ミサは立ち止まり、お天道様の光に学生証をかざしてニヤリと笑った。
こういうカードは系列の学生証はいつみてもかっこいいものだ。
「次は武器じゃ!」
ミサの主戦力は、元のミサキの記憶と能力が引き継がれたロケットランチャーだ。広範囲攻撃や長距離戦闘においては最強だが、もし路地裏で敵と鉢合わせたり、誰かに組み付かれたりすれば、巨大なランチャーはただの邪魔な鉄屑になる。
「アリウスでの訓練の記憶はある。体は一級品の兵士じゃ。けど、ランチャーじゃ近接は戦いにくいじゃろう。ここはひとつ、転生者っぽい最強の近接武器をゲットしとくべきじゃろ!」
ミサは、頭の中でかつての知識をフル回転させた。キヴォトスでは銃火器が一般的だが、一部の生徒は銃のデコレーションとして短刀をくっつける奴もいる。百鬼夜行の生徒なら、日本刀持ってても違和感がないだろうと踏んだのだ。
「せっかく百鬼夜行なんじゃけぇ、日本刀とか、ロマン溢れるやつがええのう!」
そう決めたミサは、キヴォトスの一般的な武器屋ではなく、裏通りにある「骨董品屋」を探し始めた。武器屋では、どうしても安かろう悪かろうが出るのだロマンと転生者らしいご都合主義を追求するなら、怪しげな掘り出し物があるはずだ。
路地を何本か曲がったとき、ミサの目に、古びた一軒の店が映り込んだ。
壁には蔦が絡まり、ショーウィンドウには埃を被ったガラクタと、年代物の着物や壺が無造作に並べられている。看板には、ペンキが剥がれた文字で「古物商 イザナギ」と書かれていた。
「ほう!ここじゃ!なんかあるじゃろ、こういう古ぼけた店には!」
ミサは目を輝かせ、自動ドアでもない、手で引く重い木製の扉をガラガラッと乱暴に開けて、店内に足を踏み入れた。
店内は薄暗く、独特の埃と古木の匂いが充満している。どこか寂れたお祭り会場のような、奇妙な空気が漂っていた。
一方店主らしき老人は、店の奥の帳場で居眠りをしているようで、ミサの乱暴な入店にも気づいていない
「へー、こりゃまた……すごいことになっとるのう」
ミサは感嘆の声を漏らしながら、店の中をあらかた見て回った。
古い陶器、色褪せた絵画、錆びた西洋の甲冑、キヴォトスでは見慣れない古風な家電。確かにガラクタの中に、価値のありそうなものも紛れ込んでいる。しかし、彼女が求める戦闘に使える武器らしきものは見当たらない。
棚の隅には、確かに何本かの刀が立てかけられていた。だが、それは鞘に美しい蒔絵が施され、柄には金細工が散りばめられた、見るからに観賞用の美術品ばかりだ。
「まぁそりゃたけぇよなぁ……」
美術品としての刀はまぁ本当に高くなる。
この手の観賞用の名刀に数千万円以上の値が付くのも珍しくない。
値札を見て、ミサは舌を巻いた。どうやら彼女の求める「転生特典的なお宝」は、そう簡単に手に入るものではないらしい。
「ちぇー、ハズレか。まあ、そう簡単にはラノベみたいな展開はならんよなぁ」
ミサは少し落胆し、踵を返して店を出ようとした。
その時だった。
ミサの視界の隅。数多の壺や皿、古びた巻物などが積み上げられた、店の一番奥の、ほとんど商品棚とは言えないような**「デッドスペース」に、何かがある**。
それは、まるで光を吸い込むように、周囲の薄暗さに溶け込んでいた。
「……ん?」
ミサは、何かに呼ばれたような、奇妙な感覚に襲われて立ち止まった。振り返り、そのデッドスペースに目を凝らす。
埃を被った木箱の陰。数本の竹筒や、何に使うのか分からない鉄の棒などに挟まれるように、それはずっと隠れているように佇んでいた。
白鞘の太刀。
それは、刀身を保護するための鍔も装飾も、何一つついていない、何の変哲もない白い木製の鞘に収められた、ただの長いドスのようなものだった。
しかし、普通の刀とは、どこか異質な、古すぎる神聖な何かを感じさせた。
―この刀、ただの刀じゃない。―
