「…な…」
…陸八魔アルは受話器を手にプルプルと震えていた、その顔は明らかにやっちまった感が伝わってくる。
そして受話器を置き少し息をついた後
「なんですてぇーーーーー!?!?!?!!」
ご存じアル顔をしながら盛大に吹っ飛んだのだ。
まぁそうだ
なんたって最近有名になっている撫で切り武士が相手だ。
はい、皆さんの知っての通り、便利屋68と呼ばれる彼女たちは、名のとうり便利屋であり、どんな仕事でも引き受けることで知られているわけだ。
そして現在進行系で死にそうな顔をしているアル以外の社員たちはというと……
「まぁ受けちゃったからにはしょうがないよ」
と苦笑いするカヨコと
「あ…アル様のためなら死んでも本望ですので!…!」
「クフフ♪まさかあの撫で切り武士とやり合うことになるなんて!アルちゃんってばアウトロー!」
とやる気MAXなハルカとムツキがいます。
やらなければならない雰囲気が既に醸し出されてますね……もう詰みましたね、可愛いですねアルちゃん。
「うぅ……なんでこんなことに……」
……アルは涙目になりながら自分のやってしまった事を嘆くしかできないのであった。
さて、今回の依頼は、犯罪組織の頭目からの依頼内容は撫で切り武士の始末。生死は問わないとのことだ。
……撫で切り武士、ここ最近ブラックマーケットに突如として現れ、その圧倒的な武力で数多くの組織を壊滅させているという謎の存在。その実力はまさに災害級であり、そんな存在の始末を依頼されるとは……
まさに厄介案件であることは間違いないだろう。
いくらアウトローを志す彼女たちでもこの状況にはさすがに危機感を感じずにはいられなかった。
だがやるしかない。
実のところカイザーからの依頼でアビドスを襲撃したのだが結局負けてしまい金がないのだ。
つまり、彼女たちはまさに崖っぷちなのである。
「え…ええぃ!!!こうなったらやけよ!!!私たちもアウトローを名乗る身!やってやろうじゃない!!」
……やけっぱちの決意を胸に秘めつつ、一同は目的地へと急ぐのだった。
……………
一方とうの撫で切り武士であるミサはというと。
「首の数がひーふーみーよー……ロボのやつと獣のやつ数えて…あと逃した頭目だけかの?」
いつも通り、目に映った相手を一人で片っ端から始末した帰りだった。
だが今回は死体に無数の三十年式銃剣が突き刺さっており、新しい技を試しているようだ。
「うーん……やっぱ撫で切りが一番しっくり来るかのう?某バチカンの若本ボイスの神父みたいにはできん…か
じゃがあと少しでアレをするための金も貯まる…もう少し余裕もってやりたいからあともう数匹潰すかのぉ」
そんなことを呟きながらのちのことを考えていた
だが、次の瞬間、彼女の足が止まる。
前方に四人の人物の気配を感じ取ったからだ。
「……んで?わしのこと付けとるみたいだけど…おどれらどこの雇われなんじゃ?候補が多すぎて思いつかんのじゃよ」
そう言ってゆっくりと振り向く彼女の瞳には鋭い光が宿っていた。
そしてその視線の先には一人の少女が立っている。
便利屋69……陸八魔アル
よーく知ってるキャラだ。
「こんにちは、撫で切り武士さん?私は便利屋68の社長、陸八魔ア__」
「ごたくはええよ…んでどうした?わしに聞きたいことがあるんか?」
アルは強気な態度で語りかけるものの、内心では冷や汗がダラダラと流れ落ちていた。
この女……強い。
いや強すぎると全身が告げていたのだ。
「あなたの噂は聞いているのよ?最近、ブラックマーケットで大暴れしているそうじゃない?」
単刀直入に言うわ……私たちはあなたの討伐依頼を受けたの」
…アルのその言葉に対して、ミサは特に驚いた様子もなくケロッとしていた。
まぁそうだろうなーとは思っていたらしい。しかしまさかここまで堂々とした態度で言われるとは思ってもいなかったようだ。
そしてその言葉を聞いてようやく彼女は本性を現す。
これまで見たことのないような獰猛かつ凶悪な笑みを浮かべるのであった。
「おうおう……これはこれは……面白いこと言うのぉ〜
じゃぁ早速やろうかぁ!」
ゆらりと太刀の柄に手を添えながらそう呟くのであった。
そして次の瞬間には爆ぜるように姿を消し、一瞬で距離を詰め、抜き打ちを放つ。
「っ!?!?!?」
アルは咄嗟に回避行動を取ることで難を逃れるも、ミサの一撃によって地面が大きく抉れているのが見えた。もし直撃していれば間違いなく致命傷になっていただろう。
…だがそれで良い。
本命は別にあるのだから。
アルが回避した瞬間、カヨコの銃弾がミサに向かって放たれた。しかしそれさえも予想していたのか最小限の動きで躱していく。
……まるで未来を見てるかのような動きだ。
