この見た目はキャベツの野菜、レタスの味がする……。

 

 トンカツソースも無く絶妙にコレジャナイ感があるが、姉妹は夢中で貪っている。

 

 何か久々に油物を食べた気がする。

 子供の頃はトンカツとかエビフライとか大好きだったが、年を取ると衣が油の塊にしか見えなくなる。

 

 出汁が作れたら卵とじにした方が食べやすいかな?

 昆布や醤油は原作でも入手方法は不明だったが、竜皮を煮るといい出汁が出るらしいので期待したい。

 

 当然、米も無いのでパンに挟んで食べてみると双子達も真似して食べて感動している。

 

 これで探索者のLVを30にすれば料理人のジョブを獲得できるはずである。

 

 現在の探索者はLV24。

 7階層のレベルキャップに引っかかっている様子で、これまでの傾向から2ずつ上限が上がると仮定して第10階層くらいまでお預けかな?

 

 問題は第8階層に挑めていないことだが、原作だと二人目(ドワーフ)を加えて三人パーティーで突破している筈なのだ。

 俺のパーティー構成は防御面に不安があるので無理はできないし、したくないのでせめてもう一手が欲しいな。

 

 何故か大量にある薄布が廃油を濾すのに使われるのを眺めながら、姉妹が手際よく食器を片付けてくれる。

 廃油でも石鹸が作れるのは知っているが臭いが残るか、ライラ―は喜びそうだが。

 

 洗濯場でお湯を作って体を拭いているとルウが言った。

 

「お湯がたくさん使えるのは贅沢ですね!」

 

 明後日には大桶が届くので、更なる贅沢を見せてやれると俺はニコニコで姉妹の身体を拭いた。

 

    リーベ

   自宅 キッチン

 

「朝から何を作られているのですか?」

 

「おにく、です?」

 

 翌日は午前中に家具屋が3階のベッドを持ってくるので、朝はダンジョンへ行かずキッチンに立っている。

 

「残念、食べ物じゃないな」

 

 パンを買ってきてほしいと姉妹に頼むと、ルウがライラ―に銅貨を渡して買いに行かせた。

 

 金貨と銀貨はアイテムボックスに入るが、大量に貯まる銅貨(こぜに)は入れることができないので布袋にまとめてルウに管理させている。

 

 ファンタジー小説にはもう一段階下の鉄貨があったり半硬貨があったりするが、この世界は白金貨、金貨、銀貨、銅貨の4種類で分かりやすい。

 

 それぞれ100枚分で価値が上がるので日本人には違和感があるが、俺は銅貨=10円だと思って読んでいた。

 Wikiとかだと1ナールは約20円らしいが、奴隷は車を買うイメージなので紳士の取引60万ナールは1200万円。スーパーカーかな?

 

「ベッドの設置が終わって、時間があったら新品の服を買いに行こうか?」

 

「服ですか? 何を作るのか答えてもらえていませんが?」

 

 誤魔化しきれなかったので、五徳をルウの頭に乗せようと思ったが灰が付いていたので止めた。

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