ミサの直感(という名の転生者ご都合主義)が、強く警鐘を鳴らしていた。
なぜこんなものが、店の奥底、まるで誰にも見つけられたくないかのように隠されているのか。
ミサは、周りの雑多な品々を退け、その白鞘の太刀を手に取った。冷たい木の感触が、手のひらに伝わる。ずっしりと重く、その重さはただの木と鉄の塊ではない、何らかの物語を内包していることを示唆しているようだった。
そして、その刀が置いてあった場所に、ひっそりと貼り付けられていた値札。
『¥10,000』
「……はぁっ?」
ミサは思わず素っ頓狂な声を上げた。
一本数十万、数百万の値がつけられていた観賞用の刀剣の中で、この、明らかに異質で、何かを隠しているかのような白鞘が、たったの一万円。
ミサは、迷うことなくその刀を抱え、帳場で眠る店主の元へ向かった。
「おっさん! これじゃ、これ! わし、これが欲しいんじゃけど!」
ミサはドスッと音を立てて、白鞘の太刀を帳場に突き立てた。
店主は、ミサの甲高い声と、刀が立てられた衝撃で、ビクッと体を震わせて飛び起きた。彼はまだ寝ぼけ眼で、ミサと、その目の前の刀を交互に見つめる。
「ん、あー…お客さん?はいはいこれね…ええっとー?」
寝ぼけた手つきでメガネをつけ、値札と商品を見る。
「あれぇ…?うち、こんなもん置いてたっけ?」
店主は心底不思議そうな顔で首を傾げた。その表情には、偽装や演技の様子は微塵もない。本当に、この店の陳列品ではない、まるでどこかから転がり込んできたかのような反応だった。
「置いてあったんじゃ! 奥の棚の陰に! 一万円って書いてあったぞ!」ミサは目を吊り上げ、まくし立てる。
「ああ…まあ、そう言われりゃ…うちも古物商ですから、ガラクタに紛れて変なもんが混じることもありますか。一万円でいいですよ」
店主は面倒くさそうに、そう告げた。どうやら、この白鞘が持つ異質な雰囲気や隠された力には、全く気づいていないようだ。
ミサはすぐに1万円札を一枚取り出し、店主に手渡した。
「ほい! ありがとのう!」
カシャリ。
白鞘の太刀は、ミサの手に渡った。この瞬間、ミサの転生者としての新たな力が、彼女の手に収まったのだ。
ミサは、白鞘を抱きしめるように持ち、店を出た。
古物商イザナギの扉が閉まると、再び静寂が戻った。店主は、帳場に座り込み、頭を掻きながら呟く。
「……それにしても、あんなに嬉しそうな顔で、ただの木切れみたいな刀を買っていくなんて、変な子だねぇ。あれ、刀身入ってたのかな?ただの木刀なんじゃ?」
店主の呟きは、誰にも届かず、薄暗い店内に消えていった。
店から出たミサは、立ち止まり、その白鞘を抱きしめた。
「へへ…ロマンじゃ、ロマンじゃ!まさか一万円でこんなお宝が手に入るとはな!わしゃ幸運じゃ!やっぱり!」
彼女は辺りを警戒しながら、そっと鞘から刀身を引き抜いた。
キィン…
金属が擦れ合う、冷たい音。
光が、その刀身に吸い込まれていく。
それは、予想を裏切るものだった。
刀身は、錆一つない鈍い銀色。一般的な日本刀ではみられない独特な波紋。
まるで名刀ようにも見える。
その刃先に触れようと指を近づけると、肌がピリッと刺すような、異様な冷気と切れ味の予感を感じた。
「なんじゃ、この刀…」
ミサは、思わず息を飲んだ。これは、彼女の知るキヴォトスの技術でも、元の世界の技術でもない、ナニかで作られている。
鞘に戻し、ミサはニヤリと笑った。
「よし! 近接武器はこれで決まりじゃ! この刀があれば、ランチャーが使えん状況でも、無敵じゃけぇ!」
ミサの頭の中は、もうすでに「転生後の楽しみリスト」でいっぱいだった。
転生した人生なんてやったもの勝ちだ。障害は全部ぶっ壊せばいい。
この手にある武器があれば、どんな敵が来ても怖くない。だって自分は「転生者」だから。
そう信じて疑わなかった。