「へぇ〜……なかなかやるじゃない?でもまだまだ甘いわよ?」
ムツキの挑発的な口調に対しミサはニヤリと笑みを浮かべながら答える。
「ええじゃないか!楽しいじゃないか!こがいな楽しいなぁ久しぶりじゃぞぉ?」
「アル様のために……死んでください!」
ハルカの突進攻撃に対し、ミサは大きく跳躍することで避けるが、そのまま空中で体を捻りつつ蹴りを放つ。
ハルカは辛うじて腕でガードすることに成功するものの、威力を完全に殺しきれず吹き飛ばされてしまう。
更に追い討ちをかけるべく距離を詰めていくミサであったが突如背後に強烈な殺気を感じたため急ブレーキを掛けたことで回避した。
次の瞬間にはカヨコの放った弾丸が顔スレスレを通過して行ったため肝が冷える思いだったようだ。
……やはりこいつら侮れない。
便利屋68という集団は想像以上に厄介だ……ミサは戦闘の中でそう判断した。
彼女は一瞬でも油断すれば即座に殺されるという緊迫した状況の中で冷静に分析を行い最善の行動を選択し続けていた。
……だが
「がは……はぁ…はぁ……!」
体力の限界が近いのはミサの方だ。
犯罪組織を潰しているときと違いデバフを喰らったかのように弱くなっている。
力が入らない、視界が霞む。
頭から血が流れ、意識が遠のいていく。
「くふふ、もらった!!」
ムツキの投げた爆弾がミサの足元で爆発しバランスを崩してしまったのだ。
そこにすかさずハルカがトドメを刺しに襲いかかる。
ショットガンの連射がミサの腹部に直撃し彼女は体制を崩す。
「しま…!!」
「片手でも命中させられるわ!」
アルは片手でライフルを構え至近距離から引き金を引く。
その銃口から放たれた銃弾は一直線にミサの眉間へと吸い込まれていく。
アル自身が練り上げた作戦だ、彼女はこれを最後の切り札としていたのだ。
そして彼女の思惑通り……いや期待以上に効果を発揮してくれた。
(……やった)
アルは心の中で小さくガッツポーズをする。
これで依頼は完了だ……普通の生徒ならこれで気絶する。
そう、普通の生徒ならだ。
ミサはただの人間の頃よりも頑丈になったと言えどチートなんてものも持っていない……所詮はちょっと強いキヴォトス人なみでしかないのだ。
「は……あっ……があぁ……!!!」
……だが相手は精神的なもので自らを無理やり強くすることのできる転生者だ。
並大抵の精神では耐えられない程の苦痛、痛み。
常人なら気絶してもおかしくないはずだが彼女はまだ意識を保ち続けることができている。
だがそれは決して楽観視できる状況ではない。
むしろ危険信号とも言える。
このままでは死ぬ
そのことを悟ったミサは咄嗟に行動に出た。
「……ちぃ…!次は負けんぞ!!」
地面に向けて催涙弾の束を叩きつけ煙幕を作り出すと同時に一目散に駆け出していった。
「っ!ま_____」
「…逃げられたね、社長」
カヨコがそう言うと、アルは悔しそうな顔をしながら拳を握りしめた。彼女の目の前には先ほどまで激闘を繰り広げていた相手がいたはずだが今は何もない空間が広がるだけである。
「ええ……でも次会った時は必ず仕留めるわ……絶対に」
アルは強い意志を込めて宣言する。その表情からは一切の迷いが感じられないほどに燃えるような熱意が見て取れるものであった。
「ぜぇ……はぁ……!」
なんとか逃げ切り隠れることができたミサは壁にもたれかかるように座り込むと荒くなった呼吸を整えようと必死になっていた。
今の彼女の状態は最悪と言ってもいいだろう……身体中に無数の打撲痕があり出血量も多く意識が朦朧とするレベルだ。
正直言ってここまで追い込まれるとは思わなかったというのが本音だ。
「くそったれぇ…負けじゃ負け……流石に本物には勝てんか……」
流石に不利を認めたのだろう、そう独り言を漏らす。
彼女にしては珍しく弱気になっている様子だったが無理もないことだろう。
あの四人の連携は予想以上に厄介であったということに尽きるのだから……悔しさ半分、認めざるを得ない現実として受け入れなければいけないことでもある。
それに加えて体力的にもかなり消耗している状態なのでこれ以上の戦闘継続は不可能だろう…
「…本物を超えることは流石にまだ無理…か」
…それにミサは偽生徒、半ばドッペルゲンガーのような存在である。
偽物が本物に敵うはずがないのだ。
いや、まだ敵わないと言った方が正しい。
彼女はまだ成長途中でありこれからもっと強くなっていく可能性を秘めている存在なのだから。
「またじゃぁ…わしはまだ止まらんぞ!」
刀を抜き、空に誓うように掲げる。その瞳には再び闘志の炎が宿っていた。
「いつか……絶対に超えて見せる……!!」
偽物の存在で結構。
我思う故に我あり