「もう両親の顔をよく思い出せませんが、ボクの両親は二人とも冒険者でした」
両親の顔が分からなくても超絶美人だったことは彼を見れば分かる。
そんな皮肉で会話を邪魔しない程度に俺もアビィも分別はある。
「ある日、この町の宿に泊まっていると何日も父も母も帰ってきませんでした」
戻ってこない冒険者の末路なんて相場が決まっているか……。
ダンジョンに消えたか、盗賊に襲われたか。
「宿屋に支払っていたお金が尽きて追い出される代わりに孤児院に預けられることになりました」
「孤児院のある町ではよく聞く話です」
この世界では当たり前なのかもしれない。
孤児院も無い町ではスラムか奴隷商館行き、ダンジョンに捨てられるのも不思議ではない。
「何年も迎えに来てくれない両親を諦めたつもりでしたけど、今やっと実感できた気がします」
いつか迎えに来るとリーベに残りたいとい気持ちを彼は大事にしていた。
「正直言いますと家族も、両親も大事ではないです」
ここでアビィが辛辣に会話ターンを奪った。
「私はその両親に売られました、産んで育ててくれた恩はありますが迎えに来てくれない方が清々します」
何か理由があったはずなんて軽率なことは言わない程度に俺もエルカトルも分別はあった。
「兄も姉もいましたが跡継ぎや婚約者がいる関係で選ばれません。嫌だと泣き叫ぶ弟や妹達を見て、一番声が小さい私が売られることになりました」
物理的に「嫌だ」という声が小さいだけで売られたのが彼女をここまで傷付けたのだろうか。
貴族の子供の多さはスペアも兼ねているのは、この世界でも当たり前の話だ。
アビィの実家で何があったかまでは分からないが、娘を売りに出さなければならないほどに傾く何かがあったのだろう。
両親を信じて待つエルフ、両親を信じずに待たないドワーフ。
「申し訳ないが、すごく簡単な解決方法が閃いた」
会話の空気が終わっているが二人に言う。
「エルカトルとアビィも、今以上に幸せになればいいだけだ」
ポカーンとするエルフとドワーフに必死に説明する。
「今以上に幸せになればエルカトルは帰ってこない両親への恩返しになるし、今以上に幸せになればアビィは売り払った両親への復讐になる」
地雷原でムーンウォークしている気分になるが、俺の頭ではこれ以上の解決法は浮かばない。
「だから幸せになれ、これは主人命令だ。いや俺がいつか幸せにしてやる。俺のハーレムメンバーが全員幸せでないなんてありえないからな!」
まぁ、求められるもの全て与えられるほど資産も権力もないけどさ。
「迷宮攻略よりも難しいかもしれませんよ」
「望むところだ」
「ボクも両親と同じ冒険者になれますでしょうか?」
「問題ない、俺に任せろ」
自信がない部分については謝っておくことにする。
「子供が欲しい、とかは種族的・性別的に難しいので養子とか色々と方法を考えさせてほしい」
「数年後には何人か獣人の赤子が増えてそうですが……」
「それはすまん!」
これも自信がない部分ではある、せめて1年は子供を作らないように努力したいけど避妊って絶対ではないし……。
「迷宮攻略や冒険者育成よりも、避妊の方が難しいというのはさすがと言いますか……」
「さすがご主人様です」
原作と同じ「さすごしゅ」だが、かなり呆れられている様子だ。
だが月明りで照らされた二人の表情はもう暗くはない。
「俺はもう寝るから、二人ともあまり遅くまで起きているなよ」
「もう少しだけこの綺麗な月を見ていたいと思います」
「お前の方が綺麗だよ」
「異議なしです」
月が綺麗な夜だった。
リーベ
自宅 主寝室
「で、何を飲まれていたのですか?」
「ずるい、です」
先に寝ろと命令したのに姉妹にバレました。
「分かった。朝に作ってやるから今日はもう寝なさい、これは主人命令だから」
今日は普段使わない主人命令を連発する日である。
姉妹達は俺に背を向けて寝ると、尻尾でベシベシと叩いてくる抗議がアビィが戻ってくるまで続いたのだった。
第2章・完 (2025/8/